SHE SAID/シー・セッド その名を暴け
マリア・シュラーダー監督/キャリー・マリガン、ゾーイ・カザン/2022年/アメリカ/WOWOWオンデマンド
ニューヨークタイムズがミラマックスの創始者でハリウッドの大物プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインの数知れぬセクハラ被害を暴いたという実話をもとにした作品。
冒頭、キャリー・マリガン演じる主人公がトランプ大統領候補のセクハラ疑惑を追及して果たせず、出産のため休職して……みたいな流れになっていて、その部分が説明不足でいまいちよくわからなかった。あれ、これってハリウッドのプロデューサーを告発する話じゃないの?――って思った。
その後、ゾーイ・サガンという女優さんが演じるもうひとりの主人公がハリウッドのセクハラ疑惑を追うことになり、そのパートナーとしてマリガンが復職したあたりでようやく話についてゆけるようになった。
僕はこの事件をほとんど知らなかったけれど、被害者にはアシュレイ・ジャッド(『恋する遺伝子』)、ローズ・マッゴーワン(『プラネット・テラー』)、そしてグウィネス・パルトロウといった、僕も観たことがある映画の主演女優たちも含まれていたとのことで、そのうちジャッドは本人が出演している。パルトロウは声だけの出演だけれど、電話の声は本人らしい。彼女たちにしてみれば封印したままにして思い出したくもない過去だろうに。勇気をもって出演した彼女たちに敬意を。
男性上位な芸能界の闇に果敢に立ち向かった女性たちの話ということで、監督も女性だし、新しい男女平等の時代の到来をつけるような秀作だとは思うのだけれど、いかんせん、セクハラを受けたり、パワハラで仕事を奪われた女性たちの証言から、クソ野郎の悪行をあぶりだして記事にするところまでを描いて終わるので、観終わったあとにすっきりと気分よくはなれない。悪党をやっつけた痛快さよりも、被害者の味わった苦しみが強く印象に残ってしまう。
勧善懲悪をエンタメとして描いたりせず、淡々と女性たちの苦しみや悲しみをすくいあげている。良心的ではあるけれど、それゆえとても苦味の効いた一本。
(Nov. 19, 2023)