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Recent Notes

  1. 前世 / ヨルシカ
  2. 宮本浩次 @ 東京ガーデンシアター (Jun 12, 2021)
  3. 創作 / ヨルシカ
  4. Letter To You / Bruce Springsteen
  5. Hey Clockface / Elvis Costello
    and more...

前世

ヨルシカ / 2021 / Blu-ray

ヨルシカ Live「前世」(通常盤)(特典:なし)[Blu-Ray]

 ヨルシカ初の映像作品は一月に有料配信された無観客ライヴをパッケージ化したもの。
 この作品に関してはまずはそのロケーションが素晴らしい。
 配信ライヴというと観客が入れられないから仕方なくライヴ会場をそのまま使いました、という無人の客席を前にした演奏がほとんどだと思うけれど、才人n-bunaはそんなありきたりをよしとしなかった。
 彼らがライブ会場として選んだ場所は八景島シーパラダイス。照明を落とした真っ暗な館内に、青いライティングに照らし出された水槽の中の魚影の群れがきらめく。普段の水族館とはまったく違う、そんな幻想的な背景にあわせ、ヨルシカは弦楽四重奏をフィーチャーした、その舞台にふさわしいスペシャルな演奏を聴かせてくれている。もとより顔出しNGで活動しているために、ライヴとはいってもステージ上でメンバーがスポットライトを浴びることがない、素顔をさらしていないバンドだからこその発想だと思う。
 ライブの目的は自分たちの容姿や演奏する姿を見せることではなく、生の演奏を聴いてもらうこと。でも観せるものであるからには、映像的にも魅力的なものにしなくてはいけない。だとしたら無人のコンサートホールなんて会場としては問題外だし、全員がモニターやスマホで観ることを前提としている以上、MVや映画的なものを背景にしたのでは「生」である意義が乏しい――。
 そんな風に考えたのかどうかは知らないけれど、結果として選ばれた夜の水族館というロケーションは、ヨルシカというバンドの演奏を披露する場所として、これ以上はないほどにふさわしかった。
 ふだんは生演奏など行われるはずのない場所で実際にライブが行われているという非現実感が、ほのかな光にきらめく名も知らぬ魚の群れの幻想的な美しさや、ストリングスの深みのある調べとあいまって、この作品を特別なものにしている。
 あとね、このライブはsuisのボーカルが本当に魅力的。
 ヨルシカはn-bunaのミュージシャンとしての全方向の才能と並んで、suisのボーカリストとしての力量もセールスポイントだと思うのだけれど、僕個人は失礼ながらこれまでsuisさんのことをそこまで特別だと思っていなかった。
 もちろん彼女の歌の上手さが彼らの楽曲の魅力を引き立てているとは思うけれど、僕がヨルシカを特別視するのはあくまでn-bunaのバンドだからであって、たとえばもしボーカルがsuis以外の人に変わったとしても、僕にとってのヨルシカの価値は変わらないだろうと思う。要するに僕にとってsuisというボーカリストは代替可能な存在だったわけだ。
 でもこのライヴでのsuisのボーカルはとても素敵だ。ほとんどずっと椅子に座ったまま、軽く身体を揺らしながらハンドマイクで歌う彼女の力みのない丁寧な歌声には、ACAねや椎名林檎やCoccoとはまた違った、独特の魅力がある。安定したレコーディング音源とはまた違った、心もちラフな揺らぎが感じられるところがたまらない。
 たいていのライブ作品は一度観て終わりという僕をして(二時間もある映像作品をそう何度も観てはいられない)、この作品を二度三度と繰り返して観させているのはその映像の美しさに加えて、そんなsuisさんのボーカルの魅力に負うところが大きい。
 おそらく去年から今年にかけてリリースされたライヴ作品のうちでも、もっとも個性的かつ魅力的な作品のひとつではないかと思います。
(Sep. 18, 2021)

宮本浩次

宮本浩次縦横無尽/2021年6月12日(土)/東京ガーデンシアター

ROMANCE(初回限定盤)(2CD)(特典なし) sha・la・la・la(初回限定盤)(ボーナスCD付)

 宮本浩次の五十五歳の誕生日に行われたバースデイ・ライヴをお台場の東京ガーデンシアターという新しいホールで観た。
 最近は『ROMANCE』のヒットで宮本人気が高騰しているので、正直なところ、当初のファンクラブの抽選に外れた時点で、今年はもう一度も宮本とエレカシを観れずに終わるんだろうなと思っていた。
 なのにちゃんと観ることができたのは、ひとえにうちの奥さんのおかげ。彼女が根気づよく一般発売の抽選に申し込んだところ、二度目の挑戦でまさかの当選。諦めない心って大事だなぁと思いました。僕ひとりだったら絶対に観れていない。持つべきものはエレカシ・ファンの妻。
 この日のライヴは同時配信があったので、もともとネットで観る前提で、一万円台で買える小型PCをテレビにつないだりして準備万端だったのだけれど、やはり生で観るのとテレビで観るのとではまるで違う。特に今回は宮本にとってバンドでは初のソロ公演だ。これまでに百回以上エレカシのライヴを観てきた僕らにとっても珍しいことづくめのレアなコンサートだったので、生で観られて本当にラッキーだった。
 東京ガーデンシアターというホールは、東京ドームホールを巨大にしたというか、東京国際フォーラムをすり鉢状にしたというか、そういう感じの会場。開館してまだ一年とのことで、いまどきの最新ホールの類にたがわず、こじゃれた感じの空間だった。
 そんな会場に寄せたのか、はたまた最近の宮本のモードがそうなのか、開演の待ち時間にかかっているBGMもブライアン・イーノほかの環境音楽みたいなインスト・ナンバーばかり。オーディエンスも予想通り中高年の女性中心だったから、なんかムーディーな大人のコンサート会場って感じがはんぱなかった。ステージは映像演出のための半透明のスクリーンで隠れているし、もう始まる前から会場の空気がいつものエレカシとは違う。
 配信の都合もあるからだろう、コンサートはほぼ定刻ジャストに始まった。
 まずはステージ手前のスクリーンに「1966.06.12」という宮本の生まれた日付が映し出され、そこからソロ活動を始めた2018年まで時計を一気に進めて、これまでのソロ活動の歴史をモノトーンの映像で走馬灯のようにフラッシュバックしてみせる。
 その映像とともに一曲目が始まる──のかと思った始まらない。ちょっとしたインターバルのあと、真っ暗なステージに黄色いランタンの灯が出てきて、その灯しか見えない状態で一曲目の『夜明けのうた』が始まる。なんなんだこのオープニング。で、なんだっけこの曲?――とか思ってしまった駄目な男。エレカシ・ファン失格。
 帰宅後に配信チケットを買って、あとで映像で確認したら、宮本がランタンを持ったり置いたりしながら歌っていたけれど、バルコニー三階右手の席にいた僕らからはそんなことは確認できず。おぼろげに宮本らしき人の影は見えたけれど、ステージ手前のスクリーンも降りたままだから、なおさら視認性が低くて、わけがわからなかった。僕らの席からだと、音響的には可もなく不可もなくって感じ。
 ステージはツーコーラス目に入るくらいから、足元から徐々に明るくなってゆき、曲が「あぁ、町よ~、夜明けがくる場所よ~」という最後のコーラス(感動的だよねぇ)に辿りついたところでようやくスクリーンがあがって宮本の姿が確認できるようになる。『夜明けのうた』ってことで、夜が明けてゆく風景を演出したんだろうけれど、正直なところ、見えなさ過ぎて印象はいまいち。最初から普通に出てきてくれた方がもっと盛り上がったんじゃん?――って思ってしまいました。
 この日のコンサートはそういう、なにそれ?って思う演出のオンパレードだった。『解き放て、我らが新時代』で宮本がステージ正面に設置された手すりつきの小ステージ(ゴンドラ?)で宙に持ち上がったのは大笑いだったし──しかもそれがその一曲でしか使われなかったのも失笑もの──小林武史のピアノと宮本のスキャットの掛けあいを映像演出つきで見せた『きみに会いたい』や、『ROMANCE』コーナー(意外と曲数が少なかった)でわざわざアルバム・ジャケットで使用した黒い机と赤いリンゴを配置した演出、宮本が知らないうちにお色直しをして白スーツ姿でどーんと登場した『獣ゆく細道』、第二部ラストの『Sha・la・la・la』でのミラーボールなどは、それぞれにけっこうなインパクトがあった。とくに白スーツには笑った、笑った。宮本がライヴの途中でお色直ししたのなんてはじめて見たよ。いやー、おもしろかった。
 エレカシの場合はまずは演奏ありきで、演出はライティングのみってのがあたりまえだったから、ほぼ全曲になんらかの映像演出が施されていたこの日のライヴは、これがエレカシではなく宮本のソロなんだってことを、否応なく実感させるものだった。アミューズみたいな大きな事務所がバックにつくとこうなるのかとも思った。
 それと演出うんぬん以前に、バンドと宮本との関係性の違いで、ここまで音楽の印象が変わるのかって、そのことの驚きもあった。

【SET LIST】
    [第一部]
  1. 夜明けのうた
  2. 異邦人
  3. 解き放て、我らが新時代
  4. going my way
  5. きみに会いたい -Dance with you-
  6. 二人でお酒を
  7. 化粧
  8. ジョニィへの伝言
  9. あなた
  10. shining
  11. 獣ゆく細道
  12. ロマンス
  13. Do you remember?
  14. 冬の花
  15. 悲しみの果て
  16. P.S. I love you
    [第二部]
  17. passion
  18. 明日以外すべて燃やせ
  19. ガストロンジャー
  20. 今宵の月のように
  21. あなたのやさしさをオレは何に例えよう
  22. 昇る太陽
  23. ハレルヤ
  24. sha・la・la・la
    [Encore]
  25. [新曲]

 この日のバンドはギターが名越由貴夫、ベースがキタダマキ、ドラムが玉田豊夢、そしてキーボードがバンマスの小林武史、ボーカルが宮本という五人組だった。
 ソロ初となる記念すべきバースデイ・ライヴだし、ストリングスやホーンも入れた大人数でくるかと思っていたら、意外や少人数だった。
 この日のライヴを演出した児玉裕一という人は椎名林檎の旦那さんなのだそうで、そのつてを辿れば『獣ゆく細道』で椎名林檎をゲストで呼ぶことだってできたんじゃないかと思うんだけれど、でもまぁ、考えてみればバースデイ・ライヴですからね。呼んだらみずから誕生日プレゼントをおねだりするような形になってしまうので、そういうわけにはいかなかったのかなぁと思った。あと、密は避けようって風潮のコロナ期だから、あまり大人数は向かないという配慮もあったのかもしれない。
 ということで、バンドは最小構成ではあったけれど、それでもメンツは経験豊かな歴戦の勇者と呼べる人たちばかりということもあって、アンサンブルは完璧。エレカシとはあきらかにレベルが違った。『二人でお酒を』のインティメートでミニマムな音作りから、『Do you remember?』での剛球パンク・サウンドまで、まさに縦横無尽に鳴らし切るその演奏力には脱帽だった。小林武史ってやっぱすごいのねって思いました。
 宮本もそんなメンバーを信頼して、演奏はバンドにまかせっきりで、歌を歌うことだけにことに専念していた。この日ギターを手にしたのは『今宵の月のように』のアコギ一曲だけだし、それだって途中で弾くのをやめてしまういつものパターン。宮本がこんなにギターを弾かないライヴってはじめて観た(あと演奏のやり直しが一度もないライブも珍しいと思った)。まさに「ロック歌手」宮本浩次ここにありって感じ。
 ただ、バックがしっかりしていたことで、宮本の欠点がめだってしまった感もなきにしもあらず。最近はキーに無理がある新曲が多いし、女性のカバー曲でファイルセットも多用しているので、歌い方が不安定で苦しげになってしまう場面が多かった。
 エレカシの場合は宮本のそんな苦しげな歌い方も、宮本自身の荒くれたギターやバンドの乱れがちな演奏とあいまって、かえって一体感を醸し出す要因となっている感があるのだけれど、この日みたいなきっちりとしたバンドで聴くと、もうちょっとどうにかしたほうがいいのでは……という気がしてしまった。ボーカリストとしての力量には疑問の余地はないんだけれど、ところどころ無理しすぎて破綻している感じ。
 まぁ、そういう意味ではエレファントカシマシというバンドの重要さを改めて認識させたコンサートだったという気もする。やはり宮本浩次というボーカリストにとって、その魅力を最大限に発揮できるバンドはエレカシなんじゃん? って思いました。
 それしてもバンドが違うと同じ曲でも変わるもんすねぇ。この日は『悲しみの果て』『今宵の月のように』『ガストロンジャー』(まさかやるとは!)『あなたのやさしさをオレは何に例えよう』(もともと小林武史プロデュース)というエレカシ・ナンバー四曲が演奏されたけれど、どれもエレカシとは確実にニュアンスが違った。どの曲もエレカシのバージョンよりすっきりとしてシャープな感じがした。なかでは心持ち速め(ほんとほんのちょっとだけ)の『今宵の月のように』が思いのほか気持ちよかった。
 いろいろなところでソロでの成功の影響力を感じさせたライヴだったけれど、オーディエンスの反応がいままでとは違うのも印象的だった。
 売れたことで客層にもそれなりの変化があった。もう単純に拍手が入るタイミングが違う。これまでは演奏の最後の一音が消えるのを待ってから拍手する感じだったけれど、この日は演奏が終わる前に自然と拍手が沸き起こる。歌謡ショーみたいにワンコーラス目の終わりで拍手が起こったりもする。二部の開始を待つあいだも手拍子が鳴りやまない。コンサート慣れした人たちって、クラシックばりに礼儀正しく拍手のタイミングにこだわる印象があったから、そういう風にファンが感極まって自然に拍手が起こるのって、意外と新鮮でいいなって思った。
 あと、まわりが立たないもんで、この日は最後の最後まで座ったままだった。三階席からだと見降ろす感じでけっこうな急勾配だったから、立つと安定感がなくてちょっと怖いかなとは思ったけれど(まぁ、絶対落ちたりはしないんだけど)、エレカシ関連のソロ公演を一度も立たずに観るなんて、「踊ってんじゃねぇよ」って罵倒されるから立てなかったエピックのころ以来じゃないかと思う。同じ座ったまま観るライヴでもあのころとはまったく状況が違うことに、なかなか感慨深いものがあった。
 この日の個人的なクライマックスは『Do you remember?』と『ハレルヤ』。
 『Do you remember?』は宮本のボーカルが苦しそうな曲の代表のような曲だけれど、出ない声を無理に振り絞るために、見た目を気にせず、終始うつむいたまま体をくの字にして絶叫しつづける──そして最初から最後まで声がしっかり出ている──宮本の姿がめちゃくちゃ感動的で、観ていたらなんだか涙腺が緩んでしまった。なぜだか靴を脱いで放り出し、白スーツのパンツの裾をたくしあげる意味不明なアクションも滑稽で最高でした。感動的なのに笑える。これぞ宮本の真骨頂。
 あと『ハレルヤ』にはこのご時世だからこそって感動があった。「ああ涙ぢゃなく、笑いとともにあれ、ハレルヤ」という歌詞がストレートにずどんと胸に落ちた。「ああ笑いとあれ 幸あれ」──まさにそうであって欲しいよねぇって。本当にいい曲だと思いました。
 そんな感動的なこの曲だったけれど、歌詞を一番と二番で間違った宮本のリアクションがちょっとおもしろかった。「大人になった俺たちゃあ夢なんて口にするも野暮だけど」という一番の歌詞の「野暮だけど」を「照れるけど」と歌い間違えた宮本は──いつもならばそんなことには気がつかないのだけれど、今回はスクリーンに宮本手書きの歌詞が出ていたので「あ、間違った」と思った──二番で同じところを「照れるけど」と歌いかけて、途中から「野暮だけど」に歌いなおした。ちょうどステージに背を向けてスクリーンのほうを向いていたところで、自分の書いた歌詞が目に入っていたのと、ワンコーラス目で「照れるけど」って歌ったのが記憶の隅に残っていたせいで、反射的に変えてしまったのかなと思うけど、あっている歌詞をわざわざ訂正して間違えたところになんともいえないおかしみがあった。
 まぁ、そんな小さなミスはあったけれど『ハレルヤ』は本当に感動的でした。いやー、最高の大団円!――って思ったら、そのあとに『sha・la・la・la』があって、若干あれ?――と思ってしまったという。正直なところ、そこは順番が逆のほうがよかったと思うけれど、宮本としては最新曲で最後を締めたかったんでしょうかね。
 いや、『sha・la・la・la』が嫌いなわけじゃないですよ? 宮本ソロのシングルとしてはもっとも宮本らしくていい曲だと思う。でもこの日は『ハレルヤ』があまりによかったから、もうしばらくその余韻に浸っていたかったなぁと。そういう話。いっそ『sha・la・la・la』がアンコールならば申し分なしだった。
 ということでこの日のライヴ本編は『sha・la・la・la』でもって終了。そのあとのアンコールはネットでは配信されなかったので、生で観られた幸運をさらに痛感することになった。それも宮本が二、三日前に作ったばかりの新曲を、小林武史のピアノだけの伴奏で、歌詞を書いた紙を見ながら歌って聴かせるという超レア企画。
 曲自体はサビの最後が「光の世界」という歌詞で終わる、最近の宮本ポジティヴ路線のバラードで、個人的には好みとはいえなかったけれど、それでもサビでの無理のない朗々とした歌声が魅力的だった。やはり宮本にはこういう自然なキーで歌える曲をもっと多く作って欲しいなって思った。
 最後はその曲のあいだ引っ込んだままだった三人をふたたびステージに呼び出して、全員で挨拶をして終了。そういえばこの日は『あなたのやさしさをオレは何に例えよう』でのメンバー紹介コーナーもなにげに最高だった。メンバーひとり一人に対する宮本のリスペクトが溢れていて、なおかつおもしろみもたっぷり。特に「上から読んでも下から読んでもキタダマキ!」というMCはこの日の最高傑作だと思います。みごと騙された。
 正直このライヴを観たあとでも、宮本のソロよりもエレカシが観たいと思う気持ちには変わりがないけれど、それでも『ハレルヤ』や『Do you remember?』がこれきり聴けないとしたら、それはそれは残念すぎる。いっそエレカシでも『ハレルヤ』をやってくれないかなぁとか思いながら帰路についた六月の夜でした。
 それにしても、三十二年連続でこの人のライヴを観ている俺って、なんて恵まれた星の下に生まれたんだろうと思う。
(Jun. 20, 2021)

創作

ヨルシカ / 2021

創作(Type A)

 ヨルシカ三枚目のミニ・アルバム――だと思っていたら、曲数がこれまでより少ない(歌もの四曲とインストの計五曲)ので、公式サイトではEPと呼ばれていた。要するにシングル以上、ミニ・アルバム以下というボリュームのヨルシカの最新作。
 内容的には『強盗と花束』『花泥棒』に、表題作のインスト、ニュース番組のテーマ曲に使われた『風を食む』、そして『嘘月』というタイトルの五曲。半分に強盗、泥棒、嘘というネガティヴなタイトルがついている点で、サード・アルバム『盗作』の補遺的な印象を受ける作品。まぁ、とはいえ今回は直接犯罪を歌っているのは『強盗と花束』だけだけれど。
 気になったのは、 曲数が少ない割には、ファースト・ミニ・アルバムの『夏草が邪魔をする』よりも価格が高くて、コスパが低い点。大手ユニバーサルに移籍してから商業主義に呑み込まれつつあるようで、いまいち残念な感が否めないのだけれど、まぁ、この作品の場合、通常のCDと同時に――配信で音楽を聴くリスナー向けってことで――CDなしのパッケージだけのバージョンも発売していて、そちらが千円だというので、通常のCDとの差額の九百円(+消費税)が五曲の価格だということになる。ならば決して高すぎはしないのかなぁと思ったりもした。
 それにしても、あいかわらず物議をかもしそうな歌を書いているn-bunaくん。基本フィクションだから許されるという前提で書いているのだと思うけれども、よもや本当に犯罪嗜好があったりしたらどうしようとか思ってしまったのは、去年マンガ『アクタージュ』の原作者が性犯罪で捕まった事件があったせい。
 引きこもり気味のマンガ原作者とは違って、ミュージシャンはバンド仲間やスタッフなど、数多くの人たちに支えられて活動しているので、自らの責任の大きさは十分にわかっているだろうから、変なことはしないと信じている。これからも末永く活動をつづけていただくことを心から願っています。
(May. 30, 2021)

Letter To You

Bruce Springsteen / 2020

Letter to You -Digi-

 これも去年、コステロの新譜より一週間前にリリースされた作品。前作『Western Stars』からわすか一年四ヵ月という短いインターバルでリリースされたブルース・スプリングスティーンの最新作。
 なんでも2019年の十一月にほぼ一発どりでレコーディングされた作品らしいけれど――そうとは思えない見事なアンサンブル――あれほど充実した内容だった前作からすると意外なほどのインターバルの短さは、二年前に他界した若き日のバンド仲間への追悼のためらしい。とはいっても少なからず新型コロナのパンデミックも影響しているのだろうと思う。
 いやー、しかしスプリングスティーンも年をとったねぇ。ジャケットのポートレートがみごとにお爺ちゃん。そりゃそうだよね。もう七十歳を超えてんだもんねぇ。
 でも見た目はすっかり老人だけれど、聴かせてくれる歌は決して老けていない。ピアノとオルガンを中心としたバンド・サウンドは往年のE・ストリート・バンドのまんまだし、ジャケットを見なかったら、そんな高齢だとはとても思えない、かつてと変わらない若々しいパフォーマンス。クラレンス・クレモンスの息子のジェイクが父親譲りのサキソフォンを吹き鳴らしているのも変わらない印象を強めている。
 ストリングスを取り入れたウェルメイドな音作りがとても新鮮だった前作から一転、あれから一年足らずで、今回はふたたびE・ストリート・バンドに戻って、なんのギミックもない、いつも通りのバンド・サウンドで朗々たる歌を聴かせてくれる。
 老境に入りながら、なおかつこんなに充実した作品をあいついで世に送り出しつづけているボスはやっぱりすごかった。
(May. 30, 2021)

Hey Clockface

Elvis Costello / 2020

Hey Clockface

 去年の十月末にリリースされたエルヴィス・コステロの最新アルバム。
 今作は三種類の音源から成り立っている。
 先行配信された『No Flags』『We Are All Cowards Now』『Hetty O'Hara Confidential』の三曲は、コステロ先生がヘルシンキのスタジオに篭って、ひとりで録音したもの。どれも初期のころを思わせる、いかにもコステロらしいナンバーで、なかではコロナ禍の現状に対する鬱屈が炸裂した印象の『No Flag』がこのアルバムの個人的なフェイバリット。『Hetty O'Hara Confidential』はまるで『Hurry Down Doomsday』の双子の兄弟みたいだ。
 『Newspaper Pane』と『Radio Is Everything』の二曲はニューヨークで、ビル・フリゼールらのジャズ・ミュージシャンと録音した曲。前者はホーンが入っている点を除けば、それほどジャズっぽくはない。過去にビル・フリゼールと共演したアルバム(タイトル忘れた)も特別ジャズっぽかった印象はないし、フリゼールという人はギタリストだから、基本的にセンスがロック寄りな気がする。
 もう一曲のほうはコステロには珍しい(というか多分初の)スポークン・ワードのナンバーで、今回はオープニングを飾る『Revolution #49』も同じスタイルの楽曲。そちらはアンチ・ポップスなアプローチとそのタイトルから、否応なくビートルズの『Revolution 9』を思い出させるけれど、両者に関係があるかどうかはわからない(そもそも曲自体はまったく似ていない)。
 その『Revolution #49』と表題作の『Hey Clockface』を含めた残りの全部がパリのスタジオで、スティーヴ・ナイーヴを含めたジャズ・ミュージシャンとレコーディングしたもの。その辺の曲もとくにジャズっぽくはなくて、ニューオリンズ風の表題作以外はバラード中心のしっとりとした仕上がりの曲が多いせいもあって、どちらかというとT・ボーン・バーネットと作った二枚のアルバムに近いものを感じた。『ヴィヴィアン・ウィップの告白』なんて演劇的なタイトルの曲があるのも、そうしたイメージを助長している。
 以上、コステロのひとり仕事である三曲を筆頭に、異なる三つのセッションの音源がひとつに集められているあたりに、パンデミックの影響がひしひしと感じられる一枚。でもライブができないって嘆いているよりは、こうやってこつこつスタジオで新作を作るほうが、アーティストの姿勢としては正しいと思います。新作で変わらぬ歌声が聴けて、ファンとしても嬉しい。
(May. 30, 2021)