天気の子
新海誠・監督/声・醍醐虎汰朗、森七菜/日本/2019年/ユナイテッド・シネマとしまえん
新海誠の最新作『天気の子』を映画館で観た。
『君の名は。』のときには、映画館に行くべきかさんざん悩んだ末に観てしまったので、結局観るのだったら悩むだけ無駄だと思って、今回はぐずぐずせずにさっさと観に行った。まあ、RADWIMPSのファンとしては、ラッドの最新作を大音量で聴けるってだけでも映画館に足を運ぶだけの価値はあるだろうとも思ったし。でもって、実際に見事に感動させてもらいもした。
この作品でまず印象的なのが、舞台である東京・新宿を描いたその作画。
緻密で美しい風景描写は新海誠の特徴のひとつだけれど、今回の作品ではその「美しさ」のベクトルが『君の名は。』とは確実に違っている。
ここでの風景はあいかわらず緻密で高品質はあるけれど、美しいばかりじゃない。雨が降りしきるなか、バニラの広告トラックが走り、風俗のスカウトが徘徊する新宿の風景はうす暗く猥雑でいかがわしい。
この映画で新海誠は、歌舞伎町という街や、東京というメトロポリスの持つ負の部分をあえて描いてみせている。まあ、主人公が高校生なので、物語全体がダークサイドに流れたりはしないから、ある程度は安心して観ていられるけれど、それでもこの清濁が混交した世界観は『君の名は。』にはなかったものだと思う。
でもって、個人的にはそこで描かれる風景が、けっこう自分のプライベートとリンクしているも一興だった(仮にも新宿区民なので)。あ、このバス、うちの前を通ってるやつだとか、この風景知ってる! とかいうがあちこちにあって楽しかった。
あと、この映画でなにより重要なのが、物語のクライマックスにおける意外性たっぷりの展開。あの結末は昨今の全体主義的な風潮に対する新海誠からのメッセージなんだろうと思う。そしてそれは野田洋次郎という人が作ってきた歌の世界とも深くリンクする。
そのせいもあるんだろう。クライマックスでラッドの歌が流れ出した瞬間のなんて感動的なこと!
正直なところ、先行してサントラを聴いていた時点では、僕は映画の中でその音楽を聴いて自分がこんなに感動するなんて思ってもみなかった。野田くんの歌が聴こえてきた瞬間に、胸の中に熱いものがどんと襲ってきて、びっくりしてしまった。
『君の名は。』同様、僕はこれが完全無欠な傑作だとまでは思わない。大人が高校生を主役に据えて映画を作っている時点で、ある種のモラトリアム臭は避けられない。ところどころ素直に受け入れにくいところもある。
それでもこの映画から受けた感動はまぎれもないものだった。できればすぐにでももう一度観なおしたいくらいに、心に引っかかるところのある作品だった。
(Sep. 09, 2019)