村上朝日堂はいかにして鍛えられたか
村上春樹・安西水丸/新潮文庫/Kindle
『村上朝日堂』をタイトルにしたエッセイ集の四冊目にして現時点では最後の一冊。
初版の刊行は1997年だから、村上さんが四十八歳のころ。
さすがに五十に手が届こうって年齢になっているので、村上さんの言葉にもそれ相応の風格が……とくに感じられるようになっていないのが、村上朝日堂の村上朝日堂たるゆえんという気がする。
でもまぁ、最初の『村上朝日堂』に比べると、読んでいてげんなりさせられる回数は圧倒的に減った――というか、ほとんどなかった。
文章的にちょっとなぁ……と思うところはところどころにあったけれど、語っている内容に反感を覚えることはほとんどなかった気がする。
なかでもいちばん印象的だったのは、「牛も知っている……」と題した一遍。
これは前半で「牛も知ってるカウシルズ」とか「ベレンコ中尉も、これでデレンコ」とかのくだらない宣伝文句を引用して笑わせておきながら、後半はそのベレンコ中尉という人がソ連を亡命した年に絡めて、そのときに手がけていた最新翻訳の『心臓を貫かれて』について紹介するという、なにそれって内容だった。
『心臓を貫かれて』のような素晴らしくハードな内容のノンフィクションを紹介する前振りがそれ?――って。かなりびっくりしました。
まぁ、なにはともあれ、雑誌には乗らなかったエッセイがおまけで二本追加されていたり、いくつかのエッセイには後日談として追記があったり、あとがきもあって、なおかつそのあとに安西水丸氏との対談まで添えられているという。ボリューム的にもサービス精神たっぷりの、現時点でのシリーズのとりを飾るにふさわしい一冊だった。
ということで、デジタルで読む月刊・村上春樹も残りあと一冊!
(Aug. 23, 2026)




