2010年1月の映画

Index

  1. キングダム・オブ・ヘブン
  2. マンマ・ミーア!
  3. アイ,ロボット
  4. 恐怖の岬
  5. ブロック・パーティー
  6. 地球に落ちて来た男
  7. グラン・トリノ
  8. シャレード
  9. デッドマン
  10. バニシング・ポイント
  11. 波止場
  12. チェ 28歳の革命
  13. チェ 39歳 別れの手紙

キングダム・オブ・ヘブン

リドリー・スコット監督/オーランド・ブルーム、エヴァ・グリーン/2005年/イギリス、アメリカ、ドイツ、スペイン/BS録画

キングダム・オブ・ヘブン (2枚組 プレミアム) [DVD]

 リドリー・スコットが十二世紀のエルサレムを舞台に、キリスト教徒とイスラム教徒との争いを描く一大歴史絵巻。
 僕はこの辺の歴史──いや、正しくは世界史そのもの──に疎いので、物語の背景がまったくわかっていないのだけれど、なんでもキリスト教会が聖地エルサレムを奪還するために組織したのが十字軍で、その十字軍がエルサレムを占領してつくったのがエルサレム王国とのこと。で、この映画はそのエルサレム王国がふたたびイスラム教徒たちに襲われて、ピンチにおちいった時代を舞台にしている。
 オーランド・ブルーム演じる主人公のバリアンは、十字軍の英雄イベリン卿ゴッドフリー(リーアム・ニーソン)の私生児で、フランスの鍛冶屋。自分を訪ねてきて、実の父親だと名乗りをあげたゴッドフリーに連れられて十字軍に加わり、父の跡をついで、めざましい活躍をしてみせる。
 この主人公がやたらとよくできたやつで、たかが村の鍛冶屋出身とは思えないくらいにすごい。いっくら英雄の息子だとはいえ、ちょっと出来すぎの感あり。あと、キリスト教徒では姦淫は罪だろうに、人妻と不倫に走っちゃったりして──ヒロインは 『007/カジノ・ロワイヤル』 の美女、エヴァ・グリーン!──、現代ならばともかく、善良なる十二世紀のキリスト教徒がそういうことでいいのかと思わないでもない。まあ、その分は善行の数々で補われているということなんだろうか。よくわからない。
 なんにしろ大規模なロケによる映像はとても美しくて、映画としてはなかなか見ごたえがあった。ジェレミー・アイアンズらが脇を固めるキャスティングも文句なしだし、歴史的背景がわからなくても十分に楽しめる作品だと思う。『24』 のシーズン6でアラブ系のテロリストを演じた人(デヴィッド・シューリス)も出てます。
 そういえば、クレジットにエドワード・ノートンの名前があるので、いったいどこに出ていたんだろうと思ったら、なんとハンセン病に侵されて仮面をつけたままの王様の役でした。ああ、そりゃ気がつかないや。
(Jan 12, 2010)

マンマ・ミーア!

フィリダ・ロイド監督/メリル・ストリープ、アマンダ・セイフリード/2008年/アメリカ/BS録画

マンマ・ミーア! 【VALUE PRICE 1800円】 [DVD]

 ぜんぜん知りませんでしたが──って、ほんと知らないことが多い──、これは大ヒットしたという同名ブロードウェイ・ミュージカルの映画版。
 結婚式を間近に控えた花嫁(アマンダ・セイフリード)が、自分の実の父親を知りたくて、かつて母親(メリル・ストリープ)の恋人だった三人の男性を式に招いたことから巻き起こるどたばたを、ABBAのヒット曲の数々に乗せて描いてゆく。
 この映画のポイントはおそらく、ミュージカルであるにもかかわらず、歌えない俳優ばかりを集めたところ。メリル・ストリープをはじめ、「この人あまりうまくないなぁ」と思ってしまう歌唱力の面々が、恥じることなく堂々とその歌声を披露しているところに、なんともいえないおかしみがある。それも熱唱しているのが僕なんかでも知っているABBAの大ヒット曲だから、なおさらおかしいという。もう最初から最後まで、にが笑いの連続。
 花嫁の父親候補を演じるのは、ピアース・ブロスナン、コリン・ファース、ステラン・スカルスガルドの三人(最後の人は 『パイレーツ・オブ・カリビアン』 でオーランド・ブルームの父親役を演じていた人とのこと)。あとのふたりはともかく、コリン・ファースがメリル・ストリープの元恋人って役どころは、年齢的にちょっとどうなのと思う。
 メリル・ストリープの親友役で、髪が短いほうの小太りの女性(ジュリー・ウォルターズ)は、ハリー・ポッター・シリーズでロンの母親役を演じている人だそうです。なんと。
(Jan 12, 2010)

アイ,ロボット

アレックス・プロヤス監督/ウィル・スミス/ブリジット・モイナハン/2004年/アメリカ/BS録画

アイ,ロボット [DVD]

 アイザック・アシモフのロボット三原則を下敷きにして、ウィル・スミス演じるロボット嫌いの刑事が、最新ロボットをめぐる陰謀に迫ってゆくさまを描くSFアクション・スリラー。
 この映画、ロボットの顔がよくないというのもあるけれど──僕ならあんなロボット、あげるといわれても貰わない──、シナリオの出来もいまいちだと思う。
 たとえば、ウィル・スミスがロボット嫌いになった理由なんか、まるで納得がゆかない。仮にもロボットに命を救われておきながら、そのときのロボットの行動が許せないからといって、一方的にロボットを嫌悪している人なんて、いなかないですか? せめてロボットに対する感謝と不信が相なかばするアンビバレントな感情の持ち主……くらいの設定にしておいて欲しかった。
 あと、「ロボット嫌い」というキャラクター付けのためか、ウィル・スミスがやたらとオールドファッションなものばかりを好むレトロな人だという設定になっているのもどうかと思った。
 レトロといっても、時代設定が2035年なので(なんといまから25年後)、彼にとってのレトロは映画公開当時(2004年)の最新モードだ。おそらく未来から現在を振り返ってみせて、そのミスマッチを楽しませようという意図があるんだろうけれど、そのせいで主人公のキャラクターがぶれてしまっているように思える。
 たとえば、ガソリンで走るバイクにヒロインのブリジット・モイナハンがびっくりするシーン(すでに電気自動車があたり前になっているらしい)。あれなんか失敗の典型だと思う。オタクならばともかく、そんなものをふつうの刑事が持っているというのは、不自然きわまりないでしょう(どこでガソリンを調達してるのやら)。おまけにそんなレアなバイクを、彼はぜんぜん大切にしないで平気で乗り捨てるし。レアものにこだわるオタク的な趣味性と、それらを大切にしない行動がまるでそぐわない。いかにも映画のための設定って感じがする。
 そもそも「ロボットは人間を殺してはいけない」というロボット三原則を大きく掲げておきながら、主人公が次から次へとロボットに殺されそうになるってのも変な話だ。この映画は、そんな風に細かいところでやたらと破綻をきたしている。コメディ要素が高ければ、それでもいいと思えるんだけれど、この映画の場合、笑えるシーンもほとんどないし……。
 まあ、そんなわけで、出来映えにはあまり感心はしなかったけれど、かといってつまらなかったかといえば、そんなこともなく。派手なシーンがたくさんあるので、観ていて退屈はしなかった。そんな作品。
(Jan 15, 2010)

恐怖の岬

J・リー・トンプソン監督/グレゴリー・ペック、ロバート・ミッチャム/1962年/アメリカ/BS録画

恐怖の岬 (ユニバーサル・セレクション2008年第7弾) 【初回生産限定】 [DVD]

 ひさしぶりにモノクロ映画もいいかなと思って、スコセッシがリメイクしたこれを観てみた。昔刑務所に送りこんだ男に逆恨みされて、ひどい目にあう弁護士一家の話。
 スコセッシのバージョンは未見だけれど、観てみてなるほどと思った。ロバート・ミッチャムの演じるマックス・ケイディという男、いかにもロバート・デ・ニーロがやりたがりそうな役どころだ。シニカルなにやけ顔がなんとも不気味で、こんなやつにつきまとわれたら本気で嫌だろうなあと思わせる。その悪役ぶりがあまりにはまっているので、この人がのちに 『さらば愛しき人よ』 でフィリップ・マーロウを演じるといわれても、いまいちぴんとこない。
 ミッチャムに対するのは名優グレゴリー・ペックで、このふたりについてはとてもいいと思うのだけれど、彼の奥さんと娘さん役の女優さんたちが、(言っちゃなんだけれど)いまいちぱっとしない。失礼ながら、もっと美女と美少女だったらばなぁ……と思ったりしてしまった。
 あと、この映画はオープニングのシーケンスがよかった。ロバート・ミッチェルが通りを裁判所へと向かう姿をカメラで追いながら、タイトルやクレジットをかぶせてゆくというもの。なんの変哲のない、この時代の映画としては、ありふれたオープニングなんだけれど、ひさしぶりにこの手のフィルムを観たもので、その飾らなさが妙に新鮮だった。たまには昔の映画もいいもんだ。
(Jan 16, 2010)

ブロック・パーティー

ミシェル・ゴンドリー監督/デイヴ・シャペル/2006年/アメリカ/DVD

ブロック・パーティー [DVD]

 監督が 『エターナル・サンシャイン』 のミシェル・ゴンドリーで、珍しくローリン・ヒルが出ているミュージック・ドキュメンタリーだというので観た作品。
 内容は、黒人コメディアンのデイヴ・シャペルという人が仕掛け人となってブルックリンの街中で開催した黒人アーティストだけのフリー・コンサートの模様を、その数日前から追ってゆくというもの。
 フリーってくらいだから無料でやっているんだけれど、そのくせ出てくるアーティストがすごい。僕の知っているところでいえば──って大半は名前を知っているってレベルだけれど──、カニエ・ウエスト、コモン、モス・デフ、エリカ・バドゥ、ジル・スコット、ザ・ルーツ。そして目玉はなんといってもローリン・ヒル──ではなく、この企画のために彼女の提案でひと晩かぎりの再結成を果たしたという、ザ・フージーズ! ということで、現在ハイチ大震災の救済のため大車輪で活動しているワイクリフ・ジョンも登場している。
 なんにしろ、グラミー賞受賞者が勢ぞろいした超豪華なラインナップなわけだ。そんな贅沢なライヴをブルックリンの街中で、それもスタジアムとかではなく、ふつうの路上の一角で、無料でやっちゃうってんだから、ただごとじゃない。出演者は通りの一角にある保育園──ノートリアスB.I.G.が子供のころ通っていたそうだ──のビルを借り切って、そこを楽屋替わりに使っていたりする。
 コンサートが始まるまでを、けっこう時間をかけて描いている分、個々のパフォーマンスが短めになってしまっているのがやや残念だけれど、まあ、もとよりラップは門外漢。それでも十分に楽しめるんだから、これはとても魅力的なドキュメンタリー・フィルムだと思う。
 こんな突拍子もない企画を考え出して、実現して、なおかつこんな上出来なフィルムまで残してみせたデイヴ・シャペルとミシェル・ゴンドリーに大拍手。
(Jan 17, 2010)

地球に落ちて来た男

ニコラス・ローグ監督/デヴィッド・ボウイ、キャンディ・クラーク/1976年/イギリス/DVD

地球に落ちて来た男 【プレミアム・ベスト・コレクション00】 [DVD]

 ロック・ファンとして一度は観ておかないとと思っていたデヴィッド・ボウイ主演のSF映画。ずいぶん前に手に入れはしたものの、いまいち乗り気がしなくて放ってあったのだけれど、たまたまロッキング・オンの山崎さんのブログで取り上げられていたのをみて、ようやく観てみようって気になった。
 でもこれ、拍子抜けしたことに、音楽面でのロックっぽさはまったくなし。デヴィッド・ボウイの人間ばなれしたエキセントリックな美しさと、細かいところのわかりにくいシニカルな物語で──ワインを一本空にしたあとだったせいか、僕にはなぜメガネの社長さんが殺されたのかとか、プールで泳いでいるマッチョな黒人が誰なのかとか、ぜんぜんわからなかった──、カルトな人気を誇るというのも納得の一品だった。
 下世話な話になってしまうけれど、この作品を観てびっくりしたのは、ヌード・シーンがまるっきり無修正だったこと。最近は「無修正版」をうたったDVDがたまにあるけれど、この作品はその手のうたい文句がいっさいなかったので、まさかこんなに大胆な性描写のある映画だとは思っても見なかった。なんたって女性のヘアだけではなく、ちらりとボウイの男性自身まで写っている。しかも最近の話ならばともかく、これが四半世紀も前の作品なんだから驚く。
 そうかぁ、海外ではそんな以前から、こういう映像があたり前のように公開されていたんだ。それにくらべて日本って……と思ってしまいました。
(Jan 18, 2010)

グラン・トリノ

クリント・イーストウッド監督・主演/ビー・ヴァン、アーニー・ハー/2008年/アメリカ/DVD

グラン・トリノ [DVD]

 クリント・イーストウッドが自ら映画に出演するのはこれが最後だという噂の作品。
 この映画でイーストウッドが演じるのは、きわめつけの頑固ジジイ、ウォルト・コワルスキー。彼は朝鮮戦争の生き残りで、その歯に{きぬ}着せぬもの言いは、息子たちにさえ嫌われている(──と見せておいて、ところがどっこい、この人は意外と人望があることが、おいおいわかる)。
 そんな彼が妻を失い、ひとりで暮らし始めた直後に、となりに中国人──なのかな、モン族って? よくわからない──の一家が越してくる。人種差別のなにが悪いといった調子の彼は、最初から彼らのことを毛嫌いしているのだけれど、ちょっぴり太めなその家の娘、スー(アーニー・ハー)の勝気でいきいきとした魅力にほだされて、徐々に彼女たちとの親交を深めてゆく。
 やがて彼はスーの弟で、とても内気なタオ(ビー・ヴァン)とも親しくなり、この青年を一人前の男に育て上げるべく、心を砕くようになる。ところがタオの従兄が青年ギャング団の仲間だったことから、悲惨な暴力事件が起こってしまい……。
 いやあ、これはいまの時代だからこそ、そしてイーストウッドだからこそ説得力を持ったという作品だと思う。
 『ダーティハリー』 や 『許されざる者』 で卑劣な悪漢へと単身立ち向かっていったように、彼はここでもまた卑劣な青年たちの前にひとりで立ちふさがる。ただし、ここでの彼の行動は、これまでの作品で見せたヒロイックさとは一線を画している。
 力に力で報復するという負の連鎖を断ち切らないかぎり、真の平和は訪れないだろうと。この映画にそんな作り手としてのメッセージが込められているのはあきらかだ。これはまさに9.11以降のアメリカを中心とした世界のあり方に対する、イーストウッドからの回答ともいうべき作品なんだろう。アメリカという国のヒロイズムの一端を担ってきたような人の映画だからこそ、そのメッセージは重みがちがう。いやぁ、ぐさっときました。
(Jan 21, 2010)

シャレード

スタンリー・ドーネン監督/ケイリー・グラント、オードリー・ヘプバーン/1963年/アメリカ/DVD

シャレード【ユニバーサル・セレクション1500円キャンペーン/2009年第4弾:初回生産限定】 [DVD]

 監督が 『雨に唄えば』 のスタンリー・ドーネン、主演はオードリー・ヘプバーンにケイリー・グラント、助演がウォルター・マッソーにジェームズ・コバーン、そして音楽がヘンリー・マンシーニという豪華なキャストとスタッフによるサスペンス・スリラー。
 この映画、若いころに地上波で一度くらい観たことがありそうな気がするんだけれど、内容はまったくおぼえていなかったので、もしかしたら、ちゃんと観るのは初めてかもしれない。
 いずれにせよ、印象はまあまあ。いまとなるとこの手の映画は数え切れないくらいあるので、物語としての新鮮さはほとんどないし、ケイリー・グラントがスーツ姿のままシャワーを浴びるシーンなんかに顕著だけれど、ところどころに散りばめられたユーモアのセンスがいまいちピンとこなかった。ケイリー・グラントが善人なのか悪人なのか、いまいちはっきりしないせいで、安心した気分で楽しめないってのもある。
 それでもまあ、オードリー・ヘプバーンはやっぱりきれいだ(初登場のシーンでのドングリの妖精みたいなファッションにはちょっぴり笑ったけれど)。僕はとくべつ彼女のファンってわけではないけれど、彼女が見られるだけでも十分見る価値があるかなという気がしてしまった。
(Jan 23, 2010)

デッドマン

ジム・ジャームッシュ監督/ジョニー・デップ/1995年/アメリカ/DVD

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 恥ずかしながら、僕はいまさっき、この感想を書くためにネットで調べものをしていて初めて、自分がジム・ジャームッシュとヴィム・ヴェンダースを混同していたことに気がついた。この映画、ずっとヴィム・ヴェンダースの監督作品だと思いこんでいました。なんだ、ちがう人じゃん……。
 そういえば僕は 『ストレンジャー・ザン・パラダイス』 も 『ダウン・バイ・ロー』 も観たことがないんだった。つまりジム・ジャームッシュの映画を観るのは、これが初めて。その作風を知らない上に、ヴィム・ヴェンダースとは名前の印象が似ている(似てますよね?)。なおかつ、ふたりともロックに造詣が深い映画監督だってことで、すっかり混同してしまっていたらしい。いやはや、おそまつ。
 なんにしろ、これは僕が初めて観るジム・ジャームッシュの作品。ジョニー・デップ主演で、ニール・ヤングが音楽を担当しているということで、ずっと観たいと思っていた映画だった。
 内容は、ひなびた田舎町に仕事を求めてやってきた軟弱な会計士が、わけあって賞金首になってしまい、逃亡のうちに無法者としての名をあげてゆくという異色の西部劇。主演のジョニー・デップがいいのはもちろん、なぜだか主人公のウイリアム・ブレイク(有名な詩人とは多分無関係)という名前を聞いて大喜びする、はぐれ者のインディアン(ゲイリー・ファーマー)の存在がいいアクセントになっている。
 そのほか、ロバート・ミッチャム(先日 『恐怖の岬』 で見たばかり)、ジョン・ハート、ガブリエル・バーン、ビリー・ボブ・ソーントンなど、いぶし銀の俳優たちが脇を固めている。驚いたことにイギー・ポップまで出演している。ただしそれらの俳優陣の出番は控えめ。あくまでジョニー・デップ中心の、西部開拓時代を舞台にした異色のロード・ムービーといった感じだった。
 この映画でジョニー・デップと並んで大々的にフィーチャーされているのが、ニール・ヤングの音楽。驚いたことに、彼の演奏のほとんどはバンドではなくソロだ。しかもインスト・オンリー。ほぼ全編にわたり、あの特徴的なディストーション・ギターをひとりでひたすら鳴らしまくっている。主人公の孤独な旅路に、ブルージーかつノイジーなギターの独奏が非常に映える。映画のためにこういう音楽を提供してみせるニール・ヤングもすごいけれど、それを採用するジム・ジャームッシュもすごいと思った。
(Jan 24, 2010)

バニシング・ポイント

リチャード・C・サラフィアン監督/バリー・ニューマン/1971年/アメリカ/DVD

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 つい先日観た 『グラン・トリノ』 では、クリント・イーストウッドが自らこの映画の主人公と同じコワルスキーという姓を名乗っていた(両方とも車にまつわる映画だから、おそらく無関係ってことはないと思う)。
 タランティーノは 『デス・プルーフ』 にこの映画の車、チャレンジャーを引っぱり出した。
 なによりプライマル・スクリームがこの映画のタイトルをアルバムに使用して、『KOWALSKI』 というナンバーを収録してみせた。
 こうなると、いったいそれはどんな映画なんだという気になる。
 で、観てみればこれが納得の出来。アメリカン・ニュー・シネマと呼ばれる映画群のなかでも、もっとも疾走感にあふれた一本だった。
 いやー、走る、走る、走る。広大なアメリカの大地を、なぜだか説明するでもなく爆走する主人公の車は、それだけで十分に痛快だ。
 もちろん、この時代のそのほかの映画と同様、その根底にはやりきれない虚無感が横たわっているけれど、それでもそうしたネガティヴなものを振り切ってしまうようなスピード感がこの映画にはある。車に乗らない僕でさえ、暴走したくなる。
 ただ、この映画のラストは予想がつきすぎて、ちょっとだけ残念だった。アメリカン・ニュー・シネマと呼ばれる映画の結末は、どれもいまとなるとお約束としか思えない。あれがいいんだという意見があるものわかるけれど、僕としてはすべてが終わったあとのコワルスキーの表情を、ほんのわずかでもいいから見たかった。
 そのほか、部分部分で挿入される回想シーンもなんだかウェットだし、歌うヒッピー集団や裸のバイク娘の登場シーンなど、70年代という時代性を引きずリ過ぎているところも多くて、無条件に大好きだとまでは言えないけれど、それでもこの映画はけっこう気に入った。いずれ必ずまた観たくなると思う。
(Jan 27, 2010)

波止場

エリア・カザン監督/マーロン・ブランド、エヴァ・マリー・セイント/1954年/アメリカ/BS録画

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 マーロン・ブランドの若いころの代表作のひとつにして、映画史上に残る傑作のうちの一本だというので観てみたモノクロ作品。
 この映画でマーロン・ブランドが演じる主人公テリーは波止場で働く日雇い労働者のひとり。兄貴がそこの労働者組合を牛耳{ぎゅうじ}るギャングのボスの片腕であることから、目を掛けられてはいるものの、本人はそのことに釈然としない気分でいる。
 そんな彼が、そうとは知らずに友人を殺す片棒を担いでしまうところから物語は始まる。その地区の担当司祭が黒幕のギャングを告発するよう、労働者たちに促すのだけれど、報復を恐れる彼らは口をつぐんだまま動こうとしない。どっちつかずな立場にいるテリーも、当初はだんまりを決め込んでいる。
 それでも彼は被害者の妹イディ──演じるエヴァ・マリー・セイントは 『北北西に進路を取れ』 の主演の人だとのこと──とつきあい始めたことから、次第に反組織的な立場に傾いてゆき、そのせいで命を狙われることになってしまう……。
 なるほど、さすが名画と呼ばれるだけあって、とても力のある映画だとは思う。ただし、時代背景にうとい僕なんかにすると、ややわかりにくいところがある。勇敢にギャングに立ち向かった人が、なんで仲間から白い目でみられちゃうのかとか、あのエンディングでギャングの立場がなぜ悪くなるのかとか。鳩小屋の惨劇もいったいなにごとかと思うし、そういうところがすっと落ちない分、あとひと息、のめり込み切れない感じがあった。
 ちなみに僕は今回この文章を書くまで、この映画の監督さんの名前を、カザンではなくサガンだと思い込んでました。なんだか最近そんなのばっかりだ。いかに自分が言葉とだらしなくつきあっているかが骨身に染みるきょうこの頃。
(Jan 29, 2010)

チェ 28歳の革命

スティーヴン・ソダーバーグ監督/ベニチオ・デル・トロ/2008年/スペイン、フランス、アメリカ/BS録画

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 チェ・ゲバラという人について、まったくなにも知らない──それこそキューバ革命の立役者だということさえ知らなかった──僕のような人間にとっては、ややとっつきくいところのある伝記映画。もともと政治や戦争に関心がない軟弱者なので、もしも監督がソダーバーグでなかったら観ていなかったと思う。
 内容は、ゲバラが64年にアメリカを訪れた際に受けたインタビューや国連での演説を再現したドキュメンタリー風のモノクロ映像を差し挟みつつ、カストロ兄弟との出会いからキューバ革命の達成直前までを、時間を行ったり来たりしながら辿ってゆくというもの。
 この「時間を行ったり来たりしながら」というところが曲者{くせもの}で、各シーンごとに何年の出来事かがスーパーインポーズされても、ゲバラやキューバ革命に関する年表が頭に入っていない僕なんかには、それがどういう意味を持つ年号なのかわからず、話の前後関係がとてもつかみにくかった。
 なおかつ、物語の大半は山間部でのゲリラ活動を描いたもので、登場人物のほとんどが髭面で軍服姿とくる。おかげで誰が誰だか、よくわからない。主演のベニチオ・デル・トロ以外には馴染みのある俳優もほとんどいないし、言語もスペイン語中心だから、なおさらわかりにくい。どの人がデルトロ?って思ってしまうようなシーンもけっこうあった。
 これらの要素にデルトロの抑えた演技とソダーバーグのドライな演出が加わった結果、この映画は「革命」という言葉の過激な印象からはほど遠い、とても落ちついた作品に仕上がってる。少なくても革命の英雄を祭りあげるといった熱狂的雰囲気とはまるで無縁。
 この映画で描かれるチェ・ゲバラ像は、革命に身を投じながらも、暴力的なところのほとんどない、非常に温厚な人物だ(アルゼンチン出身の医師であるという意外な出自を考えると、それはそれで納得がゆく)。それこそ、ここでの人物像がどこまで本当なのか気になって、もっとチェ・ゲバラについて知りたくなってしまうような。これは僕にとってそういう作品だった。
(Jan 31, 2010)

チェ 39歳 別れの手紙

スティーヴン・ソダーバーグ監督/ベニチオ・デル・トロ/2008年/スペイン、フランス、アメリカ/BS録画

チェ 39歳 別れの手紙 [DVD]

 あまりに長すぎて2部構成となったというチェ・ゲバラの伝記映画、これはその後編。
 この二部作はどちらもオープニングが気がきいている。前編の 『チェ 28歳の革命』 ではキューバの地図をかかげて、物語の舞台となる地名を紹介してみせた。僕みたいに地理に疎い人間にはうれしい配慮だ。
 で、この後編では、今度は南米大陸の地図をかかげて、ブラジル、アルゼンチンなど、主要各国の位置を示してみせる。おっ、今度は舞台がキューバを離れて、南米全土へと広がるのかと思わせる。
 ただし、その地図のなかでひとつだけクローズアップされている国がある。その国というのがボリビア。
 はたしてこの後編の舞台はほとんどがボリビアなのだった。前編がこれからハバナ(キューバの首都)へ攻め込むぞってところで終わるので、当然この続編はそのつづきから始まるのかと思っていたら、意外や意外。ソダーバーグはキューバ革命の達成時期をまるっきりはしょり、なおかつ時間軸をいったりきたりしていた前編からは一転、ここではゲバラの最後の1年間にのみフォーカスを絞っている。
 キューバ革命を成し遂げ、世界的な有名人物となったエルネスト・ゲバラ──「チェ」は愛称なんだそうだ──は、さらなる革命を求めてその名声を捨て、ボリビア革命へと身を投じる。でもその国での革命はキューバのときのようには上手くいかない。戦士たちの士気はあがらず、国民の支持も得られない。持病の喘息にも苦しめられ、ゲバラはどんどん衰弱してゆく。そしてわずか1年ばかりで、その華々しい経歴にふさわしからぬ、無念の死を遂げる。
 カメラはそんなゲバラの最後の日々を淡々と追ってゆく。舞台のほとんどはボリビアの山岳地帯だし、ゲリラ仲間にもカストロ兄弟のような存在感ある人物がいないので、前編よりさらに地味な印象がある。地味というか、息苦しいというか。
 正直なところ、これを2時間以上かけて描く必要があったんだろうかと思う。どうせならば1時間くらいに再編集して、前のやつとつなげて一本でみせた方が、よりいい映画になったんではないかという気がする。
 ただ、もしかしたらソダーバーグは、ボリビアでゲバラが味わっただろう無力感や挫折感を徹底して浮き彫りにしたかったのかなとも思う。だとしたら十分に成功している。こんなにカタルシスのない英雄譚はめったにないだろうから。
(Jan 31, 2010)