ごめん、せっかくのお誕生会に遅刻した。
宮本浩次、五十九回目の誕生日。ぴあアリーナMMで開催されたバースデーコンサート『最高の日、最高の時』(タイトルをいったら娘に笑われた)。
会場の最寄り駅であるみなとみらいに開演の三十分前に着くようにうちを出たにもかかわらず、トラブルつづきで間に合わなかった。
まずは、うちの奥さんが一ヵ月前に自転車で転んで膝の骨にひびが入ったので、いつもならば歩く最寄り駅までバスを使ったのが間違い。そのバスが渋滞で遅延して、乗るつもりだった電車に乗れなかった。これでおよそ10分のロス。
で、次の便に乗ったら乗ったで、途中地下鉄のドアに荷物を挟まれて出発を遅らせる女性がいたりする。
極めつけは、隣の駅で乗客どうしのトラブルがあって、非常停止ボタンが押されたとかいって、自由が丘で15分も待たされる始末。勘弁してくれ。喧嘩だか痴漢だか知らないけれど、まだ明るいうちから電車止めてんじゃないよ。
結果「みなとみらい駅」に着いたのが開演時間ジャストだった。
会場までは徒歩10分足らずだから、開演が押してくれれば間に合うかと思ったけれど(昔は10分押しでの開演とか、ざらにあった)、残念ながら間に合わず。急ぎ足でデジタルチケットを提示して館内に入ると、すでに演奏が始まっていた。閑散としたエントランスにいるのは男女ともに黒スーツのスタッフばかり。
あわてて階段を上がる僕らの耳に聴こえてきたのは――『冬の花』。
意表を突かれて、おぉっと思った。この曲で始まるのは史上初だし、何度も書いているように、僕ら夫婦はそろってこの曲が好きではないので、見逃した一曲目がこれってのは、不幸中の幸いだった(ひどい)。
あと、今回もチケット運に恵まれて、席がよかった。ステージに近いという意味ではなく、席が見つけやすいという意味で。
この日のチケットは二階席(ぴあアリーナはアリーナ席が一階扱いなので、実質一階相当)の一番後ろの隅だった。おかげでチケットに記載された入場口の扉を入るとすぐに席が見つかり、ほかのお客さんに迷惑をかけずに着席できた。
でもって、ファースト・インプレッションもすごかった。
扉を開いて場内に入った途端、どーんと目に飛び込んできたのは、赤い花びらが舞うステージと、スクリーンにドアップで映し出される宮本の姿。黒に赤い花柄の刺繍が入ったゴージャスなコート姿で、ステージの左右はカーテンが開いた状態になっている。このザ・歌謡ショーか、はたまた宝塚かといったビジュアルがインパクト大!
まぁ、最初から観ていてもそれなりに感銘を受けたのかもしれないけれど、なまじ途中で入ってきて、いきなりこれを見せられたせいで、なおさら強烈だった。遅刻も意外と悪くないかもと思った(いや、遅れないに越したことなし)。
さて、そんなわけで遅れて到着して、一曲目の途中から参加した宮本のお誕生日ライブ。
今回入場してすぐに――それこそステージを見るより先に――驚いたのは、PIXMOBを渡されたこと。まさかエレカシ関係でこの電光リストバンドをつける日がくるとは思わなかった。
ただ、せっかくのPIXMOBだけれど、そこはさすが宮本、それほど活躍しない。第一部(九曲と短め)で光ったのは『テクマクマヤコン』だけだったと思う。それも控えめ(色は黄色)。
第二部に入ってからは、一曲目の『Woman "W"の悲劇より』を筆頭に、大半の曲で光ってたので、あとから驚かそうと思って、最初はあえて温存してたのかもしれない。なかでは、青とピンクの二色のライティングに合わせて光った『ロマンス』と、フラッシュライトのように激しく点滅した新曲『over the top』が印象的だった。
PIXMOBって、人やブロックごとに違う色やタイミングで光ったりするのを見て、(いちおうIT業界人の端くれなもので)いったいこれってどうやって制御してんのかなぁと、その技術的側面に思いを馳せて、肝心のライブへの意識がおろそかになったりするし、そもそも僕は腕をあげたり振ったりしない協調性のない客なので、つけてるだけ無駄な感もあって、もらうと毎回なんかごめんって気分になる。
まぁ、今回は二階席だったので、アリーナ全体や左右のスタンドが視野に入ったこともあり、PIXMOBによる演出はとても綺麗で目に鮮やかだった。それもこの席でよかったと思った要因のひとつ。ステージから観た風景はさらに綺麗なんだろう。これはきっと来年の還暦記念のバースデイライブにも引き継がれるとみた。
ちなみに、ほかのアーティストだと、終演後にもPIXMOBがランダムに点滅していて、帰り道が楽しげだったりするのに、宮本のPIXMOBは消灯したきり、まったく光らなかった。せっかく配ったんだし、これが初めてという人も多そうだったから、終わったあとに光らせてくれればいいのに……。
バンドは小林武史、名越由貴夫、玉田豊夢、須藤優(ずっと「すどう」と濁るのだと思っていたら、濁らない「すとう」と紹介されていて、あ、そうなんだと思った)の四名。さらに今回はサプライズで、サックスの山本拓夫氏とトランペットの西村浩二氏が途中から登場した。
あと、メンバー紹介では、僕が最初にこのバンドを観たときに疑問に思ったステージ隅の人(マニピュレーターの吉田さん?)の存在にもちらりと触れていた。
山本・西村両氏は、新曲『Today -胸いっぱいの愛を-』のレコーディングに参加しているとのことなので、その流れなのだと思う。
理由はどうあれ、これまでソロでは頑なに五人での演奏にこだわってきた宮本が、ほかのサポートメンバーを加える気になったのは、けっこう重要な心境の変化だと思った。いっそ還暦を迎える来年は、金原さんのストリングスなんかも加えて、さらに豪華なステージを見せてくれたら嬉しい。
山本さんたちの登場は第二部の前半(たしか『passion』の前)、宮本が自らハッピーバースデーを歌うコーナーの伴奏からで、「ハッピーバースデー、ヒロジさ~ん」と自分で自分を祝福した宮本は、そのあと花道の先に用意されたバースデーケーキのろうそくを吹き消してみせた。さらには自撮り棒につけたスマホで記念写真を撮りまくる。『最高の日、最高の時』というタイトルからしてそうだけれど、自ら率先して自身の誕生日を祝うスタイル。終始楽しそうでなによりだ。
ということで、PIXMOBとホーンセクションの導入が今回の二大サプライズだった。
その他にも、おっと思うポイントがけっこうあった。
二曲目で早くもエレカシの曲――それも『ハロー人生!!』と『テクマクマヤコン』というレア・ナンバー!――をかましてきたのにはびっくりしたし、第一部が九曲で、第二部が十四曲といういびつな構成や、第二部の序盤に『昇る太陽』と『ハレルヤ』という、これまでのライブでクライマックスを飾ってきたナンバーをさっさとやってしまう構成も意外性があった。
『冬の花』も最初にやっちゃったし、このあとどうすんだと思ったら、ライブの後半は前日リリースされたばかりのニューシングルの二曲を含む、最近のシングル曲を中心とした内容。そこに加わるのがライブ初披露の『Fight! Fight! Fight!』(うちの奥さんからは歌詞がつまらなさすぎる宮本くんの曲ナンバーワンと酷評されている)と、エレカシ屈指の暴言ナンバー『コール アンド レスポンス』というのもびっくりだった。
『Fight! Fight! Fight!』はタイトルや「I LOVE YOU」という歌詞を七十年代風のカラフルなグラフィックアート的レタリングで映し出した演出が、先月見たずとまよに通じるスタイルでおもしろかった(趣味のよしあしは問わない)。映像的な演出では『over the top』でのひし形が重なる幾何学的なやつも印象的だった。
『コール アンド レスポンス』はイントロのギターリフこそハードだったけれど、それ以降は小林さんの電子ピアノの柔らかな音色が前に出た、角の取れたアレンジで、「死刑宣告だあ~」という過激な歌詞とのミスマッチがおもしろかった。
演出でいちばんよかったのは『夜明けのうた』。夜明けの映像をバックに、昇りくる太陽の位置に配したスポットライトが、逆光となって宮本の影法師を浮かび上がらせる。花道に長く伸びる影がとても抒情的でカッコよかった。
本編最後は『rain -愛だけを信じて-』に『P.S. I love you』と、最近の宮本のお気に入りソロ・ナンバーをつづけたあと、締めは意外や『Today -胸いっぱいの愛を-』――タイトルの時点で拒否反応を示してしまい、あまりちゃんと聴いていなかったんだけれど、ライブで聴くとさすがにいい曲だったりする――かと思わせておいて。
そのあとにもう一曲ある。
ステージが暗転したあと、しばらくして曲が始まる。スクリーンにはステージ裏を走り回りながら歌う宮本の姿。
歌うはなんと、『オレを生きる』!!
おぉ~!――って。素直に盛りあがれたら、よかったのだけれど。
エレカシの『Wake Up』の最後に収録されたこのナンバー、あまりにレアすぎて、その存在を忘れてました。最後まで聞いて「あ、これはなにかのアルバムの最後の曲だ」と思ったけれど、それまでは「もしかして昔書いたお蔵入り曲でも引っ張り出してきたのか?」とか思ってしまうレベル。あぁ、ファン失格。
いやでも、このエンディングはよかった。ステージ裏のスタッフをあいだを走り回っていた宮本は、そのままアリーナ席の右手最前列あたりから出てきて、左手まで移動して歌い終わったあと、深々とお辞儀をしてから姿を消した。キラキラしたライブの最後がこういうアングラ感のある曲と演出で締められたのにぐっときた。
その後のアンコールは二曲で、最初は『サムライ』!
この曲もサプライズあり。宮本はいつの間にか客席に紛れ込んでいて、女性客のとなりに座ったまま歌いだす姿がスクリーンに映し出された。近くにいた女性たち騒然。
ちょっと前に藤井風が横浜スタジアムで同じことをやっていたけれど、まさかあの宮本まで同じようなことをするとは……。
そういや『ハレルヤ』かなんかでも客席に降りて行っていたし、この日はけっこう積極的にオーディエンスとの交流をはかっていた。おそらく自分の誕生日を祝いに集まってくれた人たちに感謝の気持ちを伝えたいってことだったんだろう。
とかいいつつ、通りすがりに手を出して触ってくる人たちにちょっと迷惑そうなしぐさもあったけれど。そこはまぁご愛敬。
そのあとのアンコールの最後の曲は、シングル『close your eyes』のカップリング曲『哀愁につつまれて』……だったのだけれども。
すみません。あまりに趣味じゃなかったもので、この曲の存在自体が記憶から抜け落ちていた。『サムライ』のあとだったし、これもてっきり誰かのカバーだと思って「終わったら「哀愁につつまれて」って歌詞でググって、誰の曲か調べなきゃ」とか思っていた。まさかオリジナル曲だったとは……。
いやでも、エレカシの新春ライブでは、数少ない新曲である最新シングルのカップリング曲をはしょった宮本が、ソロライブの最後をそんなレアトラックで締めくくるとは思わないじゃん。いやはや、完璧にノーマークだった。
ということで、遅刻はするわ、曲は知らんわで、いまやファンを名乗るにはおこがましいかもと思ってしまった宮本くんの五十代最後のバースデイ・ライブでした。
いろいろごめん。
ばちがあたって来年のチケットは取れない気がする。
(Jun. 21, 2025)