Coishikawa Scraps / Books

2025年9月の本

Index

  1. 『コレクションズ』 ジョナサン・フランゼン

コレクションズ

ジョナサン・フランゼン/黒原敏行・訳/ハヤカワepi文庫

コレクションズ (上) (ハヤカワepi文庫) コレクションズ (下) (ハヤカワepi文庫)

 「ハヤカワepi文庫を読もう」第二シーズンの二~三冊目ってことで読んだのだけれど、これは英米文学好きならば、ハヤカワepi文庫に収録されているいないに関係なく、読んでいてしかるべき作品だった。

 ジョナサン・フランゼンは1959年生まれ、つまり僕よりも七歳年上のアメリカ人作家。イリノイ州出身で、理系の大学助手を務めていた二十代の終わりに処女作を出すも、しばらくは鳴かず飛ばずで、それから十三年後、四十二歳のときに発表したこの長編第三作が全米図書賞を受賞して、ようやく日の目を見た、というような経歴の持ち主らしい。

 この小説はアルフレッドとイーニッドという老夫婦と、三人の子供たち、ゲイリー、チップ、デニースからなるランバート一家の物語。

 一家はそれぞれに問題を抱えている。

 父親のアルフレッドはパーキンソン病に認知症を併発して家族を悩ませている。

 母親のイーニッドは普通の人だけれど、その平凡さで家族を苦しめている。

 長男のゲイリーはそんな両親を嫌う妻との関係に悩んでいる。

 次男のチップは女学生の誘惑に負けて、大学教授の職を失ってしまう。

 長女のデニースは一流シェフとして活躍しつつも、バイセクシャルな不倫関係に悩んでいる。

 物語はそんな一家が、最後のクリスマスを家族全員で過ごしたいというイーニッドの希望を叶えるため、一斉に集まるか否かという話を軸に、家族それぞれの過去から現在を、章を分けて個別に、オムニバス形式で描いてゆく。

 一家全員の人生が難ありだし、人間関係はどこもギスギスしていて救われない。それでいて読んでいて気分が滅入ったりしないのが、この小説のいいところだ。人生なんて結局は誰でもこんなもんさという達観が物語全体から伝わってくる。文庫本上下巻一千ページ近いボリュームをかけて、こんな楽しくもない物語を書いて、しっかりと読者を楽しませるのがすごい。

 『コレクションズ』というタイトルは「収集」ではなく「修正」の意味のほう。家族のそれぞれがなんらかの意味で人生の「修正」を余儀なくされる、という意味でつけられているのだと思うのだけれど、なまじ「コレクション」という言葉が日本語として定着してしまっている分、その意味が伝わらないのが残念なところだ。

(Sep. 6, 2025)