2010 FIFAワールドカップ South Africa (4)

Page: Top 1 2 3 4 5

Index of Round of 16

  1. ウルグアイ2-1韓国
  2. アメリカ1-2ガーナ(延長:0-1)
  3. ドイツ4-1イングランド
  4. オランダ2-1スロバキア
  5. ブラジル3-0チリ
  6. パラグアイ0-0日本(PK:5-3)

ウルグアイ2-1韓国

決勝トーナメント/2010年6月26日(土)/ポートエリザベス/NHK

 いよいよ今日から決勝トーナメントに突入。まずは先陣を切って韓国が登場した。対戦相手は南米の古豪、ウルグアイ。
 今大会の出場32ヵ国のうち、僕がグループリーグで観ていない国が7つある。でも、うまい具合に、そのうちの4つが決勝トーナメント進出を決めている。ウルグアイはそのうちのひとつで、あとの3つはガーナ、チリ、そして日本と対戦するパラグアイ。
 結局一試合も観られないままグループリーグ敗退が決まってしまったのは、ナイジェリア、オーストラリア、ホンジュラスの3つ。まあ、オーストラリアとはアジア予選で2度も戦っているので、まったく観る機会がなかったチームは2つだけってことになる。われながら、なかなか見事にワールドカップを満喫している感じがする。
 ウルグアイについては、2年前に日本に親善試合でやってきたときの印象が強い。あのときのウルグアイはやたらと手ごわかった(調べてみたら日本が3-1で負けている)。やっぱ、ブラジルやアルゼンチンと地区予選を戦っている国は違うやと、非常にインパクトを受けたのをおぼえている。だからこの日の韓国も楽な試合は絶対にさせてもらえないだろうと思っていた。
 そしたら案の定、先制はウルグアイ。左サイドから10番フォルラン──去年のリーガ・エスパニョーラの得点王なんすね。すげーな──が放ったクロスが逆サイドに流れた先で、9番のスアレスがフリーになっていた。韓国の最終ラインが全員、不思議なくらいに棒立ちで見送ったボールだったので、あの失点はやや後悔が残ったんじゃないかと思う。なんであそこでファーサイドのケアを怠ったかな。もったいない。
 この得点のみで前半は終了。先制したウルグアイが無理をせずに韓国の攻撃をいなしている感じで、いまいち盛りあがりを欠いた。
 でも韓国もそのままじゃ終わらない。前半こそ、やや動きが重い感じがしたけれど、後半は連係もよくなり、ウルグアイのゴールを脅かすシーンがずいぶんと増える。で、ついに後半25分にセットプレーからのこぼれ球を17番のイ・チョンヨンがヘディングで押し込んで同点としてみせる。
 イ・チョンヨンはこれがアルゼンチン戦につづき2点目だ。さすがイングランド仕込み(ということをいまさら知ったんだけれど)、大事なところで頼りになる。
 彼にパク・チソンとパク・チュヨン(この人もフランス・リーグでプレーしているとのこと)のふたりのパクを加えた攻撃陣はかなり強力だった(パク・チュヨンはちょっと外しすぎだけれど)。そういや、いつの間にか右サイドバックにコンバートされていたチャ・ドゥリもブンデス・リーガ所属だというし、なるほど韓国、史上最強をうたうだけあってタレント揃いだ。
 なんにしろ後半はすっかり韓国ペースだったので、この同点弾で試合の流れはすっかり韓国かと思った。ところが、ここからウルグアイがちゃんと盛りかえしてくるから、南米のチームはあなどれない。運動量が減ってみえたのは、疲れたからじゃなく、勝っているからこその三味線かいっ。
 ということで結局、残り10分を切ったところで、ふたたび9番のスアレスの2点目が決まる。セットプレーの流れからゴール左でパスを受けると、目の前で密集した選手たちの頭上を巻いてゆく技ありのシュートをゴール右上に突き刺してみせた。お見事。
 なんとこの人、見た目は締まりがないけれど(失礼)、若干23歳でアヤックスのキャプテンをつとめる、今季オランダ・リーグの得点王なんだそうだ。いやはや、おみそれしました。じつに見事なシュートでした。
 なんにしろこれで勝負あり。史上最強といわれた韓国代表の挑戦は、結局ベスト16で終わった。FIFAの公式記録を見れば、ポゼッション、運動量、シュート数、パス成功率など、多くの点で韓国がウルグアイを上回っている。それでも勝てないんだから、決勝トーナメントはきびしい。
(Jun 27, 2010)

アメリカ1-2ガーナ(延長:0-1)

決勝トーナメント/2010年6月26日(土)/ルステンブルグ/フジテレビ(録画)

 今大会、はじめて録画で観た試合。正直なところ、わざわざ録画して観るほど魅力的なカードだとは思わなかったんだけれど、たまたま日曜日で時間があったし、決勝トーナメントはこれ以降、ずらりと好カードがそろっていて、全部観たいって感じだったので、これ一試合だけ観ないのもなにかなと思って、とりあえず観ておくことにした。
 ガーナといえば、去年日本が親善試合で対戦して、ロングボール一発で中澤、闘莉王が裏をとられて失点したイメージが強烈。とにかく、これがアフリカだ!って感じの身体能力の高さに圧倒されたもんだった。
 でも今大会のガーナの得点はここまでPKの2点のみ。アフリカ勢で唯一決勝トーナメントに勝ち残ったとはいえ、得点力不足でなんとなく雲行きがあやしい。ほかのアフリカ勢がそろって敗退してしまったという結果を見るかぎり、べつにアフリカのチームだからってホーム・アドバンテージはないみたいだし、これならばグループリーグを劇的なロスタイムのゴールで勝ち抜けてきたアメリカのほうが勢いがあって有利かと思った。
 でもわかんないもんで、この試合はそんなガーナが先制する。それもまさに日本代表が食らったのと同じような、カウンターからの個人技炸裂のゴールだった。23番のボアテングという選手がセンターライン付近でボールを奪うと、そのままドリブルで駆け上がり、左足を一閃。これまで流れの中からのゴールがなかったチームとは思えないような、鮮やかなゴールを決めてみせる。
 対するアメリカはなんだか動きが重い感じ。それもそのはず、スケジュールを見てみれば、この2チームはグループリーグが終わってから中2日だ。こりゃ体力的にきびしい。アメリカ・ピンチ──と思うべきところなんだけれど、じつは僕は、この試合でアメリカが同点に追いつくのを知ってしまっていた。DVDレコーダーをつけたら、たまたま録画放送をやっていて、1-1というスコアが目に入ってしまったのだった。だから録画は駄目だって……。
 ということで、アメリカはガーナに先制を許すも、後半になって同点に追いつく。それもPKで(決めたのはドノヴァン)。後半ガタっと運動量が落ちたガーナは、そのちょっと前から際どいファールを連発していたので、まあ仕方ないかなという感じだった。でも、この試合のレフェリー(ハンガリー人)は全体的にファールを流し気味だったので、あの判定はやや厳しかった気がしないでもない。
 同点にされたガーナも、その後は意地をみせて再び反撃に出る。結局、そのままスコアは動かずに、試合は今大会初の延長戦に突入。
 で、その延長早々にふたたびガーナの個人技が炸裂するのだった。こんどはロング・ボール一発で、ディフェンス・ラインの裏をとったギャンという選手(この人はFW登録なのに、なぜか背番号が3)の得点。これまた去年の日本戦を思い出させるような、カウンターからの豪快なゴールだった。
 ということで、試合はこのままゲームセット。アフリカ勢唯一の生き残り、ガーナが見事ベスト8へと駒を進めた。次の対戦相手はひとつ前の試合で勝ったウルグアイだそうだ。キックオフは午前3時半だし、その試合は無理して観なくてもいい気がする。
 そうそうこの試合、ミック・ジャガーがクリントン元大統領と肩を並べて観戦していた。ミック、アメリカ戦を見るほどのサッカー好き──って、いや、どう考えたってつきあいですよね。
(Jun 27, 2010)

ドイツ4-1イングランド

決勝トーナメント/2010年6月27日(日)/ブルームフォンテーン/TBS

 なんでワールドカップでのドイツってのは、毎回こうも強いんだろう。なんでもこの勝利で、15大会連続のベスト8入りだそうだ。この安定感はうらやましすぎる。まあ、誰よりそう思ったのは、この日、対戦したイングランド・サポーターだろうけれど。
 それにしてもイングランドは最後までさえなかった。エースのルーニーが4試合ノーゴールではベスト8入りできないのも当然。ルーニーはストライカーというよりも、どちらかというとチャンスメイクをする方が多く、その割には彼の作ったチャンスを決める選手がいないという悪循環。イングランドは全体的にプレーが個人技頼りな印象で、連動性が感じられなかった(いつものことという気もするけれど)。
 それに対してドイツは見事に個々のプレーがかみあっている。クローゼが泥くさい個人技で決めた1点目(通算12点目?)はともかく、その後のカウンターからの得点はすべてボールを持ち込んだ選手にきちんとフォローする選手がついてくる。ディフェンスの戻りが遅いイングランドはその見事なカウンター攻撃にまったくついてゆけなかった。
 バラックが怪我のためにいない中盤には、21歳の新たなる司令塔エジルが頭角を現しているし、この日の3、4点目を決めたミュラーは20歳だというし、若手もしっかり育っている。で、2点目は中堅ポドルスキー。若手からベテランまでバランスよく得点して、難なく強豪イングランドを一蹴するんだから、いやはや、すごいや、この国は。
 試合は前半なかばにして2-0とドイツ優勢になった時点で一度勝負ありかと思ったんだけれど、その後イングランドがセットプレーから1点を返し──決めたのは先制点の場面でクローゼを止めきれなかった15番のアップソウ──、おおっ、おもしろくなったと思ったら、その直後に混戦からランパードの打ったシュートがバーをたたいてゴールラインを超える! おー、イングランド同点ゴール!
 ──と誰もが思ったこのゴールが、ウルグアイの主審によりゴールラインを割ってないという判定で流されてしまう(リプレイを見るかぎり、完全にゴールだった)。これがイングランドには不運だった。あまりに不運だった。このまま試合が終わったら、フーリガンが暴れ出すんじゃないかってくらいの誤審だった。それでも、その後のドイツの2ゴールで、実力の差はあきらかに……。この結果じゃ暴れようがないという苦い終わり方だった(それでもなお暴れるのかもしれないけれど)。
 昨日、クリントンと一緒にアメリカ戦を観戦していたミック・ジャガーは、母国イングランドのこの試合も、当然スタンドで観戦していた。でもその結果がこれってのは気の毒のひとこと。さえない表情に同情を禁じ得なかった。
(Jun 28, 2010)

オランダ2-1スロバキア

決勝トーナメント/2010年6月28日(月)/ダーバン/NHK

 眠い……。今朝はアルゼンチン-メキシコ戦を仕事に出かける前に観てしまおうと早起きしたのだけれど、結局、眠気に負けて途中でうたたね寝してしまった(なので感想はなし。試合はアルゼンチンが3-1で快勝)。どうやら午前3時半からの試合を、朝いちで録画で観ようってのでさえ、いまの僕には無理があるらしい。
 なんにしろ、朝の時点で眠かったくらいなので、夜になってもやはり眠い。こんな眠いときに、オランダが手堅い試合運びでスロバキアをうっちゃるような試合ってのは、ちょっとばかりつらかった。
 グループリーグではイタリアを相手に番狂わせをみせたスロバキアだったけれど、この日は万全のオランダを相手になすすべがなかった。開始5分ばかりのあいだに積極的にミドル・シュートを打って出たのには、もしやジャイアント・キリング再び?という期待を持たせはしたものの、わずか18分でロッベンに先制ゴールを許してしまってからは、格の違いがあきらかに。失点後はなにもできないまま終わってしまった感じの前半だった。
 そんなスロバキアでも、後半のなかばにはビッグ・チャンスが立てつづけに2つあった。でも相手GKのファイン・セーブのあって、決めきれない。そうした数少ないチャンスを逃していては、格上に勝つのはむずかしかろう。後半ロスタイムにPKをとって、なんとか1点を返しただけでも上出来って試合だった(結局このPKが決まるのと同時に試合終了)。
 それにしても、この試合が今大会初スタメンとなったロッベン。彼のあの先制点はなんなんなのか。ペナルティ・エリアの外で、DF2枚を切りかえしでかわして、できたわずかな隙間で左足を振りぬく。ただそれだけ。むずかしいことをしているようには見えないのに、それでいともたやすくゴールが決まっちゃうんだからたまらない。なんかおかしいだろうー。
 相手のちょっとした隙をついて、カイトのアシストからスナイデルがフリーで決めた2点目にしろ、この日のオランダは、取れるときには簡単にとって、あとは無理はしない──もう大量得点は必要ないんだから、無駄なスタミナは使わないで次にいこうや──、みたいな試合運びにみえた。なんか、憎らしいくらいに余裕しゃくしゃくだった。あんまりに順当すぎて、正直なところ、あまりおもしろくなかった。
 あぁ、このチームに勝てたら、どんなに気持ちがいいやら……などと思う。グループリーグで戦ったせいで、妙にライバル意識が芽生えてしまっているやつ。格が違いすぎだって。
(Jun 29, 2010)

ブラジル3-0チリ

決勝トーナメント/2010年6月28日(月)/ヨハネスブルグ(エリス・パーク)/NHK(録画)

 なんだか前日のアルゼンチン-メキシコ戦とほとんど同じような試合だった。朝6時前に起きだして、録画で観たというシチュエーションに加え、中南米の最強国Vs.中堅国という構図といい、前半だけで強いほうが2-0と先行してしまう展開といい……(さらに後半1点を追加するところも)。
 違っていたのは、昨日のメキシコはなんとか1点を返したけれど、チリはスコアレスのまま終わってしまったこと。そして昨日は途中からうつらうつらしてしまった僕が、この試合はなんとか最後まで観ていたこと。まあ、とはいっても、そんな展開だったから、かろうじて目を開けているだけって感じだったけれど。
 いや、この大会のチリは評判がいいんで、一度ちゃんと観ておきたかったんだった。そしたらキックオフ早々、両者が中盤で激しくボールを奪いあうスピーディーな展開。なるほど、こりゃいい勝負になるかもと思った。──あくまでブラジルの先制点が決まるまでは。
 なんたって、今回はもっとも技術に長けた国が、身長まで併せ持っているんだから、そりゃ強いって。でかいぞ、今年のブラジル人は~。
 先制点はその高さを生かしたセットプレーからのヘディング(前半30分、決めたのは4番のフアン)。そのわずか数分後には、エースのルイス・ファビアーノがオフサイド・ラインの裏をとって追加点。序盤に感じた好勝負の予感はどこへやら。あっという間に勝負ありって形勢になってしまった。
 グループ・リーグで観たときには出場していなかったカカとロビーニョも、さすがにこの日にはスタメンに名を連ねていた。でも彼らが特別に目立っている感じはなし(ま、3点目はロビーニョだけれど)。なんか、特別な力みもなく、実力をさらりと出して、当然のように勝ちましたって感じ。そう、昨日のアルゼンチンやオランダなんかといっしょ。この辺の国はあきらかに格が違う。ちくしょう、当分追いつける気がしない。
 まあ、なんにしろチリもがんばってはいた。なんたってポルトガルでさえボール支配率で40%と劣勢を強いられたブラジル相手に、ポゼッションではほぼ互角という戦いをしてみせたのだから(公式記録ではブラジルの51%)。
 ただ、これはメキシコもそうだけれど、中南米のチームはファールをされた際に相手にイエローカードを与えようと過剰に痛がってみせるのが、どうにも好きになれない。あれがマリーシアだというならば、そんなものは僕はいらない。昔ヒデがファールを受けてもあまり倒れないことに対して、「だって格好悪いでしょう」みたいなことを言っていたけれど、そういう精神をこそ日本サッカーには継承していって欲しいと思う。
 さあ、今夜はいよいよ日本-パラグアイ戦。相手がどうこようが関係なく、日本代表にはフェアで熱い戦いを期待している。
(Jun 29, 2010)

パラグアイ0-0日本(PK:5-3)

決勝トーナメント/2010年6月29日(火)/プレトリア/TBS

 あぁ、終わってしまった……。
 まあ、もとよりグループリーグ敗退を覚悟していた大会だったから、決勝トーナメントで戦う日本代表を観られただけで本望、しかも決勝トーナメントならではの延長戦とPK戦まで経験させてもらったのだから、それだけでもお釣りがくるようなものだ……と。
 素直に思えればいいんだけれど、そこはやはり欲深いというかなんというか。正直なところ、やっぱりもの足りない。前回、僕はデンマーク戦のあとで、もう岡田さんにケチをつけるのはやめようと思うと書いたけれど、こうやって120分を戦ってスコアレス・ドローに終わり、PK戦で敗退が決まってみると、やはり不満を漏らさずにはいられない。
 確かにこの大会の日本代表は、それなりにいいサッカーをした。それは認める。決勝トーナメントに残ったんだから、弱かったとはいわない。異国でのベスト16入りは日韓大会を超える快挙だ。この試合にしたって、PK戦で負けはしたけれど、FIFAの公式記録上は引き分けとクレジットされるそうだから、同じベスト16での敗退とはいっても、結果としては黒星を喫した日韓大会を成績を上回っている。
 でもさ、じゃあ今回の日本代表が繰りひろげたサッカーが僕の観たかったサッカーか、好きなサッカーかと問われれば、答えはノーなわけですよ。僕が日本代表に望んでいるサッカーはこんなんじゃない。つねにボール支配率が40%前後だなんてサッカー、僕にはちっともおもしろくない。もとから守備的なパラグアイにさえボール支配率で負けてしまうようなサッカー、どんなに守備が安定していようと好きになれない。
 そう、僕にとっての理想はあくまで攻撃的なパス・サッカーなのだなと。今回、日本代表に限らず、この大会全般を見てきて、僕はあらためて思った。
 守備的なチームが一概に悪いとはいわない。スイスくらいになると、あれはあれで一芸に秀でているというか、守備的であることがひとつの個性にまで高まっていて、それはそれで見事だと思う。でも正直なところ、観ていていいなぁと思うチームは、やっぱパスワークに優れているところなわけです。連係がきちんと決まるチーム。僕は日本代表にはそういうチームであって欲しい。
 で、実際、日本には俊輔や遠藤、憲剛、松井など──呼ばれはしなかったけれど小野や小笠原も含めて──、パス・センスに優れた攻撃的MFがたくさんいる。長谷部や稲本、阿部、今野ら、運動量豊富なボランチだっている。いかに彼らを生かして中盤で競り勝ち、得点につなげてゆくか──それが日本の課題だと僕は思っている。そしてこれまで日本はそういうサッカーを目指してきたはずだと思っている。いや、思っていたのに。
 いざ本番になってみれば、俊輔が調子を落としたというだけで、それまでやろうとしていたサッカーを放棄して、本番ではそれまでとまったく違う守備的なスタイルで戦う始末。本田が点をとってくれた試合しか勝てないなんてんじゃ、仕方ないだろう。守ってばっかりだから、ハラハラしっぱなしである意味スリリングだったけれど、でもやっぱそんなサッカーが観たかったわけじゃないって。
 僕はもっときれいなパスがたくさんつながるところが見たかった。組織的に相手の行く手をふさぐばかりじゃなく、組織立って相手の懐に飛び込んでゆくようなサッカーが見たかった。きわどいクロスが左右からガンガン飛び交うところが見たかった。そしてなにより、もっともっとゴールが見たかった。
 いや、なにも日本ばかりがゴールが少なかったわけじゃない。大会全体を見ても、そりゃほとんどの国がゴール不足でしょう。一部の強豪を除けば、ほとんどどこも勝ち上がるために、まずは守備からという姿勢をとっているチームばかりだ。そういう意味では今回の日本代表は、しっかり大会のトレンドに乗っていた。
 でもだからこそ、なおさら僕は日本にはもっと攻撃的なサッカーを見せて欲しかった。まわりとは違うサッカーで世界をあっと言わせて欲しかった。日本にはそういうサッカーができる人材が揃っていると僕は信じているし──過信している、というべきなのかもしれないけれど、それでもヒデや松井、長谷部らの海外でプレーをしている選手たちが、口をそろえて「日本人の技術は十分海外で通用する」といい切っているんだから、あながち自惚れではないんじゃないかと思う──、足りないものがあるとすれば、それは経験と自信だろうと思っている。
 だからこそ、この4年に一度の大舞台、どの国も絶対に手を抜いてこない真剣勝負の場で、そういう僕の理想からはほど遠い、とても守備的なサッカーしか見せてもらえなかったことに、がっかりせずにはいられない。なまじそういうサッカーで決勝トーナメント進出を果たしてしまったことで、これが日本の生きる道、みたいな風潮がまかり通ってしまうのだけは勘弁して欲しいと思う。
 まあ、といいつつ、日本人は基本的に温和で、あまり攻撃的ではない民族なので、もしかしたらこういう守備的なサッカーってのは、意外と性にあっているのかな……という気がしてきたりもしたんだけれど。ラーメン屋の前で長蛇の列をつくって待っている人たちが、相手の猛攻にじっと耐えしのぶ日本代表の姿に自分たちの姿を重ねあわせて共感したりってこと……ないですかね? ないといいと思う。
 なんにしろ、僕が日本代表に目指して欲しいのは、パラグアイやスイスではなく、アルゼンチンやスペインなので──どれだけ身のほど知らずといわれようと、叶わぬ夢を追いつづけてしまうのがロック・ファンの{さが}だ──、日本代表が今回の成功を踏まえて、守備重視のスタイルへと方向転換すべきだなんてことになるのだけは、勘弁してもらいたいと思う。そんなことにならないよう、もっとおもしろいサッカーを見せてくれる人が次の代表監督に就任してくれるよう、心から祈らずにいられない。
 ああ、それにしてもウッチーと森本、見たかったなぁ……。憲剛がなんとか出場機会をもらえたのが救いだけれど、それだって動くのが遅すぎた感があるし。結局、最後の最後まで岡田さんの選手起用には納得いかなかった。4試合スタメンをまったく変えなかったのも、単にどう変えたらいいかわからなかっただけじゃないかって気がして仕方ない。
 PKだって、なぜに駒野をキッカーに選ぶかな。大会が始まるまでサブ扱いだった選手に、あの重圧のかかる場面で。はずした駒野を攻める気なんて当然これっぽっちもないけれど、駒野を選んだ岡田さんはどうかと思う。はずしてしまったからそう思ったのではなく、駒野が出てきた時点でおいおいと思った。
 彼はPKが得意なんだそうだけれど、あの状況で大事なのは、そういう技術よりもまずは精神力でしょう。初のベスト8がかかったあの場面で、駒野のようなおとなしそうな選手にPKのキッカーは酷だと思う。憲剛や玉田だっていたんだし、それこそ岡崎だってよかった。三人とも途中出場だったから、肉体的にも精神的にも余裕があったはずだし。それなのに(直前の練習でもっとも成功率が高かったからという理由で?)駒野を選んでしまう──そんな岡田さんに僕は最後まで違和感をおぼえずにいられなかった。
 そういや、翌日の発言では「しばらくサッカーから離れます」とか言っていたらしいけれど、それもどうなんだと思う。ほんと、この人からはサッカーに対する情熱や愛情がほとんど感じられない。病院のベッドで意識を取り戻すなり、サッカーの結果を問いただしたというオシム氏とは、じつに対照的だ。
 試合直後のインタビューでは「今は日本サッカー界のことまで考える余裕がないです」とか言っていたけれど、あれもどうかと思った。岡田さんのあとにつづけてインタビューを受けた長谷部が「Jリーグも盛りあげてもらいたい」と言っていたのとも、えれぇ違いだ(ハセベえらい)。海外でプレーしている長谷部がちゃんとJリーグのことを気にかけているのに、代表監督たる人は日本サッカーのことを考える余裕がないってんだから。どっちが年長者か、わかったもんじゃない。
 でもまあ、監督が駄目だったおかげで、選手たちが前大会とは比べものにならないほど団結していたのが、好成績のなによりの要因だったんだろうから、そういう意味では岡田さんが監督でよかったのかもしれない。これぞまさに怪我の功名。負けて「このメンバーでもう一緒にプレーできないのが悲しい」って泣けるのって、とても幸せなことのような気がする。
 日本代表の今大会最後の試合だったというのに、試合の内容そっちのけで、結局また文句ばっかり並べてしまった。岡田さんも問題ありだけれど、僕も人のことはいえない。きちんと反省して、4年後はもっとましな大人になっていたい。
(Jul 02, 2010)