蒼ざめた馬
アガサ・クリスティー/高橋恭美子・訳/クリスティー文庫/早川書房/Kindle
気がつけばクリスティーの作品も残すところ二十冊強。がんばって月二冊ずつ読めば、年内ですべて読み終わる計算になる――のだけれども。
それはあくまで計算上の話。テレワークのため通勤時間が無くなったので、基本的に読むのは夜限定、布団のなかだけになった電子書籍は、すっかり夜が弱くなったこともあり、開いてすぐに寝落ち、というパターンがつづいている。おかげで元日に読み始めたこの本も、読み終わったのは一月の最終週……。この調子では年内にクリスティーを読破するのはとうてい無理そうだ。
まぁ、とはいえクリスティーを読み始めてそろそろ丸八年にもなる。いまさらあわてて読む必要もないので、ゆっくりと楽しもうと思う。
ということで、2021年最初のクリスティー作品は、呪いによる殺人というオカルトめいた題材を扱ったノンシリーズのミステリ。
かつては『蒼ざめた馬』という名前の旅館だった屋敷で、いまは怪しげな中年女性三姉妹が降霊会を開いていて、裏で高額の依頼料をとって人々を呪い殺しているという噂を聞いた主人公の青年が、その真相をつきとめるために奔走するという話。
シリーズものではないけれど、主人公の知人として、ミステリ作家のオリヴァ夫人が出てくるから、この人が珍しく探偵役をつとめるのかと思いきや、さにあらず。オリヴァ夫人は今回も単に物語にいくらか興を添えるくらいの存在感だった。この人の謎解きはあくまで自らの書くミステリのなか限定らしい。
あと、僕は気がつかなかったけれど、『開いたトランプ』や『動く指』の登場人物も出ているとのこと(わかるはずがない)。事件をめぐって思わぬところからロマンスが芽生えるところも、いかにもクリスティーらしいし、代表作とまではいえない作品だけれど、ファンにとってはじゅうぶん満足のゆく出来だと思う。
(Feb. 02, 2021)