Jリーグ開幕直後に、東北地方が未曾有の大震災に見舞われてから、かれこれ3週間。地震と津波の被害だけでも甚大なところへきて、原発事故で放射能が流出する緊急事態を前に、予定されていた代表戦2試合(モンテネグロとニュージーランド)がキャンセルになったため、急遽その日程を流用して開催された、日本代表とJリーグ選抜チームのチャリティーマッチ。
親善試合が中止になったのは致し方なし──というか至極当然。誰だって放射能だだ漏れの国に大事な代表を送り込みたくないだろうし、こちらだって申し訳なくて来てくれなんてとても言えない。それどころか「すいません、うちはいまとっ散らかってるんで、とてもご招待どころじゃありません」って謝りたいくらい。
でもその結果として行われたこのチャリティーマッチは、これまでにない新鮮な試合になった。なんたって、実質的にこれは日本代表どうしの対戦だったから。
かたやアジアカップを制した海外組中心の日本代表。かたやちょっと前まで代表の常連だった選手や、怪我で現代表をリタイアしている選手、はたまたこれからが期待される若手らからなるJリーグの選抜チーム。おかげでJリーグのオールスターとはひと味もふた味も違った、とても興味深い試合になった。
日本代表を率いるザッケローニ(いやしかし、放射能が飛び散るなか、よくぞ再来日してくれました。感謝)がこの試合のスタメンに選んだのは、アジアカップで優勝したチームとほぼ一緒だった。フォーメーションはつねづね噂されていた3-4-3(!)で、GK川島、DF吉田、今野、伊野波、両サイドウィングが内田、長友、ボランチに遠藤、長谷部、で本田、岡崎、前田の3トップと。3バックだったためDFが一枚多かった点を除けば、あとはアジア杯の決勝と同じ。こういう試合でもちゃんと凱旋試合の体裁をとっているところが嬉しい。
対するJリーグ選抜(指揮官はピクシー!)は、GK楢崎、DF駒野、中澤、闘莉王、新井場、MF小笠原、中村憲剛、小野伸二、FW梁勇基、大久保、佐藤寿人という布陣。いってみれば、南アフリカW杯直前の日本代表に、被災地の仙台や鹿島の選手を加えたといった形だった(梁がFWってのが意外)。
こちらのチームはバージョンがひとつ古い感こそあるものの、それでもひさしぶりに中澤と闘莉王のCBコンビがそろい踏み、オガサ、小野、憲剛が中盤に並んだ構成には、現代表に負けないワクワク感があった。しかもこのチームはベンチに俊輔やカズまで控えている。さらには期待の若手、原口元気、平井、ハーフナー・マイクなどもいる。
海外組中心の現代表とこのチームが互角に渡りあえれば、それは要するに、日本サッカーが決して世界に引らないという証明になるんじゃないか?──そんな思いが胸の底にあったからだろう。おまけにそちらに鹿島から小笠原と新井場が加わっていたこともあり、試合が始まってみたら、僕はすっかりJリーグ選抜応援モードになってしまっていた。
つまり「敵は日本代表」という。なんだそりゃ~な展開に。
いつもは応援している日本代表を、なにゆえこういう局面で敵対視しなきゃなんないのか。べつにどっちにつくでもなく、ニュートラルに試合を楽しみゃいいじゃんよと思うんだけれど、まあ、仕方ない。この試合ではそういう「打倒日本代表」なモードになってしまったんだから。
でもそうやって仮想敵国的に日本代表を観るってのも、いつにないことで、とても新鮮だった。まあ、特別いいサッカーをしているとは思わなかったけれど、前半に限ればディフェンスは安定していたし、高めからのプレスでボールを奪って、素早くゴールを目指すカウンターがしっかり戦術に根付いている印象を受けた。本田からのパスを受けて岡崎が決めた2点目のゴールがその典型だと思う(1点目は遠藤のFK。あれもじつに見事だった)。
対するJリーグ選抜は、さすがに開幕早々にリーグが中断になってしまったせいで、実戦感覚が不足している感がありあり。とくにそれを強く感じさせたのが小笠原で、被災地出身ということで、誰よりやる気があったのは間違いないと思うのだけれど、らしからぬパス・ミスが多くて、残念な出来だった(まあ、ボール・タッチもそれなりに多かったけれど)。
とはいえ、それでもこの日のオガサのプレーはアグレッシブだったと思う。こういう試合だからこそ、コンディション不十分ながらも安直なパスに逃げず、あえて前を向いて、きびしいところへリスキーなパスを出そうとしていた。結果としてそれが相手の網に引っ掛かってしまうシーンが多かったのは残念だったけれど、僕は彼のそういう姿勢は素晴らしいと思った(ま、当然、贔屓目はあるけど)。
なんにしろそんなわけで、Jリーグ選抜がそこはかとなく震災の後遺症を感じさせるために、前半を見るかぎり、やはりこりゃ現役が強いやって感じだった(スコアも2-0だったし)。でもそんな試合も、後半に入って、ともにサブの選手をどどっと投入したことで大きく流れが変わる。
前半の日本代表がアジア杯仕様でプレーがスムーズだったのに比べると、後半は出番の少なかったサブのメンバー中心となったために、まとまりを欠いた印象だった。交替で入った中にも松井、阿部、槙野、家長といった海外組がいたんだけれど、やはりともにプレーした時間が短い分、寄せ集め的な印象が否めない。
いっぽうのJリーグ選抜も後半開始とともに何人かを入れ替えたものの(オガサは残念ながら前半だけで俊輔と交替)、ピクシーの采配がばっちりと決まって、まったく戦力ダウンを感じさせなかった。俊輔は正確なサイドチェンジのパスをびしばし決めるし、原口や関口、ハーフナーなど、攻撃的なポジションで投入された若手も溌剌としたプレーを見せて、チームを活気づけた。
そしてなによりも見せてくれたのがカズ。出てきただけで大盛りあがりなのに、まさかのゴールまで決めてしまうたぁ……。それも、あれがほんとに現役最年長のゴールかと疑ってしまいたくなるような素晴らしいやつを。
いやはや、やっぱこの人は違うや。ヴェルディのころはにっくき敵だったけど、いまとなると素直に感心せずにいられない。停電対策だってんで十階のオフィスまで階段で上がろうとしただけで、心臓がバクバクしてこりゃ駄目だと思ったこの僕とはえらい違いだ(じつは同い年)。
ということで、試合は2-1で日本代表の勝利に終わったけれど、MVPを選ぶとしたらおそらくほとんどの人がカズの名をあげるんだろうなぁ……って一戦だった。
あ、そういや新井場がなにげにフル出場だったのは、ちょっと驚きだった。この試合に集まった選手のうちでは数少ない、代表歴のない最年長者なのに。あと、一方で日本代表に選出されたのに(そしてザッケローニが前日会見で全員使うと言っていたのに)、結局出番のもらえなかった本田拓也と細貝がちょっと不憫。それともあのふたりは怪我でもしてたんでしょうか?
いやそれにしても、本田とオガサや小野とのマッチアップとか、俊輔からカズへのパスがつながるところとか、お~っと思うようなシーンの多い試合だった。なにより、サッカーが普通に観られる生活っていいよなぁ……としみじみと思った。
東北の人たちが一日も早く、こうやって普通にサッカーを楽しめる日常に復帰できることを願ってやみません。
(Mar 29, 2011)