フランキスシュタイン ある愛の物語
ジャネット・ウィンターソン/木原善彦・訳/河出書房新社
イングランドの女性作家ジャネット・ウィンターソンの翻訳最新作。名前は前から知っていたけれど、これまで読む機会がなかったこの人の作品を、綺麗な装丁とトリッキーなタイトルに惹かれて初めて読んだ。
内容はタイトルから連想されるように『フランケンシュタイン』をモチーフにしたもの。人造人間の創造というテーマにまつわる人間模様を、現在と過去のふたつのシーケンスで交互に描いてゆく。
一つ目の流れは『フランケンシュタイン』の作者メアリー・シェリーを主人公にしたもの。彼女とその夫で詩人のシェリー、シェリーの詩人仲間のバイロン、吸血鬼小説の生みの親だというポリドリ、そしてメアリーの義姉妹ステラ。この五人による(噂によると乱交気味の)共同生活を描くパートは――さすがにディテールは作者による創作だろうけれど――いちおう史実にのっとったものと思われる。
もうひとつは現代を舞台にした純然たるフィクション。レイという性別不詳の人物を軸に、彼(または彼女)と深い関係にあるマッド・サイエンティスト風の大学教授や、セックス・ロボット産業で一旗揚げようとする起業家らを絡めて描いたもので、こちらも過去のパートと対比させて、男女五人による物語が展開する。
物語がメアリー・シェリーたちの話から始まるので、名作『フランケンシュタイン』の誕生秘話が展開されるのかと思っていると――まぁ、そういう側面は当然あるにせよ――次の章では現代の話になって、いきなりAIコンベンション会場でセックスボット(アンドロイド版ラブドール)の製品紹介――しかも廉価版から高級品にいたる様々なそれ――を延々と聞かされたりして、序盤から意表をつかれた。
要するに『フランケンシュタイン』で描かれる「人類による生命の創造」という禁断のテーマを、IT技術による人工知能やロボットというべつの形で実現しつつある現代と対比させて描いているのがこの作品のポイントだ。
過去のパートは実在の人物を配していることもあって、そんなに突拍子のないことは起こらないけれど、現代のパートは最後がファンタジー風の味わいになっていて、ちょっと村上春樹っぽかった。ただ、恥ずかしながらそのおかげでどう決着したのか、よくわからなかったりもする。お粗末。
まぁ、とりあえず、わからないながらも印象はよかったので、この小説はいずれまたじっくりと再読したい。当然この人のほかの本もいずれ読む。
(Mar. 07, 2024)