2007年12月の音楽

Index

  1. Festival 2005 / The Cure
  2. 生春巻き / RADWIMPS

Festival 2005

The Cure / 2006 / DVD

Festival 2005 [DVD] [Import]

 今年の夏にフジ・ロックで23年ぶり、2度目の来日を果たしたザ・キュアーの最新ライブDVD。欧米では一年前に、国内ではこの夏にリリースされた作品だけれど、ライブのコンセプトはフジ・ロックのステージとほとんど変わらないので、あの夜の感動を思い出すのには持ってこいの作品になっている。
 キュアーのライブ作品はこれまでも素晴らしいものばかりで、今回もやはり期待を裏切らない。全編通して映像自体は非常にラフで、演出はライティングを中心とした色使いとカットのつなぎ方のみ、あとはロングショットを中心に、ただ淡々とキュアーの演奏を追って見せるだけという、ある種ドキュメンタリー・タッチの作品ながら、そうした作りが功を奏して、ものの見事にライブの臨場感が伝わってくる。全30曲とボリュームも満点だし、作り手がアピールすべきはキュアーの音楽のみでいいということを非常によくわかっているのだと思う。
 まあ、いまどきの作品としては画質は低いし、画面のサイズが4:3のレターボックスという仕様には不満が残るけれど、それだってDVDにこれだけのボリュームのライブ映像を収録する上で、払わざるを得なかった犠牲だと解釈すれば、我慢できないことはない。そもそも全体的な映像のラフさからすると、この仕様だって演出のうちかもしれないし。
 とにかく余計な混ざりものなしで、キュアーの最新ライブを2時間半以上ぶっ続けで楽しめるというだけで、ファンとしてはこたえられない作品。
(Dec 24, 2007)

生春巻き

RADWIMPS / 2007 / DVD

生春巻き [DVD]

 ザ・キュアーの来日と並んで、今年の僕にとってのもうひとつの大事件は、このラッドウィンプスというバンドと出会えたことだった。
 野田洋次郎という青年が自身の歌に込めて恋人に寄せる思いは、はんぱじゃない。これほどシニカルな時代に、普通の男はあれほどまでにロマンティックにはなれない。あんな風に過剰なロマンティシズムを恋人に注ぎ、ひとりの女性を夢見ることができるというのは、それだけでもう一種の才能だと思う。
 同じように恋人に夢を見いだす才能の持ち主といえば、なによりもまず最初に思い浮かぶのが、F・スコット・フィッツジェラルドの 『ザ・グレート・ギャツビー』。主人公のギャツビーは、かつての恋人に自分のほうを向かせるだけのために、普通の人が一年かかっても手にできない大金を投じて、連日連夜のパーティーを催す。たったひとりの女性を取り戻すために、裏の仕事で稼いだ全財産をなげうつ彼の過剰なロマンティシズムは、勢いあまって恋人に奇跡を見いだす野田くんの恋愛観に、ものの見事に呼応する。野田洋次郎という人は、二十一世紀の日本に生れ落ちたジェイ・ギャツビーの同胞にちがいないと僕は思っている。
 ただ彼の場合、おもしろいのは、ただひたすらロマンティックなだけではない点。滑稽なほど紳士的なギャツビーとは対照的に、野田くんのなかには、非凡なロマンティストとしての面の反対側に、下世話なユーモアを意に介さない大胆さが同居している。
 そのことがもっとも端的に表れているのが、このDVDにも収録されている 『ジェニファー山田さん』 の一節。「ブッシュってどういう意味?」「それはつまり××毛って意味」って、おいおい。ここまで露骨な言葉を平気で発して、ばか笑いしているバンドなんて、ほかに知らない。インディーズの頃だったり、売れていないパンク・バンドならばともかく、これがメジャーデビュー後のシングルのカップリング曲なのだからおそれいる。
 ちなみにブッシュはアメリカのスラングで陰毛を意味するのだそうで、彼はそのことにかけて米大統領をおちょくっているわけだけれど、実は僕の大好きなカート・ヴォネガットも 『国のない男』 のなかで、同じネタでブッシュを{ののし}っていたりする。売り出し中の22歳の日本のミュージシャンと、今年84歳で他界したアメリカの文豪が、同じ下ネタギャグを飛ばしあっているのに、僕はたまたま同じ時期にでくわすことになったわけだ。偶然ってのはあるものだと思う。
 すっかり前置きが長くなってしまったけれど、このDVDはラッドウィンプスの初ライブビデオ。僕が今年一番たくさん聴いた彼らの4枚目のアルバム 『おかずのごはん』 の曲を中心としたライブの模様がたっぷり収録されていて、遅れてきたファンとしてはとても嬉しい。ただ単にライブを追うだけではなく、部分的にビデオクリップ風の演出が加わっていたりもする(そういう部分は若干こそばゆい)。
 このライブDVDで聴ける野田くんの歌が、それほど上手いとは思わない。ソウル寄りのあくの強さを好む僕本来の趣味からすると、線が細すぎる感もある。けれど彼には、そんな技術うんぬんや個人的な趣味などを凌駕してありあまる表現力がある。上手くないのに表現力があるというのも矛盾している気がするけれど、とにかく彼の歌は僕を十二分に惹きつけてやまない。バンドの演奏も見事だし、やっぱりこのバンドは素晴らしい。唯一、ファッション的な面ではずいぶんとずれを感じるけれど、そのへんはなんたって二十才近い年の差があるわけだし、致し方ないのかなと思う。そのほかでは文句なしに大好きだ。こうしてまたひとつ、大好きなバンドと出会えたことをしみじみと幸せだと思う年の瀬だった。
 次のシングル 『オーダーメイド』 のリリースも本当に楽しみだ。
(Dec 28, 2007)