テルマエ・ロマエ
武内英樹監督/阿部寛、上戸彩/2012年/日本/WOWOW
原作がおもしろかった上に、阿部寛がローマ人を演じるというミスマッチに興味があって、ひさしぶりに観てみることにした邦画なのだけれど。
これ、映像的にはとてもいいと思う。日本の作品でも、こういう陰影のある絵が撮れるってのには、素直に感心させられた。この出来ならばハリウッド作品にも、そうそう引けは取らない。
ただし、絵はよくっても、シナリオがいまいちすぎる。原作のナンセンスをそのまま映像化している前半は(やや駆け足気味ながら)とてもいい感じなのに、途中から上戸彩をフィーチャーしたお涙頂戴の恋愛ドラマになってしまうあたりから先は、興ざめもいいところ。
原作の通りだと色気が足りず、金がかかる割には、いまいち華やかさにかけるっていう作り手の商業的視点からの変更なんだろうけれど、これはそのナンセンスな設定だけで十分に世界中にアピールできる題材だと思うだけに、もったいないと思わずにいられない。どうせなら最後までお笑いのみに徹して欲しかった。
そう、ナンセンスなタイム・スリップをネタにしたコメディという点では、ひとつ前に観たウディ・アレンの『ミッドナイト・イン・パリ』と近いものがあるんだけれど、その出来は雲泥の差。あちらがあっけらかんと時空を飛び越えていたのに対し、こちらでは下手にその理由を説明しようとしたりする。その姿勢が気に入らない。馬鹿話に理屈なんて必要ないでしょう? 恋愛要素の描き方だって、あちらとこちらでは大人と子供だ。
いかにも日本的なコマーシャリズムと幼稚な合理主義のせいで、世界基準の傑作コメディになりうる素材をみすみすスポイルしてしまったって印象の作品。なんで日本の映画ってこうなんだろう。
(2013, Mar 05)