バースデイ・ストーリーズ
村上春樹・編訳/村上春樹翻訳ライブラリー(中央公論新社)
今年の初めに刊行が始まった村上春樹翻訳ライブラリーの第一回配本作品。『グレート・ギャツビー』の刊行を知って、ようやく読み始める気になった。
カーヴァーの全集を始めとして、春樹氏の翻訳作品には、関心はあるにもかかわらず、高価だったり装丁が気に入らなかったりして読めずにいた作品がけっこうあるので、こういう手にとりやすい形でそのうちの多くの作品を読めるようになったのは、なかなか嬉しい。願わくばすべての作品を網羅してくれるとなお嬉しいのだけれど、出版社の都合でそれは難しいのだろう。
村上春樹がみずからチョイスした誕生日にまつわる英米作家の短編作品を集めたこの本、そのタイトルから連想する「ハッピー・バースデイ」が聞こえてくるような幸福感あふれる話はひとつもない。どれもありふれた日常のなかにささやかな悲しみが滲み出しているような話ばかりだ。収録作品は以下の13編。春樹氏自らが書き下ろした『カレンダー・ガール』の直前の二編は、単行本には未収録とのことだ。
ラッセル・バンクス 『ムーア人』
デニス・ジョンソン 『ダンダン』
ウィリアム・トレヴァー 『ティモシーの誕生日』
ダニエル・ライオンズ 『バースデイ・ケーキ』
リンダ・セクソン 『皮膚のない皇帝』
ポール・セロー 『ダイス・ゲーム』
デイヴィッド・フォスター・ウォレス 『永遠に頭上に』
イーサン・ケイニン 『慈悲の天使、怒りの天使』
アンドレア・リー 『バースデイ・プレゼント』
レイモンド・カーヴァー 『風呂』
クレア・キーガン 『波打ち際の近くで』
ルイス・ロビンソン 『ライド』
村上春樹 『バースディ・ガール』
カーヴァーとイーサン・ケイニンを除くと知らない人ばかり。でもって正直なところ、どの話がよかったかと問われても悩んでしまうような作品ばかりが並んでいる。ただ、読んでから一月近くたつのに、どの話もとりあえず内容は覚えている。そういう意味では(好き嫌いを別にして)確かにいい作品ばかりだったのかなという気もする。
(Oct 28, 2006)