2023年10月の映画

Index

  1. ONE PIECE (NETFLIX)
  2. トップガン マーヴェリック
  3. ラスベガスをやっつけろ

ONE PIECE

イニャキ・ゴトイ、新田真剣佑、エミリー・ラッド、ジェイコブ・ロメロ・ギブソン、タズ・スカイラー/2023年/Netflix(全8回)

 ネットフリックスで実写化された『ONE PIECE』のドラマ版。
 あくまで個人的な意見だけれど、このドラマのおもしろさは、ワンピの世界観を実写で実現するとこんな感じになっちゃうのか!――という驚き、ほぼその一点に尽きる。
 このシーズン1で描かれているのは、序盤(イーストブルー編)の最大の山場であるナミの故郷ココヤシ村でのバトルまで。単行本でいえば十一巻の途中までだ。
 それだけのボリュームを全八話(一話あたりおよそ一時間だからだいたい八時間)で描こうっていうのだから、完全再現するのは土台無理な話。当然省略されたエピソードがたくさんある。
 ぱっと思いつくところでいえば、海賊クロには部下が二人しかいないし(しかもバトルは屋敷内限定)、イーストブルー編の山場のひとつである海上レストラン《バラティエ》でのドン・クリークとのバトルなんて、まるきり端折られてしまっている。あたりまえだけれども、ガイモンさんなんて出番さえない。
 で、それだけ名シーンをカットしておきながら、このドラマでは――ルフィという主人公の特殊な出自を知らしめるためか――ガープとコビーによる麦わら海賊団の追跡譚という、原作にはない(少なくても後半になるまで語られない)サブエピソードをたっぷりと追加している。
 正直いえば、そんなものを描くくらいならば、その時間でドン・クリークと戦わせてくれよって思わないでもないんだけれども、とはいえ、あのバトルを実写で再現するのは、それはそれで大変なんだろうしなぁ……。
 個人的にドラマ化における改編でもっとも気に入らないのは、ウソップ編でカヤの執事メリーさんを執事ではなく弁護士の役に変更してしまっていること(しかもあんな目に……)。ゴーイングメリー号はちゃんとメリーさんから受け取らせて欲しかった。
 そんな風に細部に目をやると不満がなくはないんだけれども、それでいてこのドラマが意外なほどに好印象なのは、原作の世界観を再現するにあたって、実現可能な限りで最善を尽くしたことが伝わってくるからだと思う。
 なんたって始まるなり、まるで『パイレーツ・オブ・カリビアン』かよって映像にびっくりする。原作ではコミック・リリーフでしかないバギーのピエロ面の禍々しさとか、《バラティエ》のバーカウンターのトリッキーな豪華さとか。
 原作ではモノクロの少年マンガであるから伝わらない、そういう「海賊映画」や「海洋アドベンチャー」という属性が、実写になったことで、ヴィヴィッドに伝わってくる。そういう実写であるがゆえの映像としての魅力においては、このドラマは原作を越えているといっても過言ではないかと。
 それにしても、映像化にあたって「実写化不可能だといわれた」的な形容が使われることは多いけれど、このドラマを観ると『ONE PIECE』のような少年マンガって、まさに実写化不可能だよなぁって思う。今回の序盤のあたりはまだしも、この先の空島編とか描きようがあるんだろうかと心配になる。ワンピの場合、ボリューム的な面でも完全再現はまず百パー不可能だ。
 このドラマの魅力はそんな実現不可能なミッションに挑んで、なんとか妥当な着地点を見つけ出し、納得のゆく形できれいにまとめてみせた点。それでなおマンガとは違った実写ならではの魅力も兼ね備えているんだから本当に上出来だと思う。さすが尾田栄一郎が製作に名前を連ねているだけのことはある。
 すでにセカンド・シーズンの製作が決まっているので、チョッパーやニコ・ロビンが登場するだろう次回作がどんな出来になるのか、いまから楽しみだ――といいたいところだけれど、どっちかというとこの先は不安のほうが大きいかな。いまいち実写版のチョッパーとかブルックに納得がゆく気がしないので。
(Oct. 09, 2023)

トップガン マーヴェリック

ジョセフ・コシンスキー監督/トム・クルーズ、ジェニファー・コネリー/2022年/アメリカ/Netflix

トップガン マーヴェリック

 前作のあとすぐに観るつもりでいたのに、夏場にまったく映画を観る気が起きなくて放っておいたら、半年以上も過ぎてしまった。アカデミー作品賞にもノミネートされた、トム・クルーズの代表作『トップガン』の続編。
 物語の中心となるのは、若いころそのままのやんちゃさで出世もせず現役パイロットとして軍役をこなしてきた主人公のマーヴェリック(トム・クリーズ)の最後の任務。それが核武装をもくろむ敵が僻地に建造中のウラン工場を破壊するというもの。
 攻撃の難易度があまりに高いので、アイスマン(こちらはしっかり出世したヴァル・キルマー)の推薦で歴戦の英雄である彼に白羽の矢が立ったのだけれど、ただし出撃するのは彼自身ではなく、実戦経験のない若きパイロットたち。彼らがミッション・インポッシブルなその作戦を達成できるよう教育しろという命令がくだる。
 みずからが操縦するのならばともかく、経験不足の若者たちが犠牲者なしで成功を収めるのは無理だと、一度は任務を断ろうとしたトム・クルーズだけれど、メンバーのひとりにいまは亡き親友グースの息子ルースター(ガチョウの息子が七面鳥ってのがいい。演じるマイルズ・テラーは『セッション』の主役の人だった)が含まれていたこともあり、結局若者たちの初々しさにほだされて、教官役を引き受けることになる。
 しかし彼と教え子たちのあいだには如何ともしがたい実力差があり……。
 凄腕のベテランパイロットがひよっ子たちを鍛えて難易度マックスな戦いへ臨むというこの映画、むちゃくちゃ少年ジャンプ的だった。
 前作同様、戦闘機やバイクの映像はこれでもかとスタイリッシュで、どうだカッコいいだろーといわんばかりだし。冒頭では前回同様ケニー・ロギンスの主題歌もかかるし。マッチョな少年の夢を映像化したみたいで、なんとなくこそばゆかった。
 まぁ、少年ジャンプ的であるということは、要するにそれだけわかりやすくて感動的だということで。このエンタメに徹底した迷いなき娯楽路線が大好評の要因とみた。
 大好きとまではいえないけれど、とりあえずおもしろかったです。
(Oct. 29, 2023)

ラスベガスをやっつけろ

テリー・ギリアム監督/ジョニー・デップ、ベニチオ・デル・トロ/1998年/アメリカ/Amazon Prime

ラスベガスをやっつけろ (字幕版)

 七十年代にゴンゾー・ジャーナリズムと呼ばれたジャンル(まったく知らない)の第一人者だというハンター・S・トンプソンという人の作品を実写化した作品。
 公開当時に原作の翻訳が『ラスベガス☆71』というタイトルでロッキング・オン社から出ていたこともあり、英米文学好きで、当時はまだロッキング・オン本誌の読者だった僕にとっては、ずっと気になっていた作品だった。
 まぁ、気になっていたといっても原作は読んでいないし(そのうち買おうと思っているうちに絶版になっていた)、映画自体もなかなか観る機会がないまま幾星霜。
 そんな作品が先日Appleの配信ストアのバーゲンコーナーを見たらワンコインで売っていたので、いい機会だから買って観ようかと思ったのだけれど、調べてみたら、Amazon Primeでは無料で観れる。だったらとりあえずそちらで観てから、気に入ったら買おうと思ったのでしたが――。
 いやはや、これがなんともひどい映画だった。
 ジョニー・デップ演じるジャーナリストとベニチオ・デル・トロ演じる弁護士のコンビが、ドラッグ浸りでべろべろになりながら、ラスベガスへの取材旅行(なんの取材なのかもよくわからない)へと出かけてゆく顛末を描いたロードムービーなのだけれど、とにかく終始ぐだぐだ。
 デップは原作者に寄せて禿ヅラだし(この時まだ三十五なのに)、デル・トロはすんごい太鼓腹で、年がら年中吐いてばかりいる。こんなにゲロ・シーンが多い映画は初めて観た気がする。
 この映画はそんなふたりのジャンキーの醜態を、おおげさなギャグと幻覚シーン満載で延々と描いてゆく。
 監督は『未来世紀ブラジル』や『12モンキー』のテリー・ギリアムで、脇役もトビー・マグワイア(ヒッチハイクするヒッピー役。気がつかん)、キャメロン・ディアス、クリスティーナ・リッチ、エレン・バーキンと、とても豪華だ(まぁ、みんな出番は数分だけれど)。
 でも、たとえ名優デップとデル・トロの演技とはいえ、ジャンキーがラリって好き勝手でたらめ放題やっているのを二時間も見せられるのは、正直楽しくなかった。
 これは一度観ればもう十分。いやはや、買わないでよかった。
(Oct. 29, 2023)