フランケンシュタイン
メアリー・シェリー/森下弓子・訳/東京創元社/Kindle版
Kindle版で安く売っていたので、いまさらだけれどこんな本読んでみましたシリーズ第三弾、ゴシック・ホラーの古典中の古典、『フランケンシュタイン』。
これ、青空文庫版ならば無料で読めるのに、わざわざ有料の創元推理文庫版を買ったのは、青空文庫の味気ない表紙よりもこっちのほうが圧倒的によかったのと、こちらならば解説も読めるだろうと思ったからなのだけれど、残念ながらこの本には解説がついていなかった。
まぁ、通常の文庫本の半額以下だったので、とくべつ損をしたって気はしないけれど、それでも翻訳もので解説なしってのはめったにないし、東京創元社の公式ページを見るかぎり、通常の文庫版には柴田元幸氏絶賛の解説がついているようなので、このKindle版ではそれが割愛されているのは、なんとも残念だった。僕としては、もうちょっと価格があがってもいいから、ちゃんと解説もつけて欲しかった。
解説のないこの本にしても、いまんところ表紙のない早川書房の作品にしても、手に取りようがない電子書籍の場合、買ってみるまで、そのことがわからない。そんな電子書籍だからこそ、内容はできるかぎり通常の本と同じであって欲しい。こういう本をみると、電子書籍はまだまだ過渡期だなぁって実感するきょうこのごろ。
作品そのものに関しては、天才科学者がつくった人造人間の話というだけの知識しか持ち合わせていなかったら、思いがけないサブプロットがこれでもかと盛り込まれていて、びっくりだった。なんたってこれ、北極探検に出かけた若き船長が愛する姉にあてた手紙という形をとった書簡小説なわけで。電子書籍で、中身をペラペラめくって確認したりできないこともあって、もしや間違ってべつの本を読んでいるのではと思ってしまった。
物語はその船長が意外な場所でフランケンシュタイン博士と知り合いになって、その告白を手紙に書きつづったという形式で、さらにはそのなかにモンスターの告白が含まれるという三重構造になっている。現実問題として考えれば、そんなに入れ子になった手記なんてあり得ないと思うのだけれど、それでも十九世紀にこんな物語を書いていたって時点ですごいので、堅いことはいいっこなし。
内容的にも、モンスター誕生にまつわる科学的な荒唐無稽さはともかく、彼が人語を解するに至る理由づけがしっかりとなされていることには感心したし、なにより生命誕生という許されざる技により生み出された醜いモンスターの苦悩と、そこから派生的に生み出される悪をとことん描いている点が素晴らしいと思った。さすが後世にその名を残した作品だけのことはある。
(Feb 02, 2013)