米津玄師
2025 TOUR / JUNK/2025年2月26日(水)/東京ドーム


米津玄師の新譜『LOST CORNER』の国内ツアー――そのとりを飾る初の東京ドーム公演2デイズの一日目を観た。
アルバムについてきた先行抽選応募券でゲットした席は、スタンド一階席の十九列目、ステージ向かって右側のほぼ真横。後楽園駅にいちばん近いゲートからの入場だったので、入退出は楽だった。
でもこの席ではステージのバックスクリーンを使った映像演出はほとんど見えなさそうだと思ったら、意外とそうでもなかった。
ステージの背景が左右のスクリーンから扇型で弧を描く形でつながった全面スクリーンだったので、僕らの席からは左手半分の映像がだいたい見えた。たぶん全体の五分の三はちゃんと見えたはず。
まぁ、全体像は俯瞰できず、右半分は欠けたようになってしまうので、アニメのキャラの顔がつぶれて、なにそれって感じになってしまうときもあったけれど、それでも視野に入る景色は十分に美麗。いまの舞台演出ってすごいなぁと素直に思いました。
ライブはアルバムの一曲目『RED OUT』で始まり、アンコールでタイトルトラックの『LOST CORNER』を聴かせて〆。終演後にアルバム最後のインストナンバー『おはよう』をBGMにエンドクレジットが流れるという流れはほぼ予想通りだった。
予想外だったのはそのセットリストの豪華さ。
アルバム『LOST CORNER』はそれだけで全二十曲というボリュームなので、全曲完全再現したらそれだけで本編のほとんどの時間を使い切ってしまう。
さてどうすると思っていたら、米津は思い切りよくアルバムの収録曲のうち、四分の一を切り落としてきた。具体的には『POP SONG』『死神』『月を見ていた』『Pale Blue』『POST HUMAN』の五曲が演奏されなかった。
調べてみたら『POST HUMAN』は別の日に日替わりでやっているし、それ以外の曲は過去のツアーですでにお披露目済みなので、今回はあえてはずしたってことなんだろう。
で、それらをはずした結果として選ばれた曲が強力すぎた。
だって、『感電』に『アイネクライネ』、『Lemon』に『海の幽霊』、『LOSER』『ピースサイン』『ドーナツホール』だよ?
加えてここに最新配信シングルの三曲、『Azalea』『BOW AND ARROW』『Plazma』が入ってくる。
こんなベストアルバムみたいなセットリストある?
いやはや、最強すぎる。
アルバムではアイナ・ジ・エンドとデュエットしている『マルゲリータ』を米津の歌でフルコーラス聴けたのは、かえって貴重だと思ったし、それは最新MVのアニメをそのまま使って歌われた『ドーナツホール』も同じ。あのMVを初音ミクではなく、米津玄師のボーカルで聴けて喜んだファンも多かったろう。少なくても僕は嬉しかった。
【SET LIST】
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米津はごく普通の服装だったけれど(アンコールでも衣装替えなし)、演出はいろいろ多種多様だった。
オープニングの『RED OUT』では、客電が消えたあとの暗さがすごかった。ドームの広さを意識するからかもしれない。こんなに真っ暗でなにも見えないオープニングは初めてかもって思った。やがてステージと花道に真っ赤なライトが点りはじめ、雨音まじりの雷鳴がとどろく。ハードなオープニング曲にあわせた不穏な幕開け。
でも二曲目の『感電』で花道へと踊りだした米津玄師はニコニコ愛想がよく、とてもご機嫌そうだった。ダンサーもたくさんいる。
『Azalea』~『ゆめうつつ』あたりでは、花道の上に巨大な絹みたいな布――ラグジュアリーな一反木綿といった感じ――がふわふわと浮かび上がる。その浮かび方はとても幻想的で、3Dフォノグラムかなにかかと思うような不思議な眺めだった。
『さよーならまたいつか!』では女性ダンサーたちが『虎と翼』を思わせる着物と袴姿で登場。でもヘアスタイルはカラフルかつ多様でちっともレトロじゃないし、ダンスも『虎と翼』のオープニングのそれとは違うオリジナルの振り付けだったので、どうにもコレジャナイ感がすごかった。
途中のどの曲か忘れたけれど、ステージに巨大なジャングルジムみたいな足場が登場して、ダンサーがその上で踊る場面があったりする。で、二、三曲くらいであっという間に撤収される。いちいちセットの入れ替えがすごい。
ジブリ映画の主題歌『地球儀』では、ジブリではない(たぶん違う)けれどそれっぽいアニメが流れ、『M八七』では宇宙空間が広がり、『海の幽霊』では『海獣の子供』――を観ていないのでオリジナルかどうかは保証できないけれどそれ相当の――のアニメがフィーチャーされる。
『KICK BACK』では炎が吹き上がり、その熱気がスタンドにいた僕らのところまで伝わってくる。
最後の『LOST CORNER』では、巨大な「がらくたくん」オブジェとともに、ガラクタを積んだ黄色いオープンカーに乗る米津玄師が登場。ドライブをテーマにした曲ということで、その車に乗ったまま、場内のアリーナ席の通路を一周してみせる。
そんな風に二時間ちょいのライヴの間に、さまざまな趣向を凝らした演出が盛り込まれていた。
客席では『ピースサイン』で大多数のオーディエンスが「おーおーおおーおー」と合唱しながらピースサインを掲げている風景もかなりのインパクトだった。
僕らの斜め前にいたギャルふたりはいけいけで可愛かったし、うしろにいたお兄さんはあれこれ熱く語っていたくせに、ラストの『LOST CORNER』で「この曲だけタイトルわからないや」とかのたまっていておかしかった。天井にライトでデカデカと書いてあったじゃん。
まぁ、その曲での自動車の演出とかは、正直どうかと思った。意外性はたっぷりだったけれど、おかげでその間、僕らは車に乗ったまま動きがない米津玄師のアップの映像をスクリーンで延々と見ているだけという、いまいち楽しくないことになってしまっていたし。最後の最後がこれ?――って。
そのちょっと前のメンバー紹介――ギターが米津玄師の幼なじみだという中島宏士、ベースが宮本浩次のサポートもしている須藤優、ドラムが堀正輝、キーボードに宮川純という五人組(知っている人は須藤くんしかいない)――では幼なじみ氏による、やったらめったら長いMCがあって、「なぜ俺はこんな初対面の人のMCを、疲れた体で突っ立ったまま聞かされているんだろう?」と思ってしまったりもした。正直いって、この二点でライブの高揚感にけっこう水を差された感あり。
でもまぁ、主役の米津は楽しそうだったし、ケチをつけるのも野暮ってものか。
いずれにせよ、とてもいいライヴだったのは間違いなし。
かつての東京ドーム公演では音響の悪さにうんざりしたこともあったけれど、このところは技術的な進歩のためか、はたまた近頃いい席でしか観ていないからなのか、今回も音響に対する不満は一切なかった。米津玄師の歌はレコーディング音源と遜色のないクリアさだった。バンドの音も五人とは思えないほど表現力豊かだった。
『地球儀』『海の幽霊』『がらくた』といった名バラードは限りなく感動的だったし、『LOSER』『KICK BACK』『ピースサイン』『ドーナツホール』とつづいた怒涛のクライマックスは最高だった。アンコールでややテンションが下がってしまったのは残念だったけれども、本編についてはもう完璧といえる内容。これぞ現在のJ-POPの最高峰といっていいようなライブだったと思う。
いやはや、いいもの見せてもらいました。
ちなみにうちの奥さんが米津玄師を聴かないので、今回はうちの子が一緒だった。娘とふたりでライブに行くのって、五年ぶり二度目だ。嫌われてなくてなにより。
(Mar. 10, 2025)