幻燈辻馬車
山田風太郎/ちくま文庫(山田風太郎明治小説全集三、四)
ちくま文庫から出ている山田風太郎明治小説全集の第三、四巻。
このシリーズの一、二巻に収録されている『警視庁草紙』を読んだのは、調べてみたら、かれこれ十年近くも前のことだった。
いつもだとそこで後続の作品を読むのをやめたりしないんだけれど、なぜかそのときは僕の風太郎熱がそれを機に冷めてしまったようで、つづきを読まないうちに、いつの間にかこのシリーズ自体が絶版となってしまっていた。しまったと思うもあとの祭り。
で、めでたくもこれらが復刊したのが、この二、三年のこと。ツイッターでそのことを知ったときには、お~っと大喜びしたものだったけれど、結局読まずにいるうちに、またそれなりの時間が過ぎてしまった。どうにも年を取ると、なにごとも後手後手になってしまっていけない。
まぁ、なんにしろ、またもや絶版になってしまうと困るので、いまだ手に入るこの時期に再度読み始めることに決めました。ということで、既読の一、二巻は飛ばして、今回は三巻から──なのだけれど。
うーん、でもこれ、僕は残念ながらいまいち好きになりきれない。
このシリーズは稀代のストーリーテラー山田風太郎ならではの奇抜な物語に、明治史を彩る歴史上の偉人たちを随所で絡めてみせたところが魅力だと思うのだけれど──この作品で言うと、三遊亭円朝、大山巌、坪内逍遥、田山花袋といった面々が出てくる──、どうも忍法帖にくらべると荒唐無稽さが低いせいか、話が殺伐としている。
忍法帖の場合、基本的に殺し合いの話でありながら、もともと忍者という存在自体が限りなくフィクションに近い上に、繰り広げられる忍法合戦が荒唐無稽なため、なんだそりゃって感じで苦笑を禁じ得ない部分があると思うのだけれど、この明治シリーズにはそういう馬鹿らしさがない。
まぁ、これとかは幽霊が出てくる話ではあるけれど、べつに幽霊が人を呪い殺したりするわけではなくて、人が殺されるのはもっと即物的な理由からだ。脇役の美女たちはむごい目にあってばかりだし、どうにも全体的に救われない感が強い。忍法帖を読み終えたあとに残る(その内容からすると不謹慎に思える)不思議なすがすがしさが、この作品からは感じられない。物語としてはおもしろいものの、そこが残念だったりする。
僕が『警視庁草紙』でばったりと読むのをやめてしまったのは、もしかしたらその辺の救われなさを無意識的に感じたからだったのかなとか、これを読んでちょっと思った。でも今回はこれに懲りず、引きつづきほかの作品も読む予定。
(Jul 01, 2012)