宮本浩次
俺と、友だち/2025年10月27日(月)/日本武道館
十月になって突然発表された宮本の新企画『俺と、友だち』。
まずは発表からわずか一週間後に下北沢SHELTERでトミとキタダマキとのスリーピースバンドでのライブをやるといって唖然とさせ、翌日には同月の最終週に武道館公演をやるといい出した。なんだそりゃ。
結局シェルターはトミが交通事故を起こして出演を自粛したので、キタダマキとのふたりでのステージになってしまい、宮本がやりたかったことができなくなってしまって気の毒だったけれど、この日の武道館に関しては本人はきっと大満足だったろう。
そう、少なくても本人は。
残念ながら僕個人は今回のソロ公演を楽しみきれなかった。けっこう期待していただけに、そのギャップにがっくりきた。
宮本いわく「俺と、友だち」はバンド名なのだという噂で、今回、宮本がその新しいバンドのメンバーに選んのは、名越由貴夫、玉田豊夢、キタダマキ、奥野真哉という四人だった。
縦横無尽バンドから小林武史が抜けて奥野が入っただけじゃん!
名越さんは友だちなのに、小林さんは友だちじゃないんかい!
――とつっこみを入れたくなる。
とはいえ。たったひとりのこの変更が重要だったのも確か。
小林武史氏のプロデュースに身を委ねた宮本のソロは、完全なポップスとして綺麗にパッケージされていた。そのサウンド・プロダクションはきっちりとしたプロの仕事だった。
でもそれは宮本がエレカシで聴かせてきたそれまでのアプローチとは対極にあった。僕ら一部のファンが愛したのは、プロに徹しきれない、永遠にアマチュア臭さの抜けないエレカシの音だ。そんなファンにとっては、小林武史プロデュースの宮本ソロはどうにもお行儀がよくて聴きごたえがなかった。
宮本にしたって、ほぼソロワークに近かったエレカシの『生活』や『good morning』ではあれだけノイジーでアグレッシブな音を鳴らしてみせた人だ。本人にラウドなロック・サウンドへの欲求がないはずがない。
「俺と、友だち」と称して、小林さん抜きでバンドをやろうという姿勢には、そうした昔ながらのロックに対する原点回帰的な意味合いが含まれているのだろうと思われる。発表からわずか一ヵ月のあいだに二本をこなすという性急なスケジュールも、業界の因習に縛られない自由さ、ベテランらしからぬ足取りの軽さを感じさせた。
これはもしや期待してもいいのでは?
――今回のライブには、そんな宮本ソロが始まって以来、初めてじゃないかって期待感があった。
でもって、宮本はそんな期待にきっちりと答えてくれる。
――少なくても第一部では。
『over the top』から始まった最初の四十五分は予想にたがわず最高だった。小林武史のかわりに奥野真哉(from ソウル・フラワー・ユニオン!)の鍵盤をフィーチャーしたサウンドは、あきらかにこれまでの宮本のソロとは違った。
というか、単純に宮本がギターを弾いている時点で違う。これまでのソロではロック歌手に徹して、ほぼ全編ハンドマイクだった宮本が、今回のステージでは過半数の曲でギターを弾いていた。名越さんの安定した多彩なギタープレーに、宮本の乱暴な音が重なる。そこから生まれるガリガリしたロック・サウンドが最高~。
選曲にしても『明日を行け』や『It's only lonely crazy days』など、エレカシでもめったにやらないシングルのカップリング曲であるレアナンバーを聴かせてみせたのは、あえてエレカシと差別化をはかってみせたんだろう。これらの曲が特別好きなわけではないけれど(というか『明日を行け』なんてタイトルさえ忘れていた)、めったに聴けない曲を聴かせてくれた姿勢が嬉しかった。まぁ、エレカシでは一度もやったことない『It's only lonely~』の初公開がソロでいいのかよとは思ったけれど。
で、そこにさらにエピック期の『凡人 -散歩き-』や『サラリサラサラリ』が加わるというね。とくに『凡人』は玉田豊夢のドラムとキタダマキのベースがエレカシとは違ったファンキーなグルーヴ感を生み出していて絶品だった。この日のベストナンバーは間違いなくこの曲。
そんなエレカシ比率の高かった第一部で演奏された数少ないソロナンバーの『夜明けのうた』も、今回は朝日が昇ったりする特別な演出がないところがかえって新鮮だったし、ソロではもっともパンキッシュな『Do you remember?』もひさびさに聴かせてもらえて嬉しかった(この曲はもっと頻繁に聴きたい)。カバー曲もやらなかったし、『OH YEAH!(ココロに花を)』で締めとなるまで、第一部はこれまでの宮本ソロでいちばんの内容だった。『俺と、友だち』、最高なのでは? と嬉しくなった。
そう、第一部が終わった時点では。
【SET LIST】
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あれ?――と思ったのは、つかの間の休憩をはさんで第二部に入ってから。
最初の『Hello. I love you』こそエレカシのカップリング曲だったから、そこからも第一部の流れをくんだ内容になるのかと思ったら、二曲目で『ジョニーの伝言』が演奏されてしまう。
カバー曲なし、混じりけなしの一大ロックショーを期待していた身としては、この歌謡曲の登場で一気にボルテージが下がってしまった。
つづく『風』は大好きな曲だし、こなれたバンドサウンドにのる宮本の明朗なボーカルはとても気持ちよかったけれど、なにせバラードではひとつ前で下がったテンションはそう簡単には上がらない。
その次は初公開となる今回の目玉のひとつ、宮本がAdoに提供した『風と私の物語』のセルフカバー。
宮本ならではのメロディと歌詞をAdoが見事に歌いこなすを聴いて、Adoってすげーと改めて思わされたこの曲。これぞ宮本節って感じだし、本人が歌っても絶対に映えるんだろうと楽しみにしていたのに、残念ながら期待したほどではなかった。Adoのぶれのない迫力のあるボーカルと比べると、宮本のライブバージョンはいまいちインパクトを欠いたというか……。人に提供した曲だからだろうか。宮本のボーカルでいちばん気持ちのいい音域が出ていない印象を受けてしまって、気持ちよさが足りなかった。大いに期待していた曲だっただけに残念。
で、その次がバースデーライブの最後に演奏された『哀愁につつまれて』で(なにげに宮本のお気に入りなのかもしれない)、そこから第二部の終わりまでは、これまでのソロコンサートの定番ってイメージになってしまう。
要するに意外性がまったくなくなった。これじゃあ小林武史がいてもいなくても変わらないじゃん。なまじ第一部がエッジの効いた音と意外性のある選曲で楽しませてくれただけに、そことのギャップでどうにもテンションが上がらない。
でもまぁ、本編ラストの『昇る太陽』『ハレルヤ』『ガストロンジャー』、そして本邦初披露の新曲『I AM HERO』というアッパーな曲を連発した締めに関しては文句なし。『I AM HERO』は『ミュージックステーション』で聴いたときには、まだちゃんと歌いこなせてない感があったので、生で聴いたこの日のほうが何倍もよかった。
そうそう、今回のライブは、最近のソロとは違ってスクリーンがなかった。僕らの席は二階席の上の方で、さすがに遠くて宮本の表情とかはまったくわからなかったけれど、でもほぼ正面だったから、ステージ全体が満遍なく見えたし、バンドの全体像が視野に入る分、ちゃんとライブ感が味わえたのはよかった。
あと、スクリーンはなかったけれど、こと照明に関しては、これまでのエレカシ関係ではもっともゴージャスだった。武道館の会場全体を縦横無尽にライトが飛び交う美しさはとても見ごたえがあったので、これが見られただけでも今回は遠い席でよかったかもと思った。
ソロのクライマックスを飾る定番『ハレルヤ』は、これまでいつも宮本の手書きの歌詞がスクリーンに映し出されるのを目にしながら聴いていたけれど、今回はそれもなかったので、いつもより没入感が高かった気がした。やっぱ宮本のステージには余計な演出はいらないんだよなぁって思う。
ということで、第二部に入ってからは印象がいまいちになってしまったものの、最後はけっこう盛りあがったので、そこで終わってくれていれば、なかなかいいコンサートだったと気持ちよく帰れたのに……。
今回はそのあとのアンコールがいけない。
一曲目の『冬の花』はまぁ仕方ない。これはやるでしょう。ソロを代表する一曲みたいになってしまっているし。僕の好みではないから、やめてとはいえない。
でも二曲目の『rain -愛だけを信じて-』が駄目。いい曲だとは思うんだけれど、以前に口パク疑惑を受けたコーラス部分でのボーカルのサンプリングの使用が駄目。今回のライヴのコンセプトから外れている。昔ながらのロックバンドはそんなことはしない。あのさびのハモリですげー萎えた。俺はもっと宮本の歌を生で聴きたいんだよ~。
いや、もしもあのハモリがちゃんと嵌っていればまた違ったのかもしれない。でも下手なんだもん。ガリガリとしたロック・サウンドに乗せてガナるならば、ちょっとくらい声が出ていなくても受け入れられるけれど、ポップソングはちゃんと歌えてなんぼだ。ちゃんと歌えないなら、やらないで欲しい。
そんな風にネガティヴになってしまったアンコールの締めに『P.S. I love you』で「愛してる~、愛してる~」を連呼されてもなぁ……。
あぁ、今回のアンコールはいらなかったなぁ……と思ながら帰ろうと思ったら、なんとそのあとにダブル・アンコールがあって、さらなる駄目押しをされてしまう。
宮本がエレクトリックギターを持って出てきて、椅子を準備していたので、「おー、もしや最後に『男は行く』かっ!」と、瞬間的に高揚した僕の期待を裏切って演奏されたこの日最後の曲は――。宇多田ヒカルの『First Love』。
なんで最後に人の曲を歌うのさ。カバー曲がメインだった『ロマンスの夜』ならばともかく、今回はそれはないんじゃん? それも決して上手くもないのに……。
なまじ『男は行く』を期待してしまったもんだから、がっかり感がはんぱなかった。
この夜の歌でいえば、『サラリサラサラリ』や『風』など、宮本が自らの声域のなかで無理をせずに歌うバラードの気持ちよさには抗えないものがあるのに、『First Love』はそうじゃない。あくまで個人的な意見かもしれないけど、ファルセットを使わないと歌えない曲は、宮本の魅力が半減するんだよねぇ……。
やめたほうがいいよって、誰かいってくれないかな。
とにかく、このアンコールの四曲のせいで、この夜のテンションはダダ下がりだった。宮本のコンサートを観て、こんな風にがっかりしたのはひさしぶりだ。
いや、客観的に批評家的な目で見れば、内容のあるいいコンサートだったのかもしれない。でも僕自身が聴きたい音楽と、宮本がやりたいことのギャップが激しくて、個人的には十分に楽しみ切れなかった。そんな晩秋の一夜だった。
(Nov. 05, 2025)



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