スリー・ビルボード
マーティン・マクドナー監督/フランシス・マクドーマンド、ウディ・ハレルソン、サム・ロックウェル/2017年/アメリカ/WOWOW録画
これは傑作。娘を殺された母親が、犯人がいつまでたっても捕まらないことに業を煮やして、郊外の広告看板に警察署長を責める広告を打って出たことから巻き起こる騒動をていねいに描いてゆく。
この映画はとにかく人物の描き方がばつぐんに上手い。
こういう設定だとウディ・ハレルソン演じる警察署長が悪役になりがちだけれど、ここでは人望の厚い、とてもまともな人物として描かれている。しかもガンをわずらっていて、余命幾ばくもないという設定で同情心をあおりつつ。
逆に主人公のフランシス・マクドーマンドが、けっこう問題ありな人物だったりする。娘の死を引きずるのも、深い愛情ゆえというよりは罪悪感のなせる業のようだし。怒りのあまり火炎瓶投げちゃうにいたっては、単なる犯罪者だ。
もうひとりの重要キャラがサム・ロックウェル演じる悪徳警官で、この人は短気で切れやすいレイシストで、序盤は単なる嫌なやつとしか思えない。そんな彼がまさか終盤になってあんな活躍をしてみせようとは……。
その三人を中心に、脇役たちのひとりひとりまでがきちんと、それぞれ長所と短所を兼ね備えた人物として描かれる。単なる善人だとか、悪人だとかって、ひとことで割り切れるほど、人間って単純じゃないよねって。そんな視点のもとで織りなされる人間模様は、ひとことでは表現できない複雑な模様を描き出す。
全体的にギスギスした空気の漂ういびつな物語なんだけれど、そのなかに時折ふと、なにげない優しさがすっと差し伸べられる瞬間がある。その感触が素晴らしい。
新年一発目からとてもいい映画が観られてよかった。
(Jan. 06, 2019)