ずとまよライブではすっかり恒例となった、全国ホールツアー終了後にテーマを拡大アレンジして行う〆のアリーナ公演。やきやきヤンキーツアー2の完結編。
前回までは同一会場での二公演だったのが、今年は全国ツアーに拡大された。
三月のぴあアリーナからスタートして、翌週が南船橋、そのあと名古屋、福岡、大阪を経て、最後が代々木というスケジュール。全会場二公演ずつで計十二公演。そのとりを飾る代々木第一体育館での2デイズを両方とも観た。
二公演見たのは、このところの常で、チケットが取れなかったら嫌だからと、念のため二公演分申し込んだら両方取れてしまったから。
ツアーは一ヵ月半以上に及ぶ長丁場なのだから、どうせ二日分申し込むのならば、最初の横浜か南船橋と最後の代々木にしておけばいいのに、わざわざ二日とも代々木にしたのは、いいかげん年を取って、東京から出るのがめんどくさくなってしまったため。
自宅から三十分強でゆける代々木と、横浜や船橋では、移動時間が倍以上ちがう。夏フェスも今年からはもう行かないと決めたことだし、通常のライブもあまり高すぎるものや、東京以外の公演は、今後はできる限り避けることにした(すっかり年寄り)。でもって、代々木のチケットが外れて横浜だけ行くことになるのは嫌だったので、だったらもう二日間とも代々木でいいやって思った。
でも、冷静になって考えると、今回は全国ツアーで、しかも全部アリーナ規模なんだから、よほどのことがない限り、チケットが取れないなんてことはないだろう。だったら、申し込むのは一公演だけでもよかったんじゃん?ってあとから思ったけれど、まぁ、それはそれ。結果的には二日目のほうが席がよかったし、つづけて二日観たからこその楽しさもあったので結果オーライ。
そもそも、同じ公演を二回も観るのは確かに贅沢だけれど、洋楽チケットがあたりまえに二万円を超えるようになってしまった昨今、ずとまよの超豪華ステージが二日間あわせて二万円もしないで観られるというのは、かえってお得感さえある。
さて、というわけで、代々木公園のとなりの会場で二年ぶりに観た、ずとまよの代々木公演(駄洒落)の一日目。
ツアーが大阪万博の開催時期と重なったことで、昭和レトロ好きなACAねさんが過去の大阪万博にインスピレーションを受けたらしい。今回のツアーは「裏の万博」というコンセプトで、「永遠深夜万博」と題して行われた。
ステージセットは去年までと同様、ツアーポスターのイラストを実体したもので、今回これらはすべて「スナネコ建設」が建設した万博のパビリオンだという設定だった。
ということで、ステージの中央には大阪万博のシンボルである「太陽の塔」をもじった「十六夜月の塔」と題されたモニュメントが配されている。
ただ、これは去年のツアーの扇風機を巨大化しただけって感じで、それ自体のインパクトはいまいち。巨大な剣がコンビニに突き刺さっていた前々回や、とぐろを巻く龍が城に巻きついていた前回に比べると、いささか地味な感が否めない。
塔の左手後方にはツアーキャラの巨大な首長竜ヨグネッシーも配されていたけれど、ライブ中には動くことはなくて、存在感は控えめだったし、それ以外では十六夜月の塔に設置されたお立ち台が上下したり、ステージ左右に丸い謎の球体が配されていた以外、とくに目を引くものもなかった。
ACAねの登場シーンも奈落からせりあがってくるだけで、あまり奇をてらったものではなかったし、今回はステージセットやギミックに対するこだわりが以前より希薄な気がした。まぁ、去年までのステージセットが破格すぎたって話もある。
ちなみにツアータイトルの「名巧は愚なるが如し」は「大賢は愚なるが如し」という格言のもじり。「名巧」はあまり一般的な熟語ではなく、うちにある電子辞書では『漢辞海』にしか載っていなかった。そんな言葉どこからひっぱってくるのやら。あいかわらず語彙力がすごい。
「大賢は愚なるが如し」は『広辞苑』(第四版)によると「非常に賢い人は、知識をひけらかさないから、ちょっと見たところでは愚かな人のように見える」という意味なので、ステージが地味に感じられたのも、もしかしたらわざとだったのかもしれない。
まあでも、ステージが地味めな分、演出は凝っていた。
客電が落ちて、左右の縦長の小さめのスクリーンにナレーションとともに今回の「裏万博」の説明が映し出される。そのナレーターを務めているのがなんと――。
石坂浩二氏だっ!
なんでも石坂さん、七十年の大阪万博でもナレーターを務めていたそうで、今回はわざわざ依頼を受けて、このツアーのためのナレーションを担当していた。ACAねの書いた――ものなんでしょうおそらく――「永遠深夜万博」の説明を読み上げて、締めの一言に「夜露死苦」なんていっちゃったりして。御年八十三歳の名俳優にこんな仕事頼むACAねとそのスタッフさんたち、怖いもの知らず。
石坂さんの挨拶につづく今回のオープニング・ナンバーは『虚仮にしてくれ』。
アリーナ公演のときにはメインのツアーには参加していなかった楽器の奏者がスペシャルゲストとして参加して、オープニングでソロを聴かせるのが恒例になっているけれど、今回はそれがハープだったので、一曲目は当然この曲だろうって思った。
冒頭のナレーション中に「開会式の間は席におかけのままご覧ください」みたいな注意書きがあったので、この曲のあいだ観客は全員座ったまま。開会式のテーマという扱いのため、この曲が短めで終わったあと、「起立~」という掛け声があって、会場の全員が立ち上がって、ACAねの開会宣言を見守るという趣向だった。
開会宣言のセレモニーにつづく『嘘じゃない』(冒頭が弾き語り)からがライブ本編で、その次の三曲目で早くも『秒針を噛む』が演奏される。
この曲の後半でしゃもじクラップと合唱のコール・アンド・レスポンスが起こるのも最近の定番だけれど、今回は直近に配信されたマリマリマリーというユーチューバーのネタを盛り込んで、「変な声で!」歌うように要求して、笑いを誘っていた。変な声でっていわれてもねぇ。どうしていいか、わかりません。
この日の最初のクライマックスはその次の『消えてしまいそうです』。今回「万博」と並ぶもうひとつのテーマが「七十年代」で、この曲ではその時代のディスコやソウルを踏まえたファンキーなアレンジが施されていた。ステージの映像もそれっぽくグルービーでカラフルなものになっていて、ものすごくカッコよかった。この曲から次の『ミラーチューン』へとつづく部分での多幸感が前半部分の最高潮。
とにかく今回のライヴはミラーボールでキラッキラ。ステージの上下左右に十個近くの変型ミラーボールが配されていて、それらが乱反射して会場は光の渦と化す。さらにはレーザーライトが縦横無尽に放たれる。ことライティングという点では過去最高に派手だった(当社比)。
ACAねは赤いミニのレザースーツにハイソックス、白いキャップという衣装で、ギャル版の仮面ライダーか山本リンダみたいなその恰好も、いかにも七十年代風だった。豪華なステージセットよりも、むしろこの七十年代の再現というコンセプト、それこれが今回のツアーの要だったように思う。
そのあとが前回ツアーのとりを飾った『勘ぐれい』のヤンキー・バージョンから、ロックンロール・アレンジの『馴れ合いサーブ』へという流れ。この辺の曲にもレトロ感があふれていた。さらには早々に『残機』が披露され、序盤から「踊らにゃ損々」なキラーチューン連発で大いに盛り上がる。
前半戦の締めはこれから公開される映画『ドールハウス』の挿入曲で、今ツアーの途中からセットリストに加わった未発表曲『形』。
ホラー映画の主題歌ってことでシリアスな雰囲気の曲だったけれど、スローで始まったのでバラードかと思ったら、すぐにアッパーになっちゃうのがACAねらしい。初めて聴くので、スクリーンに映し出される歌詞に注目していたせいで、いまいちステージへの意識が薄くなってしまったのはもったいなかった。
この日の僕らの席(北側スタンド一階Eブロック)からだと、スクリーンは小さめで、いまいち見にくかった。終演後に表示されたACAね直筆の縦書きメッセージなんて、字が小さすぎてまったく読めなかった。
そのあとは花道の先に配されたサブステージ(と呼ぶほど広くはなかったけれど)でのアコースティック・コーナー。
台座に固定された電飾バイクに乗ったACAねが花道をゆっくりと運ばれてゆき(天皇家の人たちみたいに上品に手を振って拍手をうけていた)、まずはその先に設置されたなんとかチェア(とんがった籠状のやつ)に座って余興を繰り広げる。
内容は大きなトランシーバーを使って、月にいる(という設定でモニターに映し出された)ブラウン博士ことオープンリールの和田永と会話して、ルナストーン(要するに万博名物の月の石なんだろう)を受け取るとかいう話。
「石はもう太陽系第三惑星の日本の代々木に送ってあります」みたいなことを言われて、ACAねが座っていた椅子の上方を見上げると、なにやら縦長のものがついている。そのオブジェを隠していた覆いをとると、回りながらキラキラ輝くミラーボール仕様の月の石が登場~。
ということで、ルナストーンが光をまき散らすサブステージで『上辺の私自身なんだよ』と『クズリ念』が披露された。
『上辺』はワンコーラス目がアコギの弾き語りで途中からバンド・アレンジ。『クズリ念』はハープ、ストリングス、キーボード、パーカッションだけでのバラード・バージョンだった。
で、この『クズリ念』が最っ高によかった。バラードになったことで、そのメロディの素晴らしさとせつない世界観が際立っていた。アレンジの変更により、もともと楽曲が持っていたポテンシャルが露になったというか。いい曲だとは思ってけれど、ここまで感動的な曲に化けるとは驚きだった。いっそ最初からバラードとしてリリースしたほうがよかったんじゃないかと思ってしまった。まぁでも僕はもとのアレンジも好きだ。
そのあとの恒例三択コーナーは、十六夜月の塔をルーレット仕様に模様替えして、矢印に止まった羽と同じの色のくすだまを割って曲を決めるという企画で、選ばれた曲は『居眠り遠征隊』だった。垂れ幕の表記はヤンキー風に『威音無離炎聖隊』的なやつ(とうぜん読めない)。
ACAねのリクエストによる吉田兄弟の即興劇は、祖父と孫によるソーラン節ならぬ「味噌ーラン節」がどうしたというもので、バンドの演奏はキーボーで琴と尺八の音色を奏でた和風アレンジだった。即興でしっかりと和のテイストを出すバンドに拍手。
ちなみに代々木体育館のスタンド席って、普通に座ると真正面は反対側のスタンドで、ステージを見るには首をねじらないといけないので、座ってみるライブには向かないと思った。ここまでの余興コーナーで長いこと座っていたら、首が痛くなった。
後半戦は新曲『微熱魔』からスタート。あのぐしゃっとした音の洪水的なイントロやドラムンベース的なアレンジが生演奏できちんと再現されているのがすごい。
これ以降の選曲で意外性があったのは『胸の煙』くらいで、あとは定番といっていい内容だった――と思ったんだけれど、よく見たら、終盤に演奏された八曲のうち、半分がここ一年にリリースされた曲だった。
要するに新旧バランスよく並べたというべき内容で、定番と呼ぶには新曲が多すぎる。それでもこの盛りあがりと一体感ってのがすごい。『MILABO』(三年ぶりにフルで聴けて嬉しかった)と『お勉強しといてよ』に挟まれて演奏された初公開の『シェードの埃は延長』も、まったく違和感なくそれらの曲に溶け込んでいた。
この後半戦でのマイフェイバリットは『TAIDADA』。この曲のACAねのボーカルが切れがよくクリスプで最高に気持ちよかった。しゃべりはあんなにたどたどしいのに、なぜ歌だとあんなに滑舌がいいんだろう。不思議。ダンスもノリノリで最高でした。
本編ラストは「最後の曲です。Crack Clock」と紹介されたので新曲かと思ったら、『暗く黒く』だった。
ずとまよのライブは全体的に陽性なイメージが強いから、ダークな感触のこの曲で終わると意外に思うことが多いのだけれど、この日はアンコールの最後も『眩しいDNA』だったし、元ツアーのラストは『正義』だったし(今回は演奏されなかった)、ずとまよって意外とライヴの最後にシリアスな楽曲を持ってくる比率が高いかもしれない。いまさらなにをいってんだって話だけれども。
アンコールは新曲『クリームで会いにいけますか』から始まる三曲。
お色直ししたACAねの衣装は、オフショルダーで超ミニな白いスパンコールのワンピース。ピンクレディーやキャンディーズを思い出させる大胆な七十年代風ファッションで、スパンコール(もしかしたら割れた鏡の破片?)がキラッキラ。光が当たるとまさに人間ミラーボール状態。キラキラだったこの日のライブの最後を、自らミラーボールになって飾ってみせるという趣向がおもしろすぎた。「シャバダバ、シャバダバ」というスキャットの入る、明るくキュートな新曲も七十年代風というコンセプトにベストマッチだった。
つづく『あいつら全員同窓会』がメンバー紹介の入らない通常バージョンだったのもいい(「お世話になってます」のところのお辞儀タイムはこれまでより長かった)。軽く予想を裏切られる感じが楽しい。途中でマイクを落としたハプニングさえ楽しい。
最後の『眩しいDNAだけ』の前に長めのMCで「孤独」について語った部分では、石坂氏のナレーションにもあった「孤独とは社会的な行為である」みたいな引用にぐっときた。岡本太郎氏の言葉でしょうか。いいこという。
今回はこの曲でバンドのメンバー紹介があった。内訳はドラム、パーカッション、ベース、キーボード、ギター×2、ホーン×4、弦×4、オープンリールアンサンブルの三人組、そしてスペシャルゲストのハープに、ACAねの十九人編成。スクリーンの紹介が楽器名だけだったので、お馴染みのメンツ(コジロー、キッシー、菰口、二家本、神谷)以外の個人名は不明。ちなみにオープンリール、TVドラム、扇風琴は「未来楽器」と紹介されていた。
メンバー紹介での各自のソロは短めで(基本四小節ずつ?)、個人のソロに加えてそのあとにパートのセッションがあるという流れだった。ギターだと、コジローのソロ、菰口のソロ、でもってふたりのツイン・ギターという形。三時間近いライブの最後で、いい加減疲れている時間帯だったので、適度なボリューム感がありがたかった。
ということで今回のライブは以上。全曲が終わって、メンバーが花道をランウェイよろしく一周したあと、これまで動かなかったヨグネッシーがうなずくように首を上下して見送る中、ACAねはゆっくりと奈落へと消えていった。
終演後には前述したマリマリマリーのYouTube動画を使った次回『コズミックどろ団子Tour』の発表もあったりして、最後までとても楽しい三時間弱でした。
(Jun. 01, 2025)