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最近の五本

  1. ものすごくうるさくて、ありえないほど近い
  2. アンブレラ・アカデミー シーズン4
  3. 自由研究には向かない殺人
  4. マクベス
  5. ジャズ・フェス:ニューオーリンズ・ストーリー
    and more...

ものすごくうるさくて、ありえないほど近い

スティーブン・ダルドリー監督/トム・ハンクス、サンドラ・ブロック、トーマス・ホーン/2021年/アメリカ/WOWOW録画

ものすごくうるさくて、ありえないほど近い (字幕版)

 同時多発テロで大好きな父親を失い、トラウマをかかえた少年の心の回復を描くヒューマンドラマ。
 以前に読んだ原作の小説がよかったので、ずっと観たいと思っていた作品だった。
 原作とのいちばんの違いは、少年の祖父母に関する過去のエピソードをまるまる端折ってあること。まぁ、その部分は戦争絡みでもあるし、そこまで描くと三時間超えの超大作になってしまいそうなので、この改変は映画化にあたっての必然だったんだろう。
 実際にその部分をはしょって少年の行動だけにフォーカスしたことで、この映画はとても心温まる感動作に仕上がっている。
 まぁ、子役のトーマス・ホーン少年のイメージが僕が抱いていたものとは違ったり、音楽がハリー・ポッター的な仰々しさだったりしたのには若干違和感を覚えたけれど、あとはとくに文句なしの感動作だった。
 いまは亡き父親役がトム・ハンクスで、母親がサンドラ・ブロック。マンションの受付がジョン・グッドマンだったり、少年が父親の部屋でみつけた謎の鍵の秘密を解き明かすべく訪ねてゆく数多のマンハッタンの住人たちの中に、ヴィオラ・デイヴィスやジェフリー・ライトがいたりするキャスティングもいい。
 名作と呼べるほどの出来映えではないけれど、『小説家を見つけたら』や『シェフ』などと同じように、いずれまた観たくなること確実な良作。
(Sep. 07, 2024)

アンブレラ・アカデミー シーズン4

スティーヴ・ブラックマン制作/エリオット・ペイジ/2024年/アメリカ/Netflix(全6話)

 『アンブレラ・アカデミー』の最終シーズン。有終の美を期待していたのだけれども、残念ながら出来映えはいまいちだった。
 おそらくナンバー・ファイヴ役のエイドリアン・ギャラガーくんがすっかり成長してしまったため、今回は前作から六年後という設定になっている。
 前作の最期で超能力を失った一同は、現在はそれぞれ普通に――ではないかもしれないけれど、とりあえず一般人として――生活している。
 ルーサー(トム・ホッパー)は男性ストリッパー、ディエゴ(デイビッド・カスタニェーダ)はライラ(リトゥ・アルヤ)と家庭をもち、アリソン( エミー・レイヴァー・ランプマン)は芸能界に復帰(でも売れてない)、クラウス(ロバート・シーハン)はアリソン家の居候、ナンバー・ファイヴはCIA捜査官として活躍中、ベン(ジャスティン・H・ミン)は詐欺で刑務所に入れられ、でもってヴィクター(エリオット・スミス)は兄弟から離れてカナダでバーを経営しているといった具合。
 そんな兄弟たちが、ディエゴの娘たちのバースデイ・パーティーとベンの出所をきっかけに再会して、あれこれあったあとで、昔の力を取り戻す。
 ――のだけれど。それは第二話に入ってから。
 つまり第一話の時点ではこのシリーズをヒーローものたらしめている主役らの力は封印されたままなわけで。全六話と全体がこれまでよりも短いのに、そのうちの一話をそこまで引っ張らなくたっていいじゃんって思ってしまう。
 残りの五話で描かれるのは、ジーン&ジーンという中年カップルに率いられたカルト教団絡みの事件と、ナンバー・ファイブとライラが異世界へとつながる地下鉄に乗り込んで迷子になる話。そしてベンがジェニファーという女性と恋に落ちたことで、またもや世界が滅びる騒ぎが持ち上がる。この三つを中心に物語が進んでゆく。
 このシリーズの最重要キャラはナンバー・ファイブで、セカンド・シーズンではライラが登場して徐々にその存在感を高め、シーズン3ではベンが異次元チームのリーダーとして、それまでとは違うポジションを得た。
 今シリーズがその三人を中心に展開するのにはとくに文句はないのだけれど、おかげでほかのメンバーの存在感が薄まってしまっているのが残念なところ。エリオット・ペイジなんて、いったいなにをしていたのか、ほとんど印象に残っていない。
 ナンバー・ファイブとライラが地下鉄の世界に閉じ込められるエピソードは文学性さえ漂わせていて、本シリーズ屈指の名エピソードだと思うけれど、そのあとのカタストロフはいささかヤケクソ気味で、シリーズの締めとしてはいまいちだと思った。結果として不完全燃焼感が残ってしまった。
 これで最後というのならば、もうちょっといい終わり方をして欲しかった。残念。
(Sep. 01, 2024)

自由研究には向かない殺人

ポピー・コーガン制作/エマ・マイヤーズ/2024年/イギリス/Netflix(全六回)

 女子高生が夏休みの自由研究で未解決事件の調査に乗り出すというベストセラーミステリを映像化した連続ドラマ。主演は『ウェンズデー』で主人公のルームメイト役を務めていたエマ・マイヤーズ。
 彼女が演じる主人公のピップは有名大学(オクスフォードかケンブリッジ? 忘れた)への進学を志す女子高生。大学に提出する自由研究の課題として、過去に発生した女子生徒の失踪事件の真相を突き止めようとする。
 五年前にその土地では、一人の女生徒が行方不明になり、殺害をほのめかすメッセージを残して彼女のボーイフレンドが自殺するという事件が起こっていた。
 事件の当日に二人に会った自分が、もしかしたら事件に影響を与えてしまったのではと気に病んでいたピップは、うちに秘めた罪悪感を晴らすべく、自殺者の弟ラヴィ(ゼイン・イクバル)の協力を得て、事件の関係者への聞き込みを始める。するとやがて彼女のもとに何者からの脅迫が……。
 エマ・マイヤーズは現在二十二歳だそうだけれども、あどけなくて高校生の役になんの違和感もなし。『ウェンズデー』同様、素晴らしく自然に高校生の役を演じている。
 ピップの部屋は壁が黒板になっていて(そんな部屋ってある?)彼女はそこに事件の経緯を書き込み、調査の結果わかった事実や入手した証拠写真をペタペタと貼ってゆく。プロファイラーの捜査室のようなその風景がおもしろい。あまり現実味はないけれど、ドラマの演出としてはありだと思った。
 ただ、ミステリとしての謎解きの部分はそんなにすごいって感じでもなく、主人公が調査のために軽犯罪おかしまくりなところはいささか気になった(飲酒、住居不法侵入、器物破損、エトセトラ)。犯人が最初からあやしげなのもどうかと思う。
 あと、主人公を含む男女五人組の設定とか、しつこくリピートされる子供のころの回想シーンとか、森の樹々に結わいつけられた思わせぶりな黒い布とか、それがなぜ必要なのかわからないシーンがいくつもあって、演出の上でのまとまりの悪さを感じた。
 原作は四部作らしいので続編が撮られる可能性もありそうだけれど、この出来ならばつづきは観なくてもいいかなという感じ。
(Aug. 26, 2024)

マクベス

ジョエル・コーエン監督/デンゼル・ワシントン、フランシス・マクドーマンド/2021年/アメリカ/Apple TV

 コーエン兄弟の兄、ジョエル・コーエン監督によるシェイクスピアの『マクベス』の映像化作品。
 コーエン兄弟の作品だから、バズ・ラーマンの『ロミオ+ジュリエット』のように独自のセンスでシェイクスピアを現代的に意訳した作品なのかと思ったら、そうでなく。
 主役のマクベスに黒人のデンゼル・ワシントンを起用したり、三人の魔女の役をキャスリン・ハンターという女優さんがひとりで演じていたり、全編モノクロで画角がブラウン管時代の4:3だったりと(でも角が丸くトリミングされているあたりはデジタル世代)、細部の演出にはそれなりの創意工夫が感じられるけれど、基本はシェイクスピアの代表作をできるかぎり原作通りに再現することなのだろうと思った。
 まぁ、『マクベス』を最後に読んでから何十年もたっているので確かなことはいえないけれども、大仰なせりふ回しからして、おそらくきわめて原作に忠実なつくりになっているものと思われる。
 いやでも、いまさらだけれど『マクベス』ってひどい話だな。
 僕は善人のマクベスが悪妻にそそのかされて心ならずも王を裏切って自滅する話かと思っていたけれど、フランシス・マクドーマンド演じるマクベス夫人にあまり悪妻感がないこともあいまって、この映画のマクベスは単なる極悪人だった。同情の余地なし。
(Aug. 21, 2024)

ジャズ・フェス:ニューオーリンズ・ストーリー

フランク・マーシャル、ライアン・サファーン監督/2022年/アメリカ/Apple TV

ジャズ・フェス:ニューオーリンズ・ストーリー

 2019年に五十回目を迎えたニューオーリンズ・ジャズ&ヘリテッジ・フェスティヴァルのその年の映像を中心に、同フェスの歴史を振りかえりつつ、ニューオーリンズの文化を語るドキュメンタリーフィルム。
 Apple TVのバーゲンコーナーで見つけて、予告編を観てみたら、ニューオーリンズ好きなうちの奥さんが大喜びしそうな内容だったから買ってみたら、アル・グリーンやブルース・スプリングスティーンの貴重なパフォーマンスが観られて、どちらかというと俺得な内容だった。
 字幕だと細かいニュアンスが抜け落ちてしまう感があって、フェスの詳細を理解しきれた気がしないのだけれど、それでも五十年ぶんの貴重映像があれこれ見られるし、ガンボやベニエなど、フェス名物のご当地フードの紹介もおいしそうだし、たまたまフジロックに行った余韻の残る時期だったから、そのフェスの熱気を追体験するような感じで、なかなか楽しめた。
 なかでもハリケーン・カトリーナの被害を受けた翌年に、賛否両論ある中、復興のためにと強行開催したステージで、シーガー・セッションズ・バンドとともに初めて出演したブルース・スプリングスティーンが『マイ・シティ・オブ・ルーインズ』を歌ったというエピソードとその映像はとても感動的だった。
 惜しむらくは版権の問題なのか、2019年のヘッドライナーだったローリング・ストーンズの映像が微塵もないこと。ストーンズの映像がちょっとだけでも入っていたら完璧だったのに。残念。
(Aug. 12, 2024)