スティーヴ・エリクソンの小説にはいつも手こずるけれど、おそらく今回がいちばん時間がかかった。不覚にも読み終えるのに2ヶ月以上もかかってしまった。
情けないことに、僕はこの2ヶ月間、毎晩のようにベッドに入ってはこの本を開き、1~2ページ読んでは寝てしまうというのを繰り返していた(開く前に眠ってしまった日も少なくない)。この本は370ページ以上あるので、この調子だと読む終えるには、1年かかるんじゃないかとか思ってしまうていたらく。いやはや、どうにか年内で読み終わってよかった。
読み始めるまで知らなかったのだけれど、この小説は前作 『真夜中に海がやってきた』 の続編だった。ところが僕はその前作の内容をすっかり忘れてしまっていて、どういう風につづいているんだか、ぜんぜんわからない。
過去の読書ノートを調べてみたかぎりでは、どうやら複数のキャラクターが並列で主役だった前作から、今回はそのうちのひとり、クリスティンに的を絞って描いてみたというようなところなのだと思う。だから続編というよりは、おそらくスピンオフ的な作品ってことなのだろう(あぁ、よくわからない)。
なんにしろ、前作では東京のあやしげなメモリーホテルとやら(やはり出典はローリング・ストーンズ?)で働いていたクリスティンが、この作品ではアメリカに舞い戻り、息子を出産してロサンジェルスで暮らしている。物語の舞台であるロスでは、街なかに巨大な謎の湖が発生して、市街地を呑み込んでしまっている。
なぜだかその湖は自分のせいでできたのだと信じるクリスティンは、やがてその湖に潜って幼い息子と生き別れになり、物語はそこから幾重にもこんがらがって、なにがなんだかわからなくなってゆく。傷心の彼女はルル・ブルーと名前を変えて、廃墟と化した湖畔のホテルに住まうSMの女王となる。またカルト宗教の教祖として崇められたりもしたなんて記述もある。物語は時空を超え、過去へ未来へと飛躍する。
そして、それらのエピソードと並行して、湖に潜ったクリスティンが、息子の待つ湖面のゴンドラへと戻ろうと、水中を浮上してゆく(もしくは、さらに深く潜ってゆく)シーンが、彼女の内的独白として描かれてゆく。このシーケンスはやがて1行だけとなり、その他のエピソードが描かれる段落の奇数ページを貫くような特異なレイアウトで、延々と結末の直前までつづいてゆく。そして彼女がようやく長い潜水を終え、湖面に姿を現したところで、物語はもうひとつの物語と合流して、この小説は終わりを迎えるのだった。
この結末がいい。よくわからないながらも、すっきりと終わって気持ちがよかった。
なんにしろ、実験的なレイアウトの上で、いかにもエリクソンらしい俗っぽさと幻想性が交錯する、得体の知れない力作だった。
(Nov 29, 2010)