名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN
ジェームズ・マンゴールド監督/ティモシー・シャラメ、エドワード・ノートン、エル・ファニング/2024年/アメリカ/Apple TV
ボブ・ディランがフォーク界の新星としてデビューしてからロックへ転身するまでを描いた伝記映画。
この映画については、とにかく俳優たちがすげー。
ティモシー・シャラメはとてもボブ・ディランに似ていて、完璧なはまり役だとは思っていたけれど、歌やギターも見事すぎる。
彼だけではなく、ピート・シーガー役のエドワード・ノートン、ジョーン・バエス役のモニカ・バルバロ、ジョニー・キャッシュ役のボイド・ホルブルックらの俳優陣が、この人たちってまじでミュージシャンじゃないの?――ってくらいの歌と演奏を見せてくれている。エドワード・ノートンなんて、まじで上手すぎて、似ているなあとは思ったけれど、まさかその人とは思わなかった。
物語はウディ・ガスリーに憧れた若き日のディランが、入院した憧れのヒーローを見舞うためニューヨークへ出てきて、ピート・シーガーに見初められ、時代の寵児として世にはばたく様をビビッドに描いてゆく。『風に吹かれて』ほかの名曲の誕生秘話的な展開はとても魅力的だ。
後半になると有名になりすぎたディランはすっかり無表情で不機嫌になり、孤立していゆく。でもって、ついにはフォーク界の裏切り者として罵声を浴びることになる。
その後の音の求道者的なディランを知っているものとしては、当時のフォーク・カルチャーの狭量さに辟易としてしまう展開ではあるんだけれど、でもまぁ、時代が時代だからなぁ……。
この映画はそんな風に、当代きってのミュージシャンの若き日を描きつつ、その時代の社会的な空気もしっかりと捉えているところが素晴らしい。彼が恋人のシルヴィ――エル・ファニングが演じるこの人だけは一般人だからか、架空のキャラとなっている――との別れのシーンの切なさには上質の恋愛映画的な趣もある。
後半は息苦しい展開がつづくけれど、それも当時のディランの苦悩をきちんと映像化したがゆえ。数ある音楽系の伝記映画のうちでも、一、二を争う出来ではと思った。
(Aug. 15, 2026)




