ブラック・スワン
ダーレン・アロノフスキー監督/ナタリー・ポートマン、ヴァンサン・カッセル、ミラ・クニス/2010年/アメリカ/WOWOW録画
気がつけば、また一本も映画を観ないうちに7月が終わってしまっていました。コンスタントに映画を観る生活がなかなか取り戻せない。では、映画を観ない分、なにか有意義なことができているかと言えば、まるでできていない。なんともぐだぐだな最近の俺の生活。……なんて愚痴っていても仕方ないので、さっさと本題に。
ということで、およそ2ヶ月ぶりに観た映画は、ナタリー・ポートマンがアカデミー主演女優賞を受賞した『ブラック・スワン』。「怖そうで、おもしろそう!」といううちの奥さまのご意見でこれとあいなった。
でもこの映画、怖いというよりは痛々しかった。
ナタリー・ポートマン演じる主人公は、バレエに挫折したシングル・マザーの母親に育てられた天才バレリーナで、バレエに対する母親の妄執をプレッシャーに感じながら生きてきたせいか、とても神経的に不安定なところがある。──というか、不安定を通り越して、ほぼ狂気と紙一重という感じの幻覚ばかり見ている。それも自傷的で痛そうなやつを。
で、この映画は彼女が『白鳥の湖』の主役に抜擢されるものの、難しい役どころをうまくこなせずにプレッシャーに苦しむという展開の中に、そんな彼女の痛々しい幻覚をたっぷりと盛り込んで描いてゆく。どこからが現実でどこからが幻想かわからない、曖昧模糊とした話のなかで、彼女は困った顔をしながら、あちらこちらから血を流したり、痛みをこらえたりしている。
そんな映画だから、ナタリー・ポートマンは、最初から最後まで、おびえたような、悲しげな表情ばかり見せている。笑顔のシーンって、ドラッグでラリったワン・シーンくらいしかないんじゃないだろうか。その点、この映画は「美女にはコメディがいちばん」という僕の趣味からすると、大きくはずれた作品なのだった。
あと、けっこうセクシャルなシーンもあって、ナタリー・ポートマンの清純なイメージからすれば体当たりの演技なのだろうけれど、それでいて不思議とセクシーな印象がないのも残念。バレエの舞台監督役のヴァンサン・カッセル──『オーシャンズ12』でフランス人の怪盗役を演じていた人──が彼女の相手役の男性ダンサーに「彼女とやりたいと思うか?」と聞いて苦笑に終わるというシーンがあるけれど、まさしくそんな感じ。せっかく身体を張って、あれやこれや、やっているのに、そんな風に言われてしまうナタリー・ポートマンが不憫だ。
まぁ、とはいえ、この内容にして、ヌードもなければ、男性とのベッド・シーンもないんだから、その点では身体の張りかたが甘い気がしないでもないんだけれど。
彼女が1年間ものレッスンを受けて挑んだというバレエのシーンにしろ、やはりプロでない以上、そう大々的にフィーチャーできるものではないので、引きのシーンやクローズアップが多くなって、バレエという舞踏のすごさというか、動きとしてのダイナミズムがいまいち伝わってこない。ラストでオカルトが入ってしまったのも、あまり感心しなかった。
ということで、バレエ映画にしてなお、サイコ・スリラーと形容される個性的で意欲的な作品なのはよくわかったけれど、僕個人としてはあまり惹かれるところのない作品だった。
(Aug 25, 2012)