エレファントカシマシ
新春ライブ2019/2019年1月18日(金)/日本武道館

新春恒例のエレカシ武道館。今年は年明け最初の週末に大阪城ホールの2デイズがあって、東京公演はそれから十日遅れての平日二日間だった。一昨年の三十周年記念ライブも大阪だったし、最近はなんだか大阪びいきだな。大阪のほうが乗りがいいという噂だから、やる側もそのほうが楽しいんでしょうかね。
さて、この日の僕らの席はアリーナの5列目。それだけ聞くととてもいい席のようだけれど、席番号は1番と2番。つまり左手のいちばん隅っこ。
おかげさまでステージを真横から眺める形になって、ステージの視野がやたらと狭かった。バンド・メンバーのうち、トミは頭がかろうじて見える程度。金原さん率いる弦楽四重奏の方々にいたっては、まったく見えなかった(最後のメンバー紹介で初めて四人だったことがわかった)。左手の花道に宮本が出てきたときだけは、とても近くで宮本の姿を拝むことができたけれど、そういうシーンはせいぜい二、三度。
まぁ、真横を向いて観ているせいで、おのずから対角線上にある一、二階席の様子が視界に入るので、普段とはまた違った臨場感はあった。ステージを見ながらにして、同時にステージ上から見えているだろう観客席の風景の一端をのぞき見られるという点では、なかなかおもしろい席でした。
あと、これは席のよしあしに関係するのかわからないけれど、今回の武道館は音がよかった。いや、音──というよりはボーカルの通り、でしょうかね。宮本のボーカルがくっきりはっきり、とてもクリアに聴こえた。セットリストがポップな曲中心のメジャー感の高いものだったこともあり、ボーカリスト宮本浩次の魅力を堪能したいって人には最高のコンサートだったように思う。
今年の新年一発目は『脱コミュニケーション』。エレカシにとっては代表曲というほどの曲ではないと思うんだけれど、ちょっと前にも一曲目に演奏されていたし(調べたら三年前の東京国際フォーラムでの新春ライブ)、なぜだか宮本にとっては大事な曲らしい。第一部ラストは『悪魔メフィスト』だったし――ひさびさに同期モノ入りで演奏は超ラウド、宮本の歌もメタメタですごかった──全体的にポップなセットリストだったので、最初と最後くらいはハードに決めたかったのかもしれない。
二曲目が最新作のタイトル・トラック『Wake Up』、三曲目がストリングス付きの新春ライブでは定番の『新しい季節へキミと』、四曲目『星の砂』と、そこからしばらくはそういう感じで、新旧・硬軟とりまぜたオーソドックスな選曲がつづいた。
この日の演奏で印象的だったのは、曲の最後で静かにフェードアウトして終わる曲が多かったこと。
エレカシって曲の最後は宮本がジャンプしたりして、ジャカジャカジャーン、ジャン!──って締めかたをする印象が強いのだけれど、この日は演奏の最後の一音がすーっと消えていくまで待って、そのまま静かに終わる曲がけっこうあった。第二部の『so many people』でも「かりそめでいい喜びを」という締めのフレーズを最後にビシっと終わったし、そういうのって、いままでになかったので(ないのは俺の記憶だけ?)、とても新鮮だった。
ガチャガチャ騒ぎ立てずにそっと終わる。そういうところに、これまでにない落ち着いた大人の風格のようなものを感じた──ような気がする。ほんのちょっとだけ。
【SET LIST】
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あと『絆』だったかで、ミッキーのアコギと村ジュンのピアノ(この日もこのふたりのサポートは鉄板)を中心に、金原チームのストリングスを絡めたアレンジがレコーディング作品とは違う感触だったのも新鮮だった。エレカシって基本的にライヴでもレコーディング時のアレンジに忠実なので、ちょっとした変化でもすごくレア度が高く感じる。
そういう意味ではバンドのメンバー三人をステージから下げて、宮本、ミッキー、村ジュン、金原さん、笠原さんの五人だけで演奏された『風に吹かれて』はあきらかに新機軸だったし、これから始まる宮本ソロ活動への序曲的な意味合いにおいても重要な気がした。
この日はボーカルの通りのよさと金原四重奏のおかげもあって、それらの曲や『マボロシ』などの、普段はそれほど好みでないバラードがとても沁みた。
とはいえ、やはり基本的にはバラードよりもアッパーな曲のほうが好きなので、この日の個人的なクライマックスは、カラフルな楽曲が並ぶなか、飾らないシンプルなギターサウンドが気持ちよかった『too file life』(大好きな曲なのに不覚にもイントロで「なにこの曲?」とか思ってしまった)、問題だらけの『珍奇男』、そして『今をかきならせ』──特別好きな曲でもないのに、この日はなぜだか最高にカッコよかった──の三曲が並んだところ。
なかでも『珍奇男』のレア度はすごかった。途中でエレキに持ち替えたら機材トラブルでギターの音が出なかったので、仕方なくハンドマイクで歌いだす宮本。
石くんとミッキーのギターで音は足りていたから、そのまま最後まで行ってもよさそうなものなのだけれど、やはりこの曲は自分でギターをかき鳴らさないと気がすまないのか、宮本は途中で曲を打ち切り、ふたたびアコギを手にして最初から歌いなおすことにした。
珍しい展開に観客も喜んで、アコギ・パートでは手拍子が自然発生的に始まる。でもそれが宮本にはしっくりこなかったらしく、やめるようにしぐさで促したりして。
結局、二度目の『珍奇男』も演奏はけっこうぐだぐだで、出来はいまいちもいいところだったけれど、それでもこの曲を宮本がハンドマイクで歌ったり、手拍子がついたりってところも含めて、珍奇度では史上最高レベルの『珍奇男』でした。まぁ、宮本にとってはこれが生放送されちゃったのは痛恨だろうけど。いやはや、とてもおもしろいものを見せていただきました。
駄目だったといえば、第二部の一発目で演奏された『Easy Go』は歌い出しが安定していたので、もしや過去最高の出来かと期待させておいて、途中からいつもどおり息切れ気味になって、やはりこの日もいまいち。いつになったら宮本さんはこの名曲を歌いこなせるようになるんですかね。困ったもんだ。
演出はライティングだけで特別なものはなにもなかった(──と思う。なにかあっても僕の席からは見えなかったので)。そんな中でカッコいいなと思ったのは、『かけだす男』で上下から多数のスポットライトが白い柱のように乱立したシーン。そこまでビジュアル的な演出が特になかったぶん、あのライティングのクールさにはぐっときました。
あと、最初に書いたように、この日は観客席が視界に入る席だったためもあり、お客さんたちのリアクションがいつもより印象的だった。
椎名林檎さんの影響なのか、いままでになく「ミヤジ~」ってコールが多かった気がしたし、『俺たちの明日』で「十代、二十代、三十代」の歌詞のときにお客さんが宮本のアクションに合わせて、指を一本、二本、三本と立てて腕を振るのも、へー、みんなこんなことやってんだって思った。
そうそう、『風と共に』ではなぜだか宮本がタオルで顔をぬぐうほどに大泣きしていたのだけれど──僕には宮本の泣きどころがいまいちよくわからない──それを見てもらい泣きした女性たちのすすり泣きが聞こえてきたのにも驚いた。ほろりと涙をこぼすどころじゃなく、ぐすぐすいっているんですもん。それもひとりふたりじゃないし。そこまで共感して泣けちゃうってすごいなぁと思いました。僕にはそこまで入りこめない。
ということで、涙あり、笑いありの三時間。今年もエレカシの新春ライブ──というにはちょっと時期的に遅かったけれど──をたっぷりと楽しませてもらいました。サンキュー、エレカシ。今年もどうぞよろしく。
それにしても、気がつけば、『ガストロンジャー』も『RAINBOW』も『奴隷天国』もやってないんだよな。それでこの充実感ってのがすごい。
いまのエレカシって最強かもしれない。
(Jan. 27, 2019)