ガラテイア2.2
リチャード・パワーズ/若島正・訳/みすず書房
語り手のリチャード・パワーズは、母校に客員教授として滞在中に、変人レンツ工学博士による人工知能の開発プロジェクトに巻き込まれる。彼はコンピュータに文学を読み聞かせながら、別れた恋人Cとの過去に思いを馳せ、あらたに出逢った女性Aに密かな思いを寄せる。自伝的な要素をたっぷりと盛りこんだ、パワーズの長編第五作。
これまた圧巻。なぜデビュー作『舞踏会へ向かう三人の農夫』のあと、その後の三作をすっ飛ばしてこの五作目が先に訳されてしまったのだろうと不思議に思っていたのだけれど、読んでみてその自伝的な内容に納得がいった。この本はパワーズという天才作家のデビューからの足跡を知る上で、またとないテキストとなっている。まあ、ここに書かれていることが、半分は事実だと仮定してだけれど。
この作品については、帯の文句を見たり、ネットで調べたりすると、人間と人工知能の恋を描いた小説、みたいな読み方をされている風なところがある。ところが僕にはまったくそういう読み方ができなかった。
リチャードが育てる人工知能は女性としての性格を持ち、ヘレンという名前が与えられることになる。そういう意味では「彼女」とリチャードのあいだに、そういう関係が成り立つようにも思える。けれど話のなかでは、ヘレンは幼い少女として立ちあらわれ、徐々に成長してゆく。その成長の過程をともにするリチャードにとって、ヘレンは恋愛の対象というよりは、自らの娘というべき存在じゃないだろうか。ヘレンを育てるあいだも、リチャードはずっとCとの思い出にひたり、Aへの思いに悩んでいる。それゆえ、リチャードの側からのヘレンに対する恋愛感情というのが、僕には読み取れなかった。
逆はあるのかもしれない。ヘレンがリチャードに恋をした? それならばまあわからなくはない。実際にヘレンがみずから姿を消す場面は、この小説のクライマックスだろうし。もしかしたら世の中の多くの人は、そんなAIヘレンの片想いに胸を熱くしているんだろうか? そればそれですごいなと思う。平凡な男性の僕は、リチャードのCやAに対する恋心の切なさにおおいに共感するばかりだった。
なんにしろ、最後の方であきらかになるプロジェクトの真の目的というやつが僕にはまるでわからなかったし、僕のこの作品に対する読みこなし度はとても低いとは思う。それなのに、それでもいいやと思ってしまうくらい、この本はおもしろかった。
パワーズの小説は、非常に
(Aug 05, 2006)