ミレニアム2 火と戯れる女
スティーグ・ラーソン/ヘレンハルメ美穂、山田美明・訳/早川書房/Kindle版
すでに三作すべてを読み終えた今となると、この『ミレニアム』三部作が傑作だという意見には、まったく異論なし。いやぁ、ほんと、これはたぐい稀なる大傑作だと思う。まさかこれほどとは思ってもみなかった。
トリロジーということで言うならば、僕が知っている範囲で、この作品と構造的にもっとも近いのは、映画『スター・ウォーズ』の旧シリーズだ。
『スター・ウォーズ』の一作目がそれ自体、シリーズから独立した作品として出色の出来栄えであるのと同じように、この『ミレニアム』も第一作『ドラゴン・タトゥーの女』は、それだけとってみても、見事な完成度を誇っている。あれだけのミステリは、なかなか読めない。
ただ、その出来があまりによすぎるがゆえに、僕はこの二作目以降にはそれほど期待していなかった。あの第一作を超えるのは、並大抵のことじゃない。三部作と称される理由もわかっていなかった。ミステリではよくあるように、単に主人公が同じで、三作目まであるから、便宜上、三部作と呼ばれているのだろう、くらいに思っていた。
なので、この第二作は、この先ミカエルとリスベットの関係がどう変化してゆくのか気になるから、とりあえずフォローしておこう、くらいのつもりで手に取ったんだった。
そしたら、とんでもなかった……。
この作品から、物語はいよいよ本編に突入する。前作では主役というより、準主役というほうが正しいような扱いだったリスベット・サランデル――『ドラゴン・タトゥーの女』というタイトルの割には、思いのほか出番が少ないと思ったのは僕だけ?――が、満を持して主役に躍り出る。――というか、本人の意に反して、無理やり表舞台に立たされる。
小説としての構造も違う。多重的な構造だった前作に対して、今回は基本的に一直線に物語が進む。さらには、それだけで一個の作品として完結していた第一作とは違って、この第二作は、次回作とあわせて、前編・後編と読んだ方がいいような構造になっている。
要するにこの作品は、『スター・ウォーズ 帝国の逆襲』と同じように、三部作の中継ぎ的な役割を果たしているのだった(二作目で意外な親子関係があきらかになる点も『スター・ウォーズ』に似ている)。それ自体、とてもおもしろいけれど、かといって、これ一冊だけ読むってわけにはいかない作品だと思う。
ディテール的には、少女が変態野郎に監禁されているプロローグには、いきなりげんなりさせられたし、事件を大展開させるエピソードがやや偶然に頼りすぎている嫌いはある。クライマックスでのびっくり仰天な展開は、荒技すぎてなんだそりゃーって思った。
それでも、次回作まで読み終えた現時点では、そんな小さな欠点をあげつらうのが申し訳なくなるほど、三部作としての出来栄えが素晴らしかった。いますぐ三部作全部を初めから読み返したいくらいの傑作。
(Mar 05, 2013)