マーシイ
トニ・モリスン/大社淑子・訳/早川書房
黒人女性作家トニ・モリスンの最新作。
十七世紀末の植民地時代のアメリカを舞台に、とある農場に寄りあつまった人々──豪邸建築にのりだす成り上がりの農場主、見ず知らずの彼のもとへ海を渡って嫁いできたその妻、幼いころ実の母親に売られてその農場に引き取られた黒人奴隷娘、そんな彼女をわが子のように溺愛するネイティヴ・アメリカンの家政婦、数奇な運命の果てにその農場で子供を産み落とすことになる混血女性など──の思いを重ねて描き、生きることの喜びと悲しみをあぶりだす長編小説。
黒人文学というと、被差別人種としての黒人の悲しみや怒りを描くものというイメージを抱いてしまいがちだけれど、トニ・モリスンのこの小説はそんな風に単純にカテゴライズできるほど、簡単じゃない。
この小説の中では、登場する白人たちもまた、イギリスの植民地への移民として、階層社会のなかで抑圧されている。黒人にしても、抑圧された可哀想な存在としてステレオタイプに描かれていたりはしない。主人公格のフロレンスは、幼くして実の母親に売られてしまうという、たしかに可哀想な身の上ではあるけれど──そしてそんな彼女が本当に哀れなのかが主題につながってゆくわけだけれど──、それでも農場での彼女は決して不幸な生活を送っていたりはしない。逆に愛されながらもその愛にこたえない、エゴイスティックな自我の持ち主として描かれている(ように僕には思えた)。少なくても彼女は悲劇のヒロインなんかではない。
それぞれに悲しみを抱いて生きる人々が、さまざまな事情のもとで寄り集まってできた疑似家族的な共同体が、ひとりの死をきっかけに、それまで保っていた
(Apr 09, 2011)