Black Messiah
D'Angelo & The Vanguard / 2014 / CD
前作『Voodoo』からじつに14年。去年の暮れに突如リリースされて、世界中の音楽メディアを絶賛の渦に巻き込んだディアンジェロのサード・アルバム。
……といいつつ、正直に白状して、僕はこのアルバムが世紀の大傑作と称えられるわけが、いまいちわかっていない。
まちがいなくいい作品だとは思うし、僕がこの二、三ヶ月のうちにもっともたくさん聴いたアルバムはこれなんだけれど、でも「超」がつくほどの大傑作だといわれてしまうと、え、そうなの? という感じ。まぁ、その辺は、基本ロック・ファンとしての僕にとってど真ん中の音じゃないからかもしれない。
ディアンジェロという人は、とても記名性の高い音を持っている。プリンスの音楽が一聴しただけでプリンスの音楽だとわかるように、ディアンジェロの音楽も一聴しただけで、ディアンジェロだとわかる。じっさい僕は、このアルバムを聴く前に、ラジオでかかっていた知らない曲を聴いて、「あ、これがディアンジェロの新曲だ」と思ったくらいなので。
僕の思う彼の音楽の特徴はストイックさだ。『Voodoo』でのマッチョなジャケ写のイメージからすると意外なほどに、彼の音楽はストイックで無駄がない。必要な音を可能なかぎり絞り込み、そこから最高のフィーリングを生み出してみせる。『Voodoo』ではそのサウンド・デザインの緻密さ、洗練の度合いが圧巻だった。
今作も音作りのスタイルは同じだと思う。ただ、前作に比べると、よりバンドとしての生音の感触が前に出ている。ソロではなくバンド名義なのはそのためだろうか。個々の音の印象がラフで、全体としての開放感がある。最初に聴いたときには、その生音志向の強さをとても意外に思った。
シンプルな8ビートのドラムに、ぬくもりのある饒舌なベースライン。でしゃばらないギターやキーボードやホーンをバックに、抑制されたファルセット・ボイスを聴かせる。そんなディアンジェロの音楽は、考えようによっては、とてもオーソドックスで地味だ。いまの時代に黒人音楽で、ここまでオーソドックスなバンド・サウンドを聴かせてなお、絶賛されてしまうというのは、ある意味、奇跡的に思える。
そのファルセット・ヴォイス主体のボーカル・スタイルや(僕自身は英語の歌詞を理解し切れないのでわかっていないのだけれど)メッセージ性の強い歌詞など、彼の音楽にはマーヴィン・ゲイやカーティス・メイフィールドに通じるものがあるのではと思う。彼らがいまの時代に最盛期を迎えていたら、こういう音楽を作っていたかもしれないと思わせるものがある。
そういう意味では、往年のR&Bやソウル、ファンクは好きだったけれど、ヒップホップやラップはつまらないから、今のブラック・ミュージックには興味がない──そんなロック・ファンにでも十分、おぉ、これは!と思ってもらえる作品だと思う。
その真価はまったく理解し切れていないかもしれないけれど、僕はこのアルバム、とても好きです。
(Feb 22, 2015)