ヨルシカLIVE「月と猫のダンス」
ヨルシカ /2024
先日YouTubeで公開されたヨルシカの『負け犬にアンコールはいらない/言って。』のライブMVがとても好きで、来月に控えた、その映像を含むライブBDのリリース(6月25日発売)を心待ちにしている。
きっとそれを観たらまたなにか書きたくなると思うので、その前に、去年出たのに触れていなかった、ひとつ前のライブ映像作品『月と猫のダンス』について。
『月光』では、n-bunaによる詩の朗読を挟むことで、ライブ全編をひとつの物語仕立てにしてみせたヨルシカ。
それにつづくこの作品ではその趣向をさらに一歩先へと推し進め、朗読劇というスタイルを提示してみせている。
ステージ上に演劇用の舞台セットを用意して、そこでひとりの俳優がシナリオを朗読しながら物語を進めてゆくというスタイル。バンドは動物の鳴き声を効果音で出したりして、その演技の裏方も務めている。
『月光』の物語はぼんやりとしたイメージの提示という感じだったけれども、今回はセットがあり、演技があることで、物語がより明確な絵を描く。
描き出されるのは、ひとりの売れない画家が、夜な夜な訪れる動物たち――カナリア、カエル、カメレオン、梟、鹿、羽虫、等々――を相手にピアノでベートーベンの『月光』を奏でて聴かせるという、宮沢賢治の『セロ弾きのゴーシュ』へのオマージュ。
それが最終的には画集アルバム『幻燈』第二章の『踊る動物たち』へと結実してゆくという趣向になっている。
物語はn-buna自身の創作に対する経験が比喩的に表現されたものらしい。
こんな変わったステージを見せてくれるのはヨルシカだけだろう。最後にsuisサンが思わぬ形で登場するサプライズも含めて、とてもおもしろいステージだった。
ただ、なにせ二、三曲ごとに演劇パートが差し挟まれるので、純粋に音楽を聴きたいと思って観ていると、いささか冗長に感じられてしまうのが残念なところ。
『月光』の詩の朗読はn-buna自身だったからまだしも、こちらは見ず知らずの俳優さん(村井成仁という人)の演技だけになおさらだ。一度目はともかく、二度、三度とリピートするのはいささか苦しい。
映画だってよほど好きな作品じゃないと、そう何度も観ようって気にはなれないですよね? この作品にはそれと同じとっつきにくさがある。
だからといって、演劇部分は飛ばして音楽だけ聴くのも違う気がするしねぇ……。
ということで、作品自体は超個性的で唯一無二の内容だと思うけれど、ただこれがヨルシカの最高傑作かと問われると、素直にはそうともいいきれない。そんな作品。
ライブ全編がYouTubeで無料配信されているので、興味がある方はぜひ一度。
(May. 15, 2025)