翻訳百景
越前敏弥/角川新書/Kindle
『ダ・ヴィンチ・コード』や『解錠師』などを手がけてきた英米ミステリ翻訳家、越前敏弥氏のエッセイ集。
内訳は翻訳家としての体験談や、ラングドン教授シリーズの出版にまつわる裏話、翻訳の技術的なうんちくに、主催している読書会の紹介などで、残念ながら『百景』と名乗るほどの広がりはないかなぁと。とくに翻訳家としての経歴については、去年読んだ『日本人なら必ず誤訳する英文』にも同じようなことを語ったインタビューが掲載されていたので、またですかという感があった。著作をわずか二冊しか読んでないのに、内容が重複するのはいかがなものか。
いずれにせよ、僕は翻訳家ならではの視点で未知の作品に関する興味をかきたててくれるような本を期待していたようで──まぁ、そういう部分がないわけではないのだけれど、それでも半分以上は著者が翻訳をする上で育んだ人間関係についての話って感じなので──、やや肩すかしを食ったような気分になった。翻訳家を目指している人には参考になるんだろうし、越前氏のファンにはいい本なのかもしれないけれど、どちらでもない僕にとっては残念ながら満足度の低い一冊だった。
でもまぁ、新書なんて得てしてこんなもんなのかもしれない。どうもデジタルで読んでいると、単行本、文庫、新書など、原本のフォーマットを意識せずに、すべて同じように一列で読んでしまうのがよくない気がしてきた。
(Feb 16, 2017)