Coishikawa Scraps / Movies

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最近の五本

  1. フォールガイ
  2. アメリカン・ユートピア
  3. ストップ・メイキング・センス
  4. 侍タイムスリッパ―
  5. ザ・ビーチ
    and more...

フォールガイ

デヴィッド・リーチ
監督/ライアン・ゴズリング、エミリー・ブラント/2024年/アメリカ/Amazon Prime

フォールガイ

 撮影中の事故が原因で引退したスタントマンが、元恋人の映画監督を助けるために現場に復帰したことから巻き起こるどたばた騒動を描くアクション・コメディ。

 主演がライアン・ゴズリングで、ヒロインがエミリー・ブラント、主人公が「スタントダブル」――この映画の主人公のように、特定の俳優のスタントを専属で担当するスタントマンのことをそう呼ぶのだそうだ――を務める俳優役がアーロン・テイラー=ジョンソン。最後に出てくる映画の完成版の主人公役は『アクアマン』の主演の人らしい。

 監督のデヴィッド・リーチという人自身が、かつてはブラッド・ピットのスタントダブルを務めていたそうで、監督がスタントマン出身というだけあって、全編派手なスタントシーンのオンパレード。主要な舞台は映画のロケ現場だし、映画オタクなスタッフは次々と映画のトリビアを繰り出してくるし、映画に対する愛情があちらこちらに感じられるところに好感が持てた。

 ある意味『映画に愛をこめて アメリカの夜』のアクション映画版といった感じの作品?――というのは、いささか褒めすぎかも。

 ちなみに使われている音楽がやたらと八十年代風だと思ったら、この作品はその頃に人気を博した『俺たち賞金稼ぎ!! フォール・ガイ』というドラマのリメイクなのだそうだ。なるほど、だから当時を意識した音楽が使われていたり、エンド・クレジットに謎の老人たちがカメオ出演していたりするのかと納得した。

 まぁ、リメイクとはいっても、この映画からはドラマの邦題にある「賞金稼ぎ」の要素が抜け落ちているし、ドラマでは恋人のジョディもスタントウーマンらしいので、踏襲したのはコルト・コルト・シーバースというスタントマンが主人公だという部分だけで、物語としては完全に映画オリジナルなんだろう。

 とにかく、豪快に人々がぶっ飛び、いろんなものが壊れまくる割には、死人がほとんど出ない良心的な作品なので、物語なんてどうでもいいから、ただただ派手なアクションシーンが見たいという人にはお薦め。

(Jun. 13, 2025)

アメリカン・ユートピア

スパイク・リー監督/デヴィッド・バーン/2020年/アメリカ/Apple TV

アメリカン・ユートピア (字幕版)

 つづけてもう一本、デヴィッド・バーンのライブ・フィルムを。こちらは2022年のグラミー賞にもノミネートされた作品。監督はスパイク・リーだっ!

 つづけて観たこともあって、この映画に関しては『ストップ・メイキング・センス』の存在抜きには語れない。これはあの映画の方法論をそのまま発展させて、二十一世紀版にアップデートした作品なのではと思う。

 まずはビーズのすだれ状のカーテンみたいなものに囲まれた、がらんとしたステージにデヴィッド・バーンがひとりだけ登場、事務デスクに置かれた脳みその模型を手にとって歌い始めるオープニングから、その後に二人、さらには三人と、徐々にメンバーが増えてゆくという展開が、まんまあの映画とかぶる。

 気がつけばグレーのスーツ(ポスターが青いのでブルーかと思っていたけれど、照明のせいで青く見えているだけで、実際にはグレーっぽかった)もあの頃のままだ。まぁ、真っ黒だったデヴィッド・バーンの髪はすっかり白くなっているけれど。

 とにかく、ステージのシンプルさや、ソロ・アクトからスタートしてバンド編成が徐々にリッチになってゆくという展開は『ストップ・メイキング・センス』と同じ。ただし、その見せ方はまるで違う。そもそも今回はバンド編成が普通じゃない。

 メンバーは全員ヘッドセットマイクをつけて、自由自在にステージを動き回る。舞台装置はいっさい使わず、固定したドラムセットもなしで、そのため鼓笛隊のようなスタイルの打楽器メンバーが六名もいる。そのほか、ギター、ベース、キーボード、コーラス×2、そしてデヴィッド・バーンの十二名。全員彼と同じスーツ姿で、でもってなぜかみんな裸足(ヌードカラーのソックスを履いている人もいたけれど、基本裸足)。

 あと、今回のステージはMCが多い。『ストップ・メイキング・センス』は全編ほぼ音楽だけだったのに対して――実際にMCがなかったのか省略されているのかは知らない――今作ではオープニングの脳みその説明を筆頭に、要所々々にMCが入る。それもけっこうメッセージ性が高めのやつ。そもそも『アメリカン・ユートピア』というタイトル自体がある種のアイロニーになっている。

 途中で大統領選の投票率の低さ(アメリカでも50%台なのか!)を嘆いて「選挙に行こう!」という発言もしているし、もとより選挙キャンペーン的な性格を持った企画なのかもしれない(「ロックに政治を持ち込むな」みたいなことをいう人にはお薦めしない)。会場はブロードウェイの劇場だから、最初から通常のコンサートとは違う、ある種のミュージカルとして企画されたものなのかも。

 演奏されているのは、同名アルバムの収録曲を中心にしたデヴィッド・バーンのソロナンバーにトーキング・ヘッズのヒット曲を加えたもの。当然トーキング・ヘッズの曲のほうがオーディエンスの反応がいい。

 ただ、コンサートの内容がメッセージ的なこともあり、もっとも強烈な印象を残したのは、アンコール(だったらしい)で披露されたジャネール・モネイの『Hell You Talmbout』のカバーだった。人種差別の犠牲になって命を落とした黒人たちの名前を連呼するこの曲のインパクトがはんぱない。

 監督がスパイク・リーだけあって、映像はスタイリッシュで申し分ないし、作品としては『ストップ・メイキング・センス』のほうが評価が高いのかもしれないけれども、僕はこちらのほうが好きだった。

(Jun. 09, 2025)

ストップ・メイキング・センス

ジョナサン・デミ監督/トーキング・ヘッズ/1984年/アメリカ/Amazon Prime

ストップ・メイキング・センス デジタルリマスター(字幕版)

 気になっていたのに観たことがなかった映画を観ようシリーズその三。八十年代に絶賛されたトーキング・ヘッズのコンサート・フィルム。ジャケットに使われているデヴィッド・バーンの四角いどでかスーツがインパクト大で、ずっと観なきゃと思っていた作品。

 トーキング・ヘッズは八十年代の音楽シーンで一世を風靡したバンドなので、ロック・ファンの基礎教養としてアルバムはひととおり聴いているのだけれど、ファンというほどのめり込んだことがない。この作品もCDは持っていて、音源はとりあえず聴いているものの、いまいちピンとこなくて、一、二度聴いておしまいくらいの状態だった。

 今回あらためてそのライブを映像つきで観てみて、あ、これってこういうライブだったのかと、初めてその時代を先取りしたオリジナリティを再認識した。

 なにもない映画スタジオの倉庫みたいなステージに、まずはデヴィッド・バーンがひとりで登場。ラジカセでリズムトラックを流しながら、アコギの弾き語りでファースト・アルバムの代表曲『Psycho Killer』を聴かせる。四十年前だから機材こそ古いけれど、やっていることがまるでヒップホップ。

 二曲目でギターとベースのメンバーが登場、三曲目でドラムセットが運び込まれ、ようやくフォーピース・バンドとしての本来の形になる。

 その次の曲からは、女性コーラスやパーカッション、キーボード等、サポート・ミュージシャンが順次増えていって、がらんとしていたステージには彼らが演奏するためのひな壇も運び込まれ、ライブセットらしい体裁が整ってゆく。でもって六曲目で『Burning Down The House』――当時の最新アルバム『Speaking in Tongues』からのリード・シングル――が演奏される頃にはフルメンバーになっているという趣向。

 それ以降も曲によって微妙にバンドの構成を変えながらコンサートは進んでゆく。

 後半にはメンバーのサブ・プロジェクト、トム・トム・クラブの曲も演奏される。

 いまと違ってコンサートでは演出らしい演出がなかった時代に、そうやってバンド編成やステージ構成などを様々に変えながら、バンドの音楽性の変遷を再現して見せたところが画期的だったんだろうなと思った。

 まぁ、四十年も前の作品なので映像は地味めで、最近のハイビジョンのライブ・フィルムと比べると視覚的な刺激は少なかったけれど、内容自体はおもしろかった。

 観ていてなにより印象的だったのは、デヴィッド・バーンのミュージシャンとしての素養の高さ。ボーカリストとして美声を聴かせるタイプではないけれど、その歌はとても通りがよくて説得力があるし、思いのほかギターも上手い(ギターを弾くイメージがなかった)。ほかの三人が目立たないこともあり、彼ひとりの存在感が際立っている。いまさらながら、トーキング・ヘッズって本当にデヴィッド・バーンのワンマン・バンドだったんだなって思ってしまった。

 でも彼を除いたメンバーがトム・トム・クラブでヒットを放っていたりするので、じつはそんなことはないのか。うーん、よくわからない。

 予想外だったのは、僕がずっと気にしていたオーバーサイズなデヴィッド・バーンのだぼだぼスーツ、あれが登場するのがライブの終盤なこと。ずっとあの衣装で通しているのかと思っていたら、それまでの大半はトレードマーク的な普通のスーツ姿だった。

 あと、この映画の監督ってジョナサン・デミなんすね。知らなかった。そうか、『羊たちの沈黙』よりも先にこれがあったんだ。

(Jun. 07, 2025)

侍タイムスリッパー

安田淳一・監督/山口馬木也/2024年/日本/Amazon Prime

侍タイムスリッパー

 まったく興味はなかったのだけれど、インディーズ映画が『正体』『ラストマイル』『夜明けのすべて』といった作品を退けて日本アカデミー賞の最優秀作品賞を受賞したというので、どんなにおもしろいのか気になって観てみた。

 幕末期の会津藩士が雷に打たれたショックで現代にタイムスリップ。たまたま辿り着いたのが京都太秦の撮影所だったことから、時代劇の切られ役としての仕事を得て、次第に現代の暮らしになじんでゆくというコメディ映画。

 雷に打たれたらタイムトリップしちゃいましたという始まりから、その後に切られ役になる過程にしても、もう安直で月並みな設定と展開ばかり。自主制作映画だけあって、俳優も知らない人しかいないし、演技も平均的だし、これがどうしてこの年の日本で一番いい映画なんだか、観ていてさっぱりわからない。

 いやしかし、最優秀作品賞を取るくらいなので、クライマックスまで見れば、きっとなにか特別なところがあるんだろうと思ったら――。

 なるほど。クライマックスのチャンバラシーン。この臨場感がはんぱなかった。

 まさに息をのむ迫力とはこのことかと思った。

 このシーンの迫真のリアリティを生み出しているのが、なんだこりゃって思った安直なタイムスリップの設定だというのがすごい。普通の時代劇では生み出しえない。この展開であるからこそのリアリティ。

 いやはや、お見事でした。

 正直いって、すごいと思ったのはその数分間だけだったし、個人的には『正体』や『ラストマイル』のほうが好きだけれど、この映画(のその部分)が傑作だいう思いは否定しようがない。おみそれしました。

(May. 31, 2025)

ザ・ビーチ

ダニー・ボイル監督/レオナルド・ディカプリオ、ティルダ・スウィントン/2000年/イギリス、アメリカ/Amazon Prime

ザ・ビーチ (字幕版)

 監督がダニー・ボイルということもあって、若いころにアレックス・ガーランドの原作を読んで以来、ずっと気にかかっていた作品。アマプラの近日配信終了コーナーにあったので、観られるうちに観ておくことにした。

 舞台はバンコク。一人旅でタイを訪れたディカプリオ演じる主人公は、ユース・ホステルでとなりの部屋に泊まっていた男から、無人島にある伝説のビーチの地図を受け取り、知りあったばかりのフランス人カップルを誘ってその島を目指す。辿り着いたのは若者たちが自由に暮らす地上の楽園。その島での生活に魅了され、岡惚れしていたフランス人の彼女の心も射止めて、幸せいっぱいの彼だったけれど、やがてその秘密の花園にも暗い影が差し始める……。

 ディカプリオが若いっ。さすが当時二十代なかば。この映画では彼が女性にモテるせいで話がこじれるわけだけれど、なるほどこれならモテて当然だろうなぁと思った。

 そのほかで有名なキャストはティルダ・スウィントンくらい。彼女は当時もう四十歳近いということもあって、いまとそれほど印象が変わっていない。

 映画としては、バンコクの猥雑でエキセントリックな風景に、絶壁に囲まれたコバルトブルーのビーチなど、コントラストが鮮明で色鮮やな映像が刺激的だし、イギリス人監督の作品だけあって、使われている音楽もその時代のUKロックの最先端って感じで、スタイリッシュでカッコいい。

 ただ残念ながら物語としてはいまいち。異文化に憧れたモラトリアム青年の夢の終わりか、はたまた、世間から隔離された特殊な環境で育まれる狂気の果て、みたいなものを描きたかったのかもしれないけれども、どうにもリアリティを欠いている。ビーチの存在を世間に知られたくないからと、仲間を見殺しにする展開は説得力がないし、そもそも麻薬密売組織が大麻を栽培している島で、のほほんと暮らしているという設定自体にどだい無理がある。

 まあ、アジア旅行が大好きで、青い海にかこまれた南の島での自由な暮らしに憧れる人たちならば楽しめるのかもしれないけれど、水洗トイレがない土地では暮らせないよね、なんていう僕のような完全インドア派の引きこもり男には抜本的に向かない話だった気がする。

(May. 30, 2025)