魂よ眠れ
ジョージ・P・ペレケーノス/横山啓明・訳/ハヤカワ・ミステリ文庫
黒人探偵デレク・ストレンジを主人公とするシリーズ第三弾。
物語のはじまりは、前作『終わりなき孤独』にちょっとだけ出てきた黒人ギャングのグランヴィル・オリヴァーが逮捕され、死刑を求刑されているという状況下。オリヴァーの父親を殺したかなんかで、オリヴァーがギャングになったことに対してある種の罪悪感を抱いているストレンジは、この男の減刑のために尽力している。そんな時に、オリヴァーが仕切っていた縄張りでしのぎを削る二つの麻薬密売グループのうちの片方に関係する男が、ストレンジに人探しを依頼しにくる。彼は相手がろくでもないチンピラだと知りつつも、金のために仕事を引き受け、テリー・クインとともに依頼された女性を探し出すのだけれど、ところがその女性が彼らの依頼人により殺害されてしまい……、という話。
前作では罪のない子供が犯罪に巻き込まれて命を落とすという痛ましい事件を描いてみせたこのシリーズ。今回は逆にシングルマザーが殺害され、その子供がひとり孤児となって残されるという事件を描くことで、アメリカ社会の問題をあぶり出そうとしているように見える。ただ、その一方で、いつもどおりギャングの側の日常もたっぷりと描いてしまっているせいで、社会的な問題を扱おうとしているのか、エンターテイメント路線のクライム・ノベルを狙っているのか、中途半端でわかりにくい作品になってしまっている気がする。どうにもここしばらくのこの人の作品は、出来がいまひとつに思えてしかたない。
でもじゃあ読まないでいいかというと、そうも言えない。少なくてもいままでの作品を読んできた人ならば、読まないわけにはいかない作品ではある。最後の最後になって、シリーズの流れを大きく変える、重大な事件が起こるからだ。なんてこった。ペレケーノス、ちょっとばかり思い切りがよすぎる気がする。
シリーズものと言えば、『友と別れた冬』などの主人公、ニック・ステファノスがちょい役で登場して、しばしのあいだストレンジと行動をともにしている。この二人の関係は今後の作品でも続きそうな雰囲気だ。もっと大々的に絡んでくれば、それはそれで楽しい。
(Dec 03, 2006)