ONE PIECE
イニャキ・ゴトイ、新田真剣佑、エミリー・ラッド、ジェイコブ・ロメロ・ギブソン、タズ・スカイラー/2023年/Netflix(全8回)
ネットフリックスで実写化された『ONE PIECE』のドラマ版。
あくまで個人的な意見だけれど、このドラマのおもしろさは、ワンピの世界観を実写で実現するとこんな感じになっちゃうのか!――という驚き、ほぼその一点に尽きる。
このシーズン1で描かれているのは、序盤(イーストブルー編)の最大の山場であるナミの故郷ココヤシ村でのバトルまで。単行本でいえば十一巻の途中までだ。
それだけのボリュームを全八話(一話あたりおよそ一時間だからだいたい八時間)で描こうっていうのだから、完全再現するのは土台無理な話。当然省略されたエピソードがたくさんある。
ぱっと思いつくところでいえば、海賊クロには部下が二人しかいないし(しかもバトルは屋敷内限定)、イーストブルー編の山場のひとつである海上レストラン《バラティエ》でのドン・クリークとのバトルなんて、まるきり端折られてしまっている。あたりまえだけれども、ガイモンさんなんて出番さえない。
で、それだけ名シーンをカットしておきながら、このドラマでは――ルフィという主人公の特殊な出自を知らしめるためか――ガープとコビーによる麦わら海賊団の追跡譚という、原作にはない(少なくても後半になるまで語られない)サブエピソードをたっぷりと追加している。
正直いえば、そんなものを描くくらいならば、その時間でドン・クリークと戦わせてくれよって思わないでもないんだけれども、とはいえ、あのバトルを実写で再現するのは、それはそれで大変なんだろうしなぁ……。
個人的にドラマ化における改編でもっとも気に入らないのは、ウソップ編でカヤの執事メリーさんを執事ではなく弁護士の役に変更してしまっていること(しかもあんな目に……)。ゴーイングメリー号はちゃんとメリーさんから受け取らせて欲しかった。
そんな風に細部に目をやると不満がなくはないんだけれども、それでいてこのドラマが意外なほどに好印象なのは、原作の世界観を再現するにあたって、実現可能な限りで最善を尽くしたことが伝わってくるからだと思う。
なんたって始まるなり、まるで『パイレーツ・オブ・カリビアン』かよって映像にびっくりする。原作ではコミック・リリーフでしかないバギーのピエロ面の禍々しさとか、《バラティエ》のバーカウンターのトリッキーな豪華さとか。
原作ではモノクロの少年マンガであるから伝わらない、そういう「海賊映画」や「海洋アドベンチャー」という属性が、実写になったことで、ヴィヴィッドに伝わってくる。そういう実写であるがゆえの映像としての魅力においては、このドラマは原作を越えているといっても過言ではないかと。
それにしても、映像化にあたって「実写化不可能だといわれた」的な形容が使われることは多いけれど、このドラマを観ると『ONE PIECE』のような少年マンガって、まさに実写化不可能だよなぁって思う。今回の序盤のあたりはまだしも、この先の空島編とか描きようがあるんだろうかと心配になる。ワンピの場合、ボリューム的な面でも完全再現はまず百パー不可能だ。
このドラマの魅力はそんな実現不可能なミッションに挑んで、なんとか妥当な着地点を見つけ出し、納得のゆく形できれいにまとめてみせた点。それでなおマンガとは違った実写ならではの魅力も兼ね備えているんだから本当に上出来だと思う。さすが尾田栄一郎が製作に名前を連ねているだけのことはある。
すでにセカンド・シーズンの製作が決まっているので、チョッパーやニコ・ロビンが登場するだろう次回作がどんな出来になるのか、いまから楽しみだ――といいたいところだけれど、どっちかというとこの先は不安のほうが大きいかな。いまいち実写版のチョッパーとかブルックに納得がゆく気がしないので。
(Oct. 09, 2023)