シュプレヒコール
RADWIMPS / CD / 2012
RADWIMPS、1年半ぶりのニューシングル。
今回のシングルは、やや微妙な仕上がりになっている。少なくても熱烈なファン以外の人には、ややとっつきにくいのではないかと思う。
タイトル・ナンバーの『シュプレヒコール』は、歌詞の内容的に、おそらくこれまでの野田くんの曲の中でも、もっとも抽象的でわかりにくい1曲だ。たんに僕の頭が悪いだけかもしれないけれど、少なくても僕には、彼がなにを言いたいのかがよくわからない。言いたいことがストレートに伝わってこない。なぜ『シュプレヒコール』というタイトルなのかも、よくわからない。
なもので、彼の歌と出会ってから常に感じ続けてきた、問答無用にその歌の世界に引きずり込むような言葉の魔力を、今回の曲からはあまり感じない。要するに中毒性が低い。その点で、若干もの足りなく感じてしまう感は否めない。まぁ、楽曲や音作りは勢いがあっていいと思うのだけれど。
さらに今回はカップリングも異彩を放っている。
2曲目の『独白』は坂本龍一を思わせるエスニックなピアノをフィーチャーしたバックトラックに乗せて、野田くんがバンドを始めたころの思い出や音楽への思い、さらにはバンドの仲間たちひとりひとりに対する愛を語るスポークン・ワード(トーキング・ブルース?)のナンバー。
RADWIMPSの作品ではあるけれど、歌われている内容のプライベートさと音作り(多分ギターは鳴ってない)からして、おそらく野田くんがひとりですべて手掛けているんじゃないかと思う。
とにかく、バンドの現在・過去・未来をストレートに語っている点で、ファンにとってはとても貴重な1曲だ。とくに終盤、T、S、Kとそれぞれイニシャルを並べて、バンド仲間へのエールを贈る部分は掛け値なしに感動的ではある。とはいえ、メロディがある普通の曲ではない上に、8分以上という長さなので、繰り返し何度も聴き返せるタイプの曲じゃない。
さらにボーナス・トラックとして収録された3曲目は、最近成長いちじるしい野田くんのピアノをフィーチャーしたアドリブのインスト・ファンク・ナンバー。
要するに、シングルらしい普通の歌ものは1曲目のみという。そういう、ある意味、実験的な内容になっている。
個々の曲のグレードはさすがの高さだし、それぞれ方向性がはっきりしていて、とても個性の際立った内容だと思うのだけれど、これで初めて RADWIMPS を聴くという人は、ちょっと戸惑ってしまうんじゃないだろうか。あまりコマーシャリズムは気にせずに、やりたいことをやりました、という感じの、けっこう強気なシングルだと思う。少なくても、僕自身がこの曲で彼らと出会っていたとしたら、いまのような深い思い入れを抱いたとは思えない。
とはいえ、現実問題として、僕は RADWIMPS に深く惚れこんでしまっているので、『シュプレヒコール』で野田くんがなにを言いたいかがわからないゆえに、何度も聴き返さざるを得なくなり、結果としてリピート率は、ここのところのシングルでは、『狭心症』についで高くなっているという。そんな作品。
(Aug 26, 2012)