Coishikawa Scraps / Music

2025年8月の音楽

Index

  1. 「残像の愛し方、或いはそれによって産み落ちた自身の歪さを、受け入れる為に僕たちが過ごす寄る辺の無い幾つかの日々について。」 / Tele

「残像の愛し方、或いはそれによって産み落ちた自身の歪さを、受け入れる為に僕たちが過ごす寄る辺の無い幾つかの日々について。」

Tele / 2025

「残像の愛し方、或いはそれによって産み落ちた自身の歪さを、受け入れる為に僕たちが過ごす寄る辺の無い幾つかの日々について。」

 去年の君島大空につづいて、今年も蔦谷好位置が『EIGHT-JAM』で年間ベスト10に取り上げた曲にハマった。今年の一曲は Tele の『カルト』。

 Tele(テレ)は谷口喜多朗という2000年生まれの青年のソロプロジェクト(うちの子より若い!)。

 谷口クンはどことなく野田洋次郎を小ぶりにしたような見た目と声をしている。でもって、『カルト』はまさにラッド系列の饒舌でシニカルなロックナンバー。MVでは黒スーツに白シャツ姿で、あたかも宮本浩次みたいな暴れ方をしているし、これはもう完璧に俺の守備範囲でしょう?――と思って、そのほかの曲も聴いてみたんでしたが。

 ん、ちょっとちがうかも?

 そう思ってしまったのは、『カルト』みたいにアッパーなギターサウンド一本で勝負している曲がほとんどなかったから。

 よくいえば、バラエティに富んでいる。悪くいえば、これって芯が見えてこない。その辺はバンドではなくソロアーティストだからだろう。バンドという縛りがない分、あれもこれもと様々なスタイルをお試し中な感じ。全体的にはマイルドな曲が多くて、ちょっと期待していたのとは違った。

 僕が若き日の宮本や洋次郎やn-bunaに惹かれたのは、どの楽曲を聴いても彼らが感じている日々への苛立ちが歌詞にも音にもビートにも溢れださんばかりだったからだ。

 とにかく黙っていられないから歌う。叫ぶ。じっとしていられないから踊る。日々の憤りや憂鬱を振り払うには、激しいノイズとハードなビートとシニカルな言葉をぶつけるしかない。それが僕にとっての音楽だった。

 Teleの場合、『カルト』はまさにそういう曲なのだけれど、それ以外はそうでもない。歌詞は怒りと愛を並行で語っている印象で、ある程度の毒はあるけれど、前述の人たちほどの濃度じゃない。音もギターが目立つ曲が少ない。ストリングスが多用されていたり、ジャジーな曲があったりもする。

 そう、要するにロックよりもポップ寄りなんだった。最初にド直球の『カルト』で過度のロックを期待してしまったのが間違い。

 少年ジャンプに掲載されていたインタビューでは「教科書に載るような曲を書きたい」みたいなことを言っていたし、もとよりポップ寄りのメンタルな人なんだろう。いったんそういうアーティストなんだという事実を受け入れてからは、けっこう楽しく聴かせてもらっている。

 このアルバムはそんな Tele が満を持してリリースした二枚目のアルバム。レーベルはトイズファクトリーだから、これがのメジャー・デビュー・アルバム――なんでしょう、おそらく。でもなぜだかタワーレコードでしか売っていない。ほんとなぜ? いろいろ謎が多い。

 このアルバムをリリースしてから半年もたたないのに、すでにこのアルバムには未収録の新曲が二曲リリースされていたりするし、ずとまよやヨルシカと同様、CDシングルなんて出す気配もない。いまどきの若者って、CDの売上なんてどうでもいいと思っている感じが新鮮だ。

 アルバムの内容は2022年からコンスタントにリリースしてきた三年分の配信シングル15曲に新曲6曲を加えた怒涛の21曲入り。

 なにもCDの収録時間上限に達するほど曲が溜まるまで待たないで、もっとこまめにアルバムにまとめてもいいじゃんって思うけれど、でもこのアルバムはこの過剰なボリュームに意外と説得力がある。なんたって一時間二十分という再生時間の長さがまったく気にならない。楽曲のよさとバラエティ豊かなアレンジゆえだろう。新人でこれはちょっとすごいと思う。覚えられないほど長いアルバムタイトルからも伝わる言葉に対するこだわりも魅力のひとつだ。

 ネットでは楽曲ごとのクレジットが見つからず、CDも買っていないから詳細はわからないけれども、Apple Musicのプロパティにあるクレジットだと、ほとんどの曲に「アレンジャー、作曲、作詞」として谷口喜多朗の名前がある。

 え、まじか? このアルバムってもしかしてセルフプロデュースなの? それでこの完成度はすごいな。あまりにバラエティ豊かだから、外部の力を借りまくっているのかと思っていた。もしかして、ものすごい才能の持ち主なのかも。

 『箱庭の灯』や『花筏』といったスローナンバーも素敵だけれど、お薦めはやっぱなんといっても『カルト』。この一曲だけで一年中踊っていられる。

(Aug. 31, 2025)