2021年7月の映画

Index

  1. TENET テネット
  2. クワイエット・プレイス
  3. ロキ
  4. FYRE: 夢に終わった史上最高のパーティー

TENET テネット

クリストファー・ノーラン監督/ジョン・デヴィッド・ワシントン、ロバート・パティンソン、エリザベス・デビッキ/2020年/アメリカ、イギリス/Netflix

TENET テネット(字幕版)

 まー、あまりに話がわからなさすぎて、なにを書いていいかわからない。
 仕方がないので一週間後にもう一度観たから、いくらかは理解が進んだけれど、それでも結局全体像は理解しきれず。おかげでいまいち気分がすっきりしない。
 いや、話がわからないというのはちょっと違う。二度も観ただけあって、あらすじならばなんとなく説明できる。
 ジョン・デヴィッド・ワシントン――『ブラック・クランズマン』の主演の彼(気がつかなかった)――演じる主人公が世界の破滅を防ぐミッション・インポッシブルな任務を託されて、事件の鍵を握る武器商人(ケネス・ブラナー)とその不幸な妻(エリザベス・デビッキ)と出会い、時間を逆行させる未来兵器によって世界を破滅に導こうとしているその旦那の目論見を阻み、世界と奥さんの両方を救うというような話(え、違う?)。
 でもディテールについてはなにがなにやら。エントロピーを操るとなぜに時間が逆行するの? 時間を逆行しているあいだは酸素が吸えないとか、熱と冷気が逆転するとか、ついには世界が一瞬で滅びてしまうとか、それはなぜ? 最後はなぜにあんなに派手な軍事作戦になっちゃうんだ。あー、わけがわからない。
 時間の逆行を表現するために逆再生映像を多用したアクション・シーンは非常にエキセントリックでおもしろいし、物語的にも見所たっぷりなんだけれど、どうにもいろいろとわからないことが多すぎて消化不良感が否めない。
 別に哲学的な映画ってわけでもなく、基本的には世界を破滅から救おうってエンタメSF映画なのに、ここまでわけがわからない映画ってのも珍しいと思った。『メメント』もわかりにくい映画だったけれど、あれを易々と超えている。
 よくも悪くも、これぞクリストファー・ノーランの真骨頂って作品かもしれない。
(Jul. 05, 2021)

クワイエット・プレイス

ジョン・クラシンスキー監督/エミリー・ブラント、ジョン・クラシンスキー/2018年/アメリカ/Amazon Prime Video

クワイエット・プレイス (字幕版)

 音を聞きつけて襲ってくるモンスターのせいで人類が絶滅に瀕しているアメリカを舞台に、耳が不自由な娘のために手話を使えたことでなんとか音を立てずに生き延びることができた一家のモンスターとの戦いを描くホラー映画。
 主人公のエミリー・ブラントは『オール・ユー・ニード・イズ・キル』でトム・クルーズの相手役を務めていた女性で、その旦那役を務めている男優さんが監督のジョン・クラシンスキー本人なのだそうだ。
 主要キャストはそのふたりと三人の子役たち。ほぼそれだけ。モンスターの出自や物語の背景に対する説明もほとんどないし、音を立ててはいけないという設定なので、会話シーンもほとんどない。それでいて話はちゃんと分かるし、全編に息をのむような緊迫感が満ちている。そういう意味ではなかなかいい出来の映画だと思う。
 ただ、階段の釘のエピソードとか個人的には痛すぎてすごく嫌だったし、この状況下で妊娠・出産にいたるというシナリオもちょっとどうなのと思う。穀倉に落ちた子供たちが底なし沼状態で飲み込まれてゆくシーケンスもそんなことあるのかなって感じでいまいち説得力がない。モンスター(クリーチャー?)もどこかで見たようなデザインでオリジナリティー不足。そんな風にディテールにちょっとずつ不満を感じさせてしまう点で、残念ながらA級未満B級以上って印象の作品だった。
 そういえば、前に観たサンドラ・ブロックの『バード・ボックス』も同じような話じゃなかったっけ?――と思ったけど、あちらは見てはいけないって話でしたっけ? そういう意味では音を立てられないこちらのほうが緊迫感はあるかなと思う。
 現在続編が劇場公開中のようだけれど、観たいかと問われると微妙。
(Jul. 12, 2021)

ロキ

ケイト・ヘロン監督/トム・ヒドルストン、オーウェン・ウィルソン/2021年/アメリカ/Disney+(全6話)

 つづくのかよっ!――って。このドラマを観た大半の人はきっとそう思うに違いないマーベルのMCUスピンオフ・ドラマの第三弾。
 前の『ワンダヴィジョン』と『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』がそれ単体できっちりと完結していたので、当然これも全六話で終わるものと思って観始めたのに、ちっとも終わっていない。そしてタイムパラドックスをテーマにしているせいで、話もいまいちよくわからない。
 そもそも、前の二作品は公開後しばらくたっていたこともあって全話を一気に観たのだけれど、これは四話目からはふつうの連続ドラマのように毎週公開されるのを待って途切れ途切れに観たので、最新エピソードが公開されるころには前の話の記憶が薄れていて、なおさらわかりにくかった。
 物語は『アベンジャーズ/エンド・ゲーム』の過去のシーンでアベンジャーズに捕まっていたロキが拘束を解いて(別次元へ?)逃げ出したところから始まる。
 とはいっても、彼が自由を得たのはほんの一瞬。ロキはその直後にTVA(Time Variance Authority=Google翻訳では「時間変動機関」)という謎の組織に捕まってしまう。
 TVAは時間が枝分かれしてパラレルワールドが増えることを防ごうとしている組織で、ロキは異次元に逃げ込んだことにより「変異体」と呼ばれる存在になって、彼らの摘発の対象になったとかいう展開(多分そう)。
 なるほど、『インフィニティー・ウォー』でああいうことになったロキを主役に配していったいどうするつもりなのかと思ったらこういう話でしたか。その着想にはちょっと感心した。
 物語はそこから、罪を犯したのはこのロキではなく別のロキだ、みたいな話になり――パラレルワールドがテーマなので、ロキがたくさん出てくるのです――TVAの見習いメンバーみたいになったロキが異次元の自分を見つけるために捜査に協力することになり、やがてもうひとりのロキ(なのか?)と出逢ったところから、さらなる派手な展開を見せる。でもって紆余曲折をへて、最後になんだか重要そうな新キャラと出逢ったところで幕。つづきは次のシーズンでってことになる。
 主人公が神様で、舞台は宇宙と異次元ということで、前の二作品とはまったく世界観が異なるし、そもそもこの作品が『エンド・ゲーム』以降の世界にどうつながってゆくのかもまったくわからない。なので、それなりにおもしろかったけれど、若干もやもやが残った。どうせならば次のシーズンが出てからまとめて観たほうがよかったかなと思った。――というか、次で終わるのかな?
 マーベルのパラレルワールドの独自解釈には首をかしげたくなるところがあるけれど、とりあえず五話目に出てくるワニはちょっと好きです。
(Jul. 29, 2021)

FYRE: 夢に終わった史上最高のパーティー

クリス・スミス監督/2019年/アメリカ/Netflix

 ビリー・マクファーランドという若手事業家が企画した超セレブを売りにした音楽フェス、ファイア・フェスティバルがいかにして大失敗に終わったのかという顛末をたどるドキュメンタリー・フィルム。
 この作品、ごり押しで強行された東京オリンピックと似ているということで一部で話題になっていたらしい。僕はそれより前にどこぞでこの作品のことを知ってウォッチリストに入れたままになっていたので、話題になっているならちょうどいいと、この機会に観てみた。
 エメラルド色の海に囲まれた南海の孤島で豪華なバケーションを過ごしつつ、燦々と輝く太陽の光を浴びながら、スーパーモデルと一緒にリラックスして一流アーティストの音楽を楽しめる。――マクファーランドという人が立ちあげたFYREフェスのイメージはそれはそれは魅力的だ。夢中になる人がいたのもわからなくない。
 ――ただ問題はそれが実現不可能な絵空事であったこと。
 いや、もしかしたら、やる人がやればできたのかもしれないけれど、少なくてもマクファーランドとその仲間たちには実現不可能だった。
 なのに彼らは――というかマクファーランドは――その現実から目をそむけ、懐疑的な仲間を切り捨てて、できもしないフェス開催へと邁進してしまう。で、そのあげくフェス当日に大雨に見舞われる不運もあって、フェスは大失敗。参加者に最悪な体験をさせて世間の嘲笑を浴びたのみならず、マクファーランド自身は詐欺で逮捕される羽目に陥る。あまりにも馬鹿で哀れ過ぎる。
 この話で救われないのは、詐欺罪で逮捕されたあとのマクファーランドが、保釈後か服役後だ知らないけれど、フェスの顧客リストを悪用して、さらなる詐欺行為に及んでいること。懲りないにもほどがある。馬鹿は死ななきゃ治らない。
 金に目がくらんだ人間の醜さと、美女がはしゃぐ美しい南海の楽園のコントラストがなんとも印象的な作品だった。
(Jul. 31, 2021)