小石川近況
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更新履歴
2025-02-06 | 本 | 『哀しいカフェのバラード』 New! |
2025-02-04 | 音 | 『WONDER BOY'S AKUMU CLUB』 |
2025-02-01 | 映 | 『オッペンハイマー』 |
2025-01-29 | 映 | 『トイ・ストーリー4』 |
2025-01-27 | 本 | 『薬屋のひとりごと11』 |
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哀しいカフェのバラード
カーソン・マッカラーズ/村上春樹・訳/新潮社
村上春樹によるカーソン・マッカラーズの翻訳三作目。
ボリューム的には中編小説なので、通常は単体で刊行されない作品だけれど、春樹氏にとって愛着のある作品なので、今回は山本容子さんというイラストレーターの挿画をたっぷりと加えて単行本化してもらったそうだ。
とはいえ、僕にはこの作品のなにがそこまで春樹氏の琴線に触れたのかわからない。
ウィリアム・フォークナーやフラナリー・オコナーなんかもそうだけれど、アメリカ南部発の文学には、どうにもわかりにくいところがある。
明瞭な書き方を避けて、ぼやかした表現をつかう傾向が強いせいか。人間関係のなりたちが唐突で、なんでそういう展開になるのかわからないことが多い。少なくても僕にとってはそういう印象が強い。単に読書家としての力量不足のせいかもしれない。
この作品でも、なぜにアミーリアが若き日に突然結婚して、あっという間に離婚したのか、警戒心が強そうな彼女がなにゆえ突然現れた従兄弟を名乗るライモンをいともたやすく受け入れたのか、でもってそのライモンがアミーリアの元夫マーヴィン・メルシーになにゆえ執着したのかとか、さっぱりわからない。
でもって、困ったことにそのわからないところこそがこの文学作品の核心的なものだという気がする。
彼ら主要キャラ三人が営むいびつな三角関係は、おそらく彼らを取り囲む脇役の近隣住人にとっても理解不能なものだろう。僕のような凡庸な読者は、彼らと一緒になって、物語の展開をあぜんとして眺めているばかりということになる。
そんな不可思議な関係から生み出される理不尽で謎めいた愛憎劇には、ある種のホラーに近いものがあるように思う。決して超常現象が起こるわけでも、化け物が出てくるわけでもないのに、なんとなく気味の悪いところがある。このわけのわからない不気味な感触が、アメリカの南部文学のひとつの特徴なのではという気がする。
少なくても僕はそんな風に感じている。
(Feb. 06, 2025)
WONDER BOY'S AKUMU CLUB
野田洋次郎 / 2024
野田洋次郎、本人名義での初のフル・アルバム。
野田くんはこれまでにもソロ・プロジェクトのillion(イリオン)で二枚、本名でサントラ一枚と、すでに三枚のソロ・アルバムをリリースしている。
まぁ、サントラは性格が異なるので除くとして、歌もののソロアルバムとしては、illionから数えればこれが三枚目ということになる。
ただ、その創作姿勢はillionのときとは確実に違う――ように思う。
illionは海外進出を視野に入れたプロジェクトで、歌詞は英語中心だったし、メロディーもあえて日本的な音階を意識したものが多かった。
それと比べると、今回はいたってニュートラル。クレジットには武田と桑原の名前もあるし、これってRADWIMPSとなにが違うんだろうって仕上がりになっている。
このアルバムのリリース直後に桑原彰がRADWIMPSを脱退してしまい、いまやラッドのメンバーが洋次郎と武田、ふたりだけになってしまったこともあり、ますますラッドとの境界線があいまいになりつつある気がする。
まぁでも、ソロでもバンドでも、曲自体は洋次郎が書いて歌っているのだから、べつにそこにこだわって差別化を図る必要もないだろう。アーティストが変なところにこだわりをもって活動を制限してしまうのも窮屈なので。表現者はもっと自由でいい。
そういう意味では、このアルバムのラッドっぽさには、そういう過去のしがらみを振り切ったんだろうなと思わせる自由さがある。
とくに先行シングルにしてラスト・ナンバーの『LAST LOVE LETTER』は、まるで初期のRADWIMPSを思わせるナンバーだった。いかにも洋次郎らしい昔ながらのラブソングがソロで出てきたところに意外性があったし、新しくこういう新曲が聴けたのは嬉しかった。
まぁ、ラッドに似ているとは書いたけれど、ではまるで一緒かというと、やはりそんなことはなくて、バンドという化学反応を経ずに、個人の志向性だけで構築されたこのアルバムの音には、ラッドの音とは違った密室性がある。打ち込み多めな音作りは僕の嗜好からはいくぶんズレている。
昨今はRADWIMPSの音も打ち込みが多くなってきてしまっているので、このアルバムをラッドっぽく感じるのはその点も大きいと思う。
かつての純然たるギターバンドだったRADWIMPSを愛していた身としては、その変化にはいささかの淋しいものを感じてしまう。リリースから半年近くたってからこの駄文を書いているのも、その辺の音響に対する愛着の湧かなさによるところが大きい。
桑原くんが抜けた今後の活動がどうなるのかも不明瞭だし、RADWIMPSというバンドのこれからを思って、いささか微妙な気分になっている。
(Feb. 04, 2025)
オッペンハイマー
クリストファー・ノーラン監督/キリアン・マーフィー、マット・デイモン、ロバート・ダウニー・ジュニア/2023年/アメリカ
原爆の発明者ロバート・オッペンハイマーの半生を描いたことで、日本では公開が半年以上遅れた話題作。
クリストファー・ノーランほどの人気監督の作品が未公開のままで終わるわけがないのだから、いずれは公開せざるを得ないのはわかりきったことだ。話題になっているからこそ、さっさと公開してその是非を問えばいいのに。延期にするなんて馬鹿じゃないのと思った。
いざ観てみると、原爆投下によるアメリカの勝利に熱狂する人たちが描かれていたりはするけれど、キリアン・マーフィー演じる主人公のオッペンハイマーは決して肯定的な態度を取っていない。むしろ自らの発明が多くの人たちの命を奪ったことに苦悩の表情を見せている。この映画の公開を遅らせた人たちはなにを見ていたんだろう。
ただ、登場人物が多くて、それも科学者、政治家、軍人と、似たような堅苦しい肩書を持った人たちばかりなので、その辺の実話の知識が皆無なものとしては、とにかく話がわかりにくかった。
映像のシャープさやフラッシュバックを多用した演出など、表現面ではこれまでのノーラン作品と同じテイストなのだけれど、過去の作品が難解ながらもギリでエンタメ性を失っていなかったのに対して、この映画は原爆という深刻なテーマのせいもあって、エンタメとは呼びにくい仕上がりになっている。
ロバート・ダウニー・ジュニア(名演!)にせよ、マット・デイモンにせよ、年を取ったせいもあってこれまでとイメージが違うので、途中までその人と気がつかなかったりしたし、そのせいでキャスティングの豪華さもいまいちアピール度が低い。
ということで、現時点ではこれまでで、もっとも取っつきにくいノーラン作品だった。まぁ、二度、三度と観なおせば、また印象が変わるのかもしれない。
(Feb. 1, 2025)
トイ・ストーリー4
ジョシュ・クーリー監督/声優・トム・ハンクス、ティム・アレン/2019年/アメリカ
知り合いのディズニーリゾート大好き青年に「好きなディズニーキャラは?」と聞いたら、この映画のダッキー&バニーだというので、どんなキャラか知りたくて、ひさしぶりに観たピクサー映画。
前作の終わりに持ち主のアンディに別れを告げて、いまは別の子(もう名前を忘れた)のおもちゃとなっているウッディたちが、その子のうちの家族旅行で連れていかれた先で、かつての仲間だったボー・ピープらと再会、旧友を温めるまもなくドタバタ騒動に巻き込まれるというような話。酒を飲みながら観ていたせいで、なんで大騒ぎしていたのかいまいちピンとこない。
噂のダッキー&バニーは、なるほどな存在感。予告編などではゴミで作られた手作りおもちゃのフォーキーが主役級の扱いだったけれど、わが家でいちばん受けていたのはこのアヒルとウサギのぬいぐるみコンビだった。
物語はウッディとボーの再会にフォーカスした分、バズ・ライトイヤーやキャシーの存在感が薄くなってしまって、いささか微妙な感じがなきにしもあらずだけれども、まぁそれなりにはおもしろかった。
なんでも来年公開予定で続編が準備中とのことだけれども、このつづきをウッディとバズを中心にやろうとすると、かなり強引なシナリオになりそうな……。
(Jan. 29, 2025)
薬屋のひとりごと11
日向夏/ヒーロー文庫/主婦の友社/Kindle
前回で発生した
西都をあずかる玉鶯(ギョクオウ――玉葉妃の兄)が隣国の砂欧(シャオウ)に対して戦争を仕掛けようと画策するというのが今回の大事件で、彼に利用されて進退窮まった壬氏(ジンシ)がいかにしてこのピンチを乗り切るかというのがクライマックスなのだけれど、そこには思わぬ結末が待っていた。
猫猫(マオマオ)とともに表紙を飾っているのは、元変人軍師の部下だった陸孫(リクソン)。西都の領主・玉袁(ギョクエン――玉葉の父)が上京する際に、彼の代理として西都へと使わされた彼が、なにゆえ今回の表紙?――と思っていたら、実はこの人が今作の最重要キャラだった。
かつての子翠といい、今回の陸孫といい、モブだと思っていたキャラがじつは……というサプライズを仕掛けるのがこの作者の好みらしい。
なんにしろ、なぜに羅漢の部下の陸孫が玉袁の命令で西都へ使わされたのかはちょっとした疑問だったので、今回きちんとその辺の理由がわかってよかった。そうやって伏線だとも思っていなかった伏線を、数巻をまたいできっちりと回収して見せる手波はなかなか見事だ。
ちなみにこれは去年の大みそかに読んだ本。これにてようやく去年からの積み残しが片づいた。
(Jan. 27, 2025)