2016年5月の音楽

Index

  1. The Six Hope Demolition Project / PJ Harvey

The Six Hope Demolition Project

PJ Harvey / 2016 / CD

Hope Six Demolition Pr

 PJ・ハーヴィーというと、どうにも初期三作品のイメージが強烈なので、ソリッドなギター・サウンドでヘビーな情念を爆発させるような作品を期待してしまうけれど、すでに二十年を超えたそのキャリアを振り返ってみれば、そういう作品を発表していたのはその初期三作品だけで、それ以降は一作ずつに作風を変えながら、よりマイルドで手が込んだ音作りのロック・サウンドを聴かせている。
 今作のサウンドは前作の延長線上といった印象。どちらもジョン・パリッシュが全面的に加わっているためか、彼とのコラボ作品と同じようなオーソドックスなバンド・サウンドに仕上がっている。僕はそうした傾向はパリッシュさんの趣味性が前面に出たものと思い込んでいたけれど、いまとなるとこういうのがいちばんリアルなハーヴィー自身の音なのかもしれない。
 先行公開されたポスターでPJ・ハーヴィーがサキソフォンをたずさえていたことから予想していたとおり、今作では要所々々でホーンがフィーチャーされていて、いい感じのアクセントになっている。その点、ちょっと女性オルタナ版のヴァン・モリソン的な印象がある。あと、ところどころで練習不足の合唱団的なコーラスが使われていて、それが作品に適度にラフで自由な感触を加えている。
 タイトルの「シックス・ホープ」は失敗に終わったアメリカの住宅政策だかなんだかの名称が由来らしい。コソボ、アフガン、ワシントンD.C.への旅をへて作った、ドキュメンタリー的な作品だとかいう話で、歌詞にざっと目を通してみると、なるほど、どれも政治的な内容っぽくて、ラブ・ソングは皆無という感じ。
 でも、だからといって、問題意識に凝り固まった、頭でっかちな音楽になっていないところがいい。決してとがった音ではないけれど、誠実に世界と向き合って、その思いを音楽に託して、自由に鳴らせてみせた。そんな感じの好作品。悪かろうはずがない。
(May 29, 2016)