本当の翻訳の話をしよう
村上春樹・柴田元幸/スイッチ・パブリッシング
村上春樹と柴田元幸による翻訳についての対談集・第三弾。
以前に出た『翻訳夜話』や『サリンジャー戦記 翻訳夜話2』と同じ趣旨の本だけれど、その二冊の出版社が文芸春秋だったのに対し、今回は柴田氏の主催する海外文芸誌『MONKEY』に掲載された対談が中心となっているため、出版社がその雑誌の発行元であるスイッチ・パブリッシングになっている。
なので、『MONKEY』を読んでいない僕にとっては初めての話ばかり――かと思ったらそうでもない。村上柴田翻訳堂やチーヴァーの『巨大なラジオ/泳ぐ人』に収録されていた対談も収録されているので、およそ三分の一は再読だった。その点はちょっと残念(まあ、最近は記憶力ゼロなので、初めて読むも当然だったけど)。
この本でもっとも印象的だったのは、対談に混じって一遍だけ柴田先生がひとりで行った講義の記録が収録されていること。明治時代の翻訳事情を紹介する意外な内容で、森田思軒(初めて知った)、黒岩涙香、二葉亭四迷ら、日本の翻訳黎明期を生きた翻訳家たちの偉業を紹介するその部分だけ、ほかとはあきらかにテイストが違う。僕にはその部分がこの本でもっとも興味深かった。
あと、『翻訳夜話』と同じく、今回も村上・柴田両氏の翻訳合戦がある。しかも今回はチャンドラー、フィッツジェラルド、カポーティという、村上文学における最重要作家たちを取り上げているので必読です。
(Sep. 29, 2019)