検察側の証人
アガサ・クリスティー/加藤恭平・訳/クリスティー文庫/早川書房/Kindle
映画化もされているし、クリスティーの戯曲の中ではもっとも有名な作品ではないかと思うのですけど……。
これを読んでなにに驚いたかって、自分の記憶力のなさ。何年か前に『死の猟犬』に収録された短編バージョンを読んでいるし、ビリー・ワイルダーが監督した映画版の『情婦』も観て、感想まで書いているのに、まったくどういう話か覚えていなかった。どうなってんだ、俺の記憶力。
まぁ、弁護士が主人公だってことまでは忘れていなかったし、後半に謎の女性が登場したところで、あぁ、そうだったとミステリとしての肝の部分を思い出したので、さすがに記憶ゼロってこともなかったけれど、それにしても、そこまでの忘れっぷりに自分でも感心してしまった。年取ると忘却力がはんぱない。
あまりに忘れていたので、つづけて短編を再読してみたところ、そちらは戯曲版とラストが違っていた。戯曲は短編よりも長い分、最後にもうひとひねりある。でもってその部分のせいで読後感がまるで違う。
世の中広いから短編のさくっとした終わり方が好きだという人もいるのかもしれないけれど、やはり無情感あふれる戯曲版のほうがインパクトが大きかった。
(Jun. 10, 2019)