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最後の五本

  1. エレファントカシマシ @ 日本武道館 (Jan 12, 2022)
  2. FOREVER DAZE / RADWIMPS
  3. 縦横無尽 / 宮本浩次
  4. Latest Record Project, Volume 1 / Van Morrison
  5. 日比谷野外大音楽堂 2020 / エレファントカシマシ
    and more...

エレファントカシマシ

新春ライブ2022/2022年1月12日(水)/日本武道館

 二年ぶりにエレファントカシマシを生で観た! それも日本武道館で!
 宮本浩次の全国四十七都道府県ツアーが年をまたいで絶賛開催中なので、次にエレカシが観られるのはそれが終わったあとだろうと思っていたのに、まさかこのタイミングで武道館をぶっこんでくるとは! しかもちゃんとチケットも取れた!
 僕らの席は一階席(東G列)だったけれど、ステージのうしろの席まで客を入れて三百六十度を解放したこの日のステージ構成を考えると、決して悪い席ではなかった。ゲストの金原さんカルテットの姿もちゃんと確認できたし、その点ではかえってアリーナよりもよかったのではと思う。
 時は新型コロナウィルスのオミクロン株が猛威を振るい始め、第六波突入が叫ばれ始めた直後だ。もうちょっと遅かったら中止の憂き目もあったかもしれないから、このタイミングでエレカシのライヴが観られたのは本当に幸運なことだった。
 しかも今回はセットリストがふるっていた。こと武道館ライブということでいうと(個人的な意見としては)過去最高の内容だった。
 エレカシの武道館はいつだって気合が入ったセットリストになるのが常だけれども、今回はその気合のベクトルがこれまでとはまったく違っていた。
 ――というのも、おそらくは去年、恒例の野音が行えなかったから。
 三十二年の長きに渡って毎年夏から秋にかけて必ず立ってきた野音のステージに、エレカシは去年ついに立てずに終わってしまった。ファンである僕らでさえも無念なんだから、メンバーにとってはなおさらだったろう。
 今回の武道館にはその無念がたっぷりと込められていたように思う。なんたって第一部はいつもならば野音でやっていることをそのまま武道館で再現したような内容だったから。そして本来ならば野音のレベルでやるべきことをだだっ広い武道館でやってみせたことが、この日のライヴをひとしお特別なものにしていた。
 その特別さはもう一曲目の『うつらうつら』の時点で明らかだった。
 だってふつうないでしょう、武道館であんなに薄暗いステージ?
 大型モニターもなにもなし。三百六十度全席観客を入れているので、ステージうしろのスクリーンなどもなし。演出はただライティングのみ。しかも『うつらうつら』ではそのライティングも最小限という薄暗さ。なんなんだこのアングラ感は。
 暗くてステージ上の宮本がなにやってんだかよくわからないという意味ではソロ公演の『夜明けのうた』に近いものがあったけれども、でもここではその空気感がまるで別物(二曲目が『奴隷天国』って時点でさらに雲泥の差)。宮本のソロが素敵な歌謡ショー的なものだとするならば、こちらはまるで昭和の場末のアングラ劇場のよう。これがライヴ初体験だって人はどう思ったことやら――って、他人事ながらちょっと心配になってしまうレベルだった。
 でもこのアングラな感じって、エレカシが初めての武道館を三千席限定でやったときのそれと極めて近いものだった気がする。あのときはスタンドすべての空席がものすごい違和感を醸し出していたけれど、今回は反対に満員の客席がなんともいえない違和感を生み出していた。この人数が見守る中でこれをやる?――という。
 後半のMCで宮本が「初めて観る人にも私たちの歴史を伝えたいと思った」みたいなことをいっていたけれど、今回は演出を最低限にすることで「あの頃のエレカシ」をみごとに再現していた気がする。少なくても三十三年前からエレカシを観てきた僕らにとってはこれぞ「#俺たちの宮本」ってステージだった。東西南北すべての席を埋めつくした観客が見下ろす武道館で、孤高の演奏を繰り広げるエレファントカシマシのパフォーマンスには、ここでしか見られない唯一無二の存在感があった。
 なにはともあれ、序盤はとにかく見事なまでに「エレカシ創世記」からのセレクションで、最初の十曲のうち、ストリングスがついた『昔の侍』以外はすべてがエピック時代の曲だった。ひさしぶりに石くんのギターだけで演奏された『デーデ』とややゆっくりめの『星の砂』がつづけて演奏されたところなんかは本当に懐かしーって思った(初期はこの二曲がメドレー的に演奏されるのが定番だったので)。
 ただ、すべてが昔どおりだったかというと、決してそうではないところが味噌だ。『いつものとおり』や『浮雲男』はリアルタイムではほとんど聴いた記憶がないから。そういう昔ならばレアだった曲がなにげなく含まれているところに、「あの頃」をいまの視線で振り返っているからこそって新鮮さがあった。
 第一部の後半は「新しい曲」だと紹介された『風』(十八年前の曲なのに)から、がらりと印象を変えて、これぞいま現在のエレカシって演奏がつづく。『シグナル』『生命賛歌』(どちらもひさしぶりに聴けて嬉しかった!)とEMI時代の名曲を挟んだあと、『悲しみの果て』を聴かせ、ラストはエレカシ史上もっとも現在進行形な曲(だと僕が思っている)『旅立ちの朝』のアウトロでのハウリングが途切れた途端に、間髪入れずに『RAINBOW』をぶっ込んでくるという怒涛の展開で締め。これが最高でなくてなにが最高だって第一部だった。

【SET LIST】
    [第一部]
  1. うつらうつら
  2. 奴隷天国
  3. デーデ
  4. 星の砂
  5. いつものとおり
  6. 浮雲男
  7. 昔の侍
  8. この世は最高!
  9. 珍奇男
  10. 月の夜

  11. シグナル
  12. 生命賛歌
  13. 悲しみの果て
  14. 旅立ちの朝
  15. RAINBOW
    [第二部]
  16. ズレてる方がいい
  17. 風に吹かれて
  18. ハナウタ ~遠い昔からの物語~
  19. 笑顔の未来へ
  20. 桜の花、舞い上がる道を
  21. ガストロンジャー
  22. 俺たちの明日
  23. 友達がいるのさ
  24. so many people
  25. 四月の風
  26. ファイティングマン
    [Encore]
  27. 待つ男

 エレカシのライブが二部構成になってひさしいので、昨今は観るほうもそれをわきまえていて、第二部が始まるまでは座って静かに待つってのがすっかり定番化していたけれど、この日は宮本のソロ同様、第一部と第二部のあいだにアンコールを望む手拍子が湧きあがっていた。曲の終わりの拍手も早めに入るし、そういう観客のリアクションの変化にも、本当に新しいファンが増えたんだなってことを実感した。宮本のソロでも思ったことだけれど、僕はそういう新しいファンの人たちの素直なリアクションがけっこう好きだ。なんか初々しくていいなぁって思う。
 第二部では一曲目の『ズレてる方がいい』から『so many people』までの九曲、金原千恵子さん率いる弦楽四重奏が出ずっぱりで、セットリストもそれにふさわしい華やかな選曲になっていた。途中に弦のつかない『ガストロンジャー』を挟みはしたけれど、その間も金原さんたちはステージにいた(観客と一緒になってノリノリだった)。
 第一部の唯我独尊な世界観から一転、ここからはエレカシが売れた理由を証明するかのような多様でポップな楽曲をおおらかに響かせた。いまとなるとこの路線こそがエレカシの王道って思う人も多いのかもしれない(僕個人は第一部こそが至高ってファンだけれど)。ラストはバンドのメンバー六人だけで『四月の風』から『ファイティングマン』という流れだった。
 そうそう、大事なことを書き忘れていた。この日のサポートは金原千恵子弦楽四重奏のほか、キーボードが細海魚さんで(『風』のオルガンが最高に染みた~)、そしてギターがなんとヒラマミキオだった!
 お~、ミッキー復活~!!!! これが今回の武道館をさらに特別なものにしたいちばんのサプライズだった。
 ――とかいいつつ、かくいう僕は遠目に見たその人がミッキーであることに紹介されるまで気がつきませんでした。お粗末。
 正確にいうと、質素なトレーナー姿でうしろ髪をちょんまげに結ったその姿を見て「もしや?」とは思ったんだけれど、僕らの席からだと顔まではわからなかったし、以前よりちょっぴりふっくらとしていたことや、ギターを弾く動作が意外とオーバーアクションだったことで「きっと別人だ」と思ってしまったんだった。最初からミッキーだと確信できていたら、もっともっと感動できたのに……。宮本にはさっさとメンバー紹介して欲しかったぜ(メンバー紹介は第二部の途中)。
 まぁ、ミッキーの復帰は宮本にとっても特別だったんだろう。メンバー紹介では「帰ってきてくれました!」と紹介していたし、第二部の最後にはミッキーとだけ握手して帰っていった(魚さんは?――と思った)。
 今回はそんな信頼すべきミッキーの存在や、ソロ活動で小林武史に「宮本くんギター下手だね」といわれたという影響もあってか、宮本はあまりギターを弾かなかった。で、その結果、曲のあたまで間違えてやり直すというエレカシのライヴではおなじみの風景が一度もなかった。最後の方で歌い出しに失敗した曲がひとつあった気がするけれど(どの曲か忘れた)、少なくても演奏しなおしはゼロ。演奏でミスらないエレカシってなにげに貴重だと思った。
 オーラスのアンコールはたった一曲だけ。定番の真っ赤なライト一色に染め上げられた、いつも通り宮本の爆発的なボーカル・パフォーマンスが圧巻の『待つ男』!
 いやぁ、これがまた冒頭の『うつらうつら』と双璧をなすアングラさですごかった。あの広さにあの薄暗い真っ赤なライティングはある意味猟奇的。まるで江戸川乱歩の世界。令和のこの時代になんてもの見せてくれるんだか。
 その曲が終わったあと、宮本は挨拶もせず、振り向きもせずにステージをあとにした。全体的にMCも少なかったし、ソロでの愛想のよさとのギャップがすごい。なんでエレカシだとこうなの?――って思わずにいられない。まぁ、宮本の場合、その二面性もまた愛嬌って気がしなくもないけれど。
 この日のライヴでなにより感銘を受けたのは、ただただそこには音楽しかなかったこと。派手な演出ひとつなしに、単に遠く離れたステージで十人編成のバンドが演奏して、ひとりのボーカリストがのたくりながら歌を歌っている。それだけでどんなに豪華な演出を施したライヴにも劣らぬ感動を与えてくれるのがすごい。これが最高でなければなんだろう?
 やっぱエレファントカシマシは――昔からの仲間たちと一緒の宮本浩次は――特別だってことを満員の武道館で知らしめた素晴らしき新春の一夜だった。
(Jan. 16, 2022)

エレカシ特集はこちら

FOREVER DAZE

RADWIMPS / 2021

FOREVER DAZE (15th Anniversary Box)(初回限定盤)(Blu-Ray付)

 『ANTI ANTI GENERATION』からおよそ三年ぶりとなるRADWIMPSのオリジナル・スタジオ盤。
 三年ぶりとはいっても、その間には『天気の子』のサントラも出ているし、『夏のせい ep』や震災チャリティのコンピ盤も出たし、さらには配信シングルのリリースも盛んに行われていたので、そんなにあいだが空いている気がしない。
 だからというわけではないけれど、僕にとってこれほど「待望の」という枕詞{まくらことば}がふさわしくないラッドの新譜は初めてじゃないかと思う。
 そもそも先行配信されたシングル曲のほとんどが僕の趣味からはズレている。
 『夏のせい』『猫じゃらし』『鋼の羽根』『うたかた歌』など大半はバラードだし。
 『ONE PIECE』のコラボ曲『TWILIGHT』はアッパーだけれど電子加工されたボーカルがどうにも気持ちよくない。
 『SUMMER DAZE 2021』は打ち込みの英語曲。
 でもって、『FOREVER DAZE』というスマートなアルバム・タイトルに、ファッション・ブランドの広告のような洒落たアートワークとくる。
 これらすべてが僕が抱いているRADWIMPSというバンド・イメージを裏切っていた。俺が好きなラッドは『おかずのごはん』なんてふざけたサブタイトルをつけて、『セツナレンサ』みたいなギターリフの効いたアッパーなロック・ナンバーをガンガン鳴らすバンドだったんだよ~。
 ――ということで、聴くまでは今回はもしかしたらまったく盛り上がれないんじゃないかと心配していたんだけれど。
 でもいざアルバム一枚まとめて聴かせてもらえば、そこはそれ。十年以上大好きでいるバンドが全力で作った新譜がつまらないはずがないのだった。
 やはりちょっと違うよなぁと思うところはあるけれど、それでも思っていたよりもすんなりと楽しく聴くことができた。『海馬』『桃源郷』『MAKAFUKA』などの新曲はさすがのクオリティだと思うし、うたかた歌』や『かたわれ』に七十年のフォークソングみたいな感触があるのも意外性があっておもしろい。『TWILIGHT』も音にも慣れてみれば、ライブ映えしそうないい曲だった。
 まぁ、どうにもバラードが多すぎる嫌いは否めないけれど、コロナ禍で「大騒ぎするのは悪!」みたいな状況下で生み出されたアルバムなのを考えると、こういうスローに傾いたバランス感覚が現時点でのヨージローにとってのリアルなのかなとも思う。この先もずっとこの方向性でいったりしないことを願うばかり。
 あと今作についてはCOVID-19のみならず、バンドが置かれた状況も影響しているんだろう。
 2015年にドラムの山口智史が病気でバンドを離脱してからすでに六年が過ぎ、今年はギターの桑原彰が不倫騒動を起こして活動休止。結果、現時点で残っているのは野田洋次郎とベースの武田祐介のふたりだけだ。
 全編にわたってシンセと打ち込みが多用されるようになったのは、そういうミニマムなバンド編成になった影響が少なからず音に反映された結果なんだろう。あと、映画のサントラの経験を経て、オーケストラを自在に使えるようになったのも大きいのではと思う。音作りの選択肢が多様化したことと、バンド編成の縮小が重なったことで、バンドの音が変わっていったのはある種の必然だったのだろう。
 僕が初めて彼らの音楽と触れてからかれこれ十五年。あぁ、ずいぶんと遠いところへ来ちゃったなぁという感慨を抱かずには聴けない新譜だった。
(Dec. 29, 2021)

縦横無尽

宮本浩次 / CD / 2021

縦横無尽 (2021ライブベスト盤)(DVD付)(特典:なし)

 宮本浩次ソロ三部作のとりを飾るこのアルバムを聴いて思うこと。――宮本にとってこのところの音楽人生は充実していて楽しいんだろうなぁと。こんなに明るくて開放感のあるアルバムはエレカシを含めて初めてじゃなかろうか。
 ソロのファースト『宮本、独歩』は椎名林檎やスカパラが主導したコラボ曲を含め、横山健にサポートしてもらったり、村☆ジュンにプロデュースを任せたりと、宮本の多種多様なソロ活動の足跡が一緒くたになったバラエティの豊かさ――というか、まとまりのなさが魅力だった。まとまりがないとか書くと悪口みたいだけれど、僕はあのアルバムの雑然としてパワフルな多様性が好きだった。
 つづく『ROMANCE』は昭和の歌姫の楽曲を中心としたコンセプチュアルなカバー・アルバムで、プロデュースが小林武史だったこともあり、内容的にも音響的にも、とても統一感のある作品に仕上がっていた(蔦谷くんがプロデュースした『赤いスイートピー』だけちょっと浮き気味な気はしないでもないけど)。ロック歌手・宮本浩次の魅力をお茶の間に知らしめ、なおかつオリコン一位という勲章を得たという意味では、宮本自身にとってとても大きな意味を持つ作品だったんだろうと思う(僕にとってはそれほどではないけど)。
 そんなヒット作からまる一年のインターバルをへてリリースされた――まさかそんなに早く出るとは思っていなかった三枚目のソロ・アルバムが本作。
 『ROMANCE』につづいて小林武史のプロデュースで、前作の流れを汲む柏原芳恵の『春なのに』のカバーなども収録されているけれど、それ以外はすべてオリジナル。でも同じくオリジナル中心だった『独歩』とは違って、基本的にバンドが小林武史・名越由貴夫・キタダマキ・玉田豊夢のメンツで固定されているから、アルバムとしての統一感が段違い。
 桜井和寿とデュエットした『東京協奏曲』だけはドラムを屋敷豪太がたたいていたりするけれど(宮本のバックに屋敷豪太!)、もともとが小林武史の曲で御本人がプロデュースしているだけあって、他の曲とまじりあってなんの違和感もない。
 今回はこのアルバムまるごと一貫した――エレカシのそれとはまったく感触が違う――完成度の高いバンド・サウンドが聴きどころのひとつだと思う。『独歩』がソロ活動初動期の試行錯誤の歴史だとしたら、これぞソロ活動第一期の完成形だといってよさそうな出来映え。
 まぁ、いうまでもなく僕個人が好きなのはエレカシの音なんだけれど、でもこのアルバムにはこのアルバムのよさがある……と思わないでもない。
 エレカシだと、どうしてもメンバー全員分の責任を宮本がひとりで背負って肩ひじ張ることから逃れられないせいで、どんなに作品にも宮本の気負いや憤りが反映されて、つねにピリピリした緊張感が漂っている。聴く人によってはそこが重く感じられて楽しめなかったりもするかもとは思う(僕はそこが好きなわけだが)。
 でもこのアルバムは違う。小林武史という頼れる先輩の助けを借りて、演奏力に秀でたミュージシャン仲間に背中をあずけ、自らは歌を歌うことだけに専念できる――そんなこれまでとは違う環境を得た宮本は、自慢の喉にものをいわせ、これまでになくリラックスした歌を聴かせてくれている。そこから生まれた突き抜けた朗らかさがこのアルバムの魅力でしょう。
 もう『この道の先で』とか『十六夜の月』とか『rain -愛だけを信じて-』とか、なにこれってくらい明るい。とくに『十六夜の月』にはびっくりだよ。宮本でモータウン・ビートを聴くとは思わなかった。
 『stranger』や『Just do it』のようなパンキッシュな曲や『浮世小路のblues』のような歌謡ハードロック調の曲もあるけれど、ここではそれらも必要以上に強面{こわもて}になり過ぎず、さらりとした聴き心地に仕上がっている。
 楽曲としてもっともエレカシに近いと思うのはシングルの『sha・la・la・la』だけど、これにしたってギターよりも鍵盤主体のアレンジはキラキラだし、ホーンも入っていてエレカシではあり得ない仕上がり。シングルとしてはいまいち好きになれなかった『P.S. I love you』もアルバムの締めの一曲として意外と収まりがいい。
 なにより一曲目がバラードの『光の世界』ってのがこれまでと決定的に違うところ。エレカシでも初期までさかのぼれば『優しい川』とか『夢のちまた』とか、バラードで始まるアルバムはあったけれど、もう比べるまでもなく世界観が違う。「ここが俺の生きる場所 光の世界」――って。いまの宮本が歌うとちょっと洒落にならない気がする。もうそっちには帰ってゆかないぜって宣言じゃないよね……?
 全体的に明朗で軽妙な印象は、歌詞が紋切り型でリアリティが少ないところに負うところも大きいと思うのだけれど、『ROMANCE』で歌謡曲好きを公言したあとだから、今回の作品に関してはもうつべこべいわない。だって歌謡曲好きなんだもんね。じゃあしかたない。最初から歌謡曲だと思って聴くと、これはこれでありかもって気がしてくるから不思議だ(だからってやはり大好きとはいえないけど)。
 このアルバムで宮本は、歌謡曲をルーツに持つロック歌手という、新たに獲得したステータスをきっちりと形にして、良質なポップ・アルバムを仕上げてみせた。いまはこのアルバムを引っさげて全国四十七都道府県をツアーでまわったあと、宮本がエレカシに戻ってどんな音楽を聴かせてくれるのかを楽しみに待ちたい。
(Nov. 29, 2021)

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Latest Record Project, Volume 1

Van Morrison / CD / 2021

LATEST RECORD PROJECT VOLUME 1

 去年は『ノー・モア・ロックダウン』だの『自由になるため生まれたんだ』だの『表に出たら(通りには人っ子ひとりいなかった)』だのと、新型コロナウィルスによる不自由な生活に対する鬱憤をそのまま歌にしたような配信シングルをぽつぽつとリリースして苦笑を誘ったヴァン・モリソン先生だったけれど、そんな大御所の新譜はなんとCD二枚組で全二十八曲という過去最大の大作になった。
 いやー、なんなんですかね、このボリュームは。うちにこもっていたらたくさん曲ができちゃいましたってことなんだろうけれど、それにしても過剰。しかも『ボリューム1』とかいって、つづきが出ることをあらかじめ宣言していたりするし。{よわい}七十六にして、どんだけ創作意欲にあふれてんだか。いやはや、恐れ入りました。
 まぁ、内容ははいつも通りのブルーアイドソウルの金太郎飴状態で、新たなる代表曲と呼べるほどの曲はないけれど、でもいつもの歌声といつもの音をこれだけのボリュームで届けられて文句をいうファンはいないでしょう?
 ――と思ったんだけれど、やはり世界は広いらしく、英米のメディアでは賛否両論あるそうだ。やはりコロナ禍に対する老人の愚痴っぽい歌詞が多いのか――『フェイスブックでなにしてるの?』みたいな曲もある――、はたまた過剰なボリュームにへきえきした人が多いのか。その辺の事情はよくわからない。
 ひどいメディアだと星一つとかつけているところもあるらしいけれど、いやいや、絶対にそんな低評価に値する出来じゃないでしょう? できるもんならば、新曲を二十八曲もこのポテンシャルで用意してみなさいよって話だ。それだけでもう尊敬に値する。これにケチをつける人はきっと初めからヴァン・モリソンのファンじゃないんだろう。
 僕は日本のミュージシャンが「ライヴができない」って嘆いているのを見るたびに、だったら一年くらいスタジオにこもってアルバム作りゃあいいじゃんって思ってきたので、それを過剰な熱意でもって実践してくれたこのアルバムはまさにわが意を得たりでした。
 先生、第二弾も楽しみにしてます。――って、本当に出るのかな。
(Oct. 19, 2021)

日比谷野外大音楽堂 2020

エレファントカシマシ / 2021 / Blu-ray

日比谷野外大音楽堂2020【デラックス盤・Blu-ray +写真集】

 エレカシのライブを観たことのある人ならばほぼ全員が同意してくれると思うけれど、宮本浩次という人のボーカルは生で聴くと本当にとんでもない。あの声量はただごとじゃない。自分と同じ生身の人にこんな声が出せるとはにわかに信じられない。
 僕は世の中の大半の人より多くのライブを観てきていると思うし、その中には半端なく歌の上手い人だってたくさんいるわけだけれど、それでも宮本のように一曲ごとに全身全霊をささげて歌っていると思わせるボーカリストはほかにはいない。彼の歌には上手い下手を超越した何かがある。あの凄さは生で観ないとわかってもらえないと思う。
 なぜならばそれはフィルムには収まりきらない{たぐい}のものだから。残念ながら僕にはこれまでにエレカシの映像作品を観て、生で観たときの感動の半分も味わえたことがない。宮本の破格の凄さはカメラに収められた途端に十分の一くらいに薄まってしまう。
 僕がこれまでエレカシの映像作品についてはほとんどなにも書いてこなかったのはその希釈感のせいだ。本来の魅力を伝えきれていない作品について、わざわざなにかを書こうって気になれなかった。
 あと、もうひとつの理由(というか言い訳)は、映像作品となったライヴのほとんどを僕が生で観ていて、なおかつそれなりにがんばって感想を書いてきたから。すでに苦労してたっぷり文章を書いたライヴについて、それが映像作品になったからといって、もう一度なにかを書こうって気分にはなかなかなれない。結果、僕はこれまでエレカシの映像作品のほとんどを無視する形になってしまっていた。ファンだから作品が出れば買うけれど、どれもたいていは一度観ておしまい。
 そんな僕をして今回この野音のBlu-rayは感想を書かなきゃと思わしめたのは、ひとえに宮本ソロ活動の影響が大きい。
 手練れの名ミュージシャンたちをバックにつけ、高級なスーツを身にまとってテレビでロック歌手として喝采を浴びる昨今の宮本の姿に、僕はいまいちしっくりこないものを感じている。宮本がお茶の間の人気者になって嬉しそうにしているのは何よりだと思うし、別にソロ活動をやめて欲しいわけではないけれど、でも俺の好きな宮本浩次はそんなんじゃないんだよなぁって。正直そういう思いは否めない。
 そんな絶賛ソロ活動中の宮本が半年ぶりにエレカシのバンド・メンバーとともにステージに立った一年前の野音の模様をフルに収録したのがこの作品。
 ソロ活動のあれこれを経て、はてさていまの宮本はエレカシでどんなパフォーマンスを見せてくれるのやら……と、正直なところ、観るまではいくぶん不安を感じていたのだけれど、そんなのいらぬ杞憂だった。
 わはは、エレカシのフロントマンとして野音のステージに立った宮本は、おかしなくらい変わっちゃいなかった。そこには昔ながらの僕らの大好きな宮本浩次がいた。
 言葉少なでぶっきらぼうなオープニングからして、これぞまさに「俺たちの宮本」!
 そして一曲目は『「序曲」夢のちまた』!! アンコールのラストは『待つ男』!!!!
 そう、去年の野音はセットリストも個人的には最強といえる内容だった。
 同じく映像作品で観ることができる前の年の野音は、三十周年記念ということでポップス路線に振り切れた「最近の明るいエレカシ」が全開なセットリストだったけれど――それはそれで意外性があった――その反動なのか、それから一年後のこの日は一転して売れ線無視の剛球勝負。エピック時代の曲をたっぷりと盛り込んだ「これぞまさに野音で聴きたい俺たちのエレカシだっ!」って内容になっていた。
 宮本自身も「野音だから」といって『男は行く』を演奏しているし、テレビでつけている愛想のいい仮面を脱ぎ捨てたようなあけっぴろげな乱暴さは、長らくそんな彼を愛しつづけてきた目の前のファンに対する信頼感の表れなのだろうと思う。胸熱。
 とにかく宮本のまったく飾り気なく自分自身のありったけをむきだしにしている感じがたまらない。「魂の叫び」なんてものいいは陳腐だけれど、ついそんな言葉を使いたくなるほどだ。だってカメラの前であそこまでカッコつけずに自分をさらけ出せる人なんてそうそういないよ?
 最初に映像作品では宮本の本当の魅力は伝えられないとか書いたけれど、この作品ではこれまでにないくらい宮本の本質的な部分に肉薄できている気がする。観ていて素直に宮本すげーって思える。おそらくテレビのモニター経由でそんな風に思ったのは初めてだ。それがこの作品についてはなにか書いておかないとと思った最大の要因。
 あと、すごく単純な事実にいまさら思い至ったのですが、俺はこのライヴ、生で観てないんじゃん。観たから書かないというのならばともかく、観てないんだったらなにか書いてしかるべきじゃんと。ずとまよやヨルシカについてはカタログを網羅する勢いであれこれ書いているくせに、もっともつきあいが長い大切なバンドについて、液晶モニター越しであろうとそのライヴ作品をフルで観ておきながら、なにも書かないのはどうなのさって。いまさらながら思ったのでした。だけど結局いまいち上手くまとめられなかった。おそまつ。
 今年は九月も終わろってこの時期になっても、いまだ野音のスケジュールが発表されていない。野音が使えるのは十月末までだそうなので、エレカシの野音ライヴも今年でついにその連続記録が途切れてしまう可能性大みたいだ。
 でもまぁ、エレカシ野音のチケットもすっかりプレミア化してしまって、僕個人が野音でエレカシを最後に観てからもう三年もたっている。いまやエレカシ(というか宮本)の人気が野音のキャパでは収まらなくなっているのは確かだろうから、こういう日もそう遠からず訪れる運命だったのかもしれない。
 それにしても三十一年もつづいてきた野音の歴史の最後に、こういうエレカシの集大成と呼ぶにふさわしい素晴らしきライヴ・フィルムが残ったことを僥倖{ぎょうこう}と呼ばずしてなんと呼ぼう。
(Sep. 29, 2021)

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