Coishikawa Scraps / Movies

2025年5月の映画

Index


  1. 新幹線大爆破 [2025]
  2. 新幹線大爆破 [1975]
  3. 八犬伝
  4. ザ・ビーチ
  5. 侍タイムスリッパ―

北野武・監督/ビートたけし、西島秀俊、加瀬亮/2023年/Netflix

首

 およそ十年ぶりに観た北野武監督の新作。

 この人の映画を観るのは気合がいるので、映画全体の鑑賞本数が減っている昨今、どうにも疎遠になってしまう。

 この作品に関しては、予告編がおもしろそうだったし、北野武の新作が配信で観られるのは貴重な気がしたので、観られるうちに観ておくことにした。

 内容は北野武初の本格的な歴史もの。時代劇としては『座頭市』があったけれども、あれはフィクションだし、ミュージカル仕立ての異色作だったので、史実をもとにした本格的な時代劇はこれが初めてだ。

 扱っているのは織田信長が天下統一を目指す戦国期で、荒木村重(知りませんでした)の謀反から始まり、本能寺の変のあとまでを描いてゆく。

 物語の大きな流れは史実に乗っ取っている――はず。まぁ、日本史に詳しくないので、嘘が混じっていてもわからない。

 でもディテールには明らかに改変が加えられている。信長が加瀬亮、秀吉がビートたけし本人、家康が小林薫というキャスティングは年齢度外視だし――実際は信長が最年長で、秀吉が三歳下、家康がその六歳下とのこと――本能寺の変での信長の最後も、なにそれって演出が施してある。

 話の中心となるのは前述の天下人三人ではなく、西島秀俊演じる明智光秀と遠藤憲一演じる荒木村重。このふたりが同性愛関係にあるという設定で、信長の側近である光秀は、裏切り者の村重を捕まえるよう指示されて苦悩することになり、それがのちの本能寺の変へとつながってゆく。

 史実を下敷きにしてこれら偉人たちを描くシーケンスと並行して、チコちゃん木村祐一が演じる忍者崩れの大道芸人と、成り上がりを夢見てその仲間となる百姓上がりのろくでなし役の中村獅童を中心とした下層階級の戦場での生きざまも描かれる。

 そのほかにも有名な俳優たちが演じる歴史上の偉人がたくさん出てくる。日本映画界の有名男優をこぞって集めたような豪華キャストで描く、バイオレンスと男色たっぷりの戦国歴史群像劇だった。

 なんといってもインパクトがあったのは、加瀬亮による傍若無人でエキセントリックな信長像。変人として描かれる印象の強い信長さまだけれど、たけしの描く信長は日本史上最大の偉人というよりは、年がら年じゅう切れまくりのチンピラみたいだ。天下人としてのカリスマとか尊厳を微塵も感じさせない(少なくても僕は感じなかった)。

 とはいえ、では平凡かというとそんなことはない。彼の触れただけで切れる鋭利なカミソリみたいな危なっかしさは他を圧倒している。近くにこんな人がいたら嫌だなぁと思わせる点で、『ダークナイト』のジョーカーに通じる怖さがあった。

(May. 07, 2025)

新幹線大爆破

樋口真嗣・監督/草彅剛、細田佳央太、のん/2025年/日本/Netflix

 『シン・ゴジラ』や『シン・ウルトラマン』の樋口真嗣監督による、1975年のパニック映画のリメイク版。話題になっていたので新旧両方とも観てみた。

 古いほうから観るべきかとも思ったんだけれど、どちらかというと興味があったのはこちらだったので、あえて新作を先にした。

 内容は新幹線に時速百キロを下回ったら爆発する爆弾が仕掛けられたという設定で、事件に対処する様々な人々の姿を描く群像劇。

 新幹線の車掌さんが草彅くんと細田佳央太で、運転手がのん(すんごいひさしぶりに観たけど『あまちゃん』のころのイメージのまんまだった)、JRの管制室のリーダーが『シン・ウルトラマン』の斎藤工、そのほかたまたま新幹線に乗り合わせた乗客役として、尾野真千子が女性議員、要潤がユーチューバー、松尾諭が事故を起こして炎上中の会社の社長役などを演じている。気がつけば主要なキャストはほぼ朝ドラ出演者だ。

 あと、新幹線には修学旅行中の高校生の一団が乗り合わせていて、そこの女性教師(大後寿々花)と女子高生ひとり(豊嶋花)が前述の乗客らとともに事件に深くかかわってゆくことになる。

 あとで観た旧作では初めから犯人がわかっていて、犯人たちの行動を描くのにたっぷりと時間をかけていたけれど、新作では犯人が終盤になるまでわからない。そうすることで、旧作の半分くらいを占める犯人パートをごっそりと切り捨てている。

 この改変により新幹線の事件にだけフォーカスしている分、旧作より圧倒的にリズムがよくて、緊迫感があった。CGでさまざまな映像が自在に操れる現在だからこその迫力あるサスペンスシーンの連続で飽きさせない。その点はすごくいい。

 ただ後半になって明らかにされる犯人と動機にまつわるサプライズが駄目。旧作の事件をオマージュしたシナリオは気がきいていると思うのだけれど、その犯人像にはあまりに説得力がない。おかげでそこから派生する人間ドラマもありきたりに感じられてしまった。後味もよくないしねぇ……。

 新幹線が爆発するかもというだけで十分にサスペンスフルなんだから、下手などんでん返しなんて仕掛けずに、もう少し納得のゆく犯人像を練り上げて、事件解決を心から喜ばせてもらえれば最高だったのに……。

 なんかほんともったいない。パニック映画ということで、ローランド・エメリッヒ作品に近い残念さがあった。

 でもまぁ、おもしろかったのは否定しない。とりあえず『シン・ゴジラ』に通じる情報過多なサスペンスを、時速二百キロ超えのスピード感満載で観られるので、『シン・ゴジラ』が好きな人は観ておいて損はないと思います。

(May. 20, 2025)

新幹線大爆破

佐藤純弥・監督/高倉健、千葉真一、宇津井健/1975年/日本/Netflix

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 ということで、ひきつづき『新幹線大爆破』のオリジナル版。

 こちらに関しては、新作を先に観てしまったせいで、やたらと時代性を感じるところが多かった。

 爆発するのは時速百キロではなく八十キロだし、新幹線には修学旅行生ではなく、変な太鼓をたたく宗教団体みたいなのが乗っている。あと臨月の妊婦とか、護送中の容疑者とか、いまの時代だったら、絶対に乗っていないだろうって乗客が多い。

 なにより新作では「テロリストの要求は飲めない!」と身代金の要求を拒否していたのに対して、こちらでは「人命には変えられないから素直に払いましょう」という調子ですもん。いやぁ、時代が違うなぁと思った。

 あとタバコね。先日『ロスト・イン・トランスレーション』を観たときにも、ずいぶんとみんな好き勝手にタバコを吸ってんなぁと思ったものだけれど、この映画でもスパスパ吸いまくり。ここ二十年ばかりのあいだに、いかに僕らがタバコのない社会に慣らされてきたかをスクリーン越しに感じさせられた。

 物語としては――犯人が後半までわからない新作を先に観たもので――いきなり高倉健が犯人役として登場する展開にびっくり。それ以降も彼を中心とした犯人グループが犯行に及ぶまでの人間ドラマが、現在進行形の身代金の受け渡しシーンに並行してたっぷりと描かれている。

 新作は誰が主役というわけでもない群像劇だったけれども、こちらは健さんを主役にフィーチャーした犯罪映画としての色が濃い。

 おかげで肝心の新幹線絡みのシーンは新作の半分くらいしかない印象で、その点がなにより拍子抜けだった。上りと下りの新幹線がすれ違うシーンとか、並走した二台の新幹線で工具を受け渡しするシーンとか、大きな見せ場が新作でそのままリメイクされているので、なおさら割をくっている感あり。

 新旧で同じだったといえば、新幹線の管制室。新幹線の進行状況をモニターするパネルのデザインが一緒なのがおもしろかった。

 あれは実際にいまでもああなのか、映画だからノスタルジーのためにそう描いているんでしょうか? まぁ、何十年も止まらずに走っているのだから、実際にいまでもああいうデザインなのかな。よくわからない。でもなんとなく、その昔ながらな感じがよかった。まぁ、七十年代当時はあれが近未来的だったのかもしれないけれど。

 映画としては音楽の使い方も含めて、すごく七十年代風(あたりまえだけど)。それも洋画――ジャン=ポール・ベルモンドの諸作品や『フレンチ・コネクション』なんか――を思い出させる雰囲気だった。当時の邦画もがんばっていたんだなと思った。

 出演は高倉健、千葉真一、宇津井健、丹波哲郎らの大物多数で、当時の日本映画界の総力を結集したフルキャストといった印象。初代ウルトラマンでハヤタ隊員を演じた黒部進も出演しているので、リメイク版に斎藤工が出ているのは、ウルトラマンに対するオマージュなのかもしれない。

(May. 13, 2025)

八犬伝

曽利文彦・監督/役所広司、内野聖陽/2024年/日本/Amazon Prime

八犬伝

 『八犬伝』は山田風太郎の最高傑作のひとつだと思っている。単純なおもしろさでは『柳生忍法帖』や『魔界転生』に及ばないかもしれないけれど、小説としての到達点という意味では、これぞ作家・山田風太郎の最高峰だと僕は思う。

 その傑作が刊行から四十年以上の歳月を経て、いまさら映画化された。

 原作のファンとしては当然どんな出来か気になる。なのでアマプラで配信が始まったときに、これはぜひ観ようと思ったのだけれど、ぐずぐずしていたらCMが入るようになってしまった。

 映画をCM入りで観るのは主義に反する。だからといって、せっかく観られるものを観ないのもなぁ……と、しばらく悩んだあげく、もうケチくさいことをいうのはやめて、CMフリーの契約をしました。月390円の追加料金なんて、映画一本レンタルするのと同じだし、アマプラの利用頻度を考えれば、ただも同然。

 ただ、わざわざ追加料金を払ってCM抜きで観たわりには、映画の出来はいまひとつだった。申し訳ないけれど、これくらいの出来ならば、途中でCMが入るくらいがちょうどいい気がしてしまった。

 内容は滝沢馬琴が『南総里見八犬伝』を書き上げるまでの半生を、八犬伝の物語のダイジェストと並行して描いてゆくというもの。おそらく原作がほぼそのまま忠実に再現されている。

 ただいまどきの映画としてはフィクション部分のCGが残念なレベルで、突飛な物語にリアリティを与えるに至っていない。犬の八房とか作りもの感がはんぱない。冒頭でいきなりこの犬を見せられて、この先を期待しろといわれても困る。

 加えて残念なのが、豪華なキャスティングがまるで活きていないこと。

 史実パートでは、いまや日本を代表する俳優のひとりである役所広司を馬琴役に据え、内野聖陽(葛飾北斎役)、磯村勇斗、黒木華らが脇を固めている。

 さらに虚構パートでは、土屋太鳳、栗山千明、そしていまや若手注目度ナンバーワンの河合優美と、華のある女優がそろっていて(男性陣は僕の知らない若い人ばかり)、キャスティングはとても魅力的だ。

 ただ、これだけの俳優を集めておきながら、正直その演技はどれも平均的で、特筆すべきものがない。ちょっとでも爪痕を残しているのは、鶴屋南北役の立川談春くらいじゃないだろうか(でも彼の役は出番がわずかで、ほとんど顔も映らない)。

 役所さんや黒木華、河合優美ら、演技力には定評のある俳優をあつめてこの出来映えなのだから、これはもうひとえに監督の力量不足ではないかと。

 わざわざ四十年も昔の小説を映画化したくらいだから、製作者側には原作に対する思い入れがあるんだろうけれど、残念ながらこの映画のおもしろさは原作のそれには遠く及ばない。原作はもっとおもしろいんだぜって、声を大にしていいたい。この程度の映画しか作れないのならば、できれば手を出さずにそっとしておいて欲しかった。

 考えてみれば、若いころに観た『魔界転生』や『伊賀忍法帖』もあまりいい出来ではなかったし、山田風太郎の奇想天外な物語を映像化するのって、意外と難易度が高いのかもしれない。

 この映画の場合、半分が普通の時代劇、残り半分が忍法帖的なCGアクションなので、映画化するにはもってこいかと思っていたけれど、逆にその二重構造があだとなって、両方とも深堀りできず、中途半端で終わってしまった気がする。

(May. 27, 2025)

ザ・ビーチ

ダニー・ボイル監督/レオナルド・ディカプリオ、ティルダ・スウィントン/2000年/イギリス、アメリカ/Amazon Prime

ザ・ビーチ (字幕版)

 監督がダニー・ボイルということもあって、若いころにアレックス・ガーランドの原作を読んで以来、ずっと気にかかっていた作品。アマプラの近日配信終了コーナーにあったので、観られるうちに観ておくことにした。

 舞台はバンコク。一人旅でタイを訪れたディカプリオ演じる主人公は、ユース・ホステルでとなりの部屋に泊まっていた男から、無人島にある伝説のビーチの地図を受け取り、知りあったばかりのフランス人カップルを誘ってその島を目指す。辿り着いたのは若者たちが自由に暮らす地上の楽園。その島での生活に魅了され、岡惚れしていたフランス人の彼女の心も射止めて、幸せいっぱいの彼だったけれど、やがてその秘密の花園にも暗い影が差し始める……。

 ディカプリオが若いっ。さすが当時二十代なかば。この映画では彼が女性にモテるせいで話がこじれるわけだけれど、なるほどこれならモテて当然だろうなぁと思った。

 そのほかで有名なキャストはティルダ・スウィントンくらい。彼女は当時もう四十歳近いということもあって、いまとそれほど印象が変わっていない。

 映画としては、バンコクの猥雑でエキセントリックな風景に、絶壁に囲まれたコバルトブルーのビーチなど、コントラストが鮮明で色鮮やな映像が刺激的だし、イギリス人監督の作品だけあって、使われている音楽もその時代のUKロックの最先端って感じで、スタイリッシュでカッコいい。

 ただ残念ながら物語としてはいまいち。異文化に憧れたモラトリアム青年の夢の終わりか、はたまた、世間から隔離された特殊な環境で育まれる狂気の果て、みたいなものを描きたかったのかもしれないけれども、どうにもリアリティを欠いている。ビーチの存在を世間に知られたくないからと、仲間を見殺しにする展開は説得力がないし、そもそも麻薬密売組織が大麻を栽培している島で、のほほんと暮らしているという設定自体にどだい無理がある。

 まあ、アジア旅行が大好きで、青い海にかこまれた南の島での自由な暮らしに憧れる人たちならば楽しめるのかもしれないけれど、水洗トイレがない土地では暮らせないよね、なんていう僕のような完全インドア派の引きこもり男には抜本的に向かない話だった気がする。

(May. 30, 2025)

侍タイムスリッパー

安田淳一・監督/山口馬木也/2024年/日本/Amazon Prime

侍タイムスリッパー

 まったく興味はなかったのだけれど、インディーズ映画が『正体』『ラストマイル』『夜明けのすべて』といった作品を退けて日本アカデミー賞の最優秀作品賞を受賞したというので、どんなにおもしろいのか気になって観てみた。

 幕末期の会津藩士が雷に打たれたショックで現代にタイムスリップ。たまたま辿り着いたのが京都太秦の撮影所だったことから、時代劇の切られ役としての仕事を得て、次第に現代の暮らしになじんでゆくというコメディ映画。

 雷に打たれたらタイムトリップしちゃいましたという始まりから、その後に切られ役になる過程にしても、もう安直で月並みな設定と展開ばかり。自主制作映画だけあって、俳優も知らない人しかいないし、演技も平均的だし、これがどうしてこの年の日本で一番いい映画なんだか、観ていてさっぱりわからない。

 いやしかし、最優秀作品賞を取るくらいなので、クライマックスまで見れば、きっとなにか特別なところがあるんだろうと思ったら――。

 なるほど。クライマックスのチャンバラシーン。この臨場感がはんぱなかった。

 まさに息をのむ迫力とはこのことかと思った。

 このシーンの迫真のリアリティを生み出しているのが、なんだこりゃって思った安直なタイムスリップの設定だというのがすごい。普通の時代劇では生み出しえない。この展開であるからこそのリアリティ。

 いやはや、お見事でした。

 正直いって、すごいと思ったのはその数分間だけだったし、個人的には『正体』や『ラストマイル』のほうが好きだけれど、この映画(のその部分)が傑作だいう思いは否定しようがない。おみそれしました。

(May. 31, 2025)