2021年4月の本

Index

  1. 『クララとお日さま』 カズオ・イシグロ

クララとお日さま

カズオ・イシグロ/土屋政雄・訳/早川書房

クララとお日さま

 ノーベル賞・受賞後初となるカズオ・イシグロの最新長編。これが笑っちゃうくらいイシグロ節全開だった。
 今回、世界のイシグロが選んだ語り手は、クララという名のAI搭載の少女ロボット――もしくはアンドロイド。作品中ではどちらの言葉も用いられず、「AF」と表現されている。「人工知能」ならぬ「人工フレンド」ということらしい。
 舞台となるのは近未来のイギリス――たぶん。「パリに行ったことがある?」みたいなセリフがあったので、いずれによせ欧州のどこか。その社会では十代の少年少女にAFと呼ばれるロボットをコンパニオンとして付き添わせるのがトレンドになっている。あと、社会的に成功するには、子供のうちにある種の手術を受けることが必要とされているっぽい。でもそれによって命を落とす子供たちもいる。
 主人公のクララが買い取られていった家庭でも、その手術のために上の子を失っていて、クララの親友となる次女ジョジーも深刻な障害を抱えている。もしかしたら社会環境に子供たちの命にかかわる放射能のようなものが蔓延していて、それから助かるために手術が必要なのかもしれないけれど、その辺はまったく説明されていないので理由はよくわからない。
 いずれにせよクララは病弱な少女のつきそい役としてその家庭に受け入れられ、その子を元気にするために、懸命に尽くそうとする――のだけれども。
 この世界のAIはいまだ黎明期で、クララは手足を動かすにも膨大な学習が必要なレベル。現状認識も微妙にピントがずれている。思考がいかに論理的であろうとも、人間にとってのコモン・センスが前提条件としてインプットされていないから、とんちんかんな結論に達したりする。
 このずれ具合こそがイシグロのイシグロたるゆえんだ。信頼できない語り手ここに極まれりな感あり。クララが善意から繰り出すナンセンスな思考や行動にもやもやする感じ――これこそ僕にとってのカズオ・イシグロだって気がした。
 後半でジョジーの母親が藁にもすがる思いで進めていた計画があきらかになるあたりには、ある種のサイコ・スリラー的な怖さがあってすごい。一瞬の地獄絵図が垣間見えるその部分が僕にとってはこの作品のクライマックスだった。
 ただ、その方向で突き進んでゆけば、とんでもない話になりそうだったのに、そうはなっていないのが味噌。結末は意表をつくファンタジーな仕上がりになっている。これには驚いた。え、そんなのあり? と思いました。
(Apr. 06, 2021)

教会で死んだ男

アガサ・クリスティー/宇野輝雄・訳/クリスティー文庫/早川書房/Kindle

教会で死んだ男 (クリスティー文庫)

 クリスティーの作品も残り少なくなってきて、クリスティー女史の生前に刊行されたミステリの短編集はついにこれが最後とのこと。
 まぁ、とはいっても、これはアメリカで編集されたアンソロジーが原本で、収録作品はほとんどが二十年代に書かれたものだそうで、なるほど、それゆえにひさしく出番のなかったヘイスティングズが出まくり。昔ながらのヘイスティングズの語りによりポアロの事件が楽しめるという点がこの短編集のいちばんのポイントと思う。
 ということで、収録作品十三篇のほとんどがポアロもので、例外は最後の二編だけ。そのうち表題作である『教会で死んだ男』がマープルさん、もう一本がオカルト系の短編という内容になっている。なんでこんなにポアロものだらけの短編集の表題作がマープルさんなんだろうって、ちょっと思わなくもない。
 いやはや、それにしても電子書籍を読むペースが落ちるも落ちたり。毎晩ふとんに入ってKindleの電源を入れてはすぐに寝落ちする、というのを繰り返していたら、これ一冊を読み切るのにとうとう一ヵ月半もかかってしまった。いけません。
 ということで、もともと落穂拾い的な性格の短編集を、そんなに長い日数をかけて途切れ途切れに読んだので、内容についてはまったくなにも語れません。とりあえず読んだぞと。そんな一冊。
(Apr. 18, 2021)