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北野武・監督/ビートたけし、西島秀俊、加瀬亮/2023年/Netflix
およそ十年ぶりに観た北野武監督の新作。
この人の映画を観るのは気合がいるので、映画全体の鑑賞本数が減っている昨今、どうにも疎遠になってしまう。
この作品に関しては、予告編がおもしろそうだったし、北野武の新作が配信で観られるのは貴重な気がしたので、観られるうちに観ておくことにした。
内容は北野武初の本格的な歴史もの。時代劇としては『座頭市』があったけれども、あれはフィクションだし、ミュージカル仕立ての異色作だったので、史実をもとにした本格的な時代劇はこれが初めてだ。
扱っているのは織田信長が天下統一を目指す戦国期で、荒木村重(知りませんでした)の謀反から始まり、本能寺の変のあとまでを描いてゆく。
物語の大きな流れは史実に乗っ取っている――はず。まぁ、日本史に詳しくないので、嘘が混じっていてもわからない。
でもディテールには明らかに改変が加えられている。信長が加瀬亮、秀吉がビートたけし本人、家康が小林薫というキャスティングは年齢度外視だし――実際は信長が最年長で、秀吉が三歳下、家康がその六歳下とのこと――本能寺の変での信長の最後も、なにそれって演出が施してある。
話の中心となるのは前述の天下人三人ではなく、西島秀俊演じる明智光秀と遠藤憲一演じる荒木村重。このふたりが同性愛関係にあるという設定で、信長の側近である光秀は、裏切り者の村重を捕まえるよう指示されて苦悩することになり、それがのちの本能寺の変へとつながってゆく。
史実を下敷きにしてこれら偉人たちを描くシーケンスと並行して、チコちゃん木村祐一が演じる忍者崩れの大道芸人と、成り上がりを夢見てその仲間となる百姓上がりのろくでなし役の中村獅童を中心とした下層階級の戦場での生きざまも描かれる。
そのほかにも有名な俳優たちが演じる歴史上の偉人がたくさん出てくる。日本映画界の有名男優をこぞって集めたような豪華キャストで描く、バイオレンスと男色たっぷりの戦国歴史群像劇だった。
なんといってもインパクトがあったのは、加瀬亮による傍若無人でエキセントリックな信長像。変人として描かれる印象の強い信長さまだけれど、たけしの描く信長は日本史上最大の偉人というよりは、年がら年じゅう切れまくりのチンピラみたいだ。天下人としてのカリスマとか尊厳を微塵も感じさせない(少なくても僕は感じなかった)。
とはいえ、では平凡かというとそんなことはない。彼の触れただけで切れる鋭利なカミソリみたいな危なっかしさは他を圧倒している。近くにこんな人がいたら嫌だなぁと思わせる点で、『ダークナイト』のジョーカーに通じる怖さがあった。
(May. 07, 2025)