My Love Is Cool
Wolf Alice / 2015 / CD
ロンドンから現れたボーカル紅一点の新人バンド、ウルフ・アリスのデビュー・アルバム。
僕が初めてこの人たちの音楽を聴いたのは、どうやらいまからおよそ一年ちょい前のことだけれど、バンド自体はそれ以前から注目を浴びていた。
調べてみたら、ボーカルのエリー・ロズウェル嬢がジェイク・バグらと並んで、期待のルーキーとしてNMEの表紙を飾ったのが2013年10月のこと。
当然それ以前にデビュー・シングルは出ていたんだろうから、要するに、そこからこのファースト・アルバムをリリースするまでに、じつに2年近くを費やしたことになる。
なぜそんなに長いことかかったのか、理由は定かじゃないけれど、その伏線は当初からあった気がしている。というのも、これ以前の作品からは、いまいちこのバンドの独自色が見えにくかったから。
このアルバムに先行して、彼女たちは2枚のシングルと2枚のEPをリリースしている。ところがその4作のカラーは、音楽的にもビジュアル的にも、まったく異なっていた。
僕自身は2枚目のシングル『Bros』の90年代初頭を思い出させるキラキラとしたロック・サウンドに魅せられて彼女たちの音楽を聴き始めたのだけれど、それにつづく2枚のEPはまったくテイストが違って、より内省的な色が強かった。
アートワークにしても、パグが交尾していたり、あどけない姉妹の写真を使ったり、女性のヌードを大胆にあしらったり、謎のイラストだったりと、てんでバラバラで、デビュー当時のオアシスのようなトータル・コンセプトはゼロ。ここまでビジュアルのイメージに統一性がないってのも珍しいと思った。
とにかく音を聴いても目で見ても、バンドの確固たる個性というようなものが見えてこなかった。
はてさて、ウルフ・アリスとはいったいどのようなバンドなのか──。
満を持してリリースされたこのファースト・アルバムを聴けば、その答えがわかるかといえば、僕の答えは、やはりノーだ。
あいかわらず、僕にはウルフ・アリスというバンドがよくわからない。
いや、たんに音楽的なことでいえば、ここで鳴っている音楽は間違いなくロックだ。それもUKの典型的なオルタナティヴ・ロック。しかもギター・オリエンテッドなやつ(つまり僕の大好きなジャンル)。かわいい女性ボーカルをフィーチャーしたギター・ロックが好きな人はぜったいに聴いた方がいい。
ただ、ひとことでロックとはいっても、そのスタイルは多岐にわたる。
一曲目の『Turn to Dust』はいきなり静謐感の漂うスロー・ナンバーで、僕はこれを聴いてドーターを思い出した。つづくシングルの『Bros』はマッドチェスターなテイストのダンス・チューン(新録バージョンになってシングルのときのキラキラ感が薄れた)。アルバムのクライマックスともいうべき『Fluffy』(これもシングルの新録)では緩急のついたダイナミックなグランジ・サウンドを聴かせる。各楽曲の振幅の広さには、あたかもUKギター・ロックのジャンルを総括しているような印象さえある。
ボーカルのエリー嬢にしても、少女のような透き通る声を聴かせる一方で、やんちゃでパンキッシュなシャウトを聴かせる歌もある。こういう両面が同居するボーカリストって、あまりいないと思う。技術的に難しいからではなく、そうすることでスタイルがぶれて、キャラが不明瞭になるから、ふつうはやらない気がする。趣味的にどちらかに偏るのが一般的だと思う。
あれこれ思うに、彼女たちはいまだ自分たちのサウンドを見つけられていないんじゃないだろうか。それゆえの試行錯誤がこのアルバムの完成を遅らせたのではないかって気がする。そしてこのアルバムをリリースした時点でもなお、その状況は変わっていない印象を受ける。いまだ彼女たちは自分たちの進むべき方向性を模索しているように思える。
ということで、ウルフ・アリスをひとことで表現するならば、僕がふさわしいと思う言葉は、ずばり「未完成」だ。
ただし、それはあくまでもバンドとしての話。一個の作品としてこのデビュー・アルバムを聴くかぎり、その出来は決して未完成ではない──どころか、なかなか素晴らしい。少なくても演奏力や楽曲の出来にはまったく不満がない。これだけの作品を作ってなお、発展途上だとかいったら、かわいそうかもしれない。でも素直にそう感じちゃったんだからしかたない。出来映えは上々。だたし、このバンドならではの確固たる個性が見えないところ。そこが唯一の欠点だと思う。
このバンドがこの先、どうなるのかはわからない。結局このファースト一枚だけであとは泣かず飛ばずに終わりそうな気もするし、試行錯誤の果てにさらなる傑作を作り上げる可能性だってなくはないだろう。
いずれにせよ、そんな先行き不透明な不安定さも若きロック・バンドにとっては魅力のうちかなって思わせる。そんな素敵なデビュー・アルバム。
(Jul 31, 2015)