了巷説百物語
京極夏彦/KADOKAWA
巷説百物語シリーズ、怒涛の完結編!
完結をうたうからには、『続巷説百物語』でほのめかされたきり詳細がわからないままの水野越前頭との抗争の顛末が描かれるのだろう――でもってその過程で事触れの治平や一文字狸が命を落とすことになるのだろう――というのは想定内。
でも京極夏彦はその大事件を思わぬ形で描いてみせた。
物語の中心人物は、
狐取りの名人として名をはせ、その一方で人の嘘を見抜く
でもって、又市の仲間たちと次々と出会う――のだけれど、肝心の又市にはまったく出会わない。一話目の最後でニアミスしたかと思わせておいて、じつはそうじゃなかったりするし。なるほど、このふたりがいつ出逢うのかが、この小説最大の見せどころなんだろう――と思って読みつづけていたら、それがまさかのタイミングで……。
この作品のもうひとりの重要人物が、京極堂のご先祖様、
このふたりに絡んで、旧作のキャラクターが続々と登場。おぎん、治平、徳次郎、林蔵らは当然として、東雲右近、旗屋の縫、同心の志方や田所ら、シリーズを再読したばかりでなかったら「それは誰?」と思ってしまっただろうキャラが次々と出てきて、物語に色を添える。
登場人物のみならず、舞台も旧作を踏まえている。一話目のクライマックスを飾るのは『数えずの井戸』の青山屋敷だし、二話目は『巷説物語』の『柳女』の旅籠だ。後半では長耳の仲蔵の浅草の隠れ家も登場する。
最終回ということで、そんなふうに過去作への言及がはんぱない。物語自体おもしろいから旧作を知らなくてもそれなりに楽しめると思うけれど、知って読むのと知らないで読むのでは、まったく感慨が違うだろう。いやぁ、直前に旧作を再読しておいてほんと正解だった。
時代劇マニアの京極夏彦がチャンバラを書きたかったといって用意したど派手なクライマックスには江戸怪談三部作につながる血生臭さがある(おぎん強い)。あぁ、あのシリーズが血みどろなのは、チャンバラを書きたかったからなのかと、いまさらながら思った。あと、悪役に七福神のコスプレをした七福連なるチームを配したことで、山田風太郎の忍法帖シリーズに通じる感触もある。――まぁ、風太郎先生のような清々しい読後感はないけれど。
ということで、これまでと同じように連作短編の形はとっているけれど、最終作というだけあって、全編を通じて一個の長編のような読みごたえのある怒涛の力作に仕上がっている。
唯一惜しむらくは、事件の裏方として黒子に徹している又市の存在感が希薄なこと。まさか又市がこんなにも出てこないとはおもわなかった。
これで最後というのならば、もうちょっと彼の活躍する姿を見たかったよ……。
(Aug. 11, 2024)