I AM HERO
宮本浩次 / 2026
宮本浩次、四年半ぶりのオリジナルアルバム!――といわれて驚いた。いつの間にか、そんなに時間がたっていたとは。
なるほど、『縦横無尽』は2021年の作品だ。翌年のミニアルバム『秋の日に』から数えても三年半。最近の邦楽のつねで、タイアップ曲が五月雨式に発表されているので、そこまで時間がたっているとは思わなかった。
さて、カバー盤をのぞけば三枚目となる今回のソロ・アルバム。最大の特徴は、音作りにエレカシのころに通じる宮本らしいラフさが感じられることだと思う。
小林武史の全面プロデュースで作った前作『縦横無尽』は、これぞプロというきっちりとしたサウンド・プロダクションの作品で、宮本絡みの作品では過去一の完成度の高さだった。でもそれゆえ「エレカシの宮本」っぽさは薄かった。これはエレカシではなく宮本のソロなんだという事実を、前作に増してよりはっきりと感じさせられる作品だった。
ところが今回は違う。このアルバムにもプロデューサーとして小林さんの名前があるけれど、その数はあくまで半分。しかも小林さんの単独プロデュースは、収録曲のうちもっとも古いシングルの『close your eyes』とそのカップリングの『哀愁につつまれて』、その次の配信シングル『over the top』の三曲だけ。あとは宮本との共同プロデュースだ。
要するに、いまだアルバムとしての方向性が定まらない時期の曲は、前作同様、小林さんに頼っていたけれど、途中からは方向転換して、より自由な姿勢で創作にいどんだ結果がこのアルバムなのだろうと思う。
一曲目(アルバムのクレジットでは0曲目)の一分足らずの小曲『さあ、出かけよう!』は宮本のセルフ・プロデュースだし、その後の『かなりニュールネッサンスなnew dayよ!』や、『武蔵野』を思わせるグルーブ感をもつ『feel so fine』もそう。これらの曲の、エレカシに通じるちょっぴりラフな手作り感――風通しのよいいい加減さ――が、『Today -胸いっぱいの愛を-』みたいなウェルメイドなポップスと同居しているごった煮感が、僕にとってのこのアルバムの最大の魅力だった。
おもしろいのは、すべての楽器を宮本がひとりで演奏している『生きているから』や、一曲目と対になったラストナンバーの『愛を抱きしめろ』――タイトルのせいでまったく期待していなかったら、セカンドラインの意外といい曲だった――が、それらの曲と同じような宮本主導の音作りでありながら、小林さんとの共同プロデュースになっていること。その辺に、自由を満喫しつつも、締めるところは締めて、しっかりとしたアルバムを作りたいという宮本の意志と、意外と冷静な状況判断がうかがえる。
小林さんが絡まない残り半分の曲でも、基本的には宮本が主となり、そこに村☆ジュンや河野圭といった、過去につきあいがあった人たちの助けを借りながら、さらにはGiorgio Blaise Givvnという誰それ?って若手の協力もあおいで、バラエティに富んだ音を聞かせてくれている。
演奏面もバンドのメンバーをほぼ固定していた前作とは違う。ドラムをRADWIMPSのトリビュートで共演した石若駿(King Gnuの常田大希の同級生らしい)や大御所・カースケさんにお願いしていたり、サザンでもお馴染みの山本卓夫氏や西村浩二氏、ずとまよとも共演している吉田宇宙ストリングスなどが参加していたりする。キーボードには同級生・奥野真哉の名前もある。
結果として出てきた音は、前述した宮本主導のラフなロックンロールあり、『零地点Bomb』でのアッパーな打ち込みサウンドあり、Adoに提供した『風と私の物語』のセルフカバーのしっかりとしたストリングス・アレンジありと、これまでになく多彩だ。
印象的には『宮本、独歩』に近いけれど、あれよりも宮本浩次という人の音楽的なパーソナリティがよりはっきりと刻み込まれた作品に仕上がっていると思う。
まぁ、歌詞については、このところの常で、どうしてそう安直な英語ばっかり使うかなぁと残念に思うところはある。『I love 人生!』とか、『I AM HERO』とか、なにいってんのって思ってしまう。曲は好きなんだけれどなぁ……。
でも、考えてみればこの人は、デビューしたときから「ベイビー、ファイティングマン!」って歌ってた人なんだよねぇ。「ファイティングマン」が年を取って「ヒーロー」に成長しただけで、じつはあまり変わってなかったりするというか、意外と原点回帰の意味合いがあったりするのかなとか思ったりした。
あと『I AM HERO』ってタイトルに冠詞がついてないのが気持ち悪かったりするんだけれど、これもあえて冠詞を使わないことで、「俺はヒロ(ジ)だっ!」って、こっそり自分の名前を叫んでいたりするのかなって思ったりも……。
いずれにせよ、ソロ・アルバムとしてはとても充実した出来映えだと思う。
ただ残念なのは、宮本の軸足がすっかりソロに移ってしまったせいで、この先エレカシの新譜が聴ける日がくるのかが、すっかり不透明になってしまっていること。
宮本さん、これはこれでとてもいい作品だと思う。でもやっぱり俺は一日でもはやくエレカシの新しいアルバムが聴きたい。
(Jul. 22, 2026)

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