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最近の五本

  1. バービー
  2. 哀れなるものたち
  3. アステロイド・シティ
  4. フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊
  5. スウィート17モンスター
    and more...

バービー

グレタ・ガーウィグ監督/マーゴット・ロビー、ライアン・ゴズリング/2023年/アメリカ/Netflix

バービー

 バービー人形の世界を実写で再現!――とかいわれても、正直まったく食指が動かなかったのだけれど、監督が『レディバード』『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』のグレタ・ガーウィグだというし、いまが旬の女性アーティストがこぞってサントラに参加しているようなので、やっぱ一度くらい観ておいたほうがいいだろうって思ったのですが……。
 やっぱこれはどうなん?――という出来の映画だった。
 オープニングで、女の子のおもちゃが赤ちゃん人形しかなかった時代にバービーが登場して与えた衝撃を『2001年宇宙の旅』のモノリスに例えた演出、それ自体はおもしろいと思ったんだけれど、そのあとがいけない。
 どれだけバービーがエポック・メイキングだったとしても、だからってそれまで大事にしていた赤ちゃん人形を地面にたたきつけて壊し始める子供たちってなに?
 つい最近アップルが新型iPadのCMで、楽器を含む様々なガジェットをプレス機で押しつぶす映像を公開して不評を買っていたけれど、この映画の冒頭部分に僕は同じ違和感を感じた。なぜ壊しちゃうかな? なんなの、その破壊衝動は。
 そのあと本編に入り、バービーランドで楽しく暮らしていたマーゴット・ロビー演じるバービーさんは、ハイヒール用にかかとが地面につかないデザインになっていた自分の足が、ある日突然ぺたっと地面につく扁平な形に変わっていることに愕然として、それを直してもらおうと、人間の世界へと向かうことになる。
 まぁ、最終的にはその部分の伏線を回収して、ハイヒールでなくフラットな靴を履いたっていいのよってポジティヴな感じで映画は終わるんだけれども。
 そんなの最初から当然すぎて、なにをいわんやじゃん?
 なんでフラットじゃダメなのさ。
 おそらく女性はハイヒールを履くべし、みたいな固定観念を揶揄した展開なんだろうけど、一度もハイヒールを履いたことがない妻を持つ身としては、そんなことで大騒ぎになるシナリオにはまったく共感ができない。
 さまざまなタイプのバービーがいることから、キャスティングを見ると、多くの女優さんの役名が「バービー」となっていて(男性はほとんどが「ケン」)、誰が誰やらって感じなのはおもしろかったけれど、でもおもしろかったのはそれだけって気がする。なんだか学芸会レベルの芸を見せられているような気分になる困った映画だった。
 たくさんの女性アーティストのポップソングが使われているにもかからわず、いちばんよかったのは、この映画のイメージからもっともかけ離れたビリー・アイリッシュのしっとりとしたバラードだというのが、この映画のバランスの悪さを象徴している気がする。おバカな映画を作るならばバカに徹してほしい。
(Jul. 8, 2024)

哀れなるものたち

ヨルゴス・ランティモス監督/エマ・ストーン、マーク・ラファロ、ウィレム・デフォー/2023年/アメリカ/Disney+

哀れなるものたち

 原作を読んだときにもそのセクシャルな内容に意表を突かれたものだけれど、この映画版は比較にならなかった。
 いやはや、まさかここまでファッキンな映画に仕上がっているとは……。
 原作はたしかに性的な内容をたっぷり含んでいるとはいえ、主人公の婚約者マッキャンドルス(この映画ではラミー・ユセフという俳優さんが演じている)の手記というスタイルをとっているため、基本的に性描写は皆無だった。
 それに対して、こちらではその設定が取っ払われている分、自由奔放。エマ・ストーン演じる主人公ベラの性欲まかせな行動がそのまま映像化されている。
 成熟した大人の女性の身体を与えられた幼子として登場するベラは、自らが受ける性的快感になんの恥じらいも罪悪感も抱かず、意気揚々と性的冒険へと驀進してゆく。
 同じくヨルゴス・ランティモス監督とエマ・ストーンがタッグを組んだ『女王陛下のお気に入り』でも、エマ・ストーンが女王様とのベッドシーンでヌードを披露しているのに驚いたけれど、今回はその比じゃない。
 白黒で描かれる序盤はともかく、彼女がマーク・ラファロと駆け落ちをして、映像がカラーになった途端、いきなり大胆なセックス・シーンが目白押し。まさかエマ・ストーンがここまで体当たりで濡れ場を演じるとは思ってもみなかった。
 最近はポリコレありきの風潮のせいか、映画で女性のヌードを観ることがめっきり減ったと思っていたので、この映画のあまりの露出度の高さにはびっくり仰天だった。
 まぁ、ヒロインのエキセントリックなキャラクターゆえ、数多のベッドシーンもそれほどエロティックな印象ではないけれど、でもそんな風に思うのも、そろそろ還暦も近くなって、いい加減そちら方面が枯れ気味な昨今だからで、この映画を十代に観たらどうなっていたやら……。
 あと、この映画はエロいだけではなくグロい。原作はそれほどエロくもグロくもなかったのに、この映画は見事にエログロだった(手術のシーンがグロい)。
 原作との違いはそうした煽情的な部分のみならず。この映画は小説の本編のみを映像化していて、そのあとにある作品の要というべき部分を割愛してしまっているため、物語はほぼ同じであるのもかかわらず、ある意味まったくあと味の違う作品に仕上がっている。どちらがいいかは意見の分かれるところだろう。
 ブラック・ユーモア溢れる映画オリジナルのラストシーンとか、屋敷に住まうキッチュなキメラたち、凝った衣装と色鮮やかな映像など、映像作品ならではの見どころも多い秀作だけれど、カラフルでユーモラスな装い反して、かなり過激にエログロなので、これを子供と一緒に観るのはちょっと無理かも……と思う。
(Jul. 3, 2024)

アステロイド・シティ

ウェス・アンダーソン監督/ジェイソン・シュワルツマン、スカーレット・ヨハンソン、トム・ハンクス/2023年/アメリカ/Amazon Prime

アステロイド・シティ (字幕版)

 もう一本つづけてウェス・アンダーソン作品。
 こちらは去年公開された最新作で、天才科学少年たちを表彰する式典のため、砂漠の真ん中にある小さな町に集まった保護者ら一行がUFO騒ぎに巻き込まれて立ち往生するという群像劇。
 ウェス・アンダーソンらしいのは、そのメインストーリーは舞台劇だといって、映画全体が「その創作の裏舞台を見せます」という趣向の白黒テレビ番組仕立てになっている点。
 なので番組の司会者が出てくる解説部分に、脚本家へのインタビュー等からなるパート、そして本編という三重構成になっていて、それらが物語の進行にしたがって、入れ替わり立ちかわりで描かれていく。
 作品の構造は映像表現でもわかる仕組みになっていて、テレビ番組部分は4:3の画角のモノクロ映像、物語部分はワイドスクリーンのフルカラー。しかもその部分は舞台であることを意識しているらしく、アングルがすべて横方向からのみに限定されているという凝りよう。画一的なカメラ・アングルで描かれる人口的で色鮮やかな映像は、まごうことなくウェス・アンダーソン印だった。
 いつものことながら、出演者もジェイソン・シュワルツマン、スカーレット・ヨハンソン、トム・ハンクス、ジェフリー・ライト、ティルダ・スウィントン、エドワード・ノートン、エイドリアン・ブロディ、リーヴ・シュレイバー、マヤ・ホーク、スティーヴ・カレル、マット・ディロン、ウィレム・デフォー、マーゴット・ロビー、ジェフ・ゴールドブラム、他と、異常な豪華さだ。でもそのうちの半分以上はどこに出ていたのかわからないという……。
 このどこに誰が出ているのかさえよくわからない過剰なキャスティングの豪華さがアンダーソン作品のわかりにくさの一因になっている気がする。
 まぁ、なんにしろ、いつもの常連さんにまじって、スカーレット・ヨハンソンとトム・ハンクスという超大物が出演しているのが本作の目玉でしょう。トム・ハンクスと役どころが被るからか、ビル・マーレイが出ていないのがちょっと意外だった。
 個人的にはマヤ・ホークが出ていて嬉しかった。最近は彼女のサード・アルバムを愛聴中です。
(Jun. 21, 2024)

フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊

ウェス・アンダーソン監督/ベニチオ・デル・トロ、エイドリアン・ブロディ/2021年/アメリカ/Disney+

フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊 ブルーレイ+DVDセット [Blu-ray]

 ウェス・アンダーソンの最新作ということで、二年前に観たこの映画。
 じつはそのときには途中でうつらうつらしてしまい、結局どういう話なのか十分に理解できず、感想が書けなかった。
 二年ぶりに改めて観てみて(そんなにたつ実感がない)、今回は寝ないで最後まで観たにもかかわらず、やはりどういう話なんだか、いまいちよくわからない。
 ベースとなるのは『フレンチ・ディスパッチ』というフランスの雑誌を、ビル・マーレイ演じるカンザス出身のアメリカ人が買い取って、名物編集者として長年発行しつづけたという設定で、その人が「自分が死んだら廃刊にしてくれ」という遺言を残して亡くなったため、遺言に従い雑誌は廃刊。その最終号の内容を映像化してみせたのがこの作品ということになっている。
 ということで、内容は雑誌の記事に見立てた短編映画のオムニバス形式。
 オーウェン・ウィルソンがパリの街並みを自転車で旅する短めのエピソードで始まり、そのあとの長めの短編が三本がつづく。
 一つ目はベニチオ・デル・トロ、レオ・セドゥ、エイドリアン・ブロディ、ティルダ・スウィントンが出ている、囚人が描いた抽象画をめぐって美術商らが繰り広げるとたばたを描いた短編。
 二つ目はフランシス・マクドーマンドとティモシー・シャラメが主役の学生運動の話。ゴダール映画に出てきそうなショートカットのフランス人が可愛い。
 三つ目はジェフリー・ライト、エドワード・ノートン、マチュー・アマルリック(『007 慰めの報酬』や『グランド・ブダペスト・ホテル』にも出ているフランスの人気俳優らしい)らによる、美食家の警察官の息子が誘拐される話。
 でもって、最後は編集者一同が編集長を追悼して幕となる。
 なかでもいちばん印象的だったのは囚人の話。『007 スペクター』のボンドガール、レオ・セドゥ(まぁ、いわれてもわからない)が囚人のヌードモデルをつとめる女性看守の役を演じていて、ヌードのときにはすごくきれいで色っぽいのに、髪をひっつめて帽子で隠した看守の制服姿だとまったく色気がないのがすごい。まるで同一人物に見えない。女性が化粧と服装で化けるというのは本当だなぁと思った。
 正直なところ、あとの話はいまいちどういう話なのかわからなかった。あぁ、それだから前回は寝てしまったんだなぁと思った。
 そのほか、キャスティングはあいかわらずの豪華さで、前述した人たちのほかにも、リーヴ・シュレイバー、ジェイソン・シュワルツマン、ウィレム・デフォー、クリストフ・ヴァルツ、シアーシャ・ローナンら、主演級の俳優たちの名前がずらりと並んでいる。とはいえ、この人たちがどこに出ていたのやら、さっぱりわらかない。
 ということで、二度観てなお物語のディテールはいまいちよくわからなかったけれど、とりあえず全編にわたってウェス・アンダーソンならではの映像美がたっぷりと味わえる。それだけは確か。
 ウェス・アンダーソン独自の美学により描かれる様々なフランスの風景こそがこの映画のなによりの見どころではと思います。あぁ、身も蓋もない。
(Jun. 19, 2024)

スウィート17モンスター

ケリー・フレモン・クレイグ監督/ヘイリー・スタインフェルド、ウディ・ハレルソン/2016年/アメリカ/Apple TV

スウィート17モンスター (字幕版)

 『トゥルー・グリッド』や『ホークアイ』で魅力的な演技を見せたヘイリー・スタインフェルドが主演だということで観た青春コメディ。
 もてない思春期の女の子を主役にした映画というと、『ゴーストワールド』とか『ブックスマート』とかを思い出すけれど、この作品はその二作品と比べると残念ながら出来がいまいち。
 冒頭でいきなりヘイリー・スタインフェルド演じる主人公が、担任の教師(ウディ・ハレルソン)に詰めよって、「これから私は自殺するから」とのたまうところからこの映画は始まる。で、時間軸を戻して、どうして彼女が自殺するほど思いつめることになるかまでを描いてゆくのだけれども。
 この主人公がどうにも共感を呼ばない。
 子供のころから人とはズレていて、ルックスもいまいち。イケメンの兄ばかりが可愛がられる家庭で孤独感を育み、唯一の親友が大嫌いなその兄とつきあい始めたことに憤慨して、彼女とも絶交するという展開で、彼女はどんどん孤独になってゆく。
 でもさ。観ていて兄貴がとくに悪い奴だとも思えないし、親友との喧嘩も一方的で、たんに主人公が心が狭くて残念な子にしか思えない。彼女に思いを寄せる隣の席のアジア系男子とのかかわりあいも中途半端だ。
 とにかく、あふれる性欲をもてあまし気味でどうしていいかわからない十代の女の子の暴走を、まるで作り手もどう描いたらいいかわからないまま映像化して、最後に適当なハッピーエンドをつけました、みたいな作品。つまらないとまではいわないけれど、いまいち残念な出来栄えだった。
 それにしてもこの映画に『スウィート17モンスター』なんてタイトルをつける日本の配給会社のセンスはあいかわらずだ。この映画のどこにスウィートな要素があるんだって問いたい(まぁ、確かにエンディングは甘々だけど)。
 原題は "The Edge of Seventeen』。その名の通り、もっとエッジの効いた邦題をつけて欲しかった。
(Jun. 09, 2024)