はじまりのうた
ジョン・カーニー監督/キーラ・ナイトレイ、マーク・ラファロ/2014年/アメリカ/WOWOW録画
以前ネット上で、とある女の子がアコースティック・ギターを弾きながら歌を歌っている写真を見て、「おー、かわいい子だな。なになに、新人バンド?」と思ったら、それがこの映画のワン・シーンでしたと。キーラ・ナイトレイかいっ! そりゃかわいくて当然じゃん! と思ったという。
そのときからあしかけ2年くらい?ずっと気になっていた作品。つい先日ツイッターでアジカンのゴッチも「おもしろかった」といっていたので、とても楽しみにしていたこの映画がようやくWOWOWで放送された。
これ、設定にはちょい意外性があった。
キーラ・ナイトレイ演じる主人公のグレタは、レコード・デビューしたばかりの恋人についてニューヨークに出てきた女の子という役まわり。彼女自身も彼と一緒になって曲を書いたりしているけれど、レコード会社から見れば、あくまで期待の新人にくっついてきたガールフレンドでしかない。
そんな彼女が、とあるNYのライブハウスに出演中の男友達からステージに引っぱり出されて一曲披露するところから物語は始まる(この時点での彼女は、彼氏に浮気されて失意のどん底にいるというのが、あとから回顧シーンであきらかになる)。
その場に偶然居あわせたのが、マーク・ラファロ演じる落ちぶれたミュージシャン兼プロデューサー。一瞬で彼女の才能に惚れ込んだ彼は、即座に契約の話を持ちかけるのだけれど、じつは彼自身もこの時点では会社を追い出されたばかり(これもあと追いでわかる)。デモを作るにもスタジオを借りるだけの資金がない。
ならばとばかりに彼が持ちかけたのが、NYでの路上ライブ・レコーディング。かくしてふたりはコネを頼りにかき集めた気のいいミュージシャンらとともに、ニューヨークの街のあちこちでゲリラ・ライヴを敢行してゆくことになる。
この映画の魅力のひとつは、そういう演奏シーンの数々を初めとして、随所でたっぷりと描かれるニューヨークの風景。主役のひとりはこの街自体といってしまいたいくらい、いい絵がたくさん。ニューヨーク好きにはたまらない映画だと思う。
もちろん、音楽映画なのだから、まずは音楽がよくないと話にならないわけだけれど、その点も当然ばっちり。意外やキーラ・ナイトレイの歌がとてもいい。ギターはさすがに素人っぽさが抜けていないけれど、飾り気のない素朴な歌声はとても素敵だと思う。
とにかく、声のいいキュートでスレンダーな女の子が、気のいい仲間たちとともにニューヨークのあちらこちらでライブ・レコーディングを繰り広げてゆくという──この設定だけでもう音楽好きにはたまらなく魅力的なわけです。
あと、この映画は共演者がふるっている。
マーク・ラファロのかつての音楽上のパートナーにして現在の所属レコード会社の社長役がモス・デフ(いつの間にか改名して、いまはヤシーン・ベイというらしい)、音楽仲間のヒップホップ・アーティストとしてシーロー・グリーンが出演している。
さらにはキーラ・ナイトレイの恋人役もすごい。序盤のレコーディング風景を見て、おいおい、この人めちゃくちゃ歌が上手いなと思ったら、なんとこれがマルーン5のフロントマン、アダム・レヴィーンでした。
なるほど、グラミー受賞者だったか。そりゃ上手くて当然。この人の見た目が、アーティストとしてのキャリアとともにどんどん変わってゆくのもおもしろい。ファンにとってはそんな彼の七変化も、なにげにこの映画の見どころのひとつかもしれない。
ということで、主役はかわいいし、映像はきれいだし、音楽も楽しいし、出演者も個性的だし、演出にもなにげに気が効いているしで、見どころたくさんの、とてもいい映画でした。
年の離れた主演のふたりのラブ・ロマンスを無理して描かなかった点にも好感が持てるよな……とか思っていたら、なんとマーク・ラファロは僕よりもひとつ年下だった。そうか、俺とキーラ・ナイトレイでは、基本的に世代が違うのか。それはちょいショック。
(Apr 10, 2016)