Yeezus
Kanye West / 2013 / CD
世界中で傑作と呼ばれた前作『My Beautiful Dark Twisted Fantasy』からJay-Zとのコラボをへて、ソロとしては3年ぶりとなるカニエ・ウエストの新作。
全編にポップ・ミュージックとしての技巧の限りを尽くしたようなカラフルな音作りだった前作に比べると、今度のアルバムの印象はかなりダークでハードだ。歌モノのコーラス・パートも少なくて、メッセージ的にも全編、怒りに満ちている印象だし、基本的にはかなり硬派なとっつきにくいアルバムだと思う。
それなのに、このアルバムは前作同様、とても中毒性が高い。僕のような英語のわからないリスナーをしてなお、何度も繰り返し聴かずにはいられなくさせる。そこがすごい。
同じように話題作だからって聴いてみても、結局ぴんとこなくて放置されてしまうアルバムが僕のまわりにはたくさんある。でもカニエ・ウエストの作品は違う。正直、僕の好みの音だとは思わないし、歌詞とかもほとんどわからないのに、飽きることなく繰り返し聴きかえせる。
ラップなんて、歌詞がわかって聴いてこそ、おもしろいもんでしょう?
僕はこれまで、そう思っていた。数あるラップ・アーティストの中で、僕がパブリック・エナミーだけを例外的に聴いているのは、彼らの音がきわめてロックに近いサウンド・デザインを持っているだからだ。PEの場合、歌詞がわからなくても音だけで十分に楽しめる。でも、PEと比べると、カニエ・ウエストの音はロックにはほど遠い。
それなのに、彼の音楽を僕が飽きずに何度でも聴き返せるのはなぜか?
それは、月並な結論だけれど、アレンジの妙に尽きると思う。一曲、一曲が一分の隙もなく見事にアレンジされていて、退屈なところがほとんどない。言葉がわからなくても、その音と言葉の響きとリズムの流れを追っているだけで、十分に楽しめてしまう。
カニエ・ウエストの音作りのセンスは、ロック的なギター・サウンドのカタルシス抜きでも、問答無用に僕を惹きつける。そしてそのメッセージに否応なく向き合わせる。これぞポップ・ミュージックの神髄だろう。正直、まさか自分がメロディらしいメロディもないラップをポップ・ミュージックとみなすなんて思ってみなかった。
ということで、現時点で世界最高のポップ・ミュージックを作っているのはこの人ではないかと思います。カニエ、すげぇ。
(Sep 29, 2013)