黄昏の狙撃手
スティーヴン・ハンター/公手成幸・訳/扶桑社BOOKSミステリー/Kindle(全二巻)
ボブ・リー・スワガーを主人公にしたシリーズは『極大射程』から『狩りのとき』にいたる三部作のあと、アール・スワガー三部作を挟んで、『四十七人目の男』で再開するまでに、九年のインターバルがある。
イメージとしては『狩りのとき』で切りよく三部作がまとまっているので、本当はそれ以降は書くつもりがなかったんじゃないかという気がする。『四十七人目の男』がなんだこりゃって内容の――いってみれば蛇足的なイメージが強い(失礼)――作品だったため、なおさらそんな気がする。その辺の事情がわかる解説がついていてくれると嬉しいのに、残念ながらついてない。これだから電子書籍はなぁ……。
いずれにせよ前作でシリーズはリブートした。再開後のいちばんの違いは、その間にボブ・リーが年を取っていること。
歴戦の英雄も六十を過ぎて、まわりからの扱いはすっかりお爺さん。前作での死闘で得た心身のダメージのせいで、頭は白髪がめだつようになり、脚を引きずって歩くようになってしまった彼は、今作ではずっと老人扱いされている。
今作の魅力はそんな「おいぼれ」が、じつはいまでもすごいんだぜって。そのギャップ。ずっと若い人たちからなめられっぱなしの老人が、最後にその伝説的な戦闘能力を発揮して、悪党たちをやっつける。そんな水戸黄門の印籠的なシーンの到来が待ち遠しくて、ページをめくる手が止まらなくなった。
あと、この小説は導入部も秀逸。大学を卒業して新米記者となったボブ・リーの娘ニッキが、謎のドライバーに襲われて交通事故を起こし、昏睡状態に陥ってしまう。ボブは愛娘の回復を祈りながら、にっくき敵を探して自ら捜査に乗り出してゆく。そして彼もまた命を狙われるようになる。
さすがのストーリーテラー。話の運びが上手い。悪役の人物造形も抜群。
まぁ、出来映えは初期三部作には及ばないけれど、それでも十分なおもしろさだった。ある種マンガ的な楽しさがあったもんで、途中でやめられなくなって、『四十七人目の男』は上下巻で一ヵ月以上かかったのに、こちらは休日を丸一日費やし、一週間ちょいで読み切ってしまった。大変おもしろうございました。
いやでもこの先、年を取る一方のボブ・リー・スワガーがどうなってしまうのか予断を許さなくて、いまは続編への期待と不安が半々だったりする。
(Nov. 17, 2025)





