Dear Jubilee -RADWIMPS TRIBUTE-
V.A. / 2025
RADWIMPSデビュー二十周年を記念してリリースされたトリビュート・アルバム。
参加アーティストの豪華さゆえ、リリース直後にこのアルバムの収録曲が配信チャートの上位を独占したことでも話題になったけれど、僕にとってもこれは本当に特別なアルバムだった。こんなにリリースを心待ちにしたトリビュート盤は初めてだ。
だってさ。
宮本浩次とずっと真夜中でいいのに。
この両方の名前が一枚のアルバムのクレジットに並んでるんだよ?
そんなものを目にする日が来ようと誰が思うかって話で。
だって接点がなさすぎでしょう?
いや、村山☆ジュンとか佐々木コジロー貴之とか、サポートメンバーはかぶっているとはいえさ。
そもそもトリビュート・アルバムって、そのアーティストを好きなバンドが参加するもんだよね? ACAねはSNSで『なんでもないや』を弾き語りしていたりして、思春期にRADWIMPSの音楽を浴びた世代なんだろうから、参加していてもなんら不思議はないけれど、宮本は絶対にRADWIMPSなんてまともに聴いてないよな?
噂で聞いた話だと、アーティストの選定にはラッドのふたりは絡んでないそうなので、つまりバンドのスタッフかレコード会社の担当者が、宮本に参加を打診したということなんだろう。その人たちにとっては、宮本は上の世代の代表として、ラッドにつらなるアーティストのひとりとみなされたということだと思われる。
なるほど、それならばわからないでもない。僕自身の感覚でも、両者は確実につながっているから。どちらもこの世界とうまくコミットできないことに深い孤独感を抱きながら、その破格の音楽の才能によって、自らと他者の両方を救いつづけてきたアーティストだ。それは、ずとまよにも同じことがいえる。
エレカシとラッドとずとまよ。この三つのバンドは、僕の人生においては、間違いなく現時点での日本人アーティストのトップ3だ(まぁ、最近の宮本には全面肯定しにくいところがあるけれど。それはまあ置くとして)。
このアルバムではそんな三つのバンドの名前が一堂に会している。
――のみならず。
ここにはさらに、米津玄師、ヨルシカ、YOASOBIまで参加しているんだよ?
現時点で名実ともに日本一のアーティストと呼んでしかるべき米津玄師に加え、バンド名に「夜」が入っていることから「夜好性」と称される、同時期にデビューした三バンド、ずとまよ、ヨルシカ、YOASOBIが勢ぞろいしているという意味でも話題性は十二分。
ほかにも上白石萌音、SEKAI NO OWARI、Vaundy、ハナレグミ等、僕のライブラリに一応名前があるアーティストも多数参加(上白石さんは洋次郎とn-bunaが提供した曲を繰り返し聴いています)。さらにはいま日本一売れているバンド、Mrs.GREEN APPLEまでが加わるというね。
これが特別でなかったらなにが特別だって話だ。
このメンツだけでも十分なサプライズなのに、ここでは宮本がさらなるサプライズをかましてくれる。『おしゃかしゃま』なんて難しい曲を選んだだけでも驚きなのに、クレジットをみたら、そこにはH ZETT Mの名前が!(東京事変初代メンバーのヒイズミマサユ機です念のため)。プロデュースには宮本とヒイズミと村☆ジュンの名前が並んでいる。さらにさらに。演奏者のなかには、ずとまよの『機械油』でお馴染みの津軽三味線の小山豊の名前まである。
いったいこのメンバーでどんな音を出しているんだと思ったら、いきなり三味線から始まる和風ダンスビートなアレンジはもとより、宮本のこれまでになく抑えの効いたボーカルが最大の驚きだった。多重録音されていて、裏ではいつものシャウトが聴けるけれど、表面は抑制しまくりの淡々とした調子。なにその歌い方? うちの子からは「宮本さんってこんなに静かな声が出せるんだ」と言われていた。これまでに一度も聞いたことのない宮本浩次がそこにいた。もうびっくりだよ。
アルバム参加者の中で最年長者である宮本が、若い子たちにまじりながら、そんな風に「もっともアグレッシブな姿勢で音楽と向き合っているのは宮本なのでは?」と思わせる新機軸を打ち出してきているというだけでも、宮本ファンは絶対に聴いておくべき一枚だと思う。まぁ、好き嫌いはわかれる気がするし、僕自身も最初なんだこりゃって思ってしまったけれど(でも繰り返し聴いているうちに、これはこれでありかもと思うようになった)。
あとはやっぱ、ずとまよが素晴らしいです。宮本には悪いけれど、『有心論』のカバーがこのアルバムではいちばん好き。鍵盤主体でストリングスをフィーチャーした高速アレンジはこれぞずとまよの真骨頂。ACAねのボーカルが自身の歌を歌うときよりもエモーショナルに聴こえるのは、きっと洋次郎の歌詞のせいだろう。いいもの聴かせてもらいました。
そのほか、米津玄師が『トレモロ』でオリジナルを踏襲したカラオケかってくらいにまったくひねりのないカバーを聴かせてきたのにも意外性があったし、ヨルシカの『DARMA GRAND PRIX』(言われてみると見事にn-bunaらしい曲だった)でsuisがボーカリストとしてまた新しい表情をみせているのもヨルシカのファンとしては聴きどころのひとつ。参加者のうちで唯一名前しか知らなかったMy Hair Is Badは『いいんですか?』に意外なマッシュアップを加えてみせた発想が秀逸だった。アイディア賞はこの人たち。
そんな風に聴きどころの多いアルバムだけれども、僕の個人的な好みを越えて、このアルバムでいちばんすごいと思ったのは、Mrs. GREEN APPLEだった。
トリビュートという祝祭空間において『狭心症』なんて極北な曲に手を出すとは、ずいぶん怖いもの知らずだなと思っていたら、どうやら覚悟なしでその曲を選んだわけではなかったらしい。ボーカルの表現力もアレンジの出来映えも最上級。これ以上ないだろうって完璧なカバーに仕上がっていて驚いた。
なによりオリジナルの息が苦しくなるような切実さが薄れて、あの重い曲がシリアスさを失わないまま、ちゃんとポップソングとして聴けるようになっているのがすごい。どんな曲でもポップスならしめるセンスという点では、ポール・マッカートニーに通じる才能を感じた。この人たちの人気はちゃんとした実力に裏打ちされているんだなと思いました。いやはや、恐れ入った。
そんなわけで、参加者のメンツ的にも、収録曲の完成度的にも、間違いなく史上最強のトリビュートアルバムではと思います。
――そう。思うのだけれども。それなのに。
これを聴くと、どうしたってRADWIMPSのオリジナルが聴きたくなってしまう。
宮本はがんばっているし、ずとまよは大好きだし、ミセスもすごいとは思うんだけれど、これらの楽曲を聴くにあたっては、どうしたってオリジナルには敵わない。野田洋次郎のボーカルがないともの足りない。
そんな風に、いまが旬ってアーティストたちの演奏を通じて、結局はRADWIMPSというバンドの魅力を再確認させられることになった一枚。
とりあえず二十周年おめでとう!
(Dec. 15, 2025)
