2012年12月の音楽

Index

  1. firefly / BUMP OF CHICKEN
  2. ズレてる方がいい / エレファントカシマシ

firefly

BUMP OF CHICKEN / CD Single / 2012

firefly

 バンプ・オブ・チキンの最新シングル。
 気がつけば、アルバム『COSMNAUT』のリリースから、すでに2年が過ぎている(実感なし)。その間にリリースされたシングルは、『友達の唄』、『Smile』、『ゼロ』、『グッドラック』、そして今回の『firefly』でじつに5枚目になる。にもかかわらず、今回のシングルには、そのほかと比べて、飛びぬけた新鮮味がある。というのも、おそらくこのシングルの成り立ちが、それまでのものと異なるから。
 これ以前の4枚のシングルは、どれも映画やゲームのタイアップだった。それも、どれもタイアップする側に「バンプの曲を使いたい!」という明確な意思が感じられるものばかりだった。アニメや漫画原作の映画やゲームといった、終わらない少年性をテーマにしつづけるバンプにふさわしい作品群。バンプの側でもそれぞれの表現者に対するリスペクトを表明していた。それゆえか、曲調はそれぞれの作品に寄り添うようなバラードばかりだった。
 でも今回のシングルは違う。これにもタイアップはついているものの、使われたのは江口洋介と最近人気の若手女優(名前忘れた)が主演のテレビ・ドラマで、作品そのものがバンプにふさわしい感じがしない。もしかしたら演出家がバンプのファンだとか、そういう理由があるのかもしれないけれど、少なくても僕は知らない。漏れ聞いた話によると『firefly』はツアー中にひょっこりできた曲だという話なので、単にタイアップがついたのは、あくまで商業的な理由、バンプのネームバリューゆえなのだろうと思う。
 要するに、今回のシングルはバンプにとって、ひさびさのオリジナルなのだった。外部の要請によって書かれたのではなく、藤原くんの内側から自然と出てきた一曲。それがしかも、シングルとしてはひさしぶりにアッパーなビートのロック・ナンバーなのだから、これはもうファンとしてはこたえられない。
 まぁ、アッパーな曲とはいっても、曲自体は複雑なビートを持った、凝ったアレンジの作品で、僕には何度聴いてもどういうリズム・パターンなんだか、理解できなかったりするし、歌詞も抽象的で、なぜに「蛍」というタイトルがつくんだか、よくわからない。要するに、ややとっつきにくいところのある曲だと思う。それでもこのひさびさのスピード感と全体像のつかみきれなさゆえに、何度もリピートしないではいられないという一曲。
 カップリングの『ほんとのほんと』は、いちおうバンドでやっているけれど、アレンジは最小限で、まるで藤原くんの弾き語りと変わらないようなラフな作りの曲。カップリング曲が必要だから、間に合わせで作りました、みたいな感じが如実で、曲調もゆっくりだし、徹底的に練り込まれたアレンジの『firefly』とは対照的だ。まぁでも、曲自体は藤原くんならではの誠実な人生問答バラードだから、ファンとしては悪く思えるはずもないのだった。
 それにしても、いつの間にかバンプ・オブ・チキンは僕にとって、かけがえのないバンドのひとつになってしまっている。こんなふうに何年も時間をかけてゆっくりと自分の中に入ってきて深く根をおろしたバンドって、ほかにはない。バンプって不思議なバンドだと思う。
(Dec 22, 2012)

ズレてる方がいい

エレファントカシマシ / CD Single / 2012

ズレてる方がいい

 このエレカシの最新シングルは強力だ。過去のタイアップ・ナンバーの中では最高の出来ではないかと思う。
 「あぁ、仮初の夢でもないよりはマシさ~」という歌い出しのフレーズからしてもー、宮本節全開。サビのフレーズのあとにつづく、Tレックスを思い出させる大仰でドラマチックなリフもすごくいい。ポップス寄りに舵を切って以来のエレカシのナンバーのうちでも、宮本の美学がもっとも見事に結晶した一曲だと思う。
 カップリングの『涙を流す男』は、エピックのころの『珍奇男』や『浮雲男』を思い出させるはみ出し者の歌。でも、決してうしろ向きな印象はない。宮本ならではのユーモアがたっぷりだし、アレンジの軽妙さが現在進行形のバンドの姿勢を表していて、これはこれでいい曲だと思う。
 そして思いのほか重要だったのが、「通常盤」だけに収録された、『ズレてる方がいい』のアコースティック・バージョン。
 日比谷野音でさかんにファルセットを聞かせていた宮本だけれど、このバージョンではその新機軸の歌い方がフィーチャーされている。なんでも、難聴を発症したあとで、意識的に始めた歌い方で、本人のお気に入りなんだとか、なんとか。
 いやでも、それにしちゃ、まだまだ練習が足りないんじゃないと思うけれど、でもこのレコーディングが難聴発病後、初めて録音されたものだと言われてしまうと、そのドキュメンタリー的な生々しさに感じ入らないではいられない。ファン以外の人にはお薦めしないけれど、ファンとしては聞き逃せない一曲。
 ということで、これはエレカシ史上、もっとも重要なシングルの一枚ではないかと思う。
 おまけ。このシングルはジャケットに関しても、エレカシ史上ナンバー・ワンだ。ただし、こちらは悪いほうで。こりゃあまりにひどすぎる。
(Dec 24, 2012)