天国と地獄 Highest 2 Lowest
スパイク・リー監督/デンゼル・ワシントン、ジェフリー・ライト/2025年/アメリカ/Apple TV+
Apple TV+オリジナルで配信公開されたスパイク・リーの最新作。
エド・マクベインの『キングの身代金』が原作だと聞いて、なんでいまさらその小説を映像化?――と不思議に思っていたら、冒頭に黒澤明の『天国と地獄』にインスパイアされた、とあって、さらに「?」となった。
あとから確認したら、黒澤明のその作品がエド・マクベイン原作なんすね。しかもiMDBではオールタイムのベスト100に入る名作。スパイク・リーは黒澤明をリスペクトしているようなので、その作品をリメイクするとなれば、献辞をつけるのも当然かと思った。黒澤版も観てみたくなった(原作は近々読む予定)。
物語はかつては音楽業界を牛耳る勢いだったのに、いまは落ち目のレコード会社のCEO(デンゼル・ワシントン)が、会社の買収だなんだの資金繰りで苦労している最中に、息子を誘拐したという脅迫を受けるというもの。
ただ、実際に誘拐されたのは彼の息子ではなくて、彼が家族ぐるみでつきあっている運転手(ジェフリー・ライト)の息子が間違って誘拐されてしまう。
いかに親しいとはいえ、他人の子どもを救うために莫大な身代金を払えるか?――もとから金策で悩まされていた彼は、そんなジレンマをかかえて激しく悩むことになる。
デンゼル・ワシントン演じる主人公をレコード会社のオーナーにしたのが、おそらく黒澤版との最大の違いなのだろうと思う。誘拐事件と絡めて、音楽ビジネスの裏側が描かれてゆくのがこの映画の特色だ。ラッパーのエイサップ・ロッキーが重要な役どころで出演しているし、音楽愛あふれるスパイク・リーらしいアレンジだと思う。
ただ、その流れで最後にアイヤナ・リーという女性シンガーのパフォーマンスをフィーチャーしたのはどうかと思った。スパイク・リーにとっては推しのボーカリストなのかもしれないけれど、クライマックスのあとにそのパートがあることで、映画の印象がぼやけてしまった感がある。
なかなか見ごたえのある映画だったので、その点がちょっと残念だった。
(Oct. 06, 2025)