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スティーヴン・キング/小尾芙佐・訳/文春文庫(全四巻)
前々から読みたいと思っていたスティーヴン・キングの代表作のひとつ。二部作で映画化されたので、二作目の公開前に読んどくことにした。
デリーという架空の町に巣くう謎のバケモノに少年少女が果敢に立ち向かってゆくというこの作品。映画の一本目がかなり原作に忠実なつくりになっていたので、ほぼ半分は知っている話だった。
スティーヴン・キングの筆致はとても描写力が高いので、映像化がしやすいってのもあるんだと思う。冒頭の描写――台風の中で黄色いレインコートを着た幼い少年が、路上に溢れる水に浮かべた紙の船を追ってゆくシーン――なんか、まったく映画のまんまじゃんって感じだった。――まぁ、正しくは映画が原作のまんまなんだが。
映画の一作目はすべて子供の話で、二作目が成長してからの話になるようだけれど、原作では子供時代と大人になってからのエピソードが終始平行して語られてゆく。でもって大人のパートはけっこう下世話で残酷だったりする。とくにクライマックスの子供時代の秘密にまつわるセクシャルなシーンなどは、そのまま映像化したら教育委員会が大騒ぎしそう。『スタンド・バイ・ミー』のホラー版ようなつもりで読むとやけどします。要注意。
映画ではいじめっ子の犯罪者なみの凶悪さに、なんでアメリカの映画に出てくるいじめっ子ってこんなに凶暴なんだろうと不思議に思ったものだけれど、この原作に出てくる危ない人物はその少年ひとりではなかった。紅一点・ベバリーの旦那とかも最悪。スティーヴン・キング、極悪人を書かせたら右に出る人がいないんじゃないだろうかって思った。そいつの末路があっさりしすぎなのがちょっとした不満かもしれない。
いやしかし、すっかり読書力の低下が著しい昨今だけあって、文庫四冊はさすがにしんどく、しかもスティーヴン・キングの文体がエンタメとしては過剰に饒舌なこともあって、読み終えるのに二ヶ月半もかかってしまった。映画の印象に侵食されている上に、時間をかけすぎたせいで、すでにディテールがあいまいで大したことが書けない。困ったもんだ。
(Jul. 15, 2019)