2019年2月の映画

Index

  1. オリエント急行殺人事件
  2. 犬ヶ島

オリエント急行殺人事件

ケネス・ブラナー監督・主演/ミシェル・ファイファー、ペネロペ・クルス、デイジー・リドリー/2017年/アメリカ/WOWOW録画

オリエント急行殺人事件 (字幕版)

 ケネス・ブラナーが自らポアロを演じて監督もつとめたアガサ・クリスティーの代表作の劇場リメイク版。先月観たのに感想を書くのを忘れていた。
 シドニー・ルメット監督の74年バージョンの出来がいいからだろうか。この映画はその先達との違いを引き出すことに気を取られすぎて、いささか奇をてらいすぎてしまったような感がある。
 ケネス・ブラナー演じる名探偵ポアロのキャラクターは、よくいえば新しい。悪くいえばちっともポアロらしくない。
 だってあのポアロが容疑者を追っかけて走り回ったり、ピストルを振りかざしたり、女性の写真に向かって愛をささやいたりするんですよ? そんなのあり?
 トレード・マークの口髭もこっけないほどに大きいし、ここでのポアロはクリスティーのそれとは違った、アメコミ調にアレンジされたニュー・バージョンだと思う。
 いってみればガイ・リッチーの『シャーロック・ホームズ』と同じ系統。でもガイ・リッチーのホームズの場合は原作から乖離したアクティヴさが見事にはまっていたけれど、こちらの恋するポアロにはどうにも「コレジャナイ」感が否めない。オリエント急行に乗る前に原作にはない寸劇をはさんでみせたもの僕としては蛇足に思えた。
 でもまぁ、いろいろつっこみどころのある作品だけれど、僕はこの映画、それなりに好きだったりする。原作と比べると違和感はあれど、そのぶんリミックス・バージョン的なおもしろみがある。
 出演している俳優陣もルメット版に負けずに豪華だ。ミシェル・ファイファー、ペネロペ・クルス、デイジー・リドリー(『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』のレイです念のため)、ジュディ・デンチ、ウィレム・デフォー、そしてジョニー・デップと、これだけの俳優が一堂に会しているだけでも一見の価値あり。
 あと、オリエント急行が雪山を駆け抜けるシーンなど、CGあればこその映像美もたっぷりと楽しめる。長くなりがちなミステリにもかかわらず、上映時間が二時間足らずとコンパクトなのも好印象。これだけの内容にもかかわらず、あまり評判がよくないのは、やはりリメイクゆえなのか……。
 まぁ、とりあえず続編(『ナイルに死す』?)の噂もあるようなので、この新生ポアロがこの先どんな活躍を見せてくれるのか、つづきを楽しみに待ちたい。
(Feb. 27, 2019)

犬ヶ島

ウェス・アンダーソン監督/2018年/アメリカ、ドイツ/WOWOW録画

犬ヶ島 (字幕版)

 変な映画を撮らせたら唯一無二の監督、ウェス・アンダーソンによるストップ・モーション・アニメーションの第二弾は、日本(のような国?)を舞台にした超へんてこりんな映画だった。
 独善的な小林市長により犬たちがゴミの島に隔離されたメガ崎市(この地名は好きだ)。市長の養子として育てられた主人公の小林アタリ少年は、飼い犬(というかガードマン犬)のスポッツを救うため独力でその島へ渡って……というような話はこの映画の場合、ある意味どうでもいい気がしてしまう。
 とにかく、この映画の肝はウェス・アンダーソンが描くエキセントリックすぎる日本の風物。「近未来の」みたいな肩書きがあったと思うんだけれど、どこが未来だってくらいに、この映画の日本には昭和臭がぷんぷん。それも僕らの子供のころの懐かしい昭和ではなく、ウェス・アンダーソン独自のヴィジョンにより珍妙に歪められた、キッチュでスーパー・エキセントリックな昭和の日本。
 もとより、誰が撮ってもバッタもん感の漂うストップ・モーション・アニメでもってそんなものを撮った日には、そりゃもうとんでもなく変なものが出来上がるのも道理。『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』のハロウィン・タウンよりこの映画の日本のほうがよほど異世界に思えてすごい。
 さらには「出演者たちは全員それぞれの母国語を話します」とかいっちゃって、日本語と英語がでたらめに入り混じるのもこの映画の特徴(犬もしゃべる)。音声のみならず、映像でも日本語と英語が雑多に乱れ飛ぶ。エンド・クレジットでは全キャストとスタッフの名前が英語とカタカナで紹介されている。
 ここまで遠慮なく日本語と英語が──あと人間と犬が──混在して入り乱れた映画はいまだかつてなかったのではと思う。本当にむちゃくちゃ個性的な怪作。
 といいつつも、正直なところ僕個人がいまいちこの映画に盛りあがれないのは、ひとえに人間のキャラクター・デザインがあまりに魅力的でないから。そういう人って少なくないのではないでしょうかね。犬はかわいいんだけれどねぇ。人がなぁ……って。そうでもないのかな。
 もっと人間のキャラクター・デザインがキュートだったら絶賛していたかもしれない。なまじ超個性的なだけに、好きっていいきれないのが残念な作品。そういや『ファンタスティックMr.FOX』もこんな感じだった気がする。
 あと、声優陣はアンダーソン作品の常連さんのビル・マーレイ、エドワード・ノートンらのアカデミー賞関係者多数(でもほとんどが犬の役)に、日本から野田洋次郎やオノ・ヨーコさん、池田エライザらも参加した豪華キャストだというのに、肝心の小林アタリ役のコーユー・ランキンという少年がとても下手なのが痛い。おそらく日系アメリカ人で日本語がそれほど得意じゃないんじゃないだろうか。この子のセリフの部分だけまるで学芸会のよう。子供でもいいから、主役にはせめてもう少し日本語が上手い子を連れてきてほしかった。
(Feb. 27, 2019)