Menu

最近の五本

  1. Iris / BUMP OF CHICKEN
  2. BUMP OF CHICKEN @ ベルーナドーム (Sep. 7, 2024)
  3. LOST CORNER / 米津玄師
  4. FUJI ROCK FESTIVAL '24 @ 苗場スキー場 (Jul. 28, 2024)
  5. パレード (Original Soundtrack) / 野田洋次郎
    and more...

Iris

BUMP OF CHICKEN / 2024

Iris (初回生産限定盤) (特典なし)

 BUMP OF CHICKEN、5年ぶりの新譜にして、インディーズから数えれば通算十枚目となる記念すべき一枚。
 ――とはいえ、今回もまっさらな新曲はわずか二曲だけ。あとはこの五年間にこつこつとリリースしてきた配信シングルをコンパイルしたものだから、新鮮味はいまいちだ。
 同時期のリリースでいえば、同じくらい配信シングルを出していながら、それに負けないくらい新曲を入れてみせた米津玄師や、いまだにシングルの収録は三曲のみで、あとは全部新曲という昔ながらの良心的なアルバムづくりを貫いているaikoと比べてしまうと、さすがにちょっと残念な気分が否めない。
 どうせならばリリースのインターバルを半分にして、収録曲は少なくてもいいから、そのぶん新曲たっぷりのアルバムを二枚作ってくれないものかと思うけれど、まぁ、BUMPももうデビュー二十周年を超えているわけだしねぇ……。
 そもそも十年近く先輩のレディオヘッドよりもすでにアルバム数は多いわけだし。この五年間、休みなくコンスタントに新曲をリリースしてきたからこそ、こういうアルバムが出来上がったわけだ。まずはその事実に感謝しよう。いつも楽しませてくれてありがとう!
 いやしかし。この時期の曲をアルバム一枚分まとめて聴いて驚くこと――。
 タイトルがわかる曲が少ない……。
 よく知っているのに「あれ、これってなんて曲名だっけ?」という曲だらけ。
 まえからけっこうそういう傾向は強かったけれど、今作はその極めつけ。
 理由は単純だ。タイトルが歌詞に使われている曲が極端に少ないから。
 歌詞を聴いて「あ、これはあれだ」と思うのって、『なないろ』くらいじゃないだろうか。『窓の中から』もタイトルが歌詞に出てくるけれど、Aメロでさりげない使われ方をし過ぎているので、僕のようなへぼリスナーは気がつかない。『SOUVENIR』には「お土産」って単語が出てくるけれど、翻訳しないとタイトルとつながらない。
 たぶん全十三曲中、タイトルが歌詞に出てくる曲って、それくらいじゃないだろうか。
 ここまで歌詞の内容がタイトルとリンクしない曲ばかり書いている人って珍しいのではないかと思う。僕はほかにはaikoくらいしか知らない。
 でも、そういうのって、逆にすごいと思うわけです。要するに「タイトル{ひとこと}」では言い表せないような歌を書いているということだから。
 メロディーに思いついたフレーズを乗せて、それをそのままタイトルにしてしまうのって、ある意味、曲作りの王道なわけで。
 藤原基央やaikoはあえてそういう王道から外れた脇道をこつこつと歩んでいる。それはそれでカッコいいことだと僕は思う。
(Sep. 28, 2024)

BUMP OF CHICKEN

TOUR 2024 Sphery Rendezvous/2024年9月7日(土)/ベルーナドーム

Iris (初回生産限定盤) (特典なし)

 BUMP OF CHICKENが新譜『Iris』のリリースにあわせて開始したドームツアーの初日。
 場所はベルーナドームこと西武ドーム。僕がこのスタジアムでライヴを観るのは大学生のころのサザン以来――当時の最新シングルは『みんなのうた』――だから、これがじつに三十六年ぶりとかだ。当時はまだ屋根がなかったので、ドームになった西武球場でライヴを観るのはこれが初めて。
 でもこのスタジアムは夏場に来るところじゃないね。
 あっつ~い。密閉されてないくせに風通りが悪いので、熱気がこもってやたらと暑い。たぶんフジロックよりも汗をかいた。
 帰りは帰りで唯一の帰宅手段である西武球場前駅が混みあって入場規制がかかり、ライヴ終演後に電車に乗れるまで、人ごみの中でつっ立ったまま一時間以上も待たされたし。こんな不快な思いばかりさせられるスタジアムには二度と来るもんかって思った。
 さて、そんなふうに会場に対する愚痴ばかりで始まってしまったけれども、肝心のライヴ自体は文句なしだった。
 新譜の曲を中心にしつつも、前回のツアー『ホームシップ衛星』から――「宇宙」というテーマつながりだから?――『飴玉の唄』『メーデー』『カルマ』などを組み込んだセットリストがとてもいい。なかでもひさしく聴けていなかった大好きな『カルマ』を、前回につづけて二回連続で聴けたのが個人的には胸熱だった。しかもアンコールの一曲目!
 ステージには大きなリングが配置されていて、バンドセットはそのなかにこじんまりと収まっていた。
 開演と同時にそのリングの縁が光を放ち、二曲目あたりで宙に浮かび上がる。
 ステージにあるセットはそのリングのみといっていいほどシンプルなのに、それでいてやたらとドラマチックでカッコよかった。
 あと、今回はステージ左右の大型スクリーンに、演奏するメンバーの姿が終始映し出されているのが印象的だった。
 BUMPってあまりカメラに映りたがらないイメージがあって、前に観た東京ドームや春の『ホームシック衛星』でも、スクリーンの映像は演出のCG映像が中心ってイメージだったのだけれど(単なる僕の思い込み?)、この日は最初から藤原くんの姿がドーンとアップで映し出されていて、以降もカメラは絶えずメンバーの姿を追っていた。
 美麗な映像演出もいいけれど、やっぱこうやってメンバーが演奏する姿がちゃんと見えたほうが、ライヴに来た!って気がして、気分が盛りあがるなぁって思った。

【SET LIST】
  1. Sleep Walking Orchestra
  2. Aurora
  3. なないろ
  4. 車輪の唄
  5. 記念撮影
  6. 青の朔日
  7. strawberry
  8. 飴玉の唄
  9. メーデー
  10. レム
  11. SOUVENIR
  12. アカシア
  13. クロノスタシス
  14. 木漏れ日と一緒に
  15. 天体観測
  16. 窓の中から
    [Encore]
  17. カルマ
  18. 虹を待つ人

 オープニングはニューアルバムと同じく『Sleep Walking Orchestra』で、前半戦は新譜の曲と過去曲を半々くらいにミックスした選曲。
 新譜『Iris』の楽曲はどれも地味めなので、これが最高とまでの盛りあがりは特になかったけれど、なかではこの日初めて披露された『青の朔日』がよかった。Aメロはいかにも最近の曲って感じなのに、サビで言葉が前のめりに飛び跳ねるようなリズムになるところが、これぞ昔ながらの藤原節って感じでツボ。
 前半最後の『飴玉の唄』のあとに「メーデー、メーデー」というSEがあって、『星の鳥』が流れるなかメンバーが花道へ移動して『メーデー』が始まる、という演出にもぐっときた。サブステージはアコースティックという印象を裏切って、この曲がふつうのバンド演奏だったのも二重丸。
 つづく『レム』――タイトルを『同じドアをくぐれたら』だと勘違いしていた――では最初はアコースティックの演奏だったのに、間奏でいきなりラウドなロックサウンドになったのにびっくり(知らないうちに増川くんがアコギをエレキに持ち替えていた)。でもって最後はまたアコースティックに戻るという。選曲的にもアレンジ的にもこの日いちばんのレア曲だった。
 そのあとサブステージでもう一曲『SOUVENIR』を演奏してから先、後半戦はほぼ新譜の曲のみ。例外は『天体観測』で、本編締めはその曲の次の『窓の中から』だった。BUMPってあまりコーラス合唱系の曲でラストを締める印象がなかったので、この曲を最後に持ってきたセットリストにも意外性があった。
 アンコールは前述したとおり『カルマ』を聴かせてくれたあと、大ラスは『虹を待つ人』!――場内大合唱で幕となった。やっぱこの曲はライブで映える。いやはや、感動的でした。
 ツアー初日ということで、今回もアンコール後のMCで藤原くんは「お見送りありがとう。いってきます!」といってステージを去っていった。
 なにげに二年連続でツアーの初日を観れてる僕らって幸せ者かもしれない。
(Sep. 16, 2024)

LOST CORNER

米津玄師 / 2024

LOST CORNER (映像盤) (CD+Blu-ray)

 前作につづき記録的な大ヒットとなった米津玄師の通算六枚目のアルバム。
 前作の『STRAY SHEEP』もすごかったけれど、今回も輪をかけてすごい。
 なにより収録曲が20曲というボリュームがすごい。前作より25%増量。
 去年出たKing Gnueの『THE GREATEST UNKNOWN』の21曲にも驚いたけれど、あちらがその曲数の中に曲間のつなぎのインストナンバーを多く含んでいたのに対して、このアルバムのインスト曲は最後の一曲のみ。
 つまりきちんとした歌ものが賞味19曲も収録されている。
 あのー、それってストーンズの『メイン・ストリートのならず者』(アナログ二枚組)より多いんですけど?
 まぁ、最近の人気アーティストの新譜のつねで、このアルバムにも配信リリースされたタイアップ曲がたくさん入っているけれど、それでもまっさらな新曲が8曲も聴けるのがいい。だって知っている曲ばかりではつまらないでしょう?――といわんばかりのこのサービス精神が素晴らしい。
 ジブリとのコラボで、かの宮崎駿監督にまでその才能を認められ、いまや名実ともに日本のトップアーティストの地位を揺るぎないものにした感のある人が、そのステータスに奢ることなく、こういう過剰なボリュームの作品をリリースしてみせる姿勢は尊敬に値する。
 僕はこれまでにリリースされたばかりの新譜の感想を、リリースされた週のうちに書いたことがなかった(少なくても記憶にない)。
 それというのも、最初はいまいちと思ったアルバムが、繰り返し聴いているうちに大好きになってしまう、なんて経験を何度もしてきたから。音楽についてなにかを書くのは、ある程度の回数を聴いたあとであるべき、というのがモットーだ。
 だから、リリースされたばかりのこのアルバムについて、このタイミングで文章を書くのは個人的な方針としては間違っている――のだけれども。
 これについてはさっさと書いちゃってもいいんじゃん?――って。
 リリースから数日間、繰り返し聴いてみて、そう思った。
 もとより僕は米津玄師の書く曲ならどれも無条件に好きというほどのコアなファンではないし、旧譜にしたってタイトルがわからない曲がごまんとある。大絶賛した『STRAY SHEEP』の収録曲だって、個々の曲名はうろ覚えだ。
 そういう男にとって、全20曲70分越えというこの新譜のボリュームは、いささか過剰すぎるのでは?――と思っていた。
 ところが、これがそうでもない。リリースから数日、繰り返し聴いているけれど、まるでだれることなく、いまだに最後まで気持ちよく聴ける。でもって終わるとすぐにリピートしたくなる。なまじ僕の趣味の真ん中というわけではない分、そのボリュームをまったく気にさせないバランスのよさに感銘を受けた。
 個々の楽曲を見ても、『KICKBACK』でモーニング娘のフレーズを引用したり、『死神』で落語をモチーフにしたりと、表現者としての引き出しの多さにも驚く。『シン・ウルトラマン』の主題歌に『M七八』という漢数字のタイトルをつけるセンスとかも、本当にすごいと思う。
 で、ここまで量と質を兼ね備えたアルバムを、今回も魅力的な自画像のイラストで飾ってみせるというね。
 もうやっていることがすべて規格外。この人のすごさをきちんと表現できるだけの言葉を僕は持たない。ただすごいとしか言えない。
 ならば、リリースされたこのタイミングであろうと後日であろうと、おそらく書けることにはたいした違いはないだろうし、鉄は熱いうちに打てで、今回に限ってはさっさと書いてしまっても、なんの問題もないのでは?
 そう思った次第でした。お粗末。
(Aug. 31, 2024)

FUJI ROCK FESTIVAL '24

2024年7月28日(日)/苗場スキー場

 これが人生最後のフジロック――。
 ゆく前からそんなことを思っていたけれど、行ってみて本当にこれで最後にしようと思った。もう体力的に無理だ。一時間歩いただけで疲れ切ってしまう男には、一日ずっと野外で過ごすだなんて、それだけでもう限界を超えている。
 しかも、この日みたいに雨が降ったりやんだりを繰り返す天候だと、横になって休むこともできないから、疲れはたまるばかり。序盤に無駄に歩き回ったせいで、最初のステージからもうすでに疲れて切っていたので、最後のほうは完全にエンプティ。とりのノエル・ギャラガーはまともに観れなかった。
 チケットは高騰して一日券は二万五千円もするし、それに加えて往復のバス代が二万円。飲食の費用まで加えれば、ひとり五万円コース。夫婦ふたりで十万円越え。
 これだけ出して、疲れや足の痛みのせいで、お目当てのライヴを満足に楽しめないなんて、酔狂にもほどがある。
 ほんと、これが最後の夏フェスにしようと心に誓った。

 もとより今年はフェスのはずれ年だったので、当初は観にゆくつもりはなかった。サマソニなんて観たいアーティストがひとつもない勢いだったし、フジロックは観たいアーティストがなくもないけれど、わざわざ苗場に行くほどではないレベルのバンドばかりだったから、今年の夏はフェスなしで静かに過ごせそうだと思っていたんだった。
 それが一転して行く気になったのは、ひとえにずとまよの出演が決まったから。
 だってグリーンステージだよ?
 フジロックのグリーンステージといえば、国内野外フェスの最高到達点だ。
 しかもその最後から二番目だよ?
 調べてみたら、過去十年にかぎっていえば、その時間帯にグリーンステージに立った国内アーティストは、エルレガーデン、サカナクション、コーネリアス、電気グルーヴの四組しかいない(国内アーティストしか出なかった2021年は除く)。
 そこにずとまよが加わるというのがすごい。大抜擢。
 もとより僕らがずとまよのライヴに魅せられたのは、五年前にYouTubeの配信で観たレッドマーキーでのステージが最初だったし、そのずとまよがついにグリーンステージまで昇り詰めるとなれば、観てみたいと思うのがファンのさが。
 でもチケット高いしなぁ、どうしようかなぁとさんざん悩んだんだけれども、同じ日にうちの奥さんが大好きなジザメリが出る。チバユウスケのいないThe Birthdayも出るという。彼らがどんなステージをするつもりなのかも興味があったし、ほかにもノエル・ギャラガー、ライド、キム・ゴードン(ソニックユース)、キタニタツヤの名前がある。
 これだけあれば観にいってもいいかもとさんざん迷ったあげく、最終的にはタイムテーブルが出た時点で観にゆくことに決めた。
 まぁ、キタニタツヤはジザメリの裏、キム・ゴードンはライドとまるかぶりだったので、これらのアーティストは最初から観られなかったし、ずとまよのあとのライドは疲労困憊で観る気力が湧かなかった。ノエルもステージがまともに観られない距離で遠巻きにその音を聴いていた状態で、観たというのはおこがましい。
 ということで、結果的にフルできちんと観たステージはわずか三つという。それどうなん?――と思ってしまうような今回のフジロックだった。
 観たいアーティストが、タイムテーブルのせいならばともかく、自己責任で観られないなんて、音楽ファン失格でしょう?
 やっぱ駄目だよ、大枚払って観にいったフェスで、好きなアーティスト見逃しちゃ。好きが疲れに負けるなんて。それはもう年寄りの証拠。ほんとにこれで夏フェスは引退だ。もうキュアーが来ても行かない。潔く諦める。

 さて、そんなわけでこれが僕らにとってのフジロックの最終回。
 移動は今回も日帰りバスツアーで、スケジュール表だと到着は十一時ということになっていた。
 それだと11:00スタートのグリーンステージの一組目は観れないじゃんって思っていたんだけれど、実際にはバスが予定時間より早めに出発したこともあって、十時前には苗場に着いていた。新宿からサービスエリアでの休憩を含めて三時間ほど。苗場って思ったより近い。
 ただ、せっかく早く着いたというのに、残念ながら観たいアーティストがない。
 グリーンステージのトップバッターは今回も台湾のバンドだし――通りすがりに聴いたら、アジカンをハードにしたような印象で、あぁ、なるほどフジロックっぽいかもとは思った――そのほかにもこれといって観たいバンドがなかったので、とりあえず14時のThe Birthdayまではゆっくり休もうということになった。
 でも性分的にそこでじっとしていられないのが僕の欠点。
 腰痛持ちで痛み止めを飲んで参加していたうちの奥さんは無理はしないといって、レッドマーキーの前の雑木林にレジャーシートを敷いて横になっていたけれど、僕はせっかくだからほかのステージの様子も見てこようと、彼女を置いて会場内の散策に出かけた。
 で、一時間くらいかけてグリーンステージ、ホワイトステージ、フィールド・オブ・ヘヴン、ジプシー・アバロンの四ステージの様子を眺め見つつ、会場の最果てまで歩いて戻った。
 でもこれが大失敗。かつては平気で歩けたその距離も、コロナ禍のテレワークライフを経て、すっかり体力が激落ちした五十代後半のいまの僕には過剰だった。
 行きはよいよい帰りはこわい。往路はともかく復路で股関節が痛み出す。足元はスニーカーではなくチェルシーブーツだし(天気予報が雨だったので長靴がわり)、足が痛くなるのも必然。奥さんのところまで帰りついた時点ですでにぐったりだった。

 奥さんと合流したあと、The Birthdayのステージが始まるのを待つ時間に、一度グリーンステージへと戻って、芝生に腰を下ろし、ルーファス・ウェインライトのパフォーマンスを数曲だけ観た。
 名前くらいしか知らない人だけれど(昔サンプル盤をもらって一枚聴いたことがある)、フジロックのサイトの紹介に「エルトン・ジョンから地球上で最も偉大なソングライターと呼ばれた」とあるのも納得。なるほど、歌がうまい。エルトン・ジョンっぽい堂々たるシンガーソングライターっぷり。
 若いころはこういう人の音楽ってまったく聴かなかったけれど、その後エルトン・ジョンの代表作とかも何枚か齧ったし、いまとなるとこういうのはぜんぜんありだなと思った。ピアノとギターの弾き語りによる朗々とした歌声が苗場の風景に広がるのを風に吹かれながら聴いているのは、なんとも気持ちよかった。

 その次、この日に本腰を入れて最初に観たステージが14:00からのレッドマーキーの WEEKEND LOVERS 2024 "with You"。
 これはチバユウスケがROSSOのころに中村達也のソロプロジェクトLOSALIOSと始めたジョイントライヴのタイトルだそうで、今回はチバ君の追悼をかねて、そのイベントが11年ぶりに開催された。
 ステージは最初の数曲がロザリオスで、その後にThe Birthdayの演奏があり、最後は両者のジョインで締め、という内容。
 ロザリオスは、中村達也(ds)、TOKIE(b)、堀江博久(key/g)、加藤隆志(g)、會田茂一(g)というメンバー(フジロックの公式サイトからコピってきた)で、曲はすべてインスト。よどみないゴリゴリのロックサウンドがカッコよかった。でもって、最後はまさかのミッシェルの『CISCO』! 観客のシャウトがすごい。
 カバーとはいえ、ミッシェル・ガン・エレファントの曲を生で聴くのは21年ぶりだ。さすがチバ君のトリビュート。熱すぎた。これが聴けただけでも苗場まで来た甲斐があるかもと思った。
 あと、ベーシストが女性だなぁと思っていたら、なんと宮本ソロのバックも務めたことのあるTOKIEサンでした。おぉ。
 つづくThe Birthdayは最初がインスト(オリジナル曲のチバ君のボーカル抜きバージョン)だったので、今回はゲストが出てくるまでは全曲歌なしのままかと思ったら、その曲の最後に藤井謙二が「お前の想像力が現実をひっくり返すんだ!」という歌詞をシャウトしてびっくりさせ、二曲目の『I SAW THE LIGHT』ではその藤井謙二がボーカルを取った(ほかのふたりも歌っていたのかもしれない)。
 まぁ、もともとこの曲はサビしか歌詞がない半分インストみたいなもんだしなぁと思っていると、つづく『サイダー』は普通に歌つき。ワンコーラス目がベースのヒライハルキ、二番をキュウちゃんが歌った。
 The Birthdayのメンバーが歌ったその二曲がどちらもチバくん逝去後にリリースした曲ってあたりにメンバーのそこはかとない配慮を感じた。誰もチバくんが生で歌うのを聴いたことがない曲だからこそ、自分たちの歌でも許してねという。
 その次の曲ではゲストに僕の知らないラッパーを迎え(THA BLUE HERB の ILL-BOSSTINOという人とのこと。若そうに見えたけれど、もう五十代だった)、最後にロザリオスのメンバーとともに二人目のゲスト、Suchmosのヨンスが加わって、大盛りあがりでパーティーは幕となった。
 演奏されたのは、最初のインストが『月光』(『サンバースト』収録)で、ゲストを迎えた二曲が『ハレルヤ』(『WATCH YOUR BLINDSIDE』収録)と『ローリン』(『NIGHT ON FOOL』収録)だそうだ。曲名もわからないあたりが The Birthday のファンを名乗れない証拠。
 そんな男がいうのもなんだけれど、The Birthdayのパートではチバユウスケの不在がもたらす欠落感がどうしてもぬぐい切れなかった。ロザリオスが予想外にカッコよかった分、なおさら対比で失ったものの大きさを感じてしまった。僕でさえそうなのだから、コアなファンにとってはいかばかりかと思う。
 ちなみにこのイベント、ライジングサンではゲストにHARRYが出演されることが発表されていたので、僕はこの日もHARRYが出るものと思い込んでいたから、出番なしで終わってしまって、なおさらがっくしでした。あぁ、HARRYの歌うバースデイ・ナンバーが聴きたかった……。

 レッドマーキーでこのステージを観ている間、テントの外はどしゃ降りだった。でも終わったころにはすでに止んでいで、その後はそこまで激しく降ることはなかった。いちばん大降りの時間帯にテントの中にいられたのだから、僕らはやっぱりラッキーだ。
 とはいえ、その後も雨は断続的に降ったり止んだり。本降りになる前にと思ってレインコートを着るとすぐに降りやんで、蒸し暑くて脱ぐとまた降り出す、みたいなのを一日じゅう繰り返していた。まったくうっとうしいったらない。この雨もフジロックはもうやめようと思った要因のひとつ。
 でもまぁ、一日じゅうずっと雨降りだったら、さぞやつらかっただろうから、これくらいの雨で済んで運がよかったのかもしれない。

 ホワイトステージへ向かう道すがら、グリーンステージにはクリープハイプが出演していて、尾崎世界観のエキセントリックなボーカルが緑の丘に響きわたっていた。

【The Jesus & Mary Chain】
  1. Jamcod
  2. Head On
  3. Happy When It Rains
  4. All Things Pass
  5. Chemical Animal
  6. Some Candy Talking
  7. Far Gone and Out
  8. Blues From a Gun
  9. In a Hole
  10. Sometimes Always
  11. Girl 71
  12. Darklands
  13. Just Like Honey
  14. Reverence

 The Birthdayのあと一時間ちょっと間があいて、その次がホワイトステージのザ・ジーザス&メリー・チェイン。
 ジザメリというと、暗い照明にスポットライトなし、見えるのはシルエットだけという覆面バンド的なイメージだったけれども、この日のステージはいまだ明るい時間帯だったので、これまでになく全員の顔がよく見えた。
 ずとまよとは違って顔を隠しているわけではないんだから、なんら問題はないはずなのに、ふだんは見えなかった顔がよく見えることにそこはかとない背徳感があった。「見えすぎちゃってこまるわ」という昭和のCMのフレーズを頭のなかで何度もリフレインしていた(マスプロアンテナでしたっけ)。
 二曲目――いきなり『Head On』!――でものすごい量のスモークが出たのも、やはり姿を隠したいがゆえ?――とか思ったけれど、野外ステージのスモークは、あっという間に風にさらわれてしまい、結局ステージは最後までくっきりはっきり見えっぱなしだったのが、なんかおかしかった。
 考えてみれば、ジザメリを野外で観るのはこれが初めてだったので、このふつうに見えすぎちゃう状態がなかなか新鮮だった。
 予習不足で今回もタイトルがわかったのは数曲。後半には女性ボーカル(二人)をゲストに呼んで一曲ずつ歌わせるコーナーがあって、二曲目の女性とはジム・リードが手をつないでふたりで見つめあったまま歌い、終わった後でキスして別れた。あれはなんだったんですかね? 彼女? 誰か説明してほしい。
 女性といえば、ジザメリもベーシストが女の人だった。ノエルのバンドにも女性メンバーがいたし、ずとまよはいわずもがな。この日僕らが観たステージはすべて男女混合だった。そんなところにも時代の変化を感じるような、そうでもないような。
 セットリストでは最後に『Darklands』と『Just Like Honey』という初期の名バラード二連発がきたのにレア感があった。
 でも、個人的なクライマックスは当然いちばん最後の『Reverence』。この曲のイントロが思いきり長かったのは勘弁だったけど(三分以上あったと思う)。ただでさえ疲れているんだからやめて欲しい。引っ張りすぎ。
 それでも、この曲での歴代のアルバムほかのアートワークをフラッシュバックで見せる演出はとてもカッコよかった。曲のよさを引き立ててあまりあった。大好きな曲を最高の演出で見られて大満足だった。
 いまの僕の趣味からすると、裏でレッドマーキーに出演中のキタニタツヤを観たほうがいいんじゃないかと思ったりしていたんだけれど、これ一曲でやはり見るべきはジザメリだったと思わせてくれた。やはりこの曲に代表される90年代のグルーヴはなにごとにもかえがたい。

 ジザメリのあと、ずとまよまで二時間近く空いていた。これといって観たいバンドもなかったし、もう疲れ切っていたので、そこからはグリーンステージに移動して腰をおろし、RAYEというUKの黒人女性のステージを遠まきに眺めながら、ずとまよの出番を待った。
 僕は知らなかったけれど、この人はグリーンステージの後半に登場するだけあって、本国ではすごい人気らしく、音楽的にも古典的なブラック・ミュージックをベースにしたパワフルな歌を聴かせていた。アリシア・キーズあたりに通じる実力派って感じ。なにより本人が楽しそうなのがよかった。昔(ずとまよと出逢う前)の僕ならば大喜びして聴いていたかもしれない。

 RAYEのステージが終わったあとは、モッシュピットに移動してずとまよの開演を待った。最近はモッシュは禁止っぽいから、いまはモッシュピットとは言わないのかもしれないけれど、ほかの呼び方がわからない。ステージ前の柵で囲われたブロック。
 本当に疲れ切っていたので、近くで観るのは諦めて、ステージがよく見えるあたりの芝生に座って観てしまおうかとも思ったんだけれど、モッシュピットをのぞいてみたら、入口すぐの柵のところにちょうど二人分のスペースが空いていたので、これ幸いとそこに陣取り、柵にもたれて座ったまま開演を待つことにした。近くで見られるならば、それに越したことなし。

 こうやってステージ前で開演を待つ時間もフェスのよさのひとつかもなぁとその時に思った。普段は見ることのない、バンドのメンバーが自ら楽器のセッティングをしている姿が見られるのがいい。WEEKEND LOVERSでもキュウちゃんや中村さんらが自らドラムのセッティングをして、バンド仲間と軽くセッションしてみせていた。
 すとまよでもお馴染みのバンドの面々が目の前で自分の楽器を調整していた。ソロ公演では開演前にバンドのメンバーを見ることってまずないので、この臨場感は貴重だなぁって思いながら開演時間を待っていた。

【ずっと真夜中でいいのに。】
  1. 眩しいDNAだけ
  2. お勉強しといてよ
  3. 嘘じゃない
  4. 消えてしまいそうです
  5. 上辺の私自身なんだよ
  6. 海馬成長痛 [新曲]
  7. 残機
  8. 機械油
  9. 綺羅キラー
  10. 秒針を噛む
  11. マイノリティ脈絡
  12. あいつら全員同窓会
  13. 暗く黒く

 ずっと真夜中でいいのに。のステージは19:00から。予定時間は1時間10分。とり前だけあって、他のアーティストよりちょっとだけ長めだった。待っているあいだに陽が落ちて、あたりはもう真っ暗。
 ステージはオープンリールとTVドラムのソロでスタートした。ずとまよファンにとってはお馴染みの風景だけれども、知らない人にとってはなにそれなオープニングだろう。いきなり攻めの姿勢がすごい。
 主役のACAねは一足遅れて、あとから登場。片手に剣みたいなものを持っていたから、いきなり『残機』をやるのかと思ったらハズレ。一曲目は『眩しいDNAだけ』で、手に持っているのは細長いノズルのついた謎の工具(掃除機?)だった。フェスでも小道具が斜め上。
 二曲目が五月のツアーファイナルでは聴けなかった『お勉強しといてよ』!
 で、もうまわりはすごい盛りあがり。
 ずとまよのファンってライヴ慣れしてない子が多くて、ソロ公演はいまいちお行儀がよすぎる印象なのだけれども、この日は外様のオーディエンスもたくさんいたので、乗りのよさがいつもと違っているのが新鮮だった。
 最初のうちはすいていたモッシュピットも、曲が進むにつれて人が増えて、途中からはびっしり満員になった。ACAねが持ち込み自粛を唱えたからしゃもじを振っている人もあまりいなかったし、確実にいつものライヴとは違う盛りあがり方をするオーディエンスに混じって、慣れ親しんだずとまよナンバーを聴くのはとても楽しかった。
 でも、いかんせん疲れていて、足も痛く、アドレナリンの興奮もそのマイナスを十分に緩和してくれない。大好きなずとまよを観ながら、あぁ、俺はもう本当にフェスは無理だと、この日何度目かの思いを新たにした。
 この日のセットリストでよいなと思ったのは『上辺の私自身なんだよ』。シューゲイザーっぽい音作りのゆったりとしたグルーヴは苗場に集まった一部のオーディエンスに絶対に届くはず。さすがACAね、わかってんなぁと思った。
 その次に演奏された新曲――後日『海馬成長痛』というタイトルが発表された――は、いまとなるとどんな曲か記憶が定かじゃないけれど、感触的にはいつも通りのずとまよナンバーって感じだった(つまり一聴した途端に名曲と思うタイプの曲ではないけれど、不思議と繰り返し聴き返さずにはいられず、聴き返すうちに絶対に好きになってしまうこと確実なするめ曲ということ)。
 あとこの日の目玉はメンバーに津軽三味線の小山豊氏がいたこと。まさか本人が参加しているとは思わなかったから、三味線を弾く人がいるのを見て、佐々木コジロー? 三味線上手いなと思っていたら、あとでコジローくんではなく、ご本家だったことを知って驚いた。
 わざわざ小山氏を引っ張り出してくるあたりにも、この日のステージに対するACAねの並々ならぬ本気度が伝わってくる。小雨混じりの夜の苗場で聴く『機械油』、最高でした。
 そこから先は鉄板のダンスナンバー乱れ打ち。個人的に残念なのは『ミラーチューン』が聴けなかったことくらい(あの曲の陽気なグルーヴを苗場で浴びたかった)。
 ラストナンバーにシリアスな『暗く黒く』を持ってきたのに意外性はあったけれど、この辺は『本格中華』の流れを汲んでいるんだろう。その曲でのメンバー紹介もツアーの流れと同じだったし。この日は個人名ではなく楽器名だけを紹介したのも、見慣れない楽器の多いずとまよゆえ、英断ではと思った。
 その曲の前の長めのMCで感涙まじりにフジロックに対する特別な思いを語ったのも感動的だった(――まぁ、たどたどしいしゃべりにシャイなキャラがあらわになっていたので、ファンでない人にどう受け取られたのかはいささか気になる)。
 フェスのステージは単独ライヴの半分のボリュームしかないし、わざわざ観にいかなくてもってファンも多いと思う。僕だっていつもならばそうだ。
 でもこの日のライヴに関しては、フジロックのグリーンステージということで、やはり特別感がたっぷりだった。始まる前の待ち時間から、終わったあとの余韻まで。いつもの単独ライヴでは味わえない見どころがたっぷりとあった。
 これを最後に夏フェスから引退するに悔いなし――。
 そう思わせるに十分なステージだった。
 最後に苗場で観たのがずとまよでよかった。

【Noel Gallagher’s High Flying Birds】
  1. Pretty Boy
  2. Council Skies
  3. We're Gonna Get There in the End
  4. Open the Door, See What You Find
  5. You Know We Can't Go Back
  6. We're on Our Way Now
  7. In the Heat of the Moment
  8. If I Had a Gun...
  9. AKA... What a Life!
  10. Dead in the Water
  11. Going Nowhere
  12. Talk Tonight
  13. Whatever
  14. Half the World Away
  15. The Masterplan
  16. Little by Little
  17. Love Will Tear Us Apart (Joy Division cover)
    [Encore]
  18. Stand by Me
  19. Live Forever
  20. Don't Look Back in Anger

 ――といいつつ、この日の最後はずとまよではなく、ノエル・ギャラガーズ・ハイ・フライング・バーズ。
 まぁ、前述した通り、ずとまよで疲れ切ってしまったので、このバンドは観たというより、遠くから耳を傾けていたというほうが正しい。グリーンステージの入り口あたりの芝生にへたり込んで、遠くのスクリーンに映るノエルの姿を眺めていた。
 ステージはまったく見えない場所だったし、樹木が視界を遮って、スクリーンも一部が隠れていた。途中からは雨が降り始めてしまい、レインコートを着て、座り込んだまま、雨に打たれていた。
 ノエルのソロもオアシスも聴き込みが甘いので、曲名がわかったのはオアシスの数曲だけ。『Whatever』や『Little By Little』を聴いて、こういうオアシス・ナンバーも遠慮なくやっちゃうんだなと感心した。
 あと、本編の最後がジョイ・ディヴィジョンの『Love Will Tear Us Apart』のカバーというのも意外性があっておかしかった。なぜその曲?
 あとでセットリストを確認したら、本編の途中からはその一曲をのぞいてすべてオアシス・ナンバーだった。ほんと遠慮なくてすごいな。
 だってアンコールなんて『Stand By Me』と『Live Forever』と『Don't Look Back in Anger』だよ?(まぁ、最初の二曲はアコースティックセットだったけど)。オアシス・ファンだったら悶絶もんじゃなかろうか。
 ――いやもとい。そんなにオアシスの曲をやるくらいならば、さっさとオアシスを再結成してくれってファンのほうが多そうな気がする。
 まぁ、なんにしろ、距離があって障害物も多かったので、音もいまいちで、音楽的なことはまったく語れない。ノエルを観たと語るのもおこがましいレベル。
 ということで、今回のフジロックは実質的にずとまよがファイナルだった。

 ノエルのステージが終わったのが午後十時半過ぎ。帰りのバスの出発は午前一時だったので、それまで二時間以上待たないと帰れない。仕方なくレッドマーキーの隣の飲食エリア――その名もオアシス――に移動して、しばらく時間をつぶした。
 でもって、ちょっと早いけどもう移動しちゃおうと、そこからバス乗り場までゆこうにも、道には人があふれていて、なかなか前に進めない。徒歩で三十分くらいかかったんじゃなかろうか。なんで午前零時近くにこんなに歩かなきゃなんないんだよぉ……。
 ようやくバスに乗れて、出発を待つあいだの安心感はなんともいえなかった。
 いやぁ、今回のフジロックはマジつらかった。本当にほんと、夏フェスはこれが最後だ。わざわざ高い金を払ってつらい思いをするなんて馬鹿にもほどがある。
 バイバイ、苗場。もう二度とこない。たぶん。
(Aug. 17, 2024)

パレード (Original Soundtrack)

野田洋次郎 / 2024

パレード (Original Soundtrack)

 野田洋次郎が手掛けた通算五枚目の映画のサウンドトラックにして、初の個人名義での作品。
 RADWIMPSの過去のサントラとのわかりやすい違いは、まったくギターが鳴っていないこと。ピアノにオーケストラ、あとシンセサイザー少々みたいな音作りで、全編が緩やかでしっとりとした音楽で統一されている。
 『パレード』は死後の世界を舞台にした静かな作品で、新海作品のようなダイナミックなシーンは皆無だから、つまりそれ相応の内容に仕上がっている。最後に歌もの『なみしぐさ』が一曲入っているだけで、あとはすべてスローなインストナンバーだけという点も含めて、同じく藤井道人監督作品のサントラだった『余命10年』と同系統な印象。
 もともとこの手のサントラは洋次郎が主体となって作ってきたのだろうし、この内容だったらバンド要素は不要だから、ならば今回からはソロで――ということになったのかもしれない。
 いずれにせよビートミュージック命の僕にとっては守備範囲外で、そう繰り返し聴く気にはなれないタイプの作品。
 でもこういうのを大音量でかけて、その音の波に身を任せながらワインのグラスを傾けたりすると、それはそれで気持ちのいい時間を過ごせそうな気もする。
(Jul. 21, 2024)