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観光

ラッタウット・ラープチャルーンサップ/古屋美登里/ハヤカワepi文庫

観光 (ハヤカワepi文庫)

 申し訳ないけれど、まったく名前を覚えられる気がしない。

 タイ系アメリカ人作家、ラッタウット・ラープチャルーンサップの短編集。

 アメリカの非白人系作家ということで、『オスカー・ワオの短く凄まじい人生』のジュノ・ディアスを連想しながら読み始めたら、一話目の『ガイジン』――タイ旅行中のアメリカ人女性とアバンチュールを重ねるハーフのタイ人の青年の話――がまさにそんな印象だったので、同じように奔放な性遍歴を描くタイプの作家かと思ったら、似た感触だったのはそれ一編だけだった。

 そもそもジュノ・ディアスの作品はアメリカに移民してきたドミニカ人が主役で、舞台はアメリカだったけれど、この短編集の舞台はすべてタイだ。そういう意味では表現に向かう立ち位置自体が基本的に違う。

 アメリカ人ではあるんだろうけれど、テーマはタイという国に生きる人々の姿。どの短編も自分と大事な人たち――家族や親友―とのきずなや断絶を、優しい視点で描いてゆく。シビアなテーマを扱いながら、最悪をぎりぎりで回避して、見事に軟着陸させているというか。扱う素材はハードだけれど、仕上がりはソフトだというか。そんな感触の短編がほとんどだった。

 女性観光客との刹那な逢瀬を重ねるハーフの青年。兄の風俗通いについてゆく幼い弟。親のコネで徴兵を回避したことを親友に伝えらない少年。まもなく失明する母親と最後の旅に赴く青年。カンボジア難民の女の子との思い出を汚す少年。タイで結婚した長男に引き取られて母国アメリカを離れた車椅子の老人。闘鶏で負けつづける父親を見守るしかない女の子。

 ――そんな老若男女とりまぜたこの本の登場人物たちの物語は、いざ自分の身に置き換えてみたら、やりきれない話ばかりだ。

 それでいて読後感は思いのほか穏やか。幸せだとはいえないけれど、不幸だと嘆いてばかりいるもの違うよなって。なんとなくそんな捌けた感覚がある。

 描こうと思えば描けるどん底を描かない――もしくは描けない。どちらかは知らない。そこのところにこの作家の文学的な弱さと魅力が併存している気がする。

(Jun. 14, 2026)

国宝

李相日・監督/吉沢亮、横浜流星/2025年/日本/Amazon Prime

国宝

 実写の日本映画で興行成績ナンバーワン!――とかいうので、どんなにおもしろいのか観てみた。

 物語のスタートは1964年(僕の生まれる二年前)。そこから五十年をかけて、吉沢亮演じるヤクザの息子・立花喜久雄が、いかにして歌舞伎役者となり、人間国宝まで昇りつめるかを描いてゆく。

 はじまりはヤクザの新年会のシーンから。余興で歌舞伎を演じた喜久雄は、たまたま来訪していた歌舞伎役者の花井半二郎(渡辺謙)にその才能を見出される。

 ところが同じその夜、宴の最中に対抗組織の襲撃をうけて父親が殺されてしまう。喜久雄は刺青を入れて復讐を誓うも果たせず。身寄りを失って行き場を失った彼は、花井に引き取られて、歌舞伎の道を歩むことになる。

 花井には喜久雄と同い年の俊介(横浜流星)という息子がいた。ともに歌舞伎の道を極めんとするふたりは実の兄弟のような唯一無二の存在となってゆく。けれど血筋と才能の対立が二人の関係を引き裂き、やがてそれぞれの人生に様々な浮き沈みをもたらすことに……。

 吉沢亮と横浜流星という、当世きってのイケメンふたりが歌舞伎の女形を務めていてビジュアル最強なところへきて、たっぷりと尺を取って描かれる歌舞伎の名場面の数々に魅せられた人が多いのか。喜久雄の少年時代を演じた黒川想矢という男の子も、若き日の宮本浩次みたいなやんちゃな色気があって、きっと人気が出るんだろうなぁって思った。高畑充希と森七菜がアダルトな演技を見せているのも意外性があった。

 まぁ、歌舞伎を見たことのない人間にとっては勉強になる一方で、いささか歌舞伎シーンが長すぎる嫌いあり。説明不足なところもけっこうある。それでも全体的に奇をてらったところがない分、映画自体は好感がもてた。テーマ的にも演出的にも、これぞ邦画の王道なんじゃないかって気がした。

 監督の李相日(リ・サンイルと読むのは無理筋)は在日朝鮮人三世とのことで、そういう人が日本の伝統芸能にリスペクトを込めて、ここまで正統的な日本映画を撮ってみせたという事実に意外性があった。

(Jun. 12, 2026)

鹿島アントラーズ2-0ヴィッセル神戸

J1百年構想リーグ・プレーオフ第2戦/2026年6月6日(土)14:00/メルカリスタジアム/DAZN

 百年構想リーグ、優勝はヴィッセル神戸。まぁ、当然だよなぁ……。

 この日の鹿島のスタメンは、GK梶川、DF小池、植田、関川、安西、MF樋口、知念、濃野、師岡、FWチャヴリッチ、レオ・セアラという組み合せ。途中出場は柴崎、林、徳田、松村、津久井の5人だった。

 なんと、前の試合で足をいためた優磨が欠場……。

 ただでさえ苦しい状況がさらに苦しくなってしまった。

 でも5点を追う展開で、濃野を中盤で起用する鬼木も大概にしたほうがいいと思う。優磨が出ない試合で、スタメン起用されない荒木と松村の心境を思うと、そりゃないんじゃないのって気がしてしまう。ベンチをはずれたエウベルしかり。きょうはチャヴリッチの出来がいまいちだったので、なおさら彼らが不憫に思えてしまった。

 まぁ、とはいっても、試合の内容自体は悪くなかった。とにかく1点でも多くとらないと話にならない鹿島が、最初から最後まで果敢に攻撃を仕掛けつづける展開だったから、なかなか点こそ入らなかったものの、観ていてけっこう楽しかった。問題は第1戦の5失点のみ。そんな試合だった。

 もとより逆転優勝の可能性はほぼないと思っていたけれど、その結果を決定的にしたのは、開始わずか1分で打ったレオ・セアラのシュートを権田が止めたシーンだったと思う。あれが決まっていれば、また違う展開もあったかもしれない。

 でも開始早々訪れた絶好機にレオ・セアラが打った渾身のシュートは横っ飛びした権田に止められてしまう。あれが決まっていればもしや……と淡い期待も抱けたのだけれど、止められたことで、もう奇跡なんて起こらないんだって結論が早々に出てしまった気がした。権田にはその後も何本か惜しいシュートを止められているし、やっぱ元日本代表は伊達じゃなかったか。あぁ……。

 神戸は前半のうちに、ボランチの鍬先とCBのカエターノのふたりが筋肉系のトラブルで交替を余儀なくされたこともあり、この試合は無理をせずに受け身に終始したイメージ。前半を0-0でしのぎ切った時点で、優勝は決定したも同然だった。いくらなんでも後半45分で5点はなぁ……。

 それでも後半に入って2点は取った。しかも先制点は林のプロ入り初ゴール! そのわずか2分後の追加点は安西のクロスから知念のヘディング(知念触った?)。残念ながら反撃はそこまでだったけれど、そのまま無失点でこの試合自体には勝利した。足りなかったのは3点。さすがに5点の壁は高かった。

 神戸は前の試合でもそうだったけれど、大迫と武藤と並んで、3トップの一角に永戸が入っていた。でもって後半に入って、その永戸に替わって広瀬が出てきた。なにその交替策。鹿島時代は優勝を経験できず、サブに甘んじることの多かった二人が、移籍したチームでふたたびチームメイトとなって、鹿島を下して勝利の美酒を味わうというのも皮肉なもんだ。

 ということで4ヵ月間限定のJ1百年構想リーグもこれにて幕。首位の鹿島を筆頭に、東地区のクラブは負けまくり、勝ったのは、町田、横浜FM、柏の3チームのみだった。鹿島がリーグ戦で強かったのは、西高東低なリーグ分けのおかげだったのが証明されたようで悔しい。

 新シーズンは8月開幕だそうだ。来週からはワールドカップが始まる。これでもう森保ジャパンも最後だろうという希望的観測のもと、お手並み拝見で4年ぶりに日本代表を観ようと思っている。

(Jun. 09, 2026)

絵本百物語

京極夏彦・竹原春泉・桃山人/角川文庫

絵本百物語 (角川文庫)

 京極夏彦の最新作は、竹原春泉という画家の妖怪画に、桃山人という人が文を添えた妖怪本の現代語訳版。

 なぜこういう本をいきなり文庫オリジナルで出すことになったんだろう?――と思ったらば、だ。

 なんと、これまるまる一冊が――原書は全五巻みたいだから実質的には一冊ではないのかもしれないけれど――『巷説百物語』のネタ本だったから。

 名に偽りありで、「百物語」をうたいながら、この本で紹介されている妖怪画は四十四しかない。

 対する『巷説百物語』のシリーズを構成しているエピソードは全四十五話。

 最終話は『百物語』だから、つまりそれを除くと同じく四十四。

 そう、つまりその四十四話が、この『絵本百物語』に収録された妖怪――この本の収録順でいえば、白蔵主、飛縁魔、狐者異、塩の長次郎、等々――を、そのままのタイトルで「巷説」として語りなおしたものなのだった。

 まさかそんな統一性があったとは……。

 妖怪好きにとっては自明の理だったのかもしれないけれど、妖怪にうとい一般人としては、まさかそんな仕掛けになっていようとは思いもよらなかった。

 シリーズ全七作でもって、京極夏彦は『絵本百物語』を自家薬籠中の物として、平成・令和の世にあっても楽しめる娯楽作品としてリメイクしてみせた。

 でもって、今回『了巷説百物語』の文庫化により、シリーズの文庫版がすべて出揃ったのにあわせて、その最終巻と一緒にこの『絵本百物語』を刊行することで、シリーズの完結を高らかに宣言してみせた――ということなんでしょう。

 元ネタはすべて使い切りましたよ、もうつづきはありませんよ――と。

 終わってから知ったる、驚嘆すべき名シリーズの大団円。

 いずれこの本の内容をしっかり頭に叩き込んだうえで、シリーズ全部をじっくりと再読したいと思う。

(Jun. 03, 2026)

ヴィッセル神戸5-0鹿島アントラーズ

J1百年構想リーグ・プレーオフ第1戦/2026年5月30日(土)14:00/ノエビアスタジアム神戸/DAZN

 史上空前の、大・惨・敗……。

 まさかリーグ戦では9失点しかしなかった鹿島が1試合5失点って……。

 終盤15分での失点が1点もなかったはずが、この日は2失点……。

 スコアレスで終わった試合もなかったのに、この試合は無得点……。

 そんな風に、この試合の鹿島はリーグ戦では無双状態だった最強イメージを見事に裏切った。リーグ戦での勝負強さはどこへいったんだって大敗で、プレーオフ初戦にしてすでに優勝は99.9%無理ってスコアになってしまおうとは……。

 いやぁ、神戸だって万全じゃなかったんだよ?

 キャプテンの山川はベンチ外だし、かわりにDFの要を担うマテウス・トゥーレルも開始わずか5分で怪我をして交替になってしまった。扇原も怪我で離脱している。

 でもそうしたハンデが問題にならないだけの的確な補強をしてきているのが神戸の強みなんだろうなって、この試合を観て思った。

 トゥーレルが抜けたあとは、降格した横浜FCから獲得したンドカ・ボニフェイスがしっかりと埋めていたし、扇原のいない中盤の底では、3年前に長崎から移籍してきた鍬先という選手がしっかりと存在感のあるプレーをみせていた。その一列前には井手口もいるし。左SBは柏から獲得したジエゴだし、ベンチには乾が控えている。GKは前川じゃなくて権田だった。

 なぜに生え抜きの前川がいるのに、37歳の権田を取るんだと不思議に思ったものだけれど、なんのバイアスのかかっていないはずのスキッベ――そうそう、今年からはこの人が監督を務めている――が選ぶんだから、やっぱ前回のW杯で日本のゴールマウスを守った権田には、いまだ元日本代表という肩書にふさわしいものがあるんだろう。

 いずれにせよ、そうした積極的な補強の結果として強くなった一方で、この日の神戸には生え抜きの選手がほとんどいなかった。神戸でプロデビューを飾った先発の選手は郷家だけ。その郷家にしたって出戻りだ。

 でも育成にこだわらない、楽天の金にものをいわせたそうした積極的な補強により、神戸がここ数年好成績を残してきているのは間違いのない事実。この試合を観ると、やっぱり日本代表級の選手をそろえたチームは強いんだなぁって改めて思った。

 とくに大迫。代表に呼ばれなくなってひさしいし、そろそろ年齢的にも衰えが見え始めそうなものなのに、なにきょうの活躍は? 鹿島だから戦いやすいとかあるんじゃなかろうか。大迫と対決だとか喜んでる場合じゃなかったよ。とほほ……。

 この試合の先制点は大迫の直接FKだった。大迫がFK決めるのなんて初めて見た気がするんだけど?

 後半すぐの2点目も大迫。左サイドで武藤との競り合いで倒れた安西がファールをアピールしている隙に、武藤が素早く入れたスローインのボールをダイレクトボレーでゴールへと流し込んだ。なにそのクレバーな連係は?

 3点目は左SBのジエゴ。柏にいるときにもいい選手だと思っていたけれど、なにその見事なシュートは?

 4点目はハンドによるPK(決めたのは途中出場の小松蓮という選手)。PKを取られたのは三竿だったけれど、VARを観る限り、ハンドじゃなくない? 池内レフェリーってもしかして性格悪い?

 5点目は後半ロスタイム。途中出場のパトリッキの右からのクロスに、大迫が下がりながらジャンピングヘッドで合わせた。大迫、衝撃のハットトリック。

 あの場面、大迫のマークについていた関川が足をすべらせて転んでいたのが、この試合の鹿島を象徴してきた気がする。

 大迫のFKに反応しながらも止めきれなかった梶川しかり。彼らを戦犯あつかいするつもりはないんだけれど、やっぱ試合勘の不十分なこの二人がスタメンという時点で、神戸の相手は厳しかったってことなんだろう。

 鹿島のスタメンは梶川、濃野、植田、関川、三竿、柴崎、チャヴリッチ、荒木、優磨、レオ・セアラという先週と同じ11人だった。途中出場は松村、知念&師岡、小池、林の5人。

 先制点のきっかけとなったのは、優磨がペナルティエリアのぎりぎりで与えた不用意なファールだった。そんなところでファールしちゃ駄目だろうって思ったんだよなぁ……。あのファールは悔やまれた。

 鬼木の采配にしても、樋口を温存したまま、林を使ったのは疑問だった。林がお気に入りなのはわかったけど、負け試合で1点でも返したかったら、使うべきはここまでノーゴールのルーキーではなく、セットプレーで何度もアシストを決めている樋口じゃないの? 守備の強度を考えると、三竿は下げたくなかったんだろうけれど、結局その三竿が不運なハンドの判定を受けて、PK取られちゃったわけだしなぁ……。

 攻めてもあと一歩というシュートが決まらない。反対に相手のシュートはジエゴも大迫の3点目もポストにあたって決まっちゃうというね。

 もう鹿島にとってはすべてが悪いほうへ、悪いほうへと向かってしまった一戦だった。たまにはそんな試合もあるもんだろうけれど、それがよりによって優勝のかかったプレーオフの初戦とは……。本当にとほほだよ。

 鹿島が5-0なんてスコアで負けるの観るの初めてじゃん?――と思って過去の記録を調べてみたら、さすがに長いことサッカーを観ているだけあって、そんなことなかった。21年前にバルセロナとの親善試合で同じスコアで負けてました。わはは。

 とはいえ、それは親善試合の話。今回は一億円超えの賞金のかかった公式戦だからなぁ……。ダメージがでかいぜ。

 まぁ、神戸には3年前にも5-1で負けているし、もしかしたら基本的に相性が悪いのかもしれない。それもすべて大迫のせいって気がしちゃうけど……。

 このまま終わったんでは寝覚めが悪いので、次のホームでの試合はせめて勝って終わっていただきたい。よろしく。

 おまけ。2点目のシーンで武藤にスローインのボールを渡したボールボーイが「よくぞ瞬時にボールを出してくれた」と試合後に二人の祝福を受けていたのがおもしろかった。確かにあのシーンはボールボーイも敵ながらあっぱれだったわ。

(Jun. 3, 2026)



【相棒】
しろくろや

【Shortcuts】
音楽 作品 / ライブ / 会場 / 購入 / エレカシ
作品 / 作家 / 翻訳家 / 出版社 / 読了 / 積読
映画 作品 / 監督 / 俳優 / / シリーズ / ドラマ
蹴球 鹿島 / Jリーグ / 日本代表 / W杯

【新譜】
06/17花落知多少 / 君島大空
06/19Castle Park / Graham Coxon
06/26Reality Awaits / The Strokes
06/26The Ground Above / Beth Orton
06/26Bliss / Temples
07/03Confessions II / Madonna
07/10Foreign Tongues / The Rolling Stones
08/12RADWIMPS 20th ANNIVERSARY LIVE TOUR [BD] / RADWIMPS

【ライブ】
07/17HARRY & THE BIRTHDAY@SGC HALL ARIAKE
10/28BUMP OF CHICKEN@有明アリーナ
02/06BUMP OF CHICKEN@東京ドーム

【サッカー】
06/15[W杯] オランダ-日本
06/21[W杯] チュニジア-日本
06/26[W杯] 日本-スウェーデン

【新刊書籍】
07/03『夏帆 -The Tale of KAHO-』 村上春樹
07/14『サリンジャー初期短篇全集』 柴田元幸・訳

【準備中】
06/18[本] マルドゥック・アノニマス (11)
(未定)[音] 宮本浩次@ぴあアリーナMM
(未定)[本] 夜のくもざる

【過去のコンテンツ】
Coishikawa Scraps Bootleg 2.0