村上ラヂオ
村上春樹/新潮文庫/Kindle
村上春樹のエッセイは好きじゃないといいつつ、この本を読むのはこれが二回目になる。
最初に読んだのは文庫化された2003年のこと。
記憶が定かじゃないけれど、おそらくそのときの印象がよくなかったからだろう。続編の二冊は読まずにスルーしてしまった。
同じ理由で『村上朝日堂』と『村上朝日堂の逆襲』は読んでいるのに、『村上朝日堂はいほー』と『村上朝日堂はいかにして鍛えられたか』は読んでない――っぽい。読んだつもりでいたけれど、少なくても本棚にも記録にもないから、『村上ラヂオ』と同じように、前の二冊でもういいやって思って、つづきは読まずにすませてしまったんだろう。
ということで、あらためて確認してみたところ、現時点で僕が読んでいない村上春樹のエッセイは『村上朝日堂はいほー』『村上朝日堂はいかにして鍛えられたか』『村上ラヂオ2』『村上ラヂオ3』『雨天炎天』『辺境・近境』の六冊だった。
『ランゲルハンス島の午後』と『日出る国の工場』もエッセイ集に含めるのならば八冊。そのほかにも安西水丸氏や佐々木マキ氏ら、イラストレーターとのコラボ作品で読んでないものがけっこうあって、さらには翻訳の絵本が二十冊もある(活字が少ない本をないがしろにしがちな性分)。
翻訳も含めれば、これまでに村上さんの手掛けた本を百冊以上は読んできているので、全作品コンプリートするのも間近だろうと思っていたのに、まだまだ未読の本がそんなにあったとは……。
ということで、さすがに絵本にまで手を出すお金も時間もスペースもないけれど、絵本以外の作品についてはなんとかしたいと思っているので、その手始めということでこれを読みました。
――って。いやだから、これはすでにもう読んでいるのだけれども。
Kindleでつい三冊セットで買ってしまったので、せっかくだから再読しました。
春樹氏のエッセイってどう考えても余技の部類だし、寝る前にKindleで読むくらいがちょうどいいかなと思って、今回は電子書籍にした。
そしたらほんとにちょうどよかった。途中で寝落ちしても後悔しないし、「なんで俺はこんなものを読んでいるんだろう?」と疑問に思うこともなく、それなりに楽しく読めた(まぁ、あくまでそれなりに)。二度くらい笑いもした(ひとつはイタメシ屋のカップルの話。もうひとつは……すでになんだったか忘れた)。春樹氏の文庫本って解説なしのものがほとんどなので、巻末にイラストレーターの大橋歩さんのあとがきがあるのもなにげに嬉しい。
唯一残念だったのは表紙。
この作品は大橋歩さんとの共作という扱いで、本に収録された大橋さんのイラストがすべて収録されているのに、表紙はその限りではない。
電子版に書籍と同じ表紙がついていないのが現状のデフォルトだとしても、仮にもイラストレーターの名前を冠して、その人のイラストを満載した本に、書籍版の表紙を飾ったイラストが収録されていないって、そんなのありですか?
――いや、正確にいえば、表紙に使われているイラストは本編から流用されたものだから、そのイラスト自体は収録されている(「小さな菓子パンの話」というエッセイの挿絵)。とはいえ、本の表紙はそれ自体が本の一部だと思うので、そこはやっぱ電子書籍でもちゃんと収録して欲しい。ないとさびしい。手にとって紙の感触が楽しめない電子書籍だからこそ、表紙を愛でる楽しみまで奪わないで欲しい。
電子書籍だといまだ解説が省略された本も多いし、日本でKindleが発売になってからすでに干支がひとまわりしているにもかかわらず、いまだ電子書籍の出版事情は過渡期を抜けきっていない気がする。
(May. 13, 2025)