私たちがレイモンド・カーヴァーについて語ること
サム・ハルパート/村上春樹・訳/村上春樹翻訳ライブラリー
村上春樹翻訳ライブラリーの数少ないオリジナル翻訳作品にして、現時点で最後の一冊。レイモンド・カーヴァーの前妻や娘、知人の作家たちへのインタビューをもとに、故人の生涯をたどるメモリアル。
もともとは一人ひとりのインタビューを順番に並べた普通の体裁のインタビュー集だったものを、改訂の際に、個々のインタビューを時期ごとに細切れにして時系列に並べ直した、いまのスタイルに変更したのだとのことで、なるほど、感覚にテレビのドキュメンタリー番組を見ているような、おもしろいスタイルの本に仕上がっている。
ただ、映像をともなうテレビ番組なんかとは違い、インタビュイーたち――トバイアス・ウルフやリチャード・フォードといった、アメリカ文学界では有名なのかもしれないけれど、日本ではあまり馴染みがない人たち――のキャラクターがひと目では伝わらないので、それぞれの発言がどの人のものかが、いまいちよくわからない。初登場の際にはちゃんとその人の人となりやカーヴァーとの関係が紹介されているのだけれど、それがきちんと頭に入っていないもんだから、再登場するたびに、あれ、この人ってどういう人だっけ、と思ってばかりいた。話題に上がるカーヴァーの作品についても、すでに内容を覚えていないものばかりだし(記憶力がねぇ……)、残念ながら、僕にはこの本がちゃんと読めたとはいいがたい。まぁ、この本というか、カーヴァーについては、その作品全般において、終始そんな感じだけれど。
カーヴァーに近しい人たちの証言を集めた本なので、これを読むと、レイモンド・カーヴァーという人は人間的な魅力にあふれ、作家としての巨大な才能を持ち合わせたアメリカ文学界の巨人だと思えてくる。でも、正直なところ、その人の残した全作品を読んだいまなお、僕にはどこがそこまでの高評価を生んでいるのか、いまいちよくわからなかったりする。
そりゃ僕も、『ささやかだけれど、役にたつこと』とか、『ダンスしないか?』とか、『使い走り』とかは素晴らしいと思う。それでも、二、三行読んだだけで、これは特別な作家だと思ったとか、フィッツジェラルドやサリンジャーと肩を並べるほどすごい作家だと言われてしまうと、そうなの?と首を傾げざるを得ない。嫌いじゃないけれど、特別な愛着もわかない。
そんな僕はきっとまだまだ文学というものの本質がわかっていないんだろう。そして、この年でいまだわかんないとすると、これはもう一生わからないまんまで終わるのかもしれない。でもいまとなると、まぁそれでもいいやって思う。とくに誰かと文学的資質を競うって歳でもないし。それでも僕は本が好きだから。
(Oct 04, 2012)