二人称
n-buna/講談社
書簡小説はたくさんあるのに、実際に封筒に手紙を入れた形で出版された作品がひとつもないのはどうしてだろう?――と思ったヨルシカのn-bunaくんが、ならば自分で作ってやろうと書きおろした異色作。
いざ作ってみたらあまりに製造コストがかかってしまって、なるほどこれでは誰にも作れないはずだと納得したらしいですが。本人が出版業の部外者だからこそ実現できたと語る怖いもの知らずな逸品。
ものとしてはヨルシカのデビュー・アルバム『だから僕は音楽を辞めた』の初回限定盤についてきた手紙や写真の入った紙箱、あれをもっと本格的に展開して、音楽とは切り離した単品の作品に昇格させたよう作品だと思う。
アルバム『二人称』の新曲の歌詞がすべて収録されているので、異色の歌詞カード的な楽しみ方もできる。ときにはワンフレーズに五線譜がつけてあったり、書き直したり反故にした部分もあって、n-bunaの創作の過程を垣間見られる点も興味深かった。
物語は「無料で文章の添削をします」という広告をみた引き籠りの少年が、自作の詩を送って批評を依頼したところから始まる「先生」との往復書簡を、実際の封筒に入れて形にしたもの。
やりとりは全部で三十二通。それが原稿用紙とその返信の便箋や同封された写真(実物ではなくそれ風のカード)と一緒に個々の封筒に入っている。
手紙といっても少年が使っているのは原稿用紙だから、ふつうの手紙とはいえない。
原稿用紙は一枚ずつ六折りにして重ねて封入されている。製本(?)の都合でこういう形になっているんだろうけれど、ふつうに考えると、封筒に入れる際には、原稿用紙なり便箋なりを束ねて折るものだから、モノとしての体裁は決してリアルに現実を再現できているわけではない。
なので実際に読むとなると、封筒から出した手紙を一枚ずつ開いて読んでたたんで戻して、開いて読んでたたんで戻して、という形になる。
そんな風に読むのは不自然な上にリズムが悪い気がしたので、僕は三通目くらいからは封筒から出したあと最初に全部開いて束ねてから読むようにした。そのほうが手紙を読んでるっぽくなるので。
そもそも封筒に宛名とか書いてなくて、連番と日付が振ってあるだけってのも不自然じゃん?――という疑問にはちゃんと最後に答えが用意されている。その辺はさすがn-bunaくん。用意周到というか、仕掛けは上々、仕上げをご覧じろって感じ。
いざ読んでみると、この形にしたからこそ味わえるサプライズがいくつも仕掛けてあるのがすごい。最初は往復書簡になっているのに、途中から返信がないものがつづいたので、どうしたのかと思ったら、そのあとにどっきり的な返信があったりする。全体としては純文学的なのに、その部分にはある種のサスペンスみたいな味わいがあった。
手紙はすべて手書で、おそらくn-buna本人が書いているんだろう。往復書簡だから二人分を、筆跡を変えて、文字を色違いにする工夫も凝らしてある。
書簡小説を実際に手に取れるリアルな形で提供するというコンセプトをこういう形で実現して見せた着想と行動力には脱帽するしかない。
そもそも僕は「書簡小説なのになんで実際の手紙の形にしないんだろう?」なんてこれぽっちも疑問に思ったことがなかったし、原稿用紙にはひとマスに一文字を書くのが当然だと思って疑ったことがなかった。
ところが、n-bunaは「原稿用紙が高いので枚数を節約したいから」といって、四百字詰めの原稿用紙にマス目を無視して自由に文章を書く。そういう常識に縛られない姿勢があってこそ、こういう作品が生まれてくるわけだ。
節約したいならわざわざ原稿用紙なんて使わなきゃいいじゃん――という話は野暮だからなし。あえて原稿用紙を使うことに、ものを書く人間としての矜持や美学があるはずだから。
この物語のなかで引用癖のある主人公の文学少年は、謎の年配者との書面での交流をへて、徐々に詩人として成長してゆく。
引用というのは、対象となる作品の内容をみずからのうちに取り込んで、自分のものとしているからこそできる行為だろう。この作品に限らず、ヨルシカの音楽にも、彼が影響を受けてきた数多の作品の影響がみてとれる。
それをきちんと昇華して、こういう作品の形にまとめあげてみせる才覚と労力には感心するしかない。読んだ本の内容をかたっぱしから忘れてゆく僕のような男にはとうてい真似ができない(これを読んで僕は自分の人生の最大の問題はこの記憶力のなさと学習能力の低さだなといまさらながら思った)。
いやしかし、封書が三十通以上たばねられているので外箱がでかい(LPサイズ)。わが家は収納スペースに難ありなので、読む前には、いずれふつうの本としても再販されるかもしれないから、それを待とうかなとか思っていたんだけれど、活字にしたら作品の本質が失われてしまうから、n-bunaが出版を認めないかなと今は思う。
いずれにせよ、本として読んだとしたら伝わらないニュアンスこそが肝って作品なので、興味があったらぜひ一度手にとってみて欲しいと思います。ちょっと高いけれど、一読の価値はある。
(Apr. 4, 2026)


![BULLY [Explicit]](https://m.media-amazon.com/images/I/61j9JxhxQzL._SL75_.jpg)

![Honora [Explicit]](https://m.media-amazon.com/images/I/41bwoMflHIL._SL75_.jpg)
![Ricochet [Explicit]](https://m.media-amazon.com/images/I/61P0omO--HL._SL75_.jpg)
![LIVE IN LONDON! (BBC Proms at the Royal Albert Hall) [Explicit]](https://m.media-amazon.com/images/I/515B0VE2FDL._SL75_.jpg)















