なぜ人はエイリアンに誘拐されたと思うのか
スーザン・A・クランシー/林雅代・訳/ハヤカワ文庫NF
隔週で『XファイルDVDコレクション』を見始めてかれこれ一年半。いよいよこの長大なシリーズも残り2シーズンというところまできた。年内で完結だなあと、ちょっとばかり名残惜しく思っている時に刊行されたのが、この文庫本。エイリアンの表紙のおもしろさとタイトルに惹かれて、つい購入してしまった。積読が七十冊を超えている現状では、かなり脱線気味だけれど、まあ、興味をおぼえてしまったのだから仕方ない。『Xファイル』完結直前企画第一弾ということで。
この本はまさにそのタイトルどおりの内容だ。エイリアンに誘拐されたと信じる人たちを研究対象とする心理学者が、彼らがそう信じるようになった理由を心理学的な見地から説明して見せている。とてもわかり易くて、それなりにおもしろい本だった。
簡単に結論だけ要約してしまえば、エイリアンによるアブダクションというのは、説明できない不可解な経験に対する説明装置として機能する一方、ある種の選民思想の役割を果たしている、ということになるのだと思う。前者は京極夏彦氏がよく引用する「妖怪とはなんぞや」という民俗学的な説明とほぼ一致する。歴史の浅いアメリカならではの、現代的な妖怪話の一形態が、エイリアンによるアブダクションだということなのだろう。選民思想の方もある程度理解できる(本のなかでは「選民思想」という言葉は出てこないけれど)。ほかの人とは違う体験をしたということが、その人の人生に特別な意義を与えているわけだ。それは十分納得がゆく。あまり幸福なことだとは思わないけれど。
(Sep 18, 2006)