2016年12月の映画

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  1. オデッセイ

オデッセイ

リドリー・スコット監督/マット・デイモン/2015年/アメリカ/WOWOW録画

オデッセイ(字幕版)

 火星に宇宙飛行士がひとり取り残されて、ロビンソン・クルーソー的なサバイバル生活を繰り広げる話と聞いても、それほど食指は動かないのだけれど、それがコメディで、しかも監督がリドリー・スコットだといわれると、とたんに興味深くなるから不思議なもの。
 この作品、そのシチュエーションから『ゼロ・グラビティ』のような、マット・デイモンのひとり芝居的なものを想像していたら、そうではなかった。火星のシーンと並行して、主人公を助けようと尽力するNASAの人々の試行錯誤がもうひとつの柱として描かれていて、どちらかというとそちらのほうがストーリー的にはメインという感じだった。
 でもまぁ、その部分だけだと、ある意味よくある映画って感じなので、やはりこの作品を特別なものにしているのは、酸素も食物もない火星でいかにして生き残るかというサバイバル生活の部分。そこがさすがにおもしろい。
 あと、この映画をコメディたらしめているいちばんの要素は音楽の使い方。ひとりになったマット・デイモンが孤独を紛らすために宇宙船の女性キャプテン(ジェシカ・チャステイン)が残していった音楽を聴いているという設定なのだけれど、それが全部70年代のディスコ・ミュージックなのだった。
 マット・デイモンが「船長の趣味サイテー」とかいいいつつ、享楽的なディスコ・ナンバーにあわせてサバイバル生活を繰り広げているというミスマッチが、なんとも苦笑を誘う。エンド・クレジットでかかるのもグロリア・ゲイナーの大ヒット曲『I Will Survive』だし、おそらくこの映画のいちばんのポイントはこれらの音楽の存在。いや、なかなかおもしろかった。
 それにしても、邦題にはよくあるパターンで、原題の『The Martian』(火星人)を『オデッセイ』というタイトルに改変したのが、個人的にはNG。
 そのままカタカナにしたのでは意味が通じないし、原作の翻訳小説のタイトル『火星の人』では地味すぎるということで、こういうタイトルになったんだろうけれど(調べたら『火星のオデッセイ』というSF短編小説の古典があるようなので、もしかしたらそれを踏まえたのかもしれない)、それにしても意訳が過ぎて、説明されないと意味が通じないのだから困りもの。
 これが小説だったりすると、翻訳家にタイトルの責任を問うこともできるけれど、映画の場合はそういうわけにはいかない。
 僕はタイトルも作品の一部だと思っているので、責任者不在のまま、自分勝手な日本語タイトルをつける日本映画業界の風習には、どうにも違和感を感じずにはいられない。
(Dec 28, 2016)