遠巷説百物語
京極夏彦/KADOKAWA
終わったのかと思っていたら十年ぶりにリブートされた『巷説百物語』シリーズ最新作。
今作は都から「遠く」離れた妖怪ファンの聖地・遠野を舞台に、またもや又市以外のキャラを仕掛け人にして、御当地に伝わる妖怪談の裏話を描いてゆくという趣向。
狂言回しの役どころをつとめるのは、遠野のお殿様の命を受けて市井の人々のあいだに伝わる噂なんかを集めている宇夫方祥五郎という人物。「
収録されているのは全六話。それぞれ冒頭にタイトルのもととなった妖怪の浮世絵が配されている点はこれまでと同じだけれど、今回は遠野という舞台にちなんで、そのあとに「昔、あったずもな」から始まり、「どんどはれ」というフレーズで終わる方言だらけの民話が二、三ページで引用されている。
導入部となるその章が「譚」というタイトルで、物語の本編となるそれ以降の三章にもそれぞれ「咄」「噺」「話」という題がついている。でもって、これらの漢字すべてに「はなし」とルビが振ってある。これが全話に共通する構造。
要するに昔話である「譚」から始まり、徐々に漢字をいまふうに改めていって、最後の章で現在でも通用する「話」でもって、事件の種明かしをしてみせるという趣向になっているのだった。たいへん気が効いている。
もしかして過去の作品もそんなだったっけ?――と思って調べようかと思ったのだけれど、困ったことに我が家の本箱の前はすっかりモノで埋まっていて、旧作が見つけられなかった。仕方ないので、アマゾンで『巷説百物語』の試し読みをしてみたところでは、冒頭の章が「1」からの連番になっていたので、この趣向は今回のオリジナルなんだろう。とても洒落ていてカッコいいなと思った。
出てくる妖怪は最初の羽黒べったり(要するに女性ののっぺらぼう)こそおばけっぽいけれど、それ以降は大魚に巨鳥、巨大熊など(舞台が山奥ということで?)非現実的な大きさの動物がメイン。事件は藩の役人の汚職絡みのものが多い印象だった。
最後から二番目の『
前作からのインターバルの長さや舞台の違い、又市が主人公でないこと(でもいちおう出番はある)などで、今回はとくに前作までの内容を忘れていても特に問題なかったけれど、それでも最後の一話だけは旧作からの流れを踏んでいるので、やはり過去をわきまえて読んだほうが確実に楽しめたんだろうなぁと思う。
すでにシリーズ完結編となる次回作が連載中とのことなので、それを読む前に旧作をぜんぶ文庫版で読みなおすことにしようかと思っている。
(Aug. 22, 2021)